英語の感覚・日本語の感覚 <ことばの意味>のしくみ (NHKブックス)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910665

作品紹介・あらすじ

John showed Mary a photo.とJohn showed a photo to Mary.この2つの意味の差はどこにあるのか?一見同じような英文でも、場面や文脈によってニュアンスに差が出る。認知言語学の視点から、日本語との比較をふまえ、文法書や辞書だけでは決してわからない、英語の豊かな意味の世界に分け入る。英語らしさ・日本語らしさといった、言語に固有の感覚を明らかにしながら、ダイナミックに変化することばの本質を鮮やかに示す。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の『日本語と日本語論』(ちくま学芸文庫)に続き読了。

    a) I believe John is honest.
    b) I believe John to be honest.
    c) I believe that John is honest.(以上p.71)

    これらは書き換え可能とした上で、上に行くに従って「自らの直接的体験」、下に行くと「他人の報告という間接的な証拠」になるという。

    この理解があれば、下記2文の違いも理解しやすい。

    a) She told him to leave.
    c) She told him that he should leave.(以上p.74)

    a)は命令、c)は伝えるという意味である。そうすると次の2文の差異も容易に理解できる。

    a) I declare him innocent.
    c) I declare that he is innocent.(以上p.75)

    declareは遂行動詞だから発話が即ち行為となり、a)は裁判官など然るべき権限のある者が無罪を宣言し、その者の無罪を作り出す。一方のc)は、中立的に無罪だと言っているだけで、a)にある効果は生じない。

    そうすると、以下の文の違いも明瞭となる。

    a) I heard her scream.
    c) I heard that she screamed.(以上p.76)

    ここまでの理解の通り、a)は直接聞いたことを、c)は人づてに聞いたことを示す。

    秀逸なのはこうなる理由の分析だ。上記英文に共通して言えることは、a)の英文では述語動詞の次の(代)名詞が目的格であるということ。一つ目のbelieveの英文を引いて筆者は、「〈目的格〉であるということは、ジョンが信じるという行為の向けられた対象として私の支配下に入っているという形で捉えられることを意味する」(p.77)と指摘する。

    この理解ならば、2つ目のtellの英文においてa)が命令になるというのも分かりやすい。

    更にはこれと関連づけて次の英文の比較。

    a) John showed Mary a photo.
    b) John showed a photo to Mary.(以上p.78)

    a)ではMaryがいわば支配下という理解になるはずで、従ってメアリーが写真を見たことまでが含意される。他方、b)ではメアリーは見ていないかもしれない。

    そうすれば、次の英文のどちらが自然かも感覚的に理解できる。

    a) John kissed the Queen by the hand.
    b) John kissed the Queen’s hand.

    これは謁見の際の儀礼的な行為のはずで、ジョンが女王自体に影響を及ぼすことは通常できないはずだからa)では不自然である。

    といった具合で、第3章は英語学習者にとって直接的に役立つ内容が多いだろう。

    他にも、第5章における類似性と近接性の話は興味深い。白と黒というのは反意性の関係にはあるが、それは両者が共通の次元にあることを意味するから、「意味の類似性」があるのだという(p.132)。

    内容があれこれと移る感は否めず、私自身あまり興味の湧かない章もなくはなかったが、全体的には今まで考えたことのなかった点に頷くことが多かった。特段はじめから読み進める必然性もなく、関心のある章から、あるいは関心のある章だけ拾い読みしても得るところがあるだろう。

  • 英語と日本語の構造的な違いや、視点の違い。文化などにも言及し、言語が他の文化的なものと平衡性が認められることなどを述べる。認知言語学的な手法を取り入れる。

  • 学士入学生時代の英語学のGW課題図書。
    池上氏の本は、中学入試でよく出題されるということで小学生の時によく読んでいたのでなじみやすかった。
    内容もとてもためになる!学生の時に読書記録としてサブノートを作ったから、本文もサブノートももう一回読みなおそう。

  • 立ち読み:2010/12/14

  • なるほどーと思うことが多かった。
    English native speaker は実際にこんなニュアンスを
    感じているのだろうか?? と思う・・・

    ここには書いていないけど、↓ 文章の言い換えで
    同じ意味、と習ったものも実はニュアンスが違うと
    言うのは衝撃だった。



    ■以下、私のおぼえがきです


    英語らしさ 日本語らしさ

    言葉を発するためには、言葉が頭の中にないといけない。
    ある語はある語と特別に関連付けられて蓄えられている。

    「絶対的な同義性」はありえない。違うものでなければ、
    存在価値がない。


    be言語からhave言語へ移行する傾向があった。




    ■英語


    have言語


    <所有>の関係を表示する際に、<所有>を表す動詞を使う。
    have 持っている


    This room has two windows.
    I have two children.

    自分自身を客体化し、他者としてとらえることが(日本語よりも)できる。

    hang oneself, shave oneself, stretch oneself, wash oneself

    話し手責任

    「ダイアローグ」


    ■日本語


    be言語
    <所有>の関係を表示する際に、本来は、<存在>を表すのに
    使われる動詞、アル、イル を使う


    この部屋には窓が二つある
    私には子供が二人いる


    聞き手責任

    臨場感、体験性 への強いこだわりがある
    主観性をかなり色濃く内蔵する

    「モノローグ」

  • 英語学の本では読みやすい方だと思います。

  • 英語の意味論や認知的な部分を解説した本。
    個人的には後半部分に載っている,日本語の好みの表現や,英語の好みの表現の違いと言うのが凄く示唆に富んでいて面白かった。

  • <07/6/17〜8/14>

  • 6章、普遍性と相対性。同じ場面でも違う発想法が言語に現れる。言語ごとの「好み」を体系的に説明しようとする。「する」と「なる」の発展のようなもの。(11/4)
    <BR>
    11/6<br>3章。文法と意味。
    dynamicとstative、transitivityは「意味」。これが文法的振る舞いに影響を及ぼす話。「人」が目的語か前置詞句の中か→影響、達成、行為焦点、結果焦点など
    <br>
    11/8<br>
    第4章 意味とコンテクスト:音韻(配列)論、統語論と、テクスト論の質的違い―複数の文の配列が許容されるか否かは二者択一の規則ではない…(ジャンルによっては成立する可能性も:民話・なぞなぞ)<br>
    そこから、ハリデー、グライス、リーチ、スペルベル。…どこまでが池上本人の主張なのか、全然わからない。
    <br>
    <br>11/9 「第1章 言葉と意味」 二重分節。「原則」としての意味。「原則」の逸脱―誤用・嘘・比喩。polotically correct。<BR><br>
    11/13読了。「第2章 語彙の中の意味関係」同音語と多義語の紙一重がまぁ面白かったか。あと、完全な同義語は存在しない(はずだ)というテーゼは、文法においても形式が異なればどこかで違うはずだ、という想定と共通点あり。<BR>
    「第5章 意味の変化のダイナミズム」一般化と特殊化。向上と堕落。類似性か近接性かと意味か語形かによる十字分類で意味変化を分類。<BR>
    「第7章 ことばの限界を越えて」は詩について。リチャーズとヤコブソンとの対比などで、「そうか?」というところもあり。これと漱石・芥川を対比したところも「?」。ただし、俳句と英語訳を比較したところから、「話し手責任」「聞き手責任」へ持っていくところは、「詩」においても両言語の違いが顕著に出る、という話で興味深く読めた。
    以上。

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著者プロフィール

1934年、京都市の生まれ。東京大学で英語英文学、イェール大学で言語学専攻。現在、東京大学名誉教授、日本認知言語学会名誉会長。インディアナ大学、ミュンヘン大学、チュービンゲン大学、ベルリン自由大学、北京日本学研究センターなどで客員教授、ロンドン大学、カリフォルニア大学バークレー校などで客員研究員。Longman Dictionary of Contemporary English(3rd ed.),『ロングマン英和辞典』の編集で校閲者。著書に『意味論』『「する」と「なる」の言語学』(大修館書店)、『記号論への招待』『ことばの詩学』(岩波書店)、『〈英文法〉を考える』『日本語と日本語論』(ちくま学芸文庫)、『英語の感覚・日本語の感覚』(NHKブックス)など。言語学研究書の翻訳、論文多数。

「2022年 『ふしぎなことば ことばのふしぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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