現代日本の転機 「自由」と「安定」のジレンマ (NHKブックス)
- NHK出版 (2009年8月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140911402
作品紹介・あらすじ
今日、すべての人が被害者意識を抱え、打ちひしがれている。現代日本を覆うこの無力感・閉塞感はどこから来たのか。石油危機に端を発する「七三年の転機」を越えて「超安定社会」というイメージが完成した七〇年代から、バブル景気を謳歌した八〇年代を経て、日本型新自由主義が本格化する九〇年代、二〇〇〇年代まで。政治・経済システムの世界的変動を踏まえながら、ねじれつつ進む日本社会の自画像と理想像の転変に迫る。社会学の若き俊英が描き出す渾身の現代史、登場。
感想・レビュー・書評
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「自由」と「安定」のジレンマ
規制緩和を進めて自由な競争を促そうという「自由」な思想と、みんな一緒にがんばって平和に暮らそうという「安定」の思想。この二つの政治的思想を使って、1970年代以降の近現代を歴史として位置づけようという目論みの本書。
そんなことが目的だから、著者の主義主張は強くなく、なるべく状況分析的に書いていてとても勉強になります。その経緯を含めて今の日本の問題がよく理解できます。
個人的な感想といえば、今の日本の豊かさはなんだかんだ言って団塊の世代が作ってくれたものなんだけど、一方で団塊の世代は自分たちの世代が得するように動くので、先をみて変えなければならない色々な事を先延ばしにしてきたように思います。これは世代自身の思惑だけじゃなくて、団塊世代のボリュームの大きさに惹かれた当時の政治家も彼らが得する政策を行ったという面もあるかと思います、今も同じで票が欲しいから。なので、彼らの世代が残っている限り日本の制度は変わらないかなと思いました。後10年ぐらい我慢しないといけないっぽいです。
多数の意見が、多数だからという理由のみであっても選ばれるというのは民主主義の問題点なのかもしれません。
300ページ弱のそれほど分厚くない本なんですけど、これを一冊読んでいれば、そこらへんのおっさんぐらいなら対等に話ができると思います。というか近現代を歴史として整理しているおっさんなんていないと思うので、非常に冷静におっさんの話が聞けるようになると思います。そして「ほぉー」と思われると思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
発売日 2009年08月29日
価格 定価:1,156円(本体1,070円)
判型 B6判
ページ数 288
商品コード 0091140
Cコード C1336(社会)
ISBN 978-4-14-091140-2
閉塞感はどこからきたのか?
すべての人が被害者感情を抱き、必死に「安定」を求める今日の閉塞感はどこから来たのか。その由来となる石油ショック以降の大きな社会変動を、世界的な背景をふまえて追い、現代日本を覆うねじれた対立構造を解き明かす。高度成長期からバブルを経て平成不況まで、日本人が求めた「理想像」をたどる渾身の現代史。
〈https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000911402009.html〉
【メモ】
・参照文献を見ると、「日本社会について全体的に語ろうとした本」は勿論、「(国民性寄りの)日本人論」までカバーされていることに気づいた。
・記事@シノドス
〈https://synodos.jp/authorcategory/takaharamotoaki〉
【簡易目次】
序章 左右の反近代主義のねじれ 009
第1章 「七三年の転機」とは何か――官僚制からグローバリゼーションへ 029
第2章 「超安定社会」の起源――高度成長・日本的経営・日本型福祉社会 083
第3章 多幸感の背後で進んだ変化――外圧・バブル・迷走 145
第4章 日本型新自由主義の展開――バブル崩壊後の日本社会 199
終章 閉塞感の先へ 251
【目次】
目次 [003-007]
序章 左右の反近代主義のねじれ 009
外部から日本を眺めて 理想像の二極分化 新自由主義の位置づけの難しさ 自由と安定、地方と雇用 左右の反近代主義 一面的な「近代」解釈と新自由主義の台頭 本書の構成
第一章 「七三年の転機」とは何か――官僚制からグローバリゼーションへ 029
前期近代から後期近代へ
1 官僚制と「合理化の悲劇」 032
「黄金の時代」から「危機の二十数年」へ 「官僚制」とは何か
2 「二〇世紀システム」・福祉国家・企業雇用 040
「二〇世紀システム」 冷戦と開発主義企業 雇用の増大 豊かさをめぐる論争
3 福祉国家への批判と「新自由主義」の登場 052
二段階の「新自由主義」 アメリカの保革対立と新自由主義 政府主導の競争原理 雇用の短期化をめぐる論争 創造性と新しい労働 脱工業化論とポストモダニズム
4 グローバリゼーション、排除と包摂、自由の変質 071
先進国と途上国の同時変容としてのグローバリゼーション 排除と包摂 二種類の課題
第ニ章 「超安定社会」の起源――高度成長・日本的経営・日本型福祉社会 083
日本にとっての転機
1 アメリカの占領統治と戦後日本の選択 085
敗戦という前史 三大改革と特需景気 五五年体制とその理念対立 アメリカの東アジア戦略
2 高度成長とその思想 094
経済成長・人口移動 途上国の日本的経営 先進国の日本的経営へ 自民党型分配システム 大衆社会化の拡大 戦後啓蒙思想 開発反対の市民運動 政治不信・福祉元年・生活保守主義 二度の新左翼の波
3 石油危機後の日本特殊性論の台頭 125
高度成長の終わり 高付加価値化とサービス産業化 西洋を超えた日本 会社主義と日本特殊性論 第二臨調と「日本型福祉社会」 二重の擬似福祉国家としての「安定」 新中間大衆と少数者
第三章 多幸感の背後で進んだ変化――外圧・バブル・迷走 145
裏切られた「自由」
1 プラザ合意とバブル 140
バブルへ 前川レポートと内需拡大 日米摩擦 英米発の日本礼賛論 日本型脱工業化と開発主義
2 産業構造の転換とスモール・ビジネス 105
知価社会論 ベンチャーブームと新しいサービス産業 日本型情報産業と下請け関係 新しい働き方 人口変動と雇用緩衝帯
3 身分制とその外部 180
超安定社会と小集団利益 女性問題としての流動雇用
4 内需拡大の中の消費主義 196
軍国主義批判と消費主義 消費による自己形成 消費の多様化と「ゆとり」 新自由主義なき自由主義
第四章 日本型新自由主義の展開――バブル崩壊後の日本社会 199
左右対立構図の変化
1 旧来型保守の退潮 203
「延期された新自由主義」 政界再編
2 規制緩和から小泉改革へ 210
平岩レポート 経済界主導の改革 橋本改革とその後の迷走 小泉改革
3 格差論の隆盛 224
被保護対象から経済問題へ フリーターをめぐる迷走 中間層の実在と不在 既得権益批判と労働者保護 ロスト・ジェネレーション、新しい貧困、若者の保守化
4 地方と都市
日本型田園都市構想から地方の自立へ アソシエーション・NPOと介護 問題対立軸の残存と回帰
終章 閉塞感の先へ 251
正当性の危機と理念対立の空洞化 新自由主義と社会構想の欠如 今後の課題
参照文献 [265-269]
関係事項年表 [270-279]
あとがき [280-281] -
日本現代史というが、前半の史実の評価部分はいまいち共感できず。現状分析についてはなるほどと思わせる切れがある。「著名な経済学者xxx」という権威主義的表現は学者にあるまじきもの。
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2009年も最終月ですので、決めてしまって良いと思いますが、私個人の中での2009年最高位の本です。
でも、いきなり最初から読むと、問題意識と軸がいったりきたりで混乱する可能性があり、、、
ここは、本人も書いていますが、まず終章を読んで、
著者のフレームワークを頭に入れてから、改めて最初から読むのをおすすめします。
一言で言えば、三十代半ばの研究者が振り返る現代史、ですが、
著者が三十代半ばだけに、現代を時代化する営み、というよりは。すでに歴史の中に入りかけている事柄を、
今日的にその意義と限界とそこから今日への迷走を導き出す、といった感じ。
しかし、都市も地方も右も左も客観視できるこの広い視野。
どれを扱っても、埋め込まれた視線にならないのは、韓国・中国での研究生活が為せる技か。
外から見ると、日本人の誰しもが被害者意識を訴えているようにみえる、と看破するこの視座だけで脱帽です。
その視座だけで、この一冊を駆け抜けることができる。
こういった見方に気づけるわけだし、社会学やるなら、キャンパスの中に籠もっているだけじゃなくて、
やっぱり外に出てみるべきですよ、と思います。
自分自身はといえば、90年代の末、少しばかり世間より早く不況の風を受け、
父親が、あっけなく勤め先の倒産で職を失ったので、
授業料免除と奨学金という最大限の恩恵を受けはしたものの、
なんとなく心が曲がってしまったので、まあ、こういう機会を得たとしても、ここまでの客観視はできなかったと思う。
学生時代、少なからず周りにいた、左寄りのアクティブな人間たちが、
(本土の人間なのに)沖縄問題を、(なぜか中韓の視線で)戦争責任論を、(日本の中で)欧州の移民問題を、
ことさらに語ることへの違和感を持ち合わせていたのは、
決して、このような客観視ができていたからではなく、自身の境遇への被害者意識が高かったからだ。 -
新自由主義的な「構造改革」を求める声が、一転して「格差社会」に対する呪詛の声へと変わっていった日本の思想状況がどのような理由で生じたのかということを、高度成長期以降の日本社会を振り返ることで明らかにする試みです。
著者は1970年以降の日本社会の自画像について検討をおこない、「超安定社会」を前提に、左右両ヴァージョンの反近代主義が広まったと論じています。右ヴァージョンの反近代主義は「日本的経営」の終身雇用および年功賃金システムや労使協調路線、あるいは「日本型福祉社会」が、他の先進国には見られない優れたシステムであり、もはや日本社会は西洋を超克したと主張します。
他方、左ヴァージョンの反近代主義は、一方では消費社会論の隆盛を生み、他方で「日本型福祉社会」からこぼれ落ちるマイノリティに注目する、フェミニズムを代表とする多くの議論を生みました。しかし著者は、これらの左ヴァージョンの反近代主義も、「超安定社会」を前提に、理想主義的で内実をもたない「自由」という「見果てぬ夢」を語ってきたにすぎないと批判します。
小泉純一郎による「構造改革」によって「超安定社会」が崩壊してしまえば、左右両ヴァージョンの反近代主義はともに退潮を余儀なくされ、多くの人びとが閉塞感と被害者意識を抱え込んでいる状況が生まれることになります。著者はその理由を、戦後の日本社会の自画像には、「超安定社会」を前提にした左右両ヴァージョンの反近代主義と新自由主義しか存在しなかったことに求め、新しい社会構想へ向けた思想的な努力が必要だと論じています。 -
評価はかなり暫定的なものとして、しかし今の僕にはこのぐらいの感覚にしかならなかった。経済話が主体で、基礎知識の弱い僕には強い関心に至らなかった部分が強い。経済論の基礎を固めてもう一度挑戦したい。
17.8.20 -
自由と安定のジレンマ
会社による安定化、会社からの自由化の二項対立
→会社の中での自由、担当領域での自由は実現できないか? -
戦後から、3.11直前に至る現代日本の社会潮流を解説。最初にアメリカにまつわる言説を概観しグローバリゼーションへの流れを押さえた上で、日本固有の左右反近代イデオロギーのねじれ、バブル崩壊後に至りその変質を記述していく。
一般人にも読めるレベルの類書はあまり無いようなので、面白く読める。ただし終章での課題提示については、「だからどうすんだ」という疑問が宙に浮いたままになりそうだ。