現代日本の転機 「自由」と「安定」のジレンマ (NHKブックス)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140911402

作品紹介・あらすじ

今日、すべての人が被害者意識を抱え、打ちひしがれている。現代日本を覆うこの無力感・閉塞感はどこから来たのか。石油危機に端を発する「七三年の転機」を越えて「超安定社会」というイメージが完成した七〇年代から、バブル景気を謳歌した八〇年代を経て、日本型新自由主義が本格化する九〇年代、二〇〇〇年代まで。政治・経済システムの世界的変動を踏まえながら、ねじれつつ進む日本社会の自画像と理想像の転変に迫る。社会学の若き俊英が描き出す渾身の現代史、登場。

感想・レビュー・書評

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  • 「自由」と「安定」のジレンマ

     規制緩和を進めて自由な競争を促そうという「自由」な思想と、みんな一緒にがんばって平和に暮らそうという「安定」の思想。この二つの政治的思想を使って、1970年代以降の近現代を歴史として位置づけようという目論みの本書。
     そんなことが目的だから、著者の主義主張は強くなく、なるべく状況分析的に書いていてとても勉強になります。その経緯を含めて今の日本の問題がよく理解できます。

     個人的な感想といえば、今の日本の豊かさはなんだかんだ言って団塊の世代が作ってくれたものなんだけど、一方で団塊の世代は自分たちの世代が得するように動くので、先をみて変えなければならない色々な事を先延ばしにしてきたように思います。これは世代自身の思惑だけじゃなくて、団塊世代のボリュームの大きさに惹かれた当時の政治家も彼らが得する政策を行ったという面もあるかと思います、今も同じで票が欲しいから。なので、彼らの世代が残っている限り日本の制度は変わらないかなと思いました。後10年ぐらい我慢しないといけないっぽいです。
    多数の意見が、多数だからという理由のみであっても選ばれるというのは民主主義の問題点なのかもしれません。

     300ページ弱のそれほど分厚くない本なんですけど、これを一冊読んでいれば、そこらへんのおっさんぐらいなら対等に話ができると思います。というか近現代を歴史として整理しているおっさんなんていないと思うので、非常に冷静におっさんの話が聞けるようになると思います。そして「ほぉー」と思われると思います。

  • 発売日 2009年08月29日
    価格 定価:1,156円(本体1,070円)
    判型 B6判
    ページ数 288
    商品コード 0091140
    Cコード C1336(社会)
    ISBN 978-4-14-091140-2

    閉塞感はどこからきたのか?
    すべての人が被害者感情を抱き、必死に「安定」を求める今日の閉塞感はどこから来たのか。その由来となる石油ショック以降の大きな社会変動を、世界的な背景をふまえて追い、現代日本を覆うねじれた対立構造を解き明かす。高度成長期からバブルを経て平成不況まで、日本人が求めた「理想像」をたどる渾身の現代史。
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000911402009.html

    【メモ】
    ・参照文献を見ると、「日本社会について全体的に語ろうとした本」は勿論、「(国民性寄りの)日本人論」までカバーされていることに気づいた。

    ・記事@シノドス
    https://synodos.jp/authorcategory/takaharamotoaki


    【簡易目次】
    序章 左右の反近代主義のねじれ 009
    第1章 「七三年の転機」とは何か――官僚制からグローバリゼーションへ 029
    第2章 「超安定社会」の起源――高度成長・日本的経営・日本型福祉社会 083
    第3章 多幸感の背後で進んだ変化――外圧・バブル・迷走 145
    第4章 日本型新自由主義の展開――バブル崩壊後の日本社会 199
    終章 閉塞感の先へ 251


    【目次】
    目次 [003-007]

    序章 左右の反近代主義のねじれ 009
      外部から日本を眺めて  理想像の二極分化  新自由主義の位置づけの難しさ  自由と安定、地方と雇用  左右の反近代主義  一面的な「近代」解釈と新自由主義の台頭  本書の構成

    第一章 「七三年の転機」とは何か――官僚制からグローバリゼーションへ 029
      前期近代から後期近代へ
    1 官僚制と「合理化の悲劇」 032
      「黄金の時代」から「危機の二十数年」へ  「官僚制」とは何か
    2 「二〇世紀システム」・福祉国家・企業雇用 040
      「二〇世紀システム」  冷戦と開発主義企業  雇用の増大  豊かさをめぐる論争
    3 福祉国家への批判と「新自由主義」の登場 052
      二段階の「新自由主義」  アメリカの保革対立と新自由主義  政府主導の競争原理  雇用の短期化をめぐる論争  創造性と新しい労働  脱工業化論とポストモダニズム
    4 グローバリゼーション、排除と包摂、自由の変質 071
      先進国と途上国の同時変容としてのグローバリゼーション  排除と包摂  二種類の課題

    第ニ章 「超安定社会」の起源――高度成長・日本的経営・日本型福祉社会 083
      日本にとっての転機
    1 アメリカの占領統治と戦後日本の選択 085
      敗戦という前史  三大改革と特需景気  五五年体制とその理念対立  アメリカの東アジア戦略
    2 高度成長とその思想 094
      経済成長・人口移動  途上国の日本的経営  先進国の日本的経営へ  自民党型分配システム  大衆社会化の拡大  戦後啓蒙思想  開発反対の市民運動  政治不信・福祉元年・生活保守主義  二度の新左翼の波
    3 石油危機後の日本特殊性論の台頭 125
      高度成長の終わり  高付加価値化とサービス産業化  西洋を超えた日本  会社主義と日本特殊性論  第二臨調と「日本型福祉社会」  二重の擬似福祉国家としての「安定」  新中間大衆と少数者

    第三章 多幸感の背後で進んだ変化――外圧・バブル・迷走 145
      裏切られた「自由」
    1 プラザ合意とバブル 140
      バブルへ  前川レポートと内需拡大  日米摩擦  英米発の日本礼賛論  日本型脱工業化と開発主義
    2 産業構造の転換とスモール・ビジネス 105
      知価社会論  ベンチャーブームと新しいサービス産業  日本型情報産業と下請け関係  新しい働き方  人口変動と雇用緩衝帯
    3 身分制とその外部 180
      超安定社会と小集団利益  女性問題としての流動雇用
    4 内需拡大の中の消費主義 196
      軍国主義批判と消費主義  消費による自己形成  消費の多様化と「ゆとり」  新自由主義なき自由主義

    第四章 日本型新自由主義の展開――バブル崩壊後の日本社会 199
      左右対立構図の変化
    1 旧来型保守の退潮 203
      「延期された新自由主義」  政界再編
    2 規制緩和から小泉改革へ 210
      平岩レポート  経済界主導の改革  橋本改革とその後の迷走  小泉改革
    3 格差論の隆盛 224
      被保護対象から経済問題へ  フリーターをめぐる迷走  中間層の実在と不在  既得権益批判と労働者保護  ロスト・ジェネレーション、新しい貧困、若者の保守化
    4 地方と都市 
      日本型田園都市構想から地方の自立へ  アソシエーション・NPOと介護  問題対立軸の残存と回帰


    終章 閉塞感の先へ 251
      正当性の危機と理念対立の空洞化  新自由主義と社会構想の欠如  今後の課題

    参照文献 [265-269]
    関係事項年表 [270-279]
    あとがき [280-281]

  • 日本現代史というが、前半の史実の評価部分はいまいち共感できず。現状分析についてはなるほどと思わせる切れがある。「著名な経済学者xxx」という権威主義的表現は学者にあるまじきもの。

  • 2009年も最終月ですので、決めてしまって良いと思いますが、私個人の中での2009年最高位の本です。
    でも、いきなり最初から読むと、問題意識と軸がいったりきたりで混乱する可能性があり、、、
    ここは、本人も書いていますが、まず終章を読んで、
    著者のフレームワークを頭に入れてから、改めて最初から読むのをおすすめします。
    一言で言えば、三十代半ばの研究者が振り返る現代史、ですが、
    著者が三十代半ばだけに、現代を時代化する営み、というよりは。すでに歴史の中に入りかけている事柄を、
    今日的にその意義と限界とそこから今日への迷走を導き出す、といった感じ。
    しかし、都市も地方も右も左も客観視できるこの広い視野。
    どれを扱っても、埋め込まれた視線にならないのは、韓国・中国での研究生活が為せる技か。
    外から見ると、日本人の誰しもが被害者意識を訴えているようにみえる、と看破するこの視座だけで脱帽です。
    その視座だけで、この一冊を駆け抜けることができる。
    こういった見方に気づけるわけだし、社会学やるなら、キャンパスの中に籠もっているだけじゃなくて、
    やっぱり外に出てみるべきですよ、と思います。

    自分自身はといえば、90年代の末、少しばかり世間より早く不況の風を受け、
    父親が、あっけなく勤め先の倒産で職を失ったので、
    授業料免除と奨学金という最大限の恩恵を受けはしたものの、
    なんとなく心が曲がってしまったので、まあ、こういう機会を得たとしても、ここまでの客観視はできなかったと思う。

    学生時代、少なからず周りにいた、左寄りのアクティブな人間たちが、
    (本土の人間なのに)沖縄問題を、(なぜか中韓の視線で)戦争責任論を、(日本の中で)欧州の移民問題を、
    ことさらに語ることへの違和感を持ち合わせていたのは、
    決して、このような客観視ができていたからではなく、自身の境遇への被害者意識が高かったからだ。

  • 新自由主義的な「構造改革」を求める声が、一転して「格差社会」に対する呪詛の声へと変わっていった日本の思想状況がどのような理由で生じたのかということを、高度成長期以降の日本社会を振り返ることで明らかにする試みです。

    著者は1970年以降の日本社会の自画像について検討をおこない、「超安定社会」を前提に、左右両ヴァージョンの反近代主義が広まったと論じています。右ヴァージョンの反近代主義は「日本的経営」の終身雇用および年功賃金システムや労使協調路線、あるいは「日本型福祉社会」が、他の先進国には見られない優れたシステムであり、もはや日本社会は西洋を超克したと主張します。

    他方、左ヴァージョンの反近代主義は、一方では消費社会論の隆盛を生み、他方で「日本型福祉社会」からこぼれ落ちるマイノリティに注目する、フェミニズムを代表とする多くの議論を生みました。しかし著者は、これらの左ヴァージョンの反近代主義も、「超安定社会」を前提に、理想主義的で内実をもたない「自由」という「見果てぬ夢」を語ってきたにすぎないと批判します。

    小泉純一郎による「構造改革」によって「超安定社会」が崩壊してしまえば、左右両ヴァージョンの反近代主義はともに退潮を余儀なくされ、多くの人びとが閉塞感と被害者意識を抱え込んでいる状況が生まれることになります。著者はその理由を、戦後の日本社会の自画像には、「超安定社会」を前提にした左右両ヴァージョンの反近代主義と新自由主義しか存在しなかったことに求め、新しい社会構想へ向けた思想的な努力が必要だと論じています。

  • 評価はかなり暫定的なものとして、しかし今の僕にはこのぐらいの感覚にしかならなかった。経済話が主体で、基礎知識の弱い僕には強い関心に至らなかった部分が強い。経済論の基礎を固めてもう一度挑戦したい。


    17.8.20

  • 自由と安定のジレンマ
    会社による安定化、会社からの自由化の二項対立
    →会社の中での自由、担当領域での自由は実現できないか?

  •  ここ30年の現代史を社会学的に総括した、現代の社会を見るベースとして非常に役に立つ本だと思う。なぜ急に格差というものが議論に上がるようになったのか、その理由が分かると思います。

     1970年代から2000年代初頭にかけて、日本の社会体制にどのようなことが起こったのかを、世界の潮流との比較および、自由と安定という一種の対立軸を通じて、総論的に明らかにしている。以下では自分の理解をまとめてみたい。

     世界では、73年のブレトン・ウッズ体制の崩壊を契機として、官僚制・福祉国家から新自由主義体制への移行が進められた。この背景にあるのは、第二次世界大戦以後の世界におけるアメリカが果たしてきた戦後復興負担の終結宣言だ。
     これにより、高負担に耐えられない各国は、大きな政府から小さな政府への転換を図った。このような転換が可能な理由には、これらの国に、政権担当が可能な、社会民主主義的な労働系政党と、保守系政党があるという事実を見逃してはならない。

     一方日本においては、この世界環境の激変の中で他国とは全く違う経緯をたどった。
     当時の日本は55年体制下にあったため、政権担当可能な政党は保守系のみで、労働系政党はせいぜい野次を飛ばす程度の役割しか果たせていなかった。このような環境における社会制度は、「日本的経営」「日本型福祉社会」「自民党型分配システム」により成り立っていた。これはそれぞれ、終身雇用、正社員の家長と専業主婦、財政投融資による地方開発、というキーワードで表現されるだろう。この社会制度により、福祉への支出は削減しつつ、企業による身分保障とそれに基づく家計の維持を実現し、その中で専業主婦などの労働力をパートなどで活用してコスト削減をしていた。
     この右バージョンの反近代主義が実現する「安定」に対する対抗軸として、国家・政府・企業などからの「自由」を標榜する議論、左バージョンの反近代主義も存在はしていたのだが、これは身分の安定を前提にした議論であって、現実的に社会を成立するシステムを創り出すことはついにできなかった。ゆえに、せいぜい、少数者、ジェンダーなど、右の反近代主義のシステムからはみ出した部分をつつく程度の議論に留まってしまう。
     結局、日本においては、外交や安全保障は対立軸になっても、経済政策や社会制度が政治における対立軸として議論されることはなかったと言える。

     周辺情勢の幸運と、この様な社会制度の下、総中流と言われる状況が続いて来たのだが、最終的にはバブルの崩壊によって綻びが見えてくる。これまでは企業により維持されてきた右バージョンの反近代主義が、不況のため企業が維持の努力を放棄し、新自由主義が他国に比べ20年遅れでやって来るのだ。
     これまでは企業がセーフティネットとして機能する前提で社会制度が組まれていたため、突然新自由主義に切り替わると、セットでセーフティネットが準備されなかったこともあり、これまでは存在していても気にされなかった格差が、生のまま表出することになった。
     このとき、対抗言説としてスモール・ビジネス論やゆとり論などが登場するのだが、結局これも実際にビジネスとして成立するか否かをまったく無視した議論であったため、格差を是正する役には立たなかった。これは、スモール・ビジネスの対象が主に低賃金サービス業であり、ゆとり論の対象がフリーターなどである事実を考えれば当然と言える。
     そして、この状況は現在も続いているのだ。


     この本で取り扱われている時期は、大体、生まれてから後のことなのだが、物心ついてからの範囲で見れば、半分程度のことしか体験していないわけで、この様に全体感を持って紹介してもらえると、大変わかりやすい。
     このような歴史的変遷を踏まえ、出来れば他の国がどうだったのかも理解してから、現在のニュースを見れば、それがどのような流れの中にあり、どこに向かうのかが分かりやすくなる気がする。ただ、最も心配なのは、その向かう先にアテがあるのかが見えない所なのだが…。

  • [ 内容 ]
    今日、すべての人が被害者意識を抱え、打ちひしがれている。
    現代日本を覆うこの無力感・閉塞感はどこから来たのか。
    石油危機に端を発する「七三年の転機」を越えて「超安定社会」というイメージが完成した七〇年代から、バブル景気を謳歌した八〇年代を経て、日本型新自由主義が本格化する九〇年代、二〇〇〇年代まで。
    政治・経済システムの世界的変動を踏まえながら、ねじれつつ進む日本社会の自画像と理想像の転変に迫る。
    社会学の若き俊英が描き出す渾身の現代史、登場。
    閉塞感はどこからきたのか。
    高度成長期以後、バブルを経て失われた10年まで、日本人が求めた理想をたどる渾身の現代史。

    [ 目次 ]
    序章 左右の反近代主義のねじれ
    第1章 「七三年の転機」とは何か-官僚制からグローバリゼーションへ
    第2章 「超安定社会」の起源-高度成長・日本的経営・日本型福祉社会
    第3章 多幸感の背後で進んだ変化-外圧・バブル・迷走
    第4章 日本型新自由主義の展開-バブル崩壊後の日本社会
    終章 閉塞感の先へ

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 戦後から、3.11直前に至る現代日本の社会潮流を解説。最初にアメリカにまつわる言説を概観しグローバリゼーションへの流れを押さえた上で、日本固有の左右反近代イデオロギーのねじれ、バブル崩壊後に至りその変質を記述していく。

    一般人にも読めるレベルの類書はあまり無いようなので、面白く読める。ただし終章での課題提示については、「だからどうすんだ」という疑問が宙に浮いたままになりそうだ。

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著者プロフィール

高原 基彰(関西学院大学社会学部准教授)

「2019年 『共生社会の再構築Ⅱ デモクラシーと境界線の再定位』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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