詩歌と戦争 白秋と民衆、総力戦への「道」 (NHKブックス 1191)
- NHK出版 (2012年5月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784140911914
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戦争と詩歌の関係を深く探る本書は、白秋を通じて、抒情詩人としての彼の姿勢と、戦争翼賛の詩人としての変貌を描き出しています。彼が生み出した「童謡」と「唱歌」の対立は、実は同じ根源から生まれたものであり、...
感想・レビュー・書評
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官僚が制定した唱歌に反発して「童謡」を作った白秋は、「この道」をはじめ郷愁の感情をうたう抒情詩人として人気者となっていく。ところがその後、日本の戦時中には愛国精神をうたい、戦争翼賛の詩歌を率先して作る詩人となっていた。
この「官僚に反発した抒情詩人」と「戦争翼賛の詩人」という両極端に見えるこの二つが、じつは根っこは同じなんだよ、という話がとても分かりやすく展開されていて面白かった。
白秋という詩人の人生個人の問題だけでなく、その当時の日本のおかれた状況(植民地政策等々)との絡みや、戦争翼賛の詩が作られていくようになるのは上からの押しつけで作られたのではなく、下から(民衆から)の要請により作り出されていった――という、受け手側の土壌がどのように育っていったのか、も併せて論じられていて、とても勉強になりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
・戦争への道は単に軍部の暴走によって導かれたのみではない。国民側に、それを受け入れ、推進していく精神的環境が十分にあったということを、北原白秋と彼の作る歌、そして、それを受け入れていった国民の精神的な姿勢の変遷と共に論証している。いわゆる「空気」の醸成は決して体制側からの押し付けだけで成されるものではない。そのことを検証した、出版元に言わせれば「瞠目の書」。いや、ハッキリ言って賛同します。
・司馬遼太郎は太平洋戦争への道をほとんど軍部、特に陸軍の暴走にその責を帰している。加えて、そのような陸軍を、日本近現代史の中で理解しがたい特異点と位置付けている。読んだ時に、他に反証材料もないから鵜呑みにしていたが、微かな違和感を感じてもいた。本書を読んでその違和感が解きほぐされた感じがした。
・関東大震災後に盛り上がった「互助」「絆」。3.11後の日本と重なる。体制からおしつけられたわけではなく、民衆から自発的に始まり、拡散していった全体主義的な「空気」。これもまた、今の日本とダブルところがある。
・そのような事態の後に「絆」の大切さに皆が意識を向けるのは当然のことだ。だからこそ、本書で展開されている検証に重みがある。今の僕らの状態、時代の空気は、もしかしたら大戦前夜に近いのかも知れないのだから。AKB48の各地版なんかが、構造的には近いのかも知れない。こいつらが各地の賛歌を同期して歌い出したりしたらちょっと危険信号。いや、正確に言えば、それだけでは危険信号ではないのだが、そこに我々が同感しまくって排他的に盛り上がったりしたら危険信号だ。 -
大正期に国家お仕着せの唱歌に対抗して童謡運動を展開した白秋たちが、実は「故郷」「望郷」などの情緒を高めるのに結果的に貢献し、自分自身が体制翼賛、戦争賛美へ進んでいった様子がリアルに描かれています。
特に白秋は「砂山、からたちの花、この道」など郷愁がモチーフの曲が多いです。「郷土を愛するの念は、これ国家を愛するの念なり」(1914年、尋常小学唱歌評釈)との考えが国民訓育意図に基づいていたことは明らかですが、童謡も人間に内在する感情を重んじるため、また同じ結果を齎したのです。文学者の中でも詩人が特に戦争賛美へ進んでいった理由がよく分かります。詩歌翼賛第1輯(1941年)に掲載されている詩が必ずしも愛国主義調には限らず。千曲川旅情の歌(藤村)、朝飯(千家元麿)などの歌が含まれていることはそれを証左するもののように思います。関東大震災(23年)の8年後に15年戦争(アジア太平洋戦争)が火蓋を切ったという近さを考えるときに、心情としては既に大正期の20年代から連続性があったということは著者の指摘のようにむしろ自然なことですね。「里の秋」が1941年の「星月夜」という原作品があり、軍国少年の心情歌だったということは少しショッキングな逸話でした。 -
抒情あふれる詩歌を数多く残した北原白秋が、同時に愛国心を高揚させる詩歌も数多く作っていた――
大正末〜戦後の様々な詩歌を通じて、戦時体制の形成に寄与した「下から」の動きや、戦前・戦中・戦後の連続性を露わにした一冊。
関東大震災から戦時体制に向かった動きを示すことで、震災後の日本のこれからにも問題提起をしようとしています。
戦時体制の形成に寄与した、民衆自らの組織化や詩歌の活用が、必ずしも悪いことではないぶん、「ではどうすればいいのか」は難しい問題だが、今まさに考えていかねばならない課題なのかもしれない。
著者プロフィール
中野敏男の作品
