世阿弥『風姿花伝』 2014年1月 (100分 de 名著)

制作 : 土屋 惠一郎 
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142230341

感想・レビュー・書評

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  • 能は、友人の友人が家元の息子で、2回ほど見に行ったことがある。動きがスローで、文楽より言葉が聞き取りにくいのに、文楽より不親切で字幕がない。眠いことこの上なかった。
    先日は、機会あって、ネットで能を見た。やっぱり、開始4分から寝てしまった。
    なので、正直、この風姿花伝にも期待していなかった。ところが! 内容は興味深く、芸術以上、日常、というかもっと大きく人生の指針にもなるような教えが思いやりのある言葉で綴られていた。
    宮本武蔵の五輪書を思い出した。何かを極めた人は、神に近い領域に達するのではないか。

    特に、気に入ったのは、第一、年来稽古条々。文面通り読めば、7歳から50歳まで、各年齢における練習方法を述べているだけだけれど、その段階でぶつかる課題や困難を書き、それをどう受け止め、乗り越えていけばよいかを書いてくれている。
    現在、年齢偏重主義のこの日本で、毎日がつまらなくて、行き詰った感を日々感じている私には、反省を促す様な、そして同時に希望を与えてくれるようなことが書かれている。

    子供のころは、口うるさく、細かいことを言うと、子供が能をやめてしまうというのだ。まさに、ピアノと私だ。わかっているじゃないか、世阿弥。
    そして、見目良き、声も良き、人生の華の時代の花は、たかだか一時の花で、まことの花ではないと言っている。その後迎える声変わりで、苦難に当たる。この時こそ、能を辞めない意志が必要で、それまでの幼い時のあるがままの状態から意志による選択に移っていく転機だと言っている。

    やがて来る24、25。この頃に褒められても、調子に乗らず、最初の初心と覚え、一層稽古に励むこと。この時期に、改めて自分の未熟さに気づき、周りの先輩や師匠に質問したりして、自分を磨いていかなければ、「まことの花」にはならないとのこと。まさに海老蔵。。。世阿弥が生きていたら、海老蔵のことを恥ずかしく思うだろう。さて、では、初心とは何か?そして、花とは?世阿弥が素晴らしいのは、それってどういう意味やねん?という言葉を、きちっと本の中で説明してくれている点だ。初心とは、未経験の事態に対応する方法、試練を乗り越えていくための戦略や心構えだと言っている。年とともに新しい壁が出てくるけど、それを超える何かを発見しなさいということらしい。

    40を超えると、落ちるばかりという切ないことも書いてはる。だけど、それも単にそれだけでなく、40で頂点を極められなければ、今後をどうすべきか考えることが重要だと伝えてくれている。これまでの人生を振り返り、今後の道を考える時期である。まさに!私がそれ。今の不遇な状態の理由を鑑みるにつけ、短期的な努力はしてきたが、後の人生で楽をしていという目標を立てて、それに向けて努力すればよかったとそう思っている。

    老いにおける初心とは、若ぶったり、若い頃と同じことをしようとするのではなく、今の自分の限界の中で何をしていったらよいか考えることが重要ということらしい。

    かつ、50代では親の観阿弥の死後数日前の演技の素晴らしさを書いており、「老骨に残りし花」と評している。この花を残すために、今までのすべてのことがあったのではないかと世阿弥は感じたようで、この点で、世阿弥が日本の芸能の特徴である「老いの美学」を初めて確立したといわれているらしい。能を一生かけて完成するものととらえ、肉体が衰えてからも先があると考えていたかららしい。

    この老いの美学は、分かる。師匠は60代だ。でも、普通に、心からかっこえーなーと思ってしまう瞬間がある。これではないか。見かけとかではなく、今までの来し方というかがにじみ出ている様に感じてしまうのだ。例えば、着物の着こなしもそう。なんていうか、雑誌に載っている一般的に男前と言われる軽薄な俳優が着てもホストみたいだなとしか思えないが、キッチリと肌を見せずに来ている伝統技能のご年配の方の方が着慣れていて、粋な感じがする。

    そして、世阿弥は老いてこそ自由であれ!と言っている。やってはいけないとされてきたことを、やっていいとされてきたことに少し混ぜると、観客にとっては物珍しく、面白みを起こすからとのこと。これは、ピアノの不協和音に通じるのではないか。ハチャトリアンなど、初心者の下手くそが弾くと、時々混じる不協和音が本当に不快なだけでしょうがない。これを上級者が弾くと、美しく響くから不思議だ。

    100分de名著の解説者土屋恵一郎さんは、この稽古の段階は衰えの段階で、人は何かを喪失していくが、それを同時に何か新しいものを獲得する試練の時、つまり初心の時だと解釈、老いた後にも初心ありで、それはあくまで乗り越えるためのもの。そう考えると、年取ってきた後の人生に希望が湧くのではないかと。

    ちなみに、花とは、四季折々にしか咲かないから、珍しいものとなり、人々も人にとって珍しく新しいものであるからこそ、おもしろい。つまり、花とは面白い、珍しいと同じ意味なのだと世阿弥が明記している。

    そして、能から切り離せない「幽玄」これは、私たち現代人の間違った理解で、事実と異なっていたので、なかなか理解ができてない気がする。幽玄とは、若者、白々とした夜明けの梅の花、桜の花を挙げている。そして、これも実感がわかないのだが能は物まねが基本らしい。でも、例えば老人の役を演じるにあたっても、ボケてやる気のないおじいさんを真似するのは現実的でも幽玄ではないので、老いてなおやる気のあるダンディーなおじいさんを演ぜよとのことらしい。説明しにくいが、これは舞台上なのでこれまでの人生に生かせる教訓ではないが、現実と虚構のすきまの美しさを演じろとのことで、近松論に通じる。どんな身分の役でも、花を一枝身に着けているように演じよと世阿弥は言っている。

    この本で、能がゆっくりな理由が解明された。能役者が舞台で声を出す場合、笛によって調子を整え(一調)、機会をうかがい(二機)、目を閉じで息を溜めてから声を出す(三声)らしい。ためを作ってから、自分をその場に押しとどめる何かがあって、それを押し戻しながら踏み出す。これが、序破急と一緒で、声の出し方だけでなくすべて、脚の運び方にもあるのが理由。とても納得。

    一番最後に、「秘すれば花」の意味が全然違った。実際に明かしてしまえば大したことはないのだけれど、秘しているからこそ効果があるということ。秘め続けているだけではもちろん意味がない。勝負がかかった時に、効果的に使用すると物珍しくて花となるということ。花とは、一つの場所に安住しないこと、面白く、珍しいことであると書いてある。土屋さんは、これと併せて、秘していた必殺のものを使ってしまえば花でなくなるため、また新しい花を作れという意味だと言っている。

    ただ、残念だったのが、私の理解では能は神事だったのが、世阿弥によって、芸能に変えられてしまったこと。文章には、何度も、この頃の能のスポンサーである俗にいう“えらい人”(実際に素晴らしいという意味ではない)に気に入られればいいみたいな表現が頻出してて、観阿弥が人気を博して以来、能がエンタメ化してしまったようで、ただ、エンタメ化していなければ今まで残らなかった可能性もあるので何とも言えないが、エンタメ化してしまったという点では、世阿弥の罪も大きいのではないかと感じた。

  • ●序破急 
    ●一調、二機、三声 
    笛により調子を整え、機会をうかがい、それから声を出し、舞う
    ●かるがると機を待ちて、破、急へ早く映るように能をすべし。=場は生き物だからそれに合わせて自分のリズムを作りなさい。
    ●目を前に見て、心を後ろに置け。離見の見。=ブレーキ
    ●男時 女時=循環する波をつかめ
    ダメだと思っても必ず波がくるから。
    女時の時に男時のための準備をしなさい。

  • 『風姿花伝』や目次で書かれているような言葉は聞いたことがある.その辺りを解説してくれたのは嬉しい.物語論としては読めると思っていたけれど,マーケティング論としても読めるのがわかったのが興味深い.ちょっと厭世気味だったイマドキのドラマやアニメを読み解く新たな視点がもらえたのも大きな収穫かな.

  •  風姿花伝について、著者の知見,考えを交えながら解説されている部分もあり、分かり易く得られるものが多いのではと思う。
     人,自分の成長に関する部分(初心忘るべからず)、勝負に関する部分(男時女時,秘すれば花)だけではなく、体の動かし方や間の取り方(一調二機三声,離見の見)など、お面を被りながら演じることで研ぎ澄ませてきた"表現"の部分からも、学べることが大きいと思った。

  • 松岡正剛さんの著書によると、世阿弥は中世のスーパースターで、様々な価値観、文化を融合した人だとのことで、いつか人となりを詳しく調べてみたいと思っていた。100分de名著シリーズのバックナンバーがあったので購入。「風姿花伝」では、後進に向け、能の演じ方のみならず、各年代における生き方までも指南しているらしい。本書だけでは生々しい人となりまでは伝わってこなかったが、世阿弥に近づく第一歩としては好著だと思います。

  • ■書名

    書名:NHK 100分 de 名著 世阿弥『風姿花伝』 2014年 1月
    著者:NHK出版 日本放送協会

    ■概要

    そういえば―、あの本のこと、何にも知らずに生きてきた

    人類の偉大な遺産である古今東西の名著の魅力を、25分×4回の100分
    で解説する番組の人気テキストです。名著の現代的意義を見据え、
    先人の言葉から明日を生きるヒントを導き出します。

    ■今月のテーマ
    世阿弥は元祖イノベーターだ!
    室町時代に能を大成した世阿弥は、秘伝の書『風姿花伝』を著した。
    芸能の厳しい競争社会を生き抜いた世阿弥の言葉は、戦略的人生論
    や創造的精神に満ちている。「秘すれば花」「初心忘れるべからず」
    など、代表的金言を読み解きながら、試練に打ち克ち、自己を更新
    しつづける奥義を学ぶ。
    ■語り手:土屋惠一郎
    (From amazon)

    ■感想

    風姿花伝って、全然知りませんでしtが、こうやって読んでみると
    ビジネス書として今でも通じる、普遍的なことを言っているという
    のがよく分かります。
    昔から「今の若者は楽をしようとする、こらえしょうがない、努力
    しない」と同じことを言われているんですね。
    逆に言えば、大人、子供が悪いわけでなく、昔から「自分がやった
    ことを基準に他人を判断する(自分が出来るから相手もできるという
    判断)」という事が当たり前だったんだな~と思わさせられます。

    人間って本当に進歩しないですね。
    個人個人では一生かけて進歩するのでしょうが、みんなが同じこと
    繰り返しているから、人類全体として進歩しないんだろうけど。
    これは、最近のサッカー日本代表にも言える事です。
    みんな「負けたことから学ばないといけない」と言っていますが、
    この「学んだこと」は個人レベルで閉じ込められてしまうので、
    次に別の人が、前の人と同じ過ちをし、また、「負けたことから学
    ばないといけない」と言って、同じこと繰り返す。
    誰かが、その失敗を全員に共有することをシステム化しないといけ
    ないのに、誰もそれが出来ない。

    で話がズレましたが、それを能の世界でシステム化したので、世阿弥
    であり「風姿花伝」なのです。

    これは、能を伝えるための秘伝書なのですが、秘伝書を歌うだけあり、
    本質的な部分をしっかり見ており、普遍的に使える内容となってい
    ます。

    システムを作る事、自分の現在を見極めること、自分を常に更新する
    ことの大事さが分かる本だと思います。

    ■自分がこの作品のPOPを作るとしたら?(最大5行)

    100分で名著??ありえない???
    いやいや、題名に偽りなし。
    『風姿花伝』の内容が分かった気になります。
    入門編に最適!

    ■気になった点

    ・能の本を書くことが能役者の最も大事な事である。

    ・「風姿花伝」は、広く人々にみせるものではなく、子孫への教え
     として書いた。

    ・勢いでやってきたことを、のちの世代にも踏襲できるよう、システム
     に落とし込むということをやったのです。

    ・「君は手で絵を描くのか?」

    ・いまあるものをいかに新しくするか?

    ・物事の新しい切り口を創造することが革新なのです。

    ・そこに安住していては、進歩はありません。

    ・老いに向かっていく人生の中で、その時々の工夫をし、自分が
     どういきていくのかを考えよう。

    ・名人であればあるほど自分の衰えを自覚して、後継者の育成を
     する。

    ・ある人の人気が出れば、なぜ人気なのかを見極めたうえでそれを
     自らの中に取り入れた。

    ・「秘すべき花」を常に作り続け、必要があれば、その花を見せる。
     見せた花はもう秘すべき花ではないので、新しい秘すべき花を創る。

    ・成功は、次の失敗につながる。

    ・歳をとったからこそ受容できる自由がある。

  • 2014.3.30

  • (2014.02.28読了)(2013.12.25購入)
    Eテレの100分de名著の番組テキストです。
    世阿弥は、室町時代に能を大成した人物です。
    彼の書いた『風姿花伝』は、父の観阿弥から受け継いだ能の奥義を、子孫に伝えるためのものです。『風姿花伝』は、芸術という市場をどう勝ち抜いていくかを記した戦略論であるために、能に関わる人以外にも時代を超えて広く読み継がれる古典となっているのです。

    【目次】
    【はじめに】マーケットを生き抜く戦略論
    第1回 珍しきが花
    第2回 初心忘るべからず
    第3回 離見の見
    第4回 秘すれば花

    ●能(8頁)
    能は、芸能として歌、舞、物語の三つの要素を含んでいる
    ●珍しきが花(31頁)
    人にとって珍しく新しいものであるからこそ、面白いと感じる。
    ●初心忘るべからず(35頁)
    世阿弥は、人生にいくつもの初心があると言っています。若いときの初心、人生の時々の初心、そして老後の初心。それらを忘れてはならないというのです。
    ●時節感当(74頁)
    「時節感当」とは、役者が舞台に出ていくときの、そのタイミングについて世阿弥が語った言葉です。
    ●男時・女時(85頁)
    世阿弥は、こちらに勢いがある時を「男時」、向こうに勢いがある時を「女時」と表現しました。

    ☆関連図書(既読)
    「能の物語」白洲正子著、講談社文芸文庫、1995.07.10
    (2014年3月4日・記)
    内容紹介(amazon)
    世阿弥は元祖イノベーターだ!
    室町時代に能を大成した世阿弥は、秘伝の書『風姿花伝』を著した。芸能の厳しい競争社会を生き抜いた世阿弥の言葉は、戦略的人生論や創造的精神に満ちている。「秘すれば花」「初心忘るべからず」など、代表的金言を読み解きながら、試練に打ち克ち、自己を更新しつづける奥義を学ぶ。

  • 文庫版の風姿花伝を立ち読みしたが、全く理解不能だったため敬遠していたが、この本のように背景や具体的に能について記載があると理解しやすく、さらに風姿花伝のポイントはわかった。
    過去に読んだが難解だった本、難しそうで敬遠している本については、このシリーズは非常にいいのではないか。

  •  この講義で少しは「能」が分かるのかなと思っていたら、全く違った。 「風姿花伝」には意外にも能の技術的なことについては書かれていない。いかにして能を発展させるか、いかにして勝ち抜いていけるか、当時のマーケットを生き抜く戦略論だという。世阿弥は能の世界において様々なイノベーションを巻き起こしたそうだ。

     著者の土屋氏によると、「風姿花伝」にはピーター・ドラッカーの「マネジメント」に出てくるイノベーションと共通点があるという。単なる技術革新ではなく物事の新しい切り口や活用法を創造することで、それは世阿弥のいう「珍しきが花」に通じるそうだ。

     「風姿花伝」を読むキーワードは「関係的」。観客との関係、組織との関係、自分自身との関係、すべてにわたって関係的だとしている。

     少し「能」をかじりたいという最初の期待は裏切られたが、世阿弥は人生の処世術を秘伝として残したことを知り、少し賢くなった気がする。たまにEテレの日本の芸能番組で「能」をやることがあるので、見逃さずに触れてみたいと思う。

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