NHK 100分 de 名著 北條民雄『いのちの初夜』 2023年 2月 (NHKテキスト)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (91ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231485

作品紹介・あらすじ

「書く」ことが、絶望を超越した

かつては誤解に基づく激しい差別と偏見に晒されていたハンセン病。青年・北條民雄は、その病に罹患し、同病者だけが共同生活を送る療養所に入る。社会から隔絶された絶望的な状況の中で、北條が生きる希望を見出したのは「書く」ことを通してだった。書簡を通じて私淑した川端康成の支えもあり、芥川賞の候補にもなった代表作「いのちの初夜」。この作品を読んで衝撃を受け、大学で北條民雄について研究したという俳優・作家の中江有里さんを講師に迎え、現在のコロナ禍で改めて顕在化した差別や偏見というテーマについても考えながら、みずみずしくも巧みに練られた物語の中に、絶望の底にあってもなお折れない「生きる」意志を読みとく。

感想・レビュー・書評

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  • ハンセン病文学に注目!/工作舎
    https://www.kousakusha.co.jp/NEWS/weekly20230131.html

    北條民雄“いのちの初夜” (1)せめぎ合う「生」と「死」 - 100分de名著 - NHK
    https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/4V52M4K4ZP/

    100分de名著 北條民雄『いのちの初夜』 2023年2月 | NHK出版
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000062231482023.html

  • 川端康成が「凄い小説です」と激賞したとおりだと思った。私は原文ではなく中江さんの解説を読んだだけだが、「いのちの初夜」のもつ人間存在のあり方への根源的な問いと、北條民雄の作家としての可能性の大きさに打たれた。

    私が思うに、この小説は、壮大な「未完の小説」だ。
    確かに中江さんの解説のとおり、この小説の核となるものは、作者自身が投影されたハンセン病患者の絶望と、それを越えた希望である。しかしながら、私が「未完」と考えたのは、この小説がハンセン病というテーマを越えて、ハンセン病患者でない私たちにも関わりうる様々な困難とそこからの再生の可能性を多分に含んでいると思われるからだ。

    つまり、私たちは日常では気づかないが、例えば破産であったり離婚であったり肉親の早世であったり子どもとの不慮の別れであったり被災であったりといったような、有無を言わさない強大な力によって魂を死に至らしめるものが、すぐ近くに潜み、私たちを取り込むのを待ち構えている。そして、それらに遭遇した瞬間、絶望の淵に立たされて生きる希望を失い、道に迷って生きる目標を見失う人は多い。しかしその場面に直面したとき、人としてどういう心の持ち方で立ち向かっていけばよいのか。その考えの種(たね)となりうるものが、二十歳前後の若者に過ぎなくて、かつ、病気に日々浸食されていくという負の事情をもつ北條のペンによって奇跡的に示されたのだ。

    したがって、歴史に「もし」は通用しないのを承知で言うが、もし北條が23歳で早世せず、作家として作品を世に出し続けていたら、と考えてみる。そうすると、ハンセン病を基本としながらも、病気を抱える人々の様々な姿から、人間の真の生き方の根源たるものを彼の目は見いだし、彼の才能はそれを文章へと抽出し得たのではないか。
    それによって、たとえ私たち読者が魂を死なせるような激烈な事象に遭遇したとしても、「人間として死んでも、いのちそのものとして生きる」ことが縷々と書かれたと思われる、世に出なかった北條の作品を読めば、新しい生命のあり方の具体像を容易に得ることができるようになっていたかもしれない。

    ちなみに「いのちの初夜」とは、北條が付けた原題から川端が改題したもので、北條は当初「最初の一夜」と題をつけていたという。「いのちの~」という題も、最重要の「生命」に焦点を当てたという意味で、川端の慧眼には脱帽するが、「最初の一夜」とはすなわち、続く数々の夜の物語を北條は紡ぎ出す意図があったのではとも推測できる。その意味で、志を遂げずに彼が早世したことが改めて悔やまれる。

    中江さんも解説のなかで、この本をハンセン病文学という狭い枠に押しこめるべきではなく、北條の青春の息吹が溢れ、表情豊かで多角的な読み方が可能な文学作品と言っている。私は中江さんの解釈を自分なりに拡大させ、この作品を未完たる部分を含めることで、「カラマーゾフの兄弟」に追いつくくらいの、人間の生き方に関する多くの示唆が読める稀有な小説だと解釈した。

    それにしても、中江有里さん、私にとってはひさしぶりにお目にかかったと言うべきか。
    でも中江さんは俳優、作家、歌手として活動を現在も続けているので、私の方が無知だったということなのだが。私がまだ若かりしときにアイドル雑誌で中江さんを見てから、その黒目がちな目や、正統派日本美人のような表情に、ハートをぎゅっとつかまれたのを思い出しました。
    私がしがない勤め人暮らしをしている間に、中江さんは通信制大学で北條をテーマに卒業論文を書き、こうやって北條の素晴らしい文学を多くの人に広める大役を果たされているなんて… 惚れ直しました…

  • 2023.02.04

  • 中江有里さんによる100分deの北条民雄『いのちの初夜』解説。中江さんといえば女優でNHKブックレビューに出ていたので読書好きということは認識していたのだけれど、こんな文章も書けるのかと驚いてしまった。
    それはともかく、北条民雄は川端康成に見出されてデビュー、ハンセン病の療養施設における患者たちの複雑な心情を文学にまで高めて表現していることが本書の解説や引用文から伝わってくる。
    岩波文庫で短編集が出ているようなので読んでみたい。

  • ハンセン病文学という今まで触れたことのなければ、そもそもの存在すら知らなかったジャンルだったが、今まで感じることのなかったハンセン病というものへのある種の親近感を、正しい事実と、北条の残した記憶の断片から得ることができる。

  • とっつきにくい名著のガイド本だが、わかりやすい解説はもちろん、対象の本に対する解説者の愛や情熱が伝わってくるのでこれはこれで好きなのである。

    今回は中江有里が解説者ということで、放送も見たしこのガイド本も購入。
    彼女は「いのちの初夜」について卒論にまで書いたという。

    ハンセン病という病、療養所への隔離。生と死の狭間。主人公の心動きとの叫びが本書には丁寧に解説されています。

  • 癩病という当時のタブーを題材にした作品。絶望を目の前にしたとき自分ならどう生きて行けるか?最期まで立派に生きられるか?

  • 「北條民雄『いのちの初夜』」中江有里著、NHK出版、2023.02.01
    91p ¥600 C9493 (2023.03.09読了)(2023.01.26購入)

    【目次】
    【はじめに】苦悩や絶望と共に、希望を感じさせる文学
    第1回 せめぎ合う「生」と「死」
    第2回 「いのち」を観察する眼
    第3回 再生への旅立ち
    第4回 絶望の底にある希望

    ☆関連図書(既読)
    「いのちの初夜」北條民雄著、角川文庫、1955.09.15
    「ホンのひととき」中江有里著、毎日新聞社、2014.05.30
    (アマゾンより)
    「書く」ことが、絶望を超越した
    かつては誤解に基づく激しい差別と偏見に晒されていたハンセン病。青年・北條民雄は、その病に罹患し、同病者だけが共同生活を送る療養所に入る。社会から隔絶された絶望的な状況の中で、北條が生きる希望を見出したのは「書く」ことを通してだった。書簡を通じて私淑した川端康成の支えもあり、芥川賞の候補にもなった代表作「いのちの初夜」。
    この作品を読んで衝撃を受け、大学で北條民雄について研究したという俳優・作家の中江有里さんを講師に迎え、現在のコロナ禍で改めて顕在化した差別や偏見というテーマについても考えながら、みずみずしくも巧みに練られた物語の中に、絶望の底にあってもなお折れない「生きる」意志を読みとく。

  • 生きているということがむき出しになっている場面を感じて驚いた。

  • ただのいのちとして、いのちが「びくびくと」生きているといった記述から、衝撃にも似た感触を得た。

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著者プロフィール

俳優、作家、歌手。1973年大阪生まれ。89年芸能界にデビューし、数多くのTVドラマ、映画に出演。俳優業と並行して脚本の執筆を始め、2002年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」最高賞受賞。06年には第一作となる小説『結婚写真』を刊行し、小説、エッセイ、書評など文筆活動も積極的に行う。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。文化庁文化審議会委員。19年より歌手活動再開。

「2023年 『北條民雄『いのちの初夜』 2023年2月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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