NHK出版 学びのきほん 自分ごとの政治学 (教養・文化シリーズ NHK出版学びのきほん)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (104ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784144072659

作品紹介・あらすじ

もっとも分かりやすい、著者初「政治」の入門書!

学校で教わって以来、学ぶ機会がない「政治」。大人でさえ、意外とその成り立ちや仕組みをほとんんど知らない。しかし、分かり合えない他者と対話し、互いの意見を認め合いながら合意形成をしていく政治という行為は、実は私たちも日常でおこなっている。本書では、難解だと決めつけがちで縁遠く感じる「政治」の歴史・概念・仕組みが2時間で理解できる。政治の基本概念は、どのように私たちの生活に直結しているのか。自分なりに政治の「よしあし」を見極めるポイントはどこにあるのか。「右派と左派」「民主主義」から「税金と政策」まで。思わず子供にも教えたくなる、政治と自分の「つながり」を再発見するための教養講義。

感想・レビュー・書評

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  • 我が国はまだまだ政治的な意見を述べにくい雰囲気にあるけど、そうも言ってられない気がしている。
    でも今の自分にできることと言えば、せいぜい政治への意識改革ぐらい。それなら本の力を借りてその第一歩を踏み出してやろうと思った。

    本書はタイトル的にも今の自分への課題にピッタリだった。身近どころか自分の身に起こっているかのように政治を捉えるにはどうすれば良いのか、4章をかけて迫っている。
    「2時間で読める政治入門書」と謳われるだけあって、ページをめくる速度がいつも以上に速かった。図も余白が目立つほどに簡潔で、著者が一番伝えたい情報だけが手っ取り早く飛び込んでくる。本来その余白は補足事項が何かで埋められるのだろうが、もっと知りたければ巻末の参考文献を調べれば良い。

    「日常を丁寧に生きなければ、本当の政治に出会うことはできないのだと思います」

    第1章:政治学の基本概念
    「左」「右」といったザ・政治ワードの起源、それらに代わる政治的な思想や立ち位置を測る概念について触れる。元々フランス革命後の国民議会にて、議長から見てそれぞれ左右に座っていた派閥が起源だとは露知らず…。今(刊行された2021年時点)では両者の境界が曖昧になってきているというのも意外だった。

    第2章:政治の「考え方」とは
    「左」や「右」等に代わる、政治的思想や立ち位置を測る概念を「お金」と「価値」というベクトルで考えようと著者は提案している。「お金」はお金の使い道や配分、「価値」はそうした使い道や配分に価値を見出すかどうか…といったところか。その2つをX・Y軸で表した時、我が国は一体どういう考えでいるのかが浮き彫りになる。

    第3章:「自分ごと」を過去に学ぶ
    政治を「自分ごと」として捉えるためのヒントを著者が敬愛するマハトマ・ガンディーから学ぶ。ガンディーらは自分たちの日常生活を入口に、政治体制への意思表示をした。お上の言いなりにはならず、自分たちで考え自己統御を行う。その積み重ねが新しい政治の在り方なのだと。今でも充分目指すべきだし、国内を顧みない我が国が「第二のイギリス」と化していないか心配だ。

    第4章:死者と日常の政治学
    この観点は新鮮!ここでいう「死者」とはいわば先人たちの事。
    民主主義は「生きている人々の過半数によって物事が決まる」ので、「生きている人々」が主語。対して「生きている人々の過半数があっても憲法上はアウト」というのが立憲主義で、こちらは「死者」が主語になる。その「死者」を蔑ろにして政を推し進めているのが現代だと著者は懸念している。

    “Nobody is perfect.”
    これは読んでいる間に浮かんだフレーズで、政治というものを考える上で今後も自分の中で外せないと思う。ガンディーのような聖人と呼ばれている人も、政治活動において見落としている点があったりと不完全だった。家族を軽視したりと人間らしからぬ点もあった。
    お上も国民も不完全な者同士。共に意見を交わし、知恵を出し合いながら社会を存続させていくべきではないだろうか。

  • 政治学者 中島岳志氏 初・政治の入門書!2021年のキーワード「自分ごと」とは?|株式会社NHK出版のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000274.000018219.html

    NHK出版 学びのきほん 自分ごとの政治学 | NHK出版
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000064072652020.html

  • 学びのきほんシリーズ
    「政治とは簡単には分かり合えない多様な他者とともに、何とか社会を続けていく方法の模索」と[はじめに」の章で述べている。基礎知識としての前提となる概念、政治の仕事とは何か、著者が長年研究しているガンディーについての話、死者と日常とどうつながるのかという話でまとめられている
    柳田国男『先祖の話』アジア太平洋戦争末期に日本各地の先祖供養などの儀礼慣習について書いた本の紹介あり 今一生懸命生きて「先祖になるという仕事」死者の存在が社会倫理や規範ともつながるという 読んでみたいと思った

    覚書
    「左」と「右」はいつ生まれたか
    18世紀末フランス革命開始に開かれた国民議会で、議長から左側座席の急進的な革命派、右側座席のいわゆる守旧派、旧体制擁護の人達だったのが「左派」「右派」と呼ばれるようになったとのこと
    左派とは何か
    人間の「理性」を何よりも重視 正しい理性に導かれながら革命や社会改造を行う進歩主義、近代主義的な価値観が基本的な概念
    理想的な平等社会をどう作るかで手段の違い
    国家によって理想社会を実現しようと考えるタイプ(共産主義、社会民主主義)と国家権力に頼らず自立した個人の対等な関係性によって平等社会を実現すべきと考えるタイプ(無政府主義)
    右派とは何か
    理性によって理想社会を実現するのは根本的に難しいと考え過去の中に重要な英知があるとして旧体制擁護の立場 反進歩主義
    右翼 原理主義 日本の右翼は万葉の時代、天皇の大御心にすべてが包まれていた世界へ回帰し天皇を中心とする国の有り方国体を取り戻そう
    理想社会を追い求める点については左派右派も近いところもある 未来に向けて社会が進歩した先に理想社会があるという左派VS過去回帰で理想社会に接近できるという右派
    保守とリベラル派は非常に近接した考え方「すべての人の自由を尊重する」他者の意見に耳を傾け尊重し合意形成をしていく
    左派でも自然と人間の共存するなかに大切なものを見出す伝統主義に近づいている保守の論理という所は似ている
    原発は左派の多くは賛成の立場だった 兵器に使われたエネルギーを管理しながら平和転用していく進歩主義そのもの 現在は左派対右派という対立軸そのものが無効かしている
    お金と価値というベクトルで考えることを著者は提案している 
    リベラルの起源
    ヨーロッパの30年戦争1600年代前半にカトリックとプロテスタントの宗教対立軸となった戦争 価値観の違いで戦争への懐疑 終戦後の講和条約 国際政治の基礎的要件が定められた リベラル「寛容」という互いの思想や価値観の自由を保障するという概念が確認 さらに日本では「自由」という概念として発展
    「リベラル」に対して「パターナル」は強い力を持った人間が空いての思想や価値観に介入する父権的介入交渉
    日本は「小さすぎる政府」
    三つの指標で比較対象
    租税負担率 ヨーロッパは20%以上 日本はその半分
    GDPに占める国家歳出割合は小さい 国は国民の為にお金を使っていない
    公務員の数 人口千人あたり仏80-90 米75 北欧100以上 独60 日本30-40 非正規雇用の低給与半数以上官製ワーキングプア 日本はリスクの個人化が進んだ国

    憲法とは死者が積み重ねた失敗の末に経験知によって構成した「こういうことはやってはいけない」ルール 立憲主義は主語が死者たち 民主主義は生きている人たちの過半数によって決定するので主語は生きている人

  • 本当に「学びのきほん」を体現してくれている1冊。とても読みやすいし、分かるけれども、それだけではない深さがある。自分の関心事を見つけたくなる。日常に目を改めて向けたくなる。

    政治は、「簡単には分かり合えない多様な他者とともに、何とか社会を続けていく方法の模索」という最初の一文がすべてを語っている。そう、だから自分とは遠い難しいものではなく、自分ごとになるのだ。

    右派・左派という概念が生まれた背景からひも解き、しかし、この2つでは現代はもう読み解くことはできない。今は、「お金」と「価値」というベクトルで考えていかないと見えてこないという指摘、そのとおりだなぁといろいろすっきりさせられる。いろいろなオンラインでのお話などで以前に聞いたこともたくさん盛り込まれているけれど、それでもそれを改めて整理させてもらえて、とてもよかった。

    歴史的な偉人というカテゴリーにいるガンディーも、実はとても人間くさい人物で、いろいろなことを経験しながら、でも自己反省というものをし、自分と向き合ったからこそ、成し遂げられたことだったんだなぁというのも、なんとも面白く読んだ。

    そして、ここ数年で改めて注目され直している「立憲」の重要さを再認識。主語は、過去を生きた人たち、つまり「死者たち」であるという眼差し。だから、私たちは過去を学ぶのだ。なぜ過去を歴史を学ぶのか、その時にどういう視点で歴史を振り返るのかで見えてくるものが全然違ってくる。そのことを忘れずにいたいと思った。

    今、私たちをとりまく社会、環境は、あまりにもスケールが大きくなりすぎて、とても把握することができない。目の前にあるものしか見えない。それでも、食べること、着ること、移動すること、買うことなど、「日常の一つひとつに繊細になってみる」。そうすれば、おのずとさまざまな政治問題に必ず辿り着く。

    あー、これだ!ずっと漠然と感じていたのはこれだ!!と、なんだかとても腑に落ちた。新年早々、大事な1冊に出会った気がする。

    下手な授業より、この本を読んでもらったほうがいい。

  • 帯には2時間で読めるとあったが、1時間半ほどで読んでしまった。だからといって内容は決して軽くない。中学生くらいを対象に書かれているだろうから、とても読みやすい。しかし、とても深い。ぜひとも、政治に興味のない大人にも読んでみてほしい。僕自身は、中島さんの本をいくらか読んできて、ガンジーの自伝も読んで、最近はずいぶんオンライン講座でお世話になっているので、聴いた話が多いのは確かだ。しかし、それでも、読み進める中で、なるほどと思えることが多い。特に立憲主義について、ここでの主語が死者であるということ。2年前に両親を亡くして、仏壇などはないが、リビングで2人がいつも見守ってくれている。すると、ちゃんと生きなければと思えるのだ。2人が生きていて、実家で暮らしていたときよりも、実はいまの方が両親のことを考えることが多くなった。夢で出会うことも格段に増えた。死者との「出会い直し」、本当にそういうことがあると思える。本書の出版記念に内田樹先生とのオンライン対談があるという。それも楽しみだ。そして、本書のまえがきを読むと、昨日から今日にかけて聴いた、竹田青嗣、苫野一徳両先生のオンライン対談での話とそっくり同じことが書かれている。こうして、自分の中でのものの考え方ができあがっていく。

  • ネット上で個人の政治的思想を揶揄するときに用いられる「右派」「左派」といった対立軸で政治を語ることの無意味さ、そして、どのような対立軸で政治的思想を捉え直すべきか、がわかりやすく理解できた。
    また、「立憲」「民主」の正確な理解とそのバランス感覚を活かすことで、憲法のより深い学習ができると感じた。

  • 政治に苦手意識があって、でもそうも言ってられない情勢になり、手に取った一冊。
    難しい言葉は一切無く、政治に触れる準備をさせてくれた様な印象。
    自分ごととして考えるキッカケは、生活の中から拾える。
    この本で政治を知る入り口に立つ心構えが出来たので、ここから勉強していかなければ。

  • 「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?」で紹介されていたので読んでみた。

    ページ数は少なく、文章もシンプル。小学生でも読めるのではないかと思う。内容は非常に初歩的ながら、社会人でも学べる部分はあると思う。

    リベラルとは、保守とは、政治にまつわる用語を筆者の視点を交えて解説していく。

    それから、あまり知られていないガンジーの生涯について書く。若い頃の奔放なエピソードは知らなかったので、面白く読んだ。

    民主とは、現在を生きる人間が主語。法律は一定の賛成のもとに変更可能。立憲とは過去の死者が主語。過半数がイエスと言っても、憲法は簡単には変えられない。そこには、先人の経験と失敗に起因する経験知が含まれる。

    死者の眼差しを議会に呼び込むのが立憲民主主義だが、最近は軽視される傾向。

    面白かった。いわゆる学び直しの、その入門書として最適な一冊。

    巻末には、分野ごとの次に読むべき本のリストが掲載されており、初心者にとって非常に親切。

    (書評ブログもよろしくお願いします)

    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/03/23/%E3%80%90%E5%AD%A6%E3%81%B3%E7%9B%B4%E3%81%97%E3%81%AE%E5%85%A5%E9%96%80%E6%9B%B8%E3%80%91%E8%87%AA%E5%88%86%E3%81%94%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AD%A6_-_%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E5%B2%B3

  • 右とか左とか、リベラルとか、今までは分かったようで分かっていなかった言葉の意味がちゃんと理解できた。

    政治学の本だけど、難しいことは書いてなくて、だからわたしみたいに言葉の意味が分からない人にこそ楽しんで読んでもらいたいし、この本の存在を知ってもらいたい。

    わたしは、モノやサービスを選んでお金を支払うことは、投票することだと思っているんだけど、これも政治だったんだな。
    自分の本当に身近なところに、政治は存在している。

    でも、やっぱり選挙はちゃんと行かなきゃいけない。
    いまを生きるわたしたちや未来のためはもちろん、過去の人たちが礎を築いてくれたおかげで、少なくとも日本は戦争のない国になっているんだから、過去の人に恥ずかしくない世界を創らなきゃいけない。

  • 政治的な思想の見方の基本を教えてくれる本。
    丁寧語で書かれていて、とても読みやすいです。

    初心者向けに赤ん坊相手のように手取り足取りというより、一緒になって考えてくれる先生、一緒に考えようと促してくれる先生、そんな感じの内容です。
    優しく、それでいて明瞭で毅然としていて、深い考えの話も紹介されています。

    とても勉強になりました。
    この本が一人でも多くの人に読まれて、一人でも多くの人が選挙に行くことを願います。

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著者プロフィール

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『思いがけず利他』『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『保守のヒント』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『保守と立憲』『親鸞と日本主義』、共著に『料理と利他』『現代の超克』などがある。

「2022年 『ええかげん論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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