別冊NHK100分de名著 集中講義 夏目漱石 「文豪」の全身を読みあかす (教養・文化シリーズ)
- NHK出版 (2023年10月26日発売)
本棚登録 : 123人
感想 : 6件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・雑誌 (184ページ) / ISBN・EAN: 9784144073069
作品紹介・あらすじ
漱石の心身の「葛藤」に刮目し、読者の共鳴を誘う、鮮烈な集中講義全5講。
そのデビュー作から絶筆までを五感を駆使して「読み証し」「読み明かす」。2019年3月「夏目漱石スペシャル」に大幅に加筆。
【目次】
はじめに─夏目漱石と「出会う」ために
第1講『吾輩は猫である』の「胃弱」
第2講『三四郎』と歩行のゆくえ
第3講『夢十夜』と不安な眼
第4講『道草』とお腹の具合
第5講『明暗』の「奥」にあるもの
あとがき
【「あとがき」より抜粋】
漱石は様々な顔を持つ作家です。妻と子供のいる家庭人である一方、こだわりのある趣味人、教師、読書家、勉強家、漢詩を書く人、そして弟子のたくさんいる「先生」であり、学者であり、かつ官僚のような所もあった。この『集中講義』はそんな多面的な漱石について、いくつかの作品とそこについてまわるテーマに的を絞って理解を試みるものでした。
選んだ作品は『吾輩は猫である』、『三四郎』、『夢十夜』、『道草』、『明暗』の五つ、(中略)漱石は作品ごとに新しいチャレンジを試みた人で、通して読んでも五冊を貫く指針のようなものはそう簡単には見えてきませんが、そのときどきに漱石が抱えていた葛藤が滲み出していることはわかります。漱石が直面していたのは生活上の困難であることもあれば、より深い内面の悩み、小説を書いていく上での試行錯誤もありましたし、心身の不具合も見逃せません。
次にあげるのはいずれも漱石が何らかの形で言及したり、表現したりしているわかりやすい〝お悩み〟の一覧です。
生徒が生意気だ。
日本の英語教育はうまくいっていない。
自分が大学で受けた英文学の教育に不満がある。
英文学研究とは何か、何だかよくわからない。
ロンドンに留学させてもらうこととになったけど、英語の勉強をしてこいと文部省の役員がいうのが嫌だ。
ロンドンに行ったが英語がうまくしゃべれない。
ロンドンに行ったが、気が滅入って困る。
東大の先生になったが、学生があまり懐いてこない。
授業の準備がたいへんだ。
大学の先生をするのは嫌だ。
大学で教えるより、「吾輩は猫である」など書いている方が楽しい。
妻との関係がうまくいかない。
胃腸の調子が悪い。痔になった。
もっと甘いものが食べたいが、妻が「だめ」と言う。甘い物を隠された。
金が足りない。
(中略)
漱石は近代作家としては典型的で、自分自身の葛藤を何らかの形で組み込むことで作中人物やテーマの組み立てや、展開などに活かしています。漱石は決して私小説作家と言えるタイプの人ではありませんでしたが、その作品はどの一節をとっても漱石の生理や身体の痕跡がこびりついています。おそらくそのような形で言葉に身体性をあたえることができたからこそ、彼の作品は多くの読者に訴えたのでしょう。
感想・レビュー・書評
-
坂本龍一さんが逝去した後に発表されたシアターピース「TIME」を観に行った時に、夏目漱石の「夢十夜」が引用されていて、その「わかるようでわからない不気味さ」は強烈に印象に残っていました。
本書を手に取ったのもその夢十夜が取り上げられていたためです。
現代の日本人にとって、夏目漱石は「名前は知っているけど実はよく知らない人」のかなり上位にくる人物だと思いますが、「胃弱」や「食いしん坊」「甘いものやこってりしたものが好き」など、B級を感じさせるワードはとても親近感を覚え、「こんな人が書く本なら面白いかも」と興味が湧きました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鏡子夫人が「胃の病気がこの頭の病気の救い」だったと見抜いていた点、聡明すぎる。
-
引用されている作品本文がまぁ〜〜〜〜良い。あらためて良い。文章だけで涙出る。まず珍野苦沙味って名前だけで面白。書き出し
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。」このリズムよ。
解説の内容であまりに共感したのが、最初の「吾輩」。これも作品冒頭の部分の引用で、
「吾輩の主人は滅多に吾輩と顔を合せる事がない。職業は教師だそうだ。学校から帰ると終日書斎に這入ったぎりほとんど出て来る事がない。家のものは大変な勉強家だと思っている。当人も勉強家であるかのごとく見せている。しかし実際はうちのものがいうような勤勉家ではない。吾輩は時々忍び足に彼の書斎を覗いて見るが、彼はよく昼寝をしている事がある。時々読みかけてある本の上に涎をたらしている。彼は胃弱で皮膚の色が淡黄色を帯びて弾力のない不活溌な徴候をあらわしている。その癖に大飯を食う。大飯を食った後あとでタカジヤスターゼを飲む。飲んだ後で書物をひろげる。二三ページ読むと眠くなる。涎を本の上へ垂らす。これが彼の毎夜繰り返す日課である。」
ここについて、要は人間は外面と内面があってそこが乖離してるせいで苦しんでる、本来自分がしたいことやなりたい姿と、こう見られたいという姿、二重の欲望があるという話なんだというふうに解説される。確かにそう言われると、解説されるまでもなく真っ直ぐにそう書いてあるように見える。が、いきなり猫にそんな本質を突かれると思ってなくて内弁慶な自分にぶっ刺さってしまった。(解説は、この中の「胃弱」というキーワードに着目してそこからこの本質を引き出している。漱石自身が胃弱であったことと作品全体に「胃弱」というキーワードがつい口を滑らせてしまったかのように散見されることから、「胃弱のくせに大飯を食う」に着目する。)
自分に置き換えて言うと、「着飾って出掛けるくせに、部屋は汚い」とかね。 -
夏目漱石の小説を解説した本。
胃弱とか痔とか、そんな観点で解説するとあるから、どんな解説本だ、と思ったら、めっちゃ納得させられた。胃弱とか痔が小説の肝になってることがよくわかった。痔も必要だったんですね!夏目先生! -
なんとなく遠い存在だった漱石が、少し近く感じました。頑張って読んでみようかな
著者プロフィール
阿部公彦の作品
