NHKカルチャーラジオ 詩歌を楽しむ サイモン&ガーファンクルの歌を読む (NHKシリーズ)

  • NHK出版 (2013年9月23日発売)
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Amazon.co.jp ・雑誌 (170ページ) / ISBN・EAN: 9784149108551

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  • 2013年に放送された「NHKカルチャーラジオ/詩歌を楽しむ」では、上智大学文学部英文学科教授だった飯野友幸氏によって、サイモン&ガーファンクル(以下S&G)の歌詞が計13回にわたって解説された。思いっきり砕いて例えると、宮沢賢治が特集されていたシリーズに岡林信康が取り上げられるようなものか。
    私は当時OAを聞いていたが、自分のなかではあくまでポップシンガーという認識しかなかったポール・サイモンを、先入観を一切排除して詩人に定義替えする作業が必要だった。

    でもそれはさほど難しくなかった。飯野先生が徹底的にサイモンを現代アメリカ詩人という視点で解説していたからだ。そこでは詩歌を楽しむという番組タイトルどおり、単なるポップスの歌詞の解釈という枠を大きく踏み越え、サイモンの詩から映し出される彼独自の詩作のセンスをはじめ、1960年代のアメリカ社会や、彼のルーツである在米ユダヤ移民の思考などが「深掘り」されている。(なお、「サイモン」も「ガーファンクル」も当地では誰もがユダヤ系だとわかる姓であることを、はじめに理解しておく必要がある。)

    私もこの本を読むまでは、S&Gの天使のようなハーモニーの美しさとメロディーの聞き心地のよさだけに注目し、詞に関してはほとんど注意を払って聞いていなかった。だがミュージシャンを詩人として見るということについては、放送の約3年後にサイモンと同年生まれのボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞していることを考えれば、飯野先生の研究者としての認識の正しさが後日立証された形だ。

    第1回 ポール・サイモンという詩人(解説曲:I Am a Rock)
    第2回 最初のヒット曲、「サウンド・オブ・サイレンス」(The Sound Of Silence)
    第3回 「夢の中の世界」とアメリカ19世紀の曲(The Dangling Conversationほか)
    第4回 「リチャード・コーリー」とアメリカ詩人、E.A.ロビンソン(Richard Coryほか)
    第5回 「スカボロー・フェア」とバラッドの伝統(Scarborough Fair/Canticle)
    第6回 「ミセス・ロビンソン」と映画「卒業」(Mrs. Robinson)
    第7回 「ブック・エンド」というコンセプト・アルバム(Old Friends、Bookends Theme)
    第8回 「アメリカ」と探究の旅(America)
    第9回 「冬の散歩道」と詩人の意識(A Hazy Shade of Winter、Homeward Boundほか)
    第10回 「明日に架ける橋」と9.11(Bridge over Troubled Water)
    第11回 「コンドルは飛んで行く」と多文化主義(El Condor Pasa(If I Could))
    第12回 「ボクサー」と成長の物語(The Boxer)
    第13回 「恋人と別れる50の方法」-S&G解散後(Fifty Ways to Leave Your Lover)

    以下、先生の解説をもとにした、私なりの拾い書き-
    1 サイモンの初期の作品“The Sound Of Silence”のタイトルに見られるように、正反対の概念「Sound(音)」と「Silence(沈黙)」とを結びつけることで、既存の言語では語れなかった新しい感覚への挑戦を感じる。飯野先生は「現実にはありえなくても、詩的には許されて、常套的な表現を破り、新鮮な発想を生むような修辞的技巧」と書いている。
    私の解釈はこうだ――ネオンに代表される都会の喧騒から意識を離隔したとき、喧騒でも沈黙でもない「沈黙の音」が自分のなかで芽生え、人々が見失っている真実は実はそこにこそある――何とも抽象的で、文字だけだと理解するのは難しいが、ギターとボーカルが乗ると何となく胸に入って来るような気がする。だから私はこの曲は、余計な電気楽器の音が入っていないアコースティックバージョンの方が好きだ。

    2 スカボロー・フェアはイギリスの古歌(バラッド)を元に、サイモンとガーファンクルが手を加えている。バラッド部の歌詞Parsley, sage, rosemary and thyme(パセリ、サージ、ローズマリー、タイム)は意味としては前後とまったく関係なく唐突に出て来るフレーズ。
    先生はこれら香草の名前が並べられているのは、魔よけの意味が含まれているのではと説明する。一方でバラッドが口承文学だという視点で考えると、例えばSober and grave grows merry in time(地味でくすんだものであっても時に華やいでくる)という元々意味を持っていたフレーズが口伝えされるうちに変化したものとも考えられる。その曖昧さが逆に詩的な観点からは様々な解釈を可能とするもので面白いと書く。

    また、バラッドの間に意味的に関連性がない「詠唱」を差しはさむことで、詠唱部分の歌詞についてリスナーの想像力をかき立てる効果を高めているという。その手法については、S&Gの同じアルバムの中の「7時のニュース/きよしこの夜」はより顕著だ。誰もが知る「サイレントナイト、ホーリーナイト…」の歌に、スタンダップコメディアンで政治批判でも知られていたレニー・ブルースLenny Bruceの死などのニュースを読み上げるアナウンサーの声が重ねられる。作者の意図を詮索して真の(1つの)解釈を求める詩(詞)の読み方から、読者の想像力に自由に委ねられた多義的な読み方へと、サイモンが間口を広げてくれたと言えるかもしれない。

    3 ミセス・ロビンソンは、映画「卒業」のためにサイモンが書いた曲。でもミセスのことを歌っていたのに最後の節でいきなりジョー・ディマジオが登場する(この曲は聞いたことがあるのに、このことは知らなかった!)。これも何かサイモンが意味を含ませているのか、それとも単なる遊びなのか?
    詩(詞)を深く解釈しようとすればするほど、サイモンが桑田佳祐のように「ただの歌詞じゃねえか、こんなもん」とニヤリとしている様も想像できる。

    4 「ボクサー」は、アリスのチャンピオンのようにボクサー(拳闘家)の物語ではなく、貧しく生まれた少年が家を出て都会をさすらい、世間のしがらみに身を削られるような生き方しかできないという独白の歌だった。最終のバースでようやく、打たれてもリングに立ち続けなければならず、「もうやめたい、やめたい」と叫びながらも戦い続ける宿命のボクサーに人生を例えるという表現が出てくる。それは今回初めて知った。

    それとサビでは終始「ライラライ」(Lie-la-lie)というスキャットで占められる。解説では「これは最後まで当てはまる歌詞がなくて苦しまぎれに口を衝いて出たもの」らしい。だがサイモンの詞に何かの意味を求める人たちは、嘘=lieの意味を当てはめようとしているとも書かれている。つまりサビは「嘘だ、こんなことは嘘だ」と言っているという解釈だ。

    しかし私はこの頃のサイモンの心境に思いを馳せる。イギリスに渡りギター一本でドサ回りのような演奏活動をしていた後にアメリカに戻り、サウンドオブサイレンスの大ヒットでいきなり超売れっ子となったサイモン。ここからは私の推測だが、巨万の富と名声を手に入れた代わりに、次の作品の制作に常に追い立てられ、かつ、歌い飽きてきた旧作を嫌になるほど歌わされ、詩作にかける時間と心の余裕とを失っていたのではないのか?そのぎりぎりの所に追い詰められた結果が「ライラライ」なのでは、と邪推してしまう。

    つまり、ミヒャエル・エンデの「モモ」で、うらぶれた観光ガイドだが子どもたちに自作の物語を披露するのを生活の楽しみにしていたジジが、灰色の男の言いつけに従い自分の「時間を売った」ために、有名な作家兼タレント兼プロデューサー兼.etcという地位と金と名声を手に入れる代わりに、じっくり自分の心のままに物語を制作する時間と心の余裕とを失ったのと二重写しに見えてしまう。

    私のような凡人が、詩人にとってどちらが幸福だったかなどとヤボは言うつもりはない。ただ私にとって、サイモンの詞は常に私の心の中で姿を見せていなくても、思いつけばその扉をこちらから開けてみたいと思わせ続ける作品であるのは間違いない。

  • NHKカルチャーラジオで放送された全13回の内容。

    サイモン&ガーファンクルが最初のアルバムを発表してから50年。アメリカの詩と文化を研究してきた著者の視点による鑑賞。

    彼らとの出会いは、テレビの洋画劇場で見た映画「卒業」のサウンドトラック。

    今は携帯電話の中にある彼らのハーモニーを聴きながら読み、どんなことを歌っていたのか初めて知ったり。

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著者プロフィール

米文学者。上智大学文学部英文学科教授。著書に『ジョン・アッシュベリー──「可能性への賛歌」の詩』(研究社、2005)、『フランク・オハラ──冷戦初期の詩人の芸術』(水声社、2019)、訳書に『俺にはアメリカの歌声が聴こえる──草の葉(抄)』(光文社、2007)、『ブルース・ピープル──白いアメリカ、黒い音楽』(平凡社、2011)ほか。

「2021年 『凸面鏡の自画像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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