- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150018702
作品紹介・あらすじ
長年疎遠だった父を襲った謎の放火事件。妻と離婚してエーランド島で暮らすことにしたペールは、真相を追って父の暗い過去をたどりはじめるが……。北欧ミステリの旗手による注目の感動ミステリ
感想・レビュー・書評
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シリーズ第3作。イェロフ爺さんは老人ホームを出て介護サービスを受けながらステンヴィークの家で暮らすことにする。そこでは新たに広い別荘が2軒建ち、また北には石工だった叔父の小さな家を相続したペールが住み始め、イェロフの長年の相棒ヨンも住んでいて、ステンヴィーク村は久々に人の気配がしだす。
今回も過去と現在の出来事が交差して物語は進む。現在はペールの父の家での火災事故。過去はペールの父、別荘に越してきたヴェンデラの厳しい少女時代、そしてイェロフの亡き妻が経験した出来事。
ペールは離婚していて双子の子供がいるが一人は思い病気で、距離をとっていた父はボケだし、やむをえず面倒をみる。ヴェンデラの再婚相手は作家だがヴェンデラの行動を支配しようとする。ヴェンデラはステンヴィーク生まれで、イェロフは亡き妻が残した、捨ててくれといった日記を読みだす。そこに出てくる「とりかえっ子」という謎の少年がヴェンデラともからまってくる。
ペールもヴェンデラも幸せな子供時代は過ごしていない。1950年代から60年代、セピア色の出来事、貧しい暮らし、エーランド島のエルフ伝説をからませながら、現在に生きるステンヴィーク村の面々が過去と向き合う。そして最後は新たな生活が始まる気配を感じる。
父を拒否していたペールが、ボケ始めた父をそれでも面倒みるのが意外だった。父はポルノ雑誌を作っていたのだが性の衝動に対しては肯定し仕事を恥じてはいない。雇われる女性にとってはどうかなという感じではあるのだが。
2010発表
2013.4.15発行 図書館 -
自分の人生が残り少ないのを知り、イェルロフはエーランド島の自宅に戻ってきた。
彼を待っていたのは昔馴染みと新しい島の住民。彼らはそれぞれ人生に事情を抱えていた。
エーランド島シリーズ3作目。
春。
心や身体が死と向かい合っている人たちが物語を織り成す。
エルフやトロールといった北欧っぽいモチーフが描かれ、時に彼らに惑わされて事件を見失いそうになる。
この緩やから連作の要となっているイェルロフも、事件にあまりかかわっていないせいもあって霞んでしまいがち。
ただただ人を、緩やかに読む物語。
なので事件の犯人の動機が今ひとつでも気にならない。そういう人もいるよねって風で。
いよいよ次作は最終作の『夏』。
心静かに訳出される日を待つ。 -
順番は違ったけれども、またすぐにイェルロフと再会できたのがうれしかった。物語は、相変わらず、半分くらいはのんびりと、後半から徐々に加速していく。”秋””冬”とはことなり、季節のせいか、少し光のさす明るい感じがした。エルフとトロールといった伝説が物語に幻想的な雰囲気を加えている。あいかわらず、タイトルがすばらしい。赤、だよ、赤。
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(No.13-25) スウェーデン・ミステリです。シリーズ3作目。
内容紹介を、表紙裏から転載します。
『エーランド島の石切り場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルテル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るように求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。なぜこんな事件が起きたのか?娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる・・・。
エルフとトロールの伝説が息づく島で、人々の切ない記憶と過去が交錯する。』
今回の主人公ペールは、シリーズを通して登場する老人イェルロフ・ダーヴィッドソンの隣人となります。イェルロフの友人だったエルンストが亡くなり、親戚のペールがコテージを相続したので。ペールの母がエルンストのいとこで、ペールは子供の頃はよく遊びに来ていました。
エーランド島は、かつては漁で栄えていましたが今は寂れています。けれど暖かい季節だけ過ごすための別荘地として近年人気が高まり、イェルロフの家の近くでも新しく立派なコテージが建設され、都会の人が引っ越してきました。通年を通してここで生活している人達とは、微妙な関係が感じられます。それはそうです、ここを別荘にしている人は、こんなところで冬を過ごすなんてとんでもないと思っているわけで、そう考えていることは住民にも分かるんですから。
ペールは以前の主人公たちと同じく、たくさんの苦労を抱え、でも誠実に生きようとしています。
派手好きであまり自慢できない職業で儲け、ペールのことは気にかけてくれなかった父。それなのに認知症気味になってからは、ペールを頼ってくる。
妻とはうまく行かず離婚し子供は普段妻のもとにいるけれど、休暇の時には引き取って一緒に過ごすのを楽しみにしていました。でも思春期の息子とはあまり話が出来ず、娘は何か重大な病気になってしまいます。
親と子供、両方とも大変な状態で、ペールが潰れてしまわないかと気の毒でなりませんでした。
ちょっと救いなのが、妻は再婚していてその夫は裕福で娘の治療費を惜しまない人だということ。彼が妻の連れ子を可愛がってくれるということは、ペールには引け目になっているけれどその反対よりはずっと良かったと思う。
ペールが父の過去を調べている一方で、やはり過去に縛られもがいている女性が出てきます。新しいコテージの住人ヴェンデラです。夫マックスとの関係は緊張をはらんでいて異常に感じられます。ヴェンデラの過去は、ここエーランド島にありました。
ペールが掘り起こした父の過去。ヴェンデラの過去。そしてイェルロフが・・・。
今回もラストが心地良かったです。
杖を突いて何とか家の中を動ける程度のイェルロフが、どうやって一人で暮らすんだろうと心配しましたが。
在宅ケアサービスの人が一日二回食事を届けてくれます。生存確認も兼ねているのだろうとイェルロフは思っていますが、そうなんでしょうね。
不定期に(週一回くらい)医師が現れ、体調チェック。薬を飲んでいるかどうか確かめたりするということは、薬も出しているのでしょう。
ケアサービスの人や医師に会う事をイェルロフはとても楽しみにしている様子。
掃除や洗濯はどうしてるんだろう?娘のユリアがやってる気配はないし、ストーリーと関係ないけれどそういうことも書いてくれてたらいいのに、とちょっと残念。 -
エーランド島四部作「春」を読む。
「春」は「過去に残したもの」
石切場の小屋を相続したペール。彼が「過去から確執のあった父親の周りで起こる事件」を追うのが、今回の主要線。その他に「現在抱えるペールの家族の問題」「新たな隣人ヴェンデルの過去」「イェスロフの妻の残した日記」の四つの物語が程よい章分けで淡々と語られる。
「春」になり、荒涼とした石灰台地にも草木や花が色めき、鳥は朗らかに囀る。
人々は外に出て楽しみ、冬は次第に影を潜めていく。
ただ……春霞に覆われて焦点の定まらないアンニュイな状態は、どことなく不安を募らせる。
新緑の中の不思議な場所とエルフの気配
誰もいなくなった白い石切場とトロールの気配
「この世界のなにもかもを知る必要はない」
人の営みのはかなさと泰然とした自然の有り様が、他のミステリとは一味違う趣を味わうことができるシリーズ。
さて、次は最終章「夏」・・・夏に読みます。 -
『エーランド島シリーズ』第三作。今回も伝承が絡むのでサウダーデな物憂いような独特の雰囲気が町全体を覆っている。異世界が日常に溶け込んでいる、境界線がほんの少し曖昧なこのシチュエーションは何とも不思議な印象を与える。単に面白い本を読むという感覚と、心に響く本を読むという感覚は、全く違う。訳者あとがきにある『ノン・シリーズ』『短篇集』もぜひ訳出されることを希い、楽しみにしています。
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エーランド島サーガ第三作。久々に読むと故郷へ帰ってきたかのような懐かしさ。老いたりとはいえイェルロフ老も健在で最後に必死の武勇を発揮する。今回は難しい手術を迫られている娘と認知障害の老父の世話を焼くペールが主人公で、その父の現役時代の因縁による殺人事件に巻き込まれ、謎解きに孤軍奮闘する羽目に陥る。そのペールと脇役の隣人ヴェンデラの不遇な人生が周囲の俗物との対比によって読者の共感を呼び起こす。エルフとトロールの北欧フェアリー譚も舞台装置として効果的だ。意外な犯人像と最後の対決はミステリとしては平凡ではあるが、エーランド島の風土とそこで誠実に生きる住人の愛おしさが春の訪れのように心を満たしてくれる。
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再読
内容をほとんど覚えていないというていたらく…。
でも前作の「冬の灯台が語るとき」の再読からあまりと時を置かずに読んだら、、イェルロフの体の衰えぶりが顕著でびっくりした。老体に鞭打って頑張る姿がハラハラさせられる。四部作の中ではこれが一番印象が薄いんだよなー。