- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150019433
作品紹介・あらすじ
停職処分が明けたばかりのパリ警視庁警視正アンヌは、新結成される捜査班の班長になった。しかし、集められたのは警視庁の落ちこぼれ、曲者ばかり。一癖も二癖もあるメンバーとともに、アンヌは20年前のフェリー沈没と二件の未解決殺人事件の不可解な謎を追う
感想・レビュー・書評
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発砲事件により出世の道を閉ざされた停職中の警視正アンヌ・カペスタンをリーダーとする特別班
集められたメンバーは
因縁浅からぬカタブツで警察内の差別に苦しむルブルトン警視
脚本家として大成功をおさめた大金持ちのロジェール警部
相棒となった者が次々と事故にあい“死神“と呼ばれるようになり人嫌いを装うトレズ警部補
アルコール依存症でおしゃべりなサボり屋“鉛筆おじさん“ことメルロ警部
ヴァイオリンの教師から転職した警察官の汚職を暴き続ける垂れ込み屋オルシーニ警部
ギャンブル依存症のブロンド娘エヴラール警部補
パンチドランカーの元ボクサーで元凄腕のサイバー犯罪捜査官ダクス警部補
スピード狂で警察車両を次々と破壊するレヴィッツ
巡査部長
そしてそしてロジェールの飼い犬ピルー(彼だけは辞令なし)
はい、もう面白い〜!
こんなんもう面白いに決まってるじゃん!
あとはもう作者が余計なことはせずに特別班の面々に自由にやらせるだけで至極のコミカル・サスペンスの出来上がり!というあんばいです
実際作者のソフィー・エナフの絶妙な舵取りでそれぞれに得意分野を活かして迷宮入り事件を追って行きます
もうね〜こういうの大好きです
★5じゃ足りない面白さ!!
出会いに感謝!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フランス版『特捜部Q』と言われると読まないわけにはいかない。フォローしているレビュアーさん方のレビューを読んでさらに気になった。
手にしてみると案外薄い。『特捜部Q』に比べれば三分の二程度か。だがメンバーは『特捜部Q』の倍以上いる。
組んだ相手が次々怪我したり死んだりする通称〈死神〉トレズ、ゲイであるゆえにはじかれたルブルトン、書いた作品がドラマ化されるほど有名作家でもあるが仲間たちを小説に書きすぎたロジエール、アルコール依存症のメルロにギャンブル依存症のエヴラール、タレコミ屋のオルシーニにスピード狂のレヴィッツ、ボクシングのやり過ぎで落ち着きを失ったダクス。
今作登場しただけでも八名だが、出勤してこない掃き溜め警察官たちを合わせると総勢四十名ほどもいるらしい。問題警察官がそんなに?大丈夫か、フランス警察。個性豊かなメンバーとは言え、今後も登場人物が増えていくのかと思うと覚えられるのか不安になる。
こんな特別捜査班を率いるのは武器を持たない犯人を射殺したことで六ヶ月の定職処分を受けたカペルスタン。
新しく発足した特別捜査班リーダーにカペルスタンを任命したのは元上司・ビュロンだが、彼の立ち位置がなかなか読めなくてモヤモヤする。カペルスタンの敵なのか味方なのか、彼女を上手く利用して何かをしようとしているのか、それとも彼女の居場所を作ってあげた心優しい元上司なのか。
お荷物でしかないが切るわけにもいかない掃き溜め警察官たちを閉じ込めるためだけにつくられたと思われた特別捜査班だが、与えられた二つの未解決事件を調べていくうちに別の目的が見えてくる。
ミステリーとしてはこれまた『特捜部Q』と似た構成で、時折挟まれる回想シーンが未解決事件とどう繋がるのか、誰と繋がるのかを中心に展開していく。
ただミステリー要素を追求するというよりは、このダメ烙印を押された警察官たちが様々な障害を乗り越えつつ真実に迫り、特別捜査班には許されない送検まで持っていくのかというところが焦点なのかなと思った。
何しろ特別捜査班には殺人事件の現場に入る資格もないし、当時の詳しい捜査資料も見せてもらえない。当時捜査した警察官に話を聞こうとしても相手にされない。捜査車両は窓も閉められないおんぼろ車、サイレンもない。まさにないない尽くしなのだ。
だがそこはさすがはみ出し者軍団、自由奔放さも半端ない。
職場として与えられた古いアパルトマンのフロアをどんどん改装し家具も持ち込み、無いものはあるもので代用し、清掃車を魔改造した特別車両で容疑者を追いかけ、各自得意分野や自前のネットワークを駆使して自分たちの環境を改善し捜査に取り組んでいく。
追い詰められた者ほど強いというが、はみ出し者軍団のチームプレーを楽しめる。ダメ烙印を押された者にも人より優れたところはあるし、そこを上手く引き出して補い合って助け合えれば良いチームになりそうだ。そこはカペルスタンのリーダーとしての腕の見せ所だろう。
フランスでは警察官の副業は許されているんだな、とかアメリカの警察物と同じく昼間から飲んだりパーティーしたりして良いんだ、とか色々発見する一方、事実婚が正式な婚姻と同じ権利を認められるほど自由恋愛の国というイメージのフランスで同性愛についてはいまだ狭量なのかという現実は興味深い。
すでに第二作も出ているようなので、この特別捜査班が更に活躍するのか、どんな方向性に進むのか、そのうちに読んでみたい。 -
アンヌ・カぺスタンはパリ司法警察警視正。同期の中では一番の出世頭だったが、逮捕時に犯人を射殺したことが過剰防衛と見なされ、六カ月の停職処分を受けた。降格、左遷が妥当な線だが、警察局長のビュロンはカベスタンを新設された捜査班の班長にした。その班というのが、アル中やら賭博依存症、誰も組みたがらない不運をもたらす刑事、といった問題のある連中ばかり。放り出したいのはやまやまだがそうもいかないので、警察本部から隔離しておく、いわば不用品を放り込むための物置だ。
鼻つまみばかりを集めた集団が、それぞれの隠された能力を発揮し、周囲を驚かす大活躍をする。よくある設定だ。捜査権を持たない特捜班が扱うのは、警察内部に残されている未解決事件、というのもハリー・ボッシュや『特捜班Q』シリーズでおなじみのところ。オフィスはシテ島にある本部とは打って変わって、猥雑な街なか。ベル・エポックの残り香漂うイノサン通り三番地の建物の六階。寄せ集めの机や椅子と何本かの電話は用意されていた。
個性あふれるメンバーは、相棒が次々と事故にあったり変死を遂げたりするので「死神」とあだ名されるトレズ警部補。高身長の美男でゲイであることを隠さないルブルトン警視。刑事とミステリ作家・脚本家を兼ねる派手好きな女警部ロジエール。アル中だが警察内部に人脈を持つメルロ警部。警察内部の不正を暴きマスコミに流しているオルシーニ警部。賭博依存症のエヴラール警部補。サイバー犯罪に強いダクス警部補。スピード狂のレヴィッツ巡査部長。
カぺスタンの発砲事件を尋問したのがルブルトンだった。敬遠しあう二人はそれぞれ別の段ボール箱を漁って、二つの未解決殺人事件を見つけてくる。一つは七年前、一人暮らしの老女が室内で殺されていた事件。強盗の仕業と見られていたが、犯人が見つかっていない。もう一つが二十年前の船員殺し。錘をつけてセーヌ川に沈められていた。射殺だったがナイフで弾が抜きとられるというプロを思わせる手口。
誰も組みたがらないトレズとカぺスタンが組んで老女殺しの再捜査を始める。ただ一人の身内である老婆の弟はパリから遠いクルーズ県に住んでいるため、七年もたつのに家は事件当時のままに残されていた。少々都合のよすぎる設定ではある。鎧戸が閉まっているのに差し錠がかかっていなかったり、絞殺した老婆の身なりを整えてソファに座らせたり、犯人のしていることが妙にちぐはぐなことから二人は強盗事件ではないと考える。
ルブルトンとロジエールは殺された船員の妻から、被害者がかつての海難事故の生き残りであったことを聞く。アメリカのキー・ウェストで起きたその事故は船の設計に問題があったと被害者は考えており、事故の関係者を訪ねて回り嘆願書を作って設計者に訴訟を起こそうとしていた。妻はその設計者を疑っており、二人はその男ジャラトーに会いにレクサスを走らせる。
無関係と思われた二つの殺人事件につながりがあることを発見したことで再捜査は勢いづく。ところが、船員の妻が刺殺されてしまう。現場には以前にも殺された老婆を訪ねてきたことのある自転車に乗った青年が居合わせた。必死で追うカぺスタンがバスに轢かれそうになるところを助けたのは「死神」のはずのトレズだった。
ほとんど相手のことを知らない者同士が事件の捜査を通じて、気心を知りあってゆく。同僚に「疫病神」と呼ばれ、避けられ続け、人を寄せ付けないように見えたトレズは有能な刑事であるだけでなく家庭的でおしゃべり好きな男だった。融通の利かない法の番人であるルブルトンは、虫も殺せない平和主義者だった。優れた刑事でオリンピック銀メダルの腕を持つ射撃の名手カぺスタンは一度怒りを覚えると抑制が効かず、人を殺しそうになるという弱点を持っていた。皆が皆、完璧ではなく、どこか弱味を持っている。その事実が本部から追いやられた者の吹き溜まりである「物置」を居心地のいいものに変えていく。ここでなら誰もが息がつけるのだ。
ミステリとしての完成度はさほど高くはない。事件の真相について、そのあらましを知る者がいて、全てはその掌の上で踊らされていたということが分かると、さしもの特捜班も観音様の掌の上を飛び回り、いきがっていた孫悟空のように見えてくる。ただ、読後感は悪くない。殺人犯にも人の心が備わっているし、メンバー同士の会話はユーモアが溢れている。フランスの話らしく、美味しそうな料理や酒が次々と出てくるのも英国物と違って楽しい。
陰惨な殺害方法やサイコパスの猟奇的な犯罪がもてはやされるようなところがないでもないのがミステリの世界だ。そんな中にあって、互いを尊重し合いながら、弱点を補いあって協同して仕事をする、はみ出し者ばかりの特捜班というのが、人の温みがあって心地よい。こういう警察小説もあっていい。すでに続編が刊行されているというから、シリーズ化されるのだろう。次は誰に焦点があてられるのか愉しみなことだ。-
2019/12/22
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アンテナだけは張ってます。これといった出版社や翻訳家、書評家が頼りです。いい本に出会うとつい紹介したくなりますね。アンテナだけは張ってます。これといった出版社や翻訳家、書評家が頼りです。いい本に出会うとつい紹介したくなりますね。2019/12/22
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「パリ警視庁迷宮捜査班」1作目にして、作者のデビュー作。
落ちこぼれ警官が集められ、迷宮入り事件を捜査することに。
これが面白くて~大歓迎!
アンヌ・カぺスタンは、パリ司法警察の警視正。
30代半ばにして出世しているエリートだったが、犯人を射殺した件が過剰防衛とみなされ、半年間の停職になっていました。
局長のビュロンに呼び出され、特別班のリーダーに任命されます。
ところが、職場は警察署内ですらない古ぼけたアパート、捜査員はまだ停職中だったり何かと問題がある人間の寄せ集め。
有能そうなのは、ルブルトンぐらい?
彼はカぺスタンの処分を担当した堅物で、体格のいいハンサムだが、ゲイであることをカミングアウトしたために部署で浮いたのだった…
警察内のことをモデルに書いた小説がヒットしドラマ化もされた女性ロジェールは、収入があるのでアパートに次々に家具を持ち込み、飼い犬まで連れてくる。
ギャンブル依存症だった若い女性や、スピード狂の若者などまで。
相棒が次々にひどい目に遭ったトレズは疫病神と敬遠され、自らも怯えて人に近づかない。
カぺスタンはそんなトレズを気にせずパートナーにし、変わり者の部下たちの特技を生かして、臨機応変に捜査を進めていく。
左遷される前のカぺスタンが精神的に限界だったことも優しさを垣間見せ、出来ることに手を付けて淡々と進んでいくさまが好もしい。
変わり者たちの奇行っぷりは笑えます。
「特捜部Q」フランス版ともいわれるようで、確かに左遷された刑事にポンコツな部下がつき、意外な活躍をする話で、ユーモアもある。
「特捜部Q」だと部下は警官ですらないのだが…背景が重いものを含み、よく書き込まれています。
内容的には、パリが舞台のこちらの方が軽やかな雰囲気ですが、それはいかにもパリっぽい洒落のめした楽しさがありますね。
謎めいたモチーフの見え隠れする構成で、一見関わりなさそうな事件の重なり具合、迫力ある終盤、切ない幕切れと、面白く読めました。
カぺスタンは刑事を続けられるのかと自問し、上司の思惑も測りかねていたのが、ビュロンはただ厄介者をまとめて放り出したわけではなく、只者じゃないらしい。
そのあたりも~先が楽しみです☆ -
まさに手作りの警察チームがパリに誕生する。セーヌ川中州シテ島の司法警察局ではなく、古びたアパルトマンの最上階に。ヒロインは、発砲事件で進退を危ぶまれた挙句、半年間の停職処分と離婚の後、警察署の掃き溜めの任命されたリーダーのアンヌ・カペスタン。パリ警察の問題児ばかりをここに集めて世界から隠したい。それがパリ警察の狙い。カペスタンは明確にそう言われる。取り組むのは迷宮入り事件のみだ、とも。未解決事件の段ボール箱が積まれた古く黴臭い部屋。
対象警官は40名だが、ほとんどの者は停職中だから、勝手に集まってくる人間だけで遊ぶなり働くなり、勝手にやってくれ、という指示である。事件の解決など、はなから期待されていない。余計なことはせず、そこに隠れていればよい。そんな感じである。
フランス版<特捜部Q>シリーズとも言われているみたいだ。デンマーク・ミステリの代表格でもあるユッシ・エーズラ・オールスンの<特捜部Q>は、警察署の地下室で、やはり未解決事件のみの捜査を任され、どこからスカウトされてきたのかわからない謎の最小人数の部下とともに難事件に挑むカールの大格闘ミステリである。なるほど。確かに凶悪な犯罪に対し、コミカルでユーモラスで開き直ったリーダーの存在が、一見使い物にならぬような部下たちを纏めて、組織の鼻を明かしてみせるという構造は、類似するところがある。それに、何よりもいい構図ではないか。
花の都パリ。心に傷を抱えた部下たちとともに、本署が解決できなかった事件に立ち向かう部署。そんな設定の本書は、フランス国内で大いに人気を博し、現在のこの続編も既に二作が上梓されているらしい。本書は作家ソフィー・エナフのデビュー第一作であり、本シリーズの第一作でもある。だからこそ、新部署立ち上げの破天荒な様子が、まず奇妙で愉快だ。次々に登場する怪しい捜査官たちとその奇行には圧倒されるけれど、古いアパルトマンがどんどん風変わりな改装を施され、備品が思い思いに持ち込まれ、それぞれがコミュニケーションを重ねてゆく毎に、疑似家族を形成してゆく。それに捜査も何故か進んでゆき、出来損ないたちの表情も明るさを増してゆく。うーん、やはり、手作り警察、いいぞ!
さて段ボール箱の中の複数事件に、二人チームずつ当たって始まる捜査なのだが、実はここが凄い。入り組んだ、文字通り迷宮のような段ボール箱の事件が、実は本書の完成図を作る上で重要なファクターとなるのだ。事件は事件であって事件ではない。事件は、チームの存在や根幹に関わるものとなり、捜査は実はスケールの大きな風呂敷となって作品全体に広がってゆくのだ。あまりに核心に触れる部分なので、謎めいた表現になるが、要はミステリとしての根幹も素晴らしいのが本書なのである。
1991年フロリダキーウエスト島でのどう関連するのかわからない人物の旅行中のエピソード、1993年の船員銃殺事件、2005年の老女絞殺事件、2012年現在のどう関連するするのかわからない人物の婚約のエピソード、2012年現在、迷宮捜査班チームの始動。さらにいくつものこまごまとした捜査模様。まるでバラバラの破片だ。
しかし、それが見事に大団円に向けて、大きな一枚の画幅となってゆく。この仕掛け、凄い! コミカル・サスペンスとあるけれど、さほど軽くはないように感じる。むしろ、何らかの負の心を抱えた傷だらけの警察官たちが、互いに思い合える疑似家族の優しさの中で、徐々に再生を果たしてゆくヒューマン・ミステリとして捉えたい。傷を負った者たちが一丸となって事件を収束させる、言わば「やり切る」ことで癒されてゆく心と心の物語なのだ。とても良い読後感。人間中心のミステリって、やはりいい。ちなみに、登場人物表に犬が一匹紛れ込んでいるけど、この子も存在感があります(笑)。