パリ警視庁迷宮捜査班 魅惑の南仏殺人ツアー: 魅惑の南仏殺人ツアー (ハヤカワ・ミステリ 1960)
- 早川書房 (2020年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150019600
作品紹介・あらすじ
カペスタン率いる特別捜査班に舞い込んだ今度の事件の被害者は、なんと彼女の義父だった。捜査班の面々は、プロヴァンスやリヨンで起きた事件との思わぬつながりを見つける。キャラの濃い新メンバーも加わって、さらに加速する名(迷)捜査から目が離せない!
感想・レビュー・書評
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もう増えるの?w
個性豊かな特別班の面々に早くも新たなメンバーが加わります
もちろん既存メンバーに負けない個性を持っています
2作目にしてメンバーが同僚から仲間になっているのが凄い伝わってきてなんだか嬉しくなっちゃいます
また巻末の解説にも言及がありますがこの作品の 魅力はなんといっても否定されない気持ち良さです
様々な個性が警察という組織の中で否定され続け疎外されてきた特別班のメンバーたちもここでは否定されずにそのままの個性を活かし持っている能力を最大限に発揮して活躍します
そしてそれはリーダーの主人公カペスタンが自然体で受け止め、受け入れ、信頼して任せてくれるからに他ならないのです
カペスタンは絶対に否定しません
そのままでいいんだと全身全霊で伝えてくれます
もちろんそれは特別班のメンバーだけでなく読み手にも向けられてる気がするのです
「あなたはあなたのままでいいんだ」と
自分を信じてくれるカペスタンを信じて今日もありのままの自分で生きていくぜ!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
カペスタン警視率いる、問題警察官たちの巣窟〈特別班〉の活躍を描くシリーズ第二作。
今回は過去の迷宮入り事件ではなく、起こったばかりの殺人事件の捜査を命じられる。と言っても現場に着いてみればやはり〈刑事部〉や〈捜査介入部(日本で言えば暴力団対策担当と立てこもりやテロ対策の突入隊との合体?)〉に邪魔者扱いされ、捜査資料も古くて役に立たないものしか回してもらえない。
しかし〈特別班〉には優位性がある。何しろ被害者はカペスタンの元夫ポールの父親で元警察官だったのだ。同時に何故起きたばかりの事件が〈特別班〉に回って来たのかも分かった。
同性愛者であることを理由に組織を追われたルブルタンや書いた小説にモデルとして実在の警察官を出し過ぎてしまったロジエール、コンビを組んだ相手が不幸になる死神ことトレズ、元ギャンブル依存症のエヴラールは警察官としては問題ないが、パソコンは駆使出来ても基本や常識が分からないダクスやスピード狂で自分の体より車が大事なレヴィッツ、アルコール依存性に近いメルロは大丈夫なのかと心配になる。
今回はさらに自分を中世の騎士と信じるサン=ロウなる、とんでもないメンバーが加入。
ロジエールが飼い犬と勤務するのにようやく慣れたところ、次はメルロがネズミを連れてきた。やはりカオス。
しかしカペスタン始めメンバーたちの良いところは議論はしても互いの人格や性格や信条、セクシャリティについては否定せず受け入れているところ。
例えば言わなくても分かるだろう当たり前のことすら理解出来ないダクスには一つ一つ注意して付箋に書かせる。レヴィッツが何台車をオシャカにしようと怒らない。メルロの止まらないお喋りは聞き流しても遮りはしない。
何だか学校のような雰囲気だが、そうやってそれぞれが受け入れられているからこそ、それぞれが得意分野で捜査に活躍している。
まさか中世の騎士がこんなに活躍するとは思わなかった。そしてメルロのネズミも。
肝心の事件の方だが、カペスタンの元義父の前にも同一犯人によると思われる事件が起きており、さらに新たな殺人事件も起こる。
元警察官、町の名士、背景不明な男。この三人の共通点を追う中で、カペスタンらは辛い事実を知ると同時に意外な人物が関係していることも知ることになる。
これは前作以上に辛い結末になるのか。
カペスタンの元夫が元コメディアンというのも意外だが、死神トレズの特技も意外だった。しかもその特技の世界大会があるとは。
このシリーズを読んでいると、フランスという国の裏側を改めて知る。権利や自由を主張する国というイメージだが、この作品では同性愛に抵抗があるし性差別もあり、移民や人種に対する侮蔑や差別も日常的なようだ。
〈捜査介入部〉と〈特別班〉との連絡係として〈特別班〉に役立たずな資料しか持って来ないディアマンはやがてその〈捜査介入部〉から弾かれることになる。その理由は正に私たちの知らないフランスの裏側事情による。
日本も外国人を全面的にまたは好意的に受け入れているとは言いがたいが、その理由はフランスの事情とは違うと思う。島国で長いこと外国人に慣れていなかった歴史や銃犯罪が日常的でないことも多いに関係していると思う。私なんて英語で話しかけられても逃げ出すしかない。学校で長いこと英語を勉強したにも関わらず。
〈特別班〉はこのまま肥大していくのか、どこに向かうのかも気になるが、カペスタンが元夫との関係をどうするのかも気になるなぁ。まだずっと先のことになるだろうけど。 -
「パリ警視庁迷宮捜査班」シリーズ2作目。
カぺスタン警視率いる、はみ出し者ばかりの特別班が活躍します。
アンヌ・カぺスタンは、優秀な刑事だがある事件の過剰防衛で休職、復帰後に新たな特別班を任されました。
迷宮入りした過去の事件を再捜査するのが専門ですが、今回は起きたばかりの事件の捜査にも加わることに。
なぜなら、被害者がカぺスタンの元夫の父親だったから。
元夫ポールは人気に陰りが見えているコメディアン、その父親というのは警視でした。
とはいえ、他の部署が資料をほぼ独占、特別班にはわずかな情報しか回ってきません。
カぺスタンは元夫に会うのも嫌だったのですが…
この気持ちが当初は暗く描かれているため、サイテーなやつで全然希望はないのかと思いきや、そうでもない?
部下たちの中でもしっかり者のㇽブルトンはゲイとカミングアウトしたら左遷され、ロジエールは警察の内情を暴露した内容の小説がヒットしたので睨まれた女流作家、若いエヴラールはギャンブル依存症の女性だが捜査はかなり地道。
パソコンに詳しいダクスが変わり者というのは他でもあるような設定だけど、やはり程度が違う。
スピード狂のレヴィッツ、危な過ぎ。
ペットの犬やネズミまで活躍する楽しさ!
そ、そして今回は~自ら銃士と名乗るアンリ・サン=ロウ警部が登場。
はい、「三銃士」なら大好きなので、わかりますが~
えっ、17世紀から生きているつもりなんですか?
それでよく警部でいられる…(笑)
これはもうドタバタに徹するのかしら?
と思うと、そうでもない。
舞台劇のような味わいと言いましょうか。
色々な要素を含み、事件には重さもあるがその描写に力点をおかず、創作なんだからこれぐらいぶっ飛んで面白くしなきゃ、でしょ?という余裕綽々なムード。
それぞれが爪弾きにされた理由をお互いに気にすることなく受け入れる空気を作りだしたカぺスタンの度量。
良さを引き出されたメンバーが、いざという時にけっこう一丸となるのです。
ゆっくり深呼吸したくなるような空気を醸し出して、おまけに死神とあだ名されるトレズの意外な出番まであり、笑顔で読み終われる。
今回も、面白かったです☆ -
昨年の第一作『パリ警視庁迷宮捜査班』には度肝を抜かれた。個性豊かな困りもの警察官たちがひとところに集められ、世間の眼から隠されるというパリ警視庁の目論見と、それに反して活躍し団結してしまうへんてこなメンバーたちという構図が、ある種典型的でありながら、やはり嬉しいシリーズの登場作であった。
本作は期待のシリーズ第二作。本書では前作登場のメンバー9人に加え、2人のメンバーが順次加わってゆく。さらに前作登場の犬に加えネズミ君も登場して、しっかりコミカル面を演出してくれる。そして難事件への、バリエーション豊かなアプローチと、何よりもクリスマス・ミステリーとしても明るく暖かく楽しめてしまう。
フレンチ・ミステリーとしてぼくが最近注目しているベルナール・ミニエの作品『死者の雨』でも、サッカー・ワールドカップで盛り上がる作品背景が目立ったが、本書ではパリサンジェルマン対チェルシーという仏英サッカー対決に押し寄せたチェルシー側フーリガンを相手に我らが迷宮捜査班が大混戦を惹き起こす。圧巻(?)でものすごくオフビートな読みどころでもあるように思う。
もう一つはクリスマスイブの一日、警察捜査を休んでそれぞれのキャラクターたちが過ごす時間を、愛情いっぱいに描いてゆく作家のペンの行方にも注目したい。暴力的な連続殺人事件と、暗い過去の惨劇を捜査する警察官たちに与えられる中休みのページは、読者の心も温めてくれるはず。
おまけに<死神>と呼ばれる刑事トレズの思わぬ大活躍シーンもオフビートで作品に奥行きとインパクトを与えてくれる。女性作家ならではのハートウォーミングなユーモアに満ちたシーンが、本題に関係なく挿入されるのも本シリーズの魅力の一端である。
本筋のミステリーについては、主人公である警察官たちの内面や家族の歴史にまで食い込む、軽くはない物語である。作品世界に様々な香辛料も加えつつ、甘くて美味しくてピリリと辛い味付けにしている作者の腕前を味わって頂きたく思う。
本書では一部、邦題の元ともなった先としてリヨンでの一幕がある。リヨンは数年前に旅した新旧市街を併せ持つ美しい都市で、本書ではその様子が生き生きと描かれていて、個人的にはとても懐かしく思った。
最後に、本書解説の書評家・大矢博子さんのこと。彼女は翻訳ミステリー対象シンジケート重要メンバーなので、今年になってコロナ禍のためリモート化している読書会で、居住地を問わず全国レベルで北の端っこの読書子のぼくでも画面上ご一緒できるようになった方である。読書会、本書解説、両面で、専門家ならではの貴重な読書情報を提供して頂けるうえに、硬軟併せ持つ書評内容はとても素敵である。本書を手に取って選択を迷われる方は、まず解説に目を通して頂くことをお勧めしておきます。 -
シリーズ第2弾。
カペスタンの元義父が殺害され、特別班は捜査に加わることになる。他の部署から情報を隠され疎まれつつも、独自の視点から真相に迫ってゆくのだが‥
読みどころは特別班の面々の濃いキャラ立ち。そういう意味では独立したストーリーではあるが前作から読んだ方がずっと楽しめる。今回は自称中世の騎士とネズミがメンバーに加わってカオス。終盤の大活躍は面白かった。 -
今回カペスタン率いる特別捜査班が捜査に呼ばれたのは、被害者が彼女の元夫の父だったから。しかし当然ながら彼らに普通に資料や情報が回ってくるわけもない。それでも彼らは自分の得意分野を活かして動く。少々躓くのは予定の範囲。彼らがお互いをその特技や問題点ごと認めあっているのが伝わってきて本当に好もしい。班には新メンバーも加わり、それぞれの背景も描かれる。特にクリスマスイブの日の各々の過ごし方は微笑んでしまうほどとても良かった。…内容を書く場所がなくなった…とにかく楽しんだので一作目をお好きな方は安心してどうぞ♪
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2012年、フランス、パリ。
謹慎中のアンヌ・カペスタン警視正(37)は、局長に呼ばれた。
謹慎の理由は、過剰暴力。
捜査中に被疑者を射殺してしまったのである。
そんな彼女を、局長は復帰させるという。
しかも、一班を率いてだ。
渡された人物ファイルを見れば、
アル中、問題行動、入院中、ギャンブル中毒、スピード狂、リーカー、死神・・・・・・
難あり人物ばかりである。
首にするわけにもいかないが、捜査に加えるのも難しい――いや、むしろ、いてほしくない連中をひとまとめにするということだ。
さらに、扱うのはフランス中の未解決事件。
人も、事件も、いらないものをアンヌが一手に引き受けろというわけだ。
つまりは、"物置"。
物置なので、部屋は警視庁の庁舎にすらない。
イノサン通りのただのアパルトメン、最上階の部屋があてがわれた。
がたつく机、骨董品の電話、書けないボールペン、乾いたマーカー、はげた壁紙、虚しい植木鉢、そんな"物置"に、ぽつりぽつりと、厄介者たちが集まってくる。
彼らは、刑事部からよこされたダンボール箱から、どうにか捜査できそうな事件を掘り出した。
逮捕者のいない麻薬事件、
10年以上前の殺人事件、
20年前の殺人事件である。
厄介者たちは、お互い親しみを覚えない相手とペアになり、埃の積もった事件の捜査をしていく。
なにより、リーダーのアンヌ・カペスタンがすばらしいのだ。
もともと明るく、あまり考え込まない性格らしい。
やってくる厄介者たちを「ようこそ」と迎え入れる。
「仲間になってくれてうれしいわ」
実はその中には彼女にとって因縁の人物、アンヌの「発砲事件」について調査を担当した男までいる。
さすがに快くとは言えないが、アンヌはちゃんと彼も迎え入れる。
そして、問題はあるにしても能力も持っている部下たちに、それを生かすような仕事を割り当てていく。
失敗しても、頭ごなしに叱りつけるようなことはしない。
「頑張ったわね」と、声をかけるのだ。
しかし、いくら捜査を進めても結果が出なければ、彼らのやる気も落ちていく。
所詮は左遷の身。物置は物置。厄介者たちの吹き溜まりなのだ。
意気の挫ける面々に、彼女は毅然として話し出す。
「もうそう言うのはやめましょう」
「だって、ここに流れ着く前から、すでに厄介者だったのよ。私たち全員ね。」
恥じ入る彼らを前に、机の上に立ち上がる。
「私たちはもう、・・・・・・あの馬鹿みたいに煩雑な書類に関する仕事をしなくてもいいのです。」
「ダンスパーティーに行けなくなったティーンエイジャーみたいに文句ばっかり行っていないで、この状況を利用すべきです。」
「こんな幸運は二度と訪れません!」
なんと前向きなのだろう! そしてこの格好良さ。
さながら、シトワイヤンに呼びかける革命の闘士ではないか!
さて、実は私はこの1巻目を発売当時に読んでいた。
しかし、あまり印象に残らなかった。
面白さを見いだせなかったのだ。
なぜなら、登場人物の多さに、一人一人を把握できなかったからだ。
愚かしくも、私は人物名のメモをとることさえしなかったのである。
厄介者たちは、すべてが個性的で、キャラクターが立っている。
けれども、全員が立っているものだから、皆が紛れてしまうのだ。
しかし、少しは賢明になった私は、第2巻『パリ警視庁迷宮捜査班 魅惑の南仏殺人ツア―』を、ちゃんとメモをとりながら読んだ。
誰が作家で、誰が死神か、誰がゲイで、誰がハッカーか、ちゃんと把握して読んだ。
面白かった!
頭がごちゃつくことはなく、誰が誰だか戸惑わず、どんな事件でなにがあってどう捜査しているのか、ちゃんと理解することができ、はたして犯人とその動機はなんなのか、読者として頭を使いたいところに使うことができたのである。
第1巻も、メモを手に読み返せば、すばらしく面白いではないか。
そして、つくづくと、絵が描けたらなあと思った。
作者、ソフィー・エナフは、雑誌コスモポリタンの名コラムニスト、ジャーナリスト、店舗経営など、様々な仕事の経験者であるが、その中に、演劇制作というものがある。
それが生きているのではないか。
というのも、特に厄介者たちの造形が、芝居的なのである。
彼ら、たいへんな個性の持ち主たちは、見た目にそれがよく現れている。
地味な色が糸一筋もない女性、常に蝶ネクタイを身につけている男性、古びて汚れたジャケットの赤ら顔の男性など、舞台に出てきたら、一目で、その人物を把握できるなりをしている。
さらには、声の響き、仕草、振る舞いについても、なにか一言書いてあるのだ。
くわえてその舞台、「物置」には、班員が様々に手を入れていく。
暖炉に火がいれられ、キッチンがこしらえられ、壁紙が貼られ、キョウチクトウが植えられ、シャンデリアがつけられる。
物置が、生き生きとした「皆の集まる場所」に変化していくのだ。
観客として、その舞台を見れば、皆の関係がどう変化し、特別班になっていく様が、ありありと解るだろう。
それを、絵に描けたらなあ! よりいっそう話を楽しめるだろうに!
描けない身としては歯がみするしかない。
よって、絵心、芝居心のある人には、特にこのシリーズを勧めたいのだ。
特別班の面々の紹介が第1巻、彼らをより知る第2巻といったところだろうか。
1巻の、ふとした短いエピソードが、実は2巻に続く意味を持っていたり、地方色豊かなフランスのあちこちを訪れたりと、このシリーズはよく考えられ、読み手へのサービスにあふれ、いくつもの面白さがある。
さらには、『魅惑の南仏殺人ツア―』で、新規加入の厄介者もいる。
これはかなり個性が強い。早くも多くのファンがいるだろう。
『パリ警視庁迷宮捜査班』を楽しんだ人は、『魅惑の南仏殺人ツア―』も確実に楽しい。
逆もまたしかりだ。
ためらうことなく読むのがいい。
必ずや、メモを手にして!