タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)

制作 : 浅倉 久志 
  • 早川書房
3.65
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本棚登録 : 1550
レビュー : 204
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150102623

感想・レビュー・書評

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  • 「神でも宇宙人でもスパゲッティでもいいんだけどさ、そういう存在が必要な人間もいるんじゃないのかな」
    蛹は、煙草を吸うために庭に出ていた。真夜中でも真冬でも構わないらしい。別に、部屋の中で吸わないことにしているというわけでもない。居間や寝室で吸っていることもある。何か、彼の中で決まり事があるのかもしれない。
    新しい煙草に火を点ける。
    ライターの火が、一瞬、庭に立つ彼の姿を浮かび上がらせる。寒そうには見えない。いつものことだ、と葉月は思う。蛹はいつも平気な顔をしている。そして気付かないうちに冷え切って、気付いたときには風邪を引いている。いつもそうだ。
    「自分の小ささと無力さを知るために、ですか?」
    葉月は問う。縁側に腰掛け、寒そうに身を縮めて、カップ麺を啜っている。夕飯だ。
    「自分の小ささと無力さを知った上で、救われるために、だよ」
    蛹は言う。
    なるほど、と葉月は頷く。そして、少し笑った。
    「綺麗な皮肉ですね。あなたが好きな」
    うん、と、蛹は頷く。細い煙が、小さく揺れている。笑っているらしい。
    「自由でありたいと心から思っている人間なんて、そんなにいない」
    「そんな話、どこかでしましたね。むしろ人間は、不自由にしてくれる存在を探しているのかもしれない、みたいな」
    「うん。偉大なる全体意志とか、強大な絶対者とか、そういうもの」
    「その大きなものの犠牲になった人々と、絶対者であろうとした道化師と、彼らがもたらした"意志のない幸福"を享受する人々と、ってとこですか」
    ズルズルと麺を啜りながら、続ける。
    「まあ、その幸福を否定はしませんけど、それを幸福だとは思えない程度には楽しめたと思いますよ」
    そう、と短く答えて、蛹は最後の煙草に火を点けた。
    「俺はね」
    煙を吸い、吐き出し、続ける。
    「とても面白い物語だったけれど、どうしてか、登場する誰ひとりとして好きになれなかったんだ」

    なぜ外で煙草を吸うのかと聞いたことは、たぶん、何度かあると思う。そのたびに、信仰のようなものだ、という答えが返ってきた。信仰。ある種の不自由さを、彼も無意識に求めているのかもしれない。

    「ところで、なんでスパゲッティなんですか?」
    「え?」
    「さっきの」
    「ああ、……君がラーメンなんか食べているから思い出しただけだよ。そういう宗教があるだろ。よく知らないけど」
    「アーメンの代わりにラーメンて唱えるアレですね……よく知らないですけど」

    葉月がスープを飲み干すのと、蛹が煙草の吸い殻をサンダルの底で揉み消すのは、ほぼ同時だった。そうして、二人は揃って部屋の中に引き上げた。

  • 妖女だし幼女。

  • 面倒でひねくれた表現ばかりしやがるので、読むのに苦労した!!!

    「時間等曲率漏斗」って何だよ?訳者の浅倉さんを困らせやがって!
    聖書で投資って、冒涜すぎるだろ!!危ないぞ!!
    それにRented a tent の大行進ってもうさっぱり分からん!フランク・ザッパかよ!!

    とにかく細部が凝りすぎてて、しかも大枠も意味不明で、読んでると腹が痛くなるし、涙もでるしで、散々だった!!!
    もうヴォネガットは読んでやらない!!!


    あ、でも、『猫のゆりかご』は猫だし、短編だしアリかも。それに自伝も、105円で買っちゃったから...。『スローターハウス5』も、どこかにあったはずだし...(以下略

  • マラカイ・コンスタントと共に、ジェットコースターのように、太陽系を駆け巡る。小さな可笑しみの連続。ずっと背景に漂っている、大きな悲しみ。
    人間とは?機械とは?人間らしさとは?友情とは?愛とは?
    それを考え始めて、考え続けるのが、人間なのでは?
    私たちに誇れるものが、大切なものがあるとすれば、この小説のラストシーンのような、なんでもない、ふとした美しさだろうな、と感じた。

    神様のいるひとと、いないひとでは、感じるものは違うだろうと思う。

  • 約50年ほど前に発表された本作は、SFということでとっつきづらいし、とにかく読み手を置き去りにするような破天荒なストーリー。しかし、ついていくことで実に深い世界に入り込むことができる。

    壮大な物語には、壮大なメッセージが横たわっているのだ。

  • 友人に薦められて買いました。
    最初は、登場人物の多さや展開の早さに混乱しましたが、すぐにグイグイ惹きこまれていきます。読み終わって、本をパタンと閉じた時、全ての謎が解けて、タイトルの意味もわかった時の爽快感は、格別です✨

  • 約5年前、中学時代に読んだこの素敵な本の感想をあえてここに書かせてもらうなら、「すごく悲しくて寒そうな物語」という風に表現したでしょう。



    あれから5年経って、僕の感性はほとんど完成してしまった。もしかしたら完熟も通り越してもう腐ってしまったのかもと思うことも度々あったりします。

    思うに、それなりの経験を積まないとこの物語の良さを見出そうとすることさえ出来ないんじゃないでしょうか。



    この本を読んだことによって何か自分の持っているものが変化したかと言われたら、それはとんでもなく大いに変化したのですが、それを言葉に起こせるほど単純なものではないような気がします。


    この本を読んで小説を書いてみようかと思いました。
    この本を読んで特に興味のなかったジャンルの本も読みはじめました。
    この本を読んで読書の楽しさを再認識しました。



    そのぐらいですか、文字に起こせるもんは。そういうもんなんだと思います。
    難しくても、難しく考えられなくても、すごく面白い小説です。




    今まで読んだ小説の中で一番"パンクチュアル"な小説でした。
    素敵な作品をありがとうございました。

  • 宇宙以上に壮大な物語。
    ジャンルはSFだけど哲学的。
    孤独に突き落とされるようで暖かい物語。

    書かれた時代が時代なだけに
    未来世界のリアリティに支障があるけど
    (火星でテープレコーダーが使われてたり。。)
    そこを気にせず読み進めていっていただきたいです。

    このぶっとんだストーリーを自動筆記のように書き上げた作者はぶっとんでるなと思う。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「孤独に突き落とされるようで暖かい物語。」
      巧い表現ですね!
      カート・ヴォネガットの作品は、虚無的でゾッとするような笑いがあるのに、救いへの...
      「孤独に突き落とされるようで暖かい物語。」
      巧い表現ですね!
      カート・ヴォネガットの作品は、虚無的でゾッとするような笑いがあるのに、救いへの道筋が残されている(のかな?)。
      だから読まずにおれないのだと思っています。。。
      2013/03/15
  • 爆笑問題の太田さんが昔ラジオか何かで絶賛してたのを聞いて、いつか読もう読もうとしてたがついに読めた。どんなふうに絶賛してたかは忘れてしまったけど確かに面白かった。でもそれほどか?って感じ。ラジオもっかい聞きたい。なんて言ってたのか気になる。

    ラストがよかった。ロボットかわいい、萌える。少年のナイフで光を反射してやる目くらましかっけえ。

    SF小説はほとんど読まないんだけど俺は、こういう時間がものすごーく過ぎたり、宇宙間を行き来したり、何度も歴史が繰り返したり、そういう話を最初に書いたのってなんていう作品なんだろう。ってのが気になった。

    俺が最初にそういう話を読んだのはマンガでなんだけど、少年ジャンプの『封神演義』で、毎回思い出すこういうの読んでると。子供ながらに「なんちゅー話を考えつくんやー」と感動した。

    あとジョジョもなんとなく連想した読んでて。6部と7部のボス戦SFチックだねジョジョ。




    そういえば、本を読む前になんとなく目を通した背表紙のあらすじのネタバレがはんぱなかった。三分の二くらいは内容書かれてたような。だから中盤の結構ショッキングなシーンも全然安心して平常心で読めたんだよね。あ、これね〜そうそうこうなるんだよねえってなにしてくれてんだよ!こういうこと

  • 前期ヴォネガットを語る上ではずすことのできない作品。
    世間的には、「猫のゆりかご」と人気を二分する作品だが、
    ヴォネガット一流の、読後のしみじみ感を満喫できる「タイタン」のほうがわたしはお気に入りだ。
    ヴォネガットと言えば、しっちゃかめっちゃかな話の展開だが、
    ここでのしっちゃかめっちゃか度合いは半端ない。
    地球を飛び出して、はるかかなたの星の世界へ飛ばされまくる人生も、
    そういうものだと受け入れるべきか。トラルファマドール星人、大活躍。

    私自身、この長い物語は、ラスト3ページの"サロの贈り物"のためだけにあると思っている。
    ここを読むだけで、ほらまた鳥肌が立って、目頭が熱くなる。
    天国にいる誰かさんは、あんたのことが気に入ってるんじゃないかな云々は、
    いろいろな作品で使われている言葉だけれど、
    「タイタン」ではとても重く、やさしく、トーストみたいにあったかだ。
    まさに名作。

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