スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
- 早川書房 (1978年12月31日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150103026
感想・レビュー・書評
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トラファマドール星から贈られた新しい聖書。
あるいはSFの形を借りた極上の文学。
時間を超越する能力を得た(といっても任意に飛ぶことはできないが)ビリー・ピルグリムは、子供時代から第二次世界大戦、そして富豪となって成功を収めた晩年までを幾度も往来する。
その人生の途中異星人に誘拐され、三次元に生きる人間には到底観ることのできない世界を体感するのだが......
特殊能力を手に入れた男と異星人のコンタクト。
その数奇な運命。
スラップスティックでエキセントリックで変なSF。
でも、強烈な戦争体験により徐々に精神が狂気に蝕まれていく男の手記とも読める。
『スローターハウス5』には、戦争を始めとする人間のありとあらゆる愚行が描かれている。
それなのに(それだからこそ)、それらの行為は笑っちゃうくらい滑稽で、そしてやっぱりどこか切ない。
著者カート・ヴォネガット・ジュニアは、実際に第二次世界大戦中にドレスデン無差別爆撃を被害者の側から体験したという。
戦争を知らない世代の僕が、戦争について知ったような口を利くのはまことに不遜ではあるが、著者はこの「変なSF」という形態でなければ自身の体験を語れなかったのだろうなと思った。
ありとあらゆる人間の、生物の、物質の「死のイメージ」のあとに挿入される「そういうものだ(So it goes.)」という言葉。
諦念なのか達観なのか僕にはわからない。
幅、奥行き、高さに加えて、時間の軸も有する四次元の住人トラルファマドール星人にとって地球人は、赤ん坊から老人までの人生がひと連なりになったヤスデのように見えるらしい。
おそらく、僕はそのヤスデの足の節々で『スローターハウス5』を幾度も読み返すことになるだろう。そしてその時々で読み方、印象が変わってくるのかもしれない。
先頭部分、一番前足でこの本を読んだ時、果たして「そういうものだ」と言えるのだろうか。
この物語がどんな話なのかということは、三次元の住人である僕にはまったく説明ができない。説明する能力がない。でも、読めば確かにテレパシーのようにメッセージが届くのだ。
物語半ば、ビリー・ピルグリムが時間を遡る時に一瞬観る、逆回しの戦争映画の荘厳な美しさに涙が出そうになる。あれほど痛烈な批判はあるだろうか。
戦争の話ばかりしてしまったが、肩に力を入れて読む必要はない。本当にただただ面白い小説なのだ。
重いテーマを正面切って書くのも、それはそれで素晴らしいと思う。
でもはにかみながら、照れ笑いしながら、時には悪態をつきながら軽々と描くのってなんてかっこいいんだ。
著者近影までなんだかとぼけたこの小父さんの小説は、とても信用できる。
奇しくも読了日はエイプリルフール。
この日につく嘘は決してひとをがっかりさせる物であってはならないときく。
虚構の中の、大粒ダイヤのように(あるいは入れ歯の金具のように)輝く真実。
カート・ヴォネガット小父さん、最高に素敵な「ほら話」をありがとう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み始めた時、なかなか意味を掴めなくて何となく読み進める感じで入って行ったのだけど、読めば読むほど、作者の人間描写力に魅了されてしまった。
これは、その、いわゆる第二次世界大戦中の、悲惨な戦争体験について書かれた本である。
ヨーロッパに送られた、若き日のビリー・ピルグリム。彼のいた歩兵連隊がドイツ軍の捕虜となり、奇しくも連合軍による、いわゆる無差別爆撃、ドレスデン爆撃を生きのびてしまった、悲しいビリーの、そしてヴォネガット自身の物語なのだ。
序文でこの本のなかで私という男(いわばヴォネガット自身)がドレスデンを今、まさに語ろうとしている。戦友オヘアの細君メアリに誓う。
_メアリ、万一この本が完成するものなら、僕は誓うよ。フランク・シナトラやジョン・ウェインが出てくる小説にはしない。そうだ『子供十字軍』という題にしよう_
そうしてビリーの物語は時間軸を越えて語られる、それは、トラルファマドール星の本の手法で(電報的分裂的物語形式)書かれた。
彼は第二次世界大戦中に空飛ぶ円盤によってトラルファマドール星にさらわれた。そうして戦争中の過酷で暴力的な体験をけいれん的時間旅行によって時間軸をねじれされながら私たち読者に伝えてくる。
ある時にはビリーは爆撃を受け動けなくなっている。次の瞬間には娘の結婚式に呼ばれている、また次の瞬間にはトラルファマドール星にいて、またつぎにはドレスデンへ向かう列車の中、そしてある時は銃殺され、次には精神病棟のベッドの上…と、いうように。
戦争の暴力、壮絶な体験、トラウマをこんなSF的な表現、ユーモアと春樹さんがいうように、マイルドな悪ふざけをもって表現した、まったくもって見たこともないような本だった。
その瞬間移動の間に、私たちはビリーの死も目撃してしまう。でも、また過去にもどっても、彼はその死を受け入れたまま、何も変えたりしない。そこが素晴らしいと思った。
『雨天炎天』の中で春樹さんがてきとうに、「愛は消えても親切はのこると言ったのはカート・ヴォネガットだっけ?」なんて書いているのだけど、確かにヴォネガットは親切な愛ある作家だと、私に知らしめた。
こんなマイルドな悪ふざけをもってしてでないと、悲惨な戦争体験を描くことができなかったのだ。
ところで、読み初めた頃随分苦労したくせに、私はこの作品を心ゆくまで楽しんでしまった。しばらくヴォネガットを読んでみたいなと思う。
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SFというジャンルに弱い人間なのだが、読み終わった後の率直な感想…「SFだけど、SFじゃなかった!」
ドレスデン爆撃という出来事があったことを初めて知った。現在はきれいな街だけど、白黒の焼け野原の写真を見て愕然とした。味方に空爆されるって、どんな気持ちだろう。体験した者にとってはやはり「そういうもの」なのだろうか。変えることのできない、ただそこにある現実。
生死を含めた人生の一瞬一瞬を客観視するなんて地球人には不可能だけど、だからといってトラルファマドール星人やビリーのようになりたいとは思わない。ただ、絶望的な一瞬やそれにまつわる考えだけに支配されるのではなく、生きていることの喜び、ハッピーな瞬間がそこに「ある」ことはいつも頭に置いておきたい。
ところどころに顔を出す筆者の痛烈な皮肉がパンチが効いていてよかった。
「貧者への義務を公的にも私的にもほとんど果たすことなくすましてきたという意味では、彼らはナポレオン時代以降もっとも恵まれた支配階級といえるであろう。」(p156)
「いずれにせよ戦争とは、人びとから人間としての性格を奪うことなのだ。」(p194)-
こんばんは♪ ひさしぶりにお邪魔します。
この作品、ほんとにSFなのにSFではないSF仕立ての感動作で、私の好きな作品の一つです。マヤ...こんばんは♪ ひさしぶりにお邪魔します。
この作品、ほんとにSFなのにSFではないSF仕立ての感動作で、私の好きな作品の一つです。マヤさんの言われる、第二次大戦末期の米国のドレスデン無差別爆撃は衝撃ですね。体験者ヴォネガットの作品群やエッセイによれば、たしか2~30万人の一般市民があっという間に殺害され、美しい街並みもほぼ壊滅したようです。まるで長崎・広島のように悲惨です。ヴォネガット自身、心的外傷になっていてもまったくおかしくないなかで、そんな不安定な状況を逆手にとったような(?)本作品。時空を錯綜させたSF仕立てで面白く読ませます。こんな発想や創造は他の誰にもできないのではないでしょうか。決して易しい本ではありませんが、シニカルな笑いと気骨ある作品に仕上げたヴォネガットに感激しました(^^♪2017/09/29 -
アテナイエさん、コメントありがとうございます♪
オススメしていただいたヴォネガット、ようやく読むことができました。表紙にUFO描いてあるの...アテナイエさん、コメントありがとうございます♪
オススメしていただいたヴォネガット、ようやく読むことができました。表紙にUFO描いてあるのでコテコテのSFかと思っていたんですが、なんと立派な戦争文学ではないですか!体験した人にしか書けない、稀な作品ですね。やはり戦争を経験したヘミングウェイの作品「キリマンジャロの雪」を思い出しました。彼も戦争中の記憶を作品として残そうとするのだけど、書きたいと思いながら書くことができない。とても正面から向き合って書き記すことのできる記憶ではないのだろうと思いました。ですからこういった文学はもちろん、戦争体験の語り手さんたちの記憶は本当に無駄にしてはいけないなと…。SFが苦手な人にも読んでほしいし、また戦争文学が苦手な人にも読んでほしい作品ですね。
ちなみにこの本図書館で借りたのですが、普通の開架棚ではなく書庫にしまいこまれてまして…しかも区内の蔵書が超古い版の一冊だけ。なんでよ!もっと読まれるべき作品なのに!と思いました(ー ー;)2017/09/29 -
え~この本が閉架ですか? しかも古い版が1冊……あらら、それはちと悲しすぎますね。ぜひ図書館の館内にあるアンケートや利用者の声の紙にガンガン...え~この本が閉架ですか? しかも古い版が1冊……あらら、それはちと悲しすぎますね。ぜひ図書館の館内にあるアンケートや利用者の声の紙にガンガン書いて投函しましょう!
私は自分が借りたい本が結構ない確率が高くて(汗)、他から取り寄せになる場合が多いので(それはそれでありがたいのですが)、いい本なので買い入れのお願いをしたり、その他にも新版を要望したり、開架要望など、いろいろ書いてます。マヤさんの貴重な声をあげられてくださいね~笑2017/09/29
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今まで読書嫌いだったんですが・・・
色々考えたら、そうなった理由はたぶん村上春樹のせいのような。
『ノルウェイの森』の序盤で嫌になって本を閉じた。
でも、色々読んでくと、村上春樹が影響を受けた本って
だいたい全部面白い気がしてきます。
『1984年』を読みたくて読書とブクログを開始。
その頃、ストライクTVとか爆笑問題のあの枠にハマりなおしてたので
(ガチで面白いのは田中さんの方だったんだけど・・・)
「あぁ、太田のお薦めを読もう!」というミーハーな気持ちで『タイタンの妖女』。
でもこれ、そこまで面白くなかったんですよねえ・・・。
数年前、ドレスデン爆撃のことを『世界ふれあい街歩き』で知って、
ブクログでフォローしてるCさんがベスト3に入れてらして・・・
いやそれなら絶対に面白いんじゃないかなあと思い、
『スローターハウス5』を購入。
読んでみたらめちゃくちゃ面白い!『タイタンの妖女』より断然面白かったです。
最初の章から面白いもん。
ちょっと高めのブランデーやウィスキーをちびちび飲むように、
面白いから少しずつ読んでたんですが、最後は一気に。(酒、飲まんけど)
カート・ヴォネガットってハヤカワSF文庫だけど、
SFであってSFではないですよね。
僕はハヤカワSFすごく好きだから良いけど、
SFに興味ない人にもっと読まれるべき本だと思いました。
これ、戦記なんですよね。「SF戦記」じゃなくって、「戦記SF」です。
あと自伝というか私小説。
SF戦記だったら他にいっぱいあるけど、
従軍体験記を書くための手法として、SF的構造=「トラルファマドール星に伝わる
電報分的分裂症的物語形式を模して綴」ってる。
『タイタンの妖女』も近かったですけど、こちらの方がより時系列シャッフルされてて
簡単に言うと『まどか☆マギカ』の最後の方ですよね。
(※SFとファンタジーは、実は大して差異がないと個人的には思っています。
『電脳コイル』なんかは企画段階では魔女っ子ものでした)
それに加えて、文体が・・・優しい。
これは訳者の伊藤典夫さんのおかげもあるのかも、
優しくて、易しい。と、同時に非常に厳しく、冷酷でもあります。
「そういうものだ。」
なぜ優しいかというと、文章が閉じられてない。
オープンな感じがします。
例えば次の文章
「ジェリーとはだれだろう、ビリー・ピルグリムはぼんやりと考えていた。」(トールサイズ129頁)
これ、読者の大半は「ジェリー」が何なのかわからないと思うんですが、
主人公のビリーも同様にわからないので、読者と目線が同じ。
そしてその数ページ後にちゃんとわかる文章があります。
次に、この作品が出版されたのが1969年であることも重要です。
この年は、他の色んなことについても重要なのだけど・・・
「ジェリー化されたガソリン兵器の広汎な使用を予言しているのだ。」(トールサイズ220頁)
ここは翻訳が不親切というか・・・最初のジェリーとは違います。
最初のはJerryで、こっちはjelly=ゼリー。
これ、ナパーム弾のことですよね。
そして、小説についての愛情と、
なぜそれが必要なのかについても語られている。
ものすごい本ですよ、余韻が抜けません。
これ読んだら他のヴォネガットの小説をもっと読みたくなります。
ふと疑問に思ったんですが
登場人物のハワード・W・キャンベルって
ジョン・W・キャンベルがモデルなんですかね・・・。
ざっと調べてみたけど、全然わかりませんでした。名前が似てるだけかな。
カバーイラストは和田誠さんなんですが、
和田さんのデザインには毎日お世話になっております。
ポールモールじゃなくって、ハイライトが僕にとっての
「高級な自殺方法」ですから(笑)。
次、何を読もうかなあ・・・ポール・オースターかなあ。-
いまPKディックの『ユービック』を読んでるんですけど、序盤がつらい・・・
専門用語にルビを振るって感じで、昔のSF的な・・・
訳も古いし・・...いまPKディックの『ユービック』を読んでるんですけど、序盤がつらい・・・
専門用語にルビを振るって感じで、昔のSF的な・・・
訳も古いし・・・
『スローターハウス5』は読みやすいし、序盤から面白かったのにな、と・・・。
あと、『タイタンの妖女』よりページ数が少ないんで、
その点でも読みやすかったです。
『怪盗ルビィ』って原作あったんですね!!
僕も観たいんですけど、どこも置いてなくって。
『麻雀放浪記』はあるんですけど。
ポール・オースターは『ムーン・パレス』を読みたいんですけど、
『ガラスの街』って最近新潮から新訳で出たやつですよね。
初期作なので、書店で見かけて気になってました。
サリンジャーは『ライ麦畑』『ナインストーリーズ』『フラニーとゾーイー』まで買ってあるんですけど、
野崎訳の白水社のやつのフォントが古くて、めちゃくちゃ読みにくい!と思ったんですよね。
だからそこで積読になってます。
読書を始めたばっかりの時で、活字自体が苦手だったのと
フォントの形状がものすごく気になってしまって。
気になりすぎて、フォントがなぜバラバラなのかを
新潮社に電話して訊いたぐらいですから(笑)。
(これ、去年の話です)
その時、全然気付いてなくて刷数のせいかと思ったんですけど
印刷会社によって、同じ新潮文庫でもフォントが違うことに
あとになって気付きました。
あっ、そういえばkwosaさんだから書きますけど、
活字のこういうサイトがあって、めっちゃおもろいです。
http://www.mojisyoku.jp/top.html
とりあえず『ユービック』をがんばって読んで、
ほんじゃあ次はサリンジャーを読みますね!2013/09/17 -
ヴォネガットの残酷でありながら非常に優しい物語です。読みなおそうと探したけど見つからない。『タイタンの妖女」は3冊もあるのに(笑)。
ジョー...ヴォネガットの残酷でありながら非常に優しい物語です。読みなおそうと探したけど見つからない。『タイタンの妖女」は3冊もあるのに(笑)。
ジョージ・ロイ・ヒルが「明日を向かって撃て」の成功のご褒美で好きなの撮っていいよ、と言われて作った映画もお勧めです。
そういえば、ギレルモ・デル・トロの監督、チャーリー・カウフマンの脚本でリメイクするとか。2013/09/18 -
いやー、chabu-daiさんが安吾の隣に並べてくれてたのが
読むきっかけになりましたよ!ありがとうございます!
『タイタンの妖女』、3冊も...いやー、chabu-daiさんが安吾の隣に並べてくれてたのが
読むきっかけになりましたよ!ありがとうございます!
『タイタンの妖女』、3冊も持ってるんですか(笑)。
カバーイラストも、トールサイズになって変わりましたもんね。
そうそう、映画の方もすごく観たいんですよ。
これまた『明日に向かって撃て!』や『スティング』は当然レンタル店にあって、観てるのに
『スローターハウス5』は、ない・・・(泣)
そして、ギレルモさんがやるんですかー!?
びっくりしましたよ!!!!!!
インタビュー記事を読んだら、「チャーリーと僕は、1時間半くらい話をして、
この本を映画化する完璧な方法に行き着いたんだ」
などと・・・。
楽しみすぎて死にそう・・・。2013/09/18
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「『スローターハウス』シリーズの1~4巻がどこを探しても見つからない…」と思っていた人、恥ずかしくないから手を挙げなさい!(笑)大丈夫です、シリーズものじゃないです。『5』まで含めて作品名なんです。
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不思議な世界。凄く惹き込まれて、あっという間に読み終えた。
戦争の悲劇が不思議な描写で描かれてる。なぜかぐいぐい食い込んでるくる、不思議な本。別の著書も読んでみよう。 -
こんなふうにユーモアたっぷりに批判的な主張をかける人って、すごい頭がいいんだろうな。ドレスデンの爆撃がどれほどひどかったのか知らないので実感として受け止めることはできなかったけれど、戦争というもの、またそれも含めての人生、人の運命というものに対しての諦念混じりの憤りが描かれていたように思えた。
実際に読む前はなんとなく不条理SFのイメージがあった本書だったが、読んでみたら不条理ではなくこの世の理がそのまま書いてあったので少し驚いた。命や時間というものについてトラルファマドール星人のような見方ができたら、確かに人類の考え方や行動は変わるのかもしれない。
ところで、やたら出てくる「そういうものだ。」という言葉は、訳として上手な日本語なのだろうか? -
この少し奇妙な物語を一体どう説明したものだろう。
これは、著者が第二次大戦時、ドレスデンで経験したことを描いた半自伝的作品であり、登場人物が宇宙人(トラルファマドール星人)に掠われ、時間旅行者となるSF小説であり、そしてまた、強烈なアイロニーと悲哀をたたえたアメリカン・ユーモア小説とも言える。
3つのある種、非常に異質なものが作り上げた、風変わりな、しかし「真実」の物語である。
著者・カート・ヴォネガット・ジュニアは、少年といってもよいほどの若さで召集され、ドイツ戦線に派兵される。独軍の最後の反撃ともいえるバルジの戦いで捕虜となり、ドレスデンに移送される。彼が移送された直後の1945年2月、米軍によるドレスデン爆撃が行われる。歴史のある美しい街、ドレスデンは、壊滅的な被害を受ける。
まるで月面のようになってしまった廃墟で、捕虜たちは事後処理(つまりは遺体の処理)に従事する。
ヴォネガットは、自身を主人公には据えず、著者の分身のようなビリー・ピルグリムという若者を作り出している。戦功とはほど遠い、不格好で、碌な武器も持たされず、右往左往する若者である。
ビリーはあるとき、緑の身体のトラルファマドール星人に捉えられ、彼らの動物園で展示されることになる。そのときから彼は、「痙攣的」時間旅行者となる。いつ時間旅行するか、どこへ時間旅行するか、自分自身では決められない。未来へ飛び、過去へ遡り、地球へ行ってはまたトラルファマドール星の動物園に戻る。
何度も時間旅行をしたため、彼は自分の地上の人生で何が起こるかを知っている。
トラルファマドール星人は時間を流れとは捉えておらず、過去から未来、すべての時間を俯瞰することが出来る。
トラルファマドール星人に感化されたビリーは、生き続け、死に続け、時を渡る。ドレスデンの「そのとき」を軸に。
スローターハウス5とは、ビリー(ヴォネガット)が収容された建物で、食肉処理場第5棟を意味する。実際にはそこで「処理」されるべき肉は軍の胃袋に収まり、もはや名ばかりだったのだけれども。
本書には戦時の多くの挿話が描かれる。誰よりも頑強な身体を持っていたのに、爆撃後のドレスデンでティーポットを盗んだがために処刑されてしまう元高校教師。意気地なしなのに、屈強な2人の兵士の仲間と思い込み、自らを加えて三銃士になぞらえるチンピラ。故郷を焼け出され、難民としてドレスデンに逃れてきた美しい十代の少女たち。
彼らの辿る運命は残酷で、はかない。
ヴォネガットはユーモアをたたえつつ、不条理な現実を辛辣に描く。「そういうものだ(So it goes)」と。
ヴォネガットはこの本を書き上げる前に、5000ページを費やしたが気に入らず、すべて破り捨ててしまった、と作中で言う。この本自体も失敗作だ、と、最初の章で断言している。
田舎出の若者が、突然外国に行かされ、武器を持たない大勢の人が瞬時に殺されるのを目撃し、さらには遺体の処理にも当たるのだ。それは、宇宙人に掠われることが大して異常とも思えなくなるほど、そして我々と違う時間の概念を持つ存在がいることを奇妙とも思えなくなるほど、異常な、奇妙な、怖ろしい体験ではなかったか。
どれほどの言葉を費やしても、どれだけ正確に描写しようとしても、到底現しきれない「地獄」。
いささか変わった手法で描かれたこの物語は、惨状を逆説的に見事に捉えているとも言える。
作中で、1人の人物がビリーに言う。人生について知るべきことはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の中にある、と。「だけどもう、それだけじゃ足りないんだ」と。
小鳥のさえずりとともに、物語は幕を閉じる。
けれども物語は続く。生き続け、死に続けるビリーとともに、物語も読まれ続け、終わり続ける。 -
ヴォネガット初体験に購入した「タイタンの妖女」を一時中断して読み始めた本作(「タイタン~」は序盤で何故かなかなか波に乗れなかった。電子書籍で買ったけどそれが慣れなかったからなのか)。
本作をヴォネガット再挑戦に選んだきっかけは有名な「ニーバーの祈りの言葉」の引用に感銘を受けて。その初出のシーンは想像していたのとはだいぶ違って何故か吹き出した。(ちなみに二度目に出てくるシーンは、そう、祈りたくなる)
しかし読んでいる途中からだんだん離人感に襲われてどう読んでいいものか、お話の着地点が全く予想できないのが不安なまま読み進めた。ただ大事な人から手渡された本なので、どうしても読みきりたかった。
正直よくこんな……風変わりな反戦小説(と言っていいものか。私はいまだに何がSFで何がSFじゃないのか線引きが苦手である)を書けたものだと頭がクラクラしている。グロくて下品でナンセンスな描写もある。笑うとまではいかないけれども、馬鹿だな、と思う。馬鹿だな。
ビリーになにか声をかけたくなるけれど、一体彼に何を言ってあげることができるかというと、何も無い。何も言えることは無い。
「何も言えることは無い」ということを言葉で表現した稀な作品。
読み終わった今、なぜか胃が痛い。関係無いかもしれないが。 -
そういうものだ。で完結させられる主人公の周りで起こる時代も場所も超えた様々な出来事。行ったり来たりして混乱するかなと思いながら、読みきれた
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