捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)

  • 早川書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150103064

感想・レビュー・書評

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  • 十何年か前に『ソラリスの陽のもとに』に続けて読んだ、
    それよりも少し古いレム作品を再読。
    ロンドンで霊安室の遺体が姿勢を変えたり、
    消失したりする怪事件が続発。
    スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)では
    シェパード主任警部を中心に捜査会議が開かれたが、
    グレゴリイ警部補他、一同は状況の奇怪さに当惑する……。

    死体の移動について、ある可能性に思い至りながら、
    現実味の薄さに却下せざるを得なかったり、
    捜査協力者の中に裏で事件の糸を引いていそうな人物がいると目をつけ、
    その人を尾行したりするグレゴリイだったが、謎は深まるばかり。
    探偵役が「正解」に辿り着けず、
    真実の究明を放棄してしまう風な態度を取るところは、
    モーリス・ポンス『マドモワゼルB(べー)』や
    ロブ・グリエ『消しゴム』に似た雰囲気。
    本作の主人公グレゴリイ警部補は、
    超現実的な解釈を採用すれば一応の辻褄は合うけれども、それを選択すると、
    日常生活の中で普通に起こり得ることとそうではないことの境界線が
    曖昧になってしまって恐ろしい……と、危惧して尻込みするかのよう。
    思い切って一線を越えて超合理的解決を図ろうとしない彼は、
    平凡で常識的で安全な生活を続けられる代わりに、
    スリリングな体験も飛躍的な出世もせず、ウハウハなモテ期を迎えもせず、
    自分より冴えないオッサンが
    積極的に女の子に声をかける様子を見て「なんだかなぁ」と首を傾げては、
    間借りする冷え冷えとした屋敷の一室に戻る暮らしを
    続けていくのだろう。

  • レムの著作の中で気になってた本。レムがミステリー?警察小説?しかも「捜査」?しかもロンドンが舞台?
    あー、やっぱりレム。ミステリーを書いてもレム。ミステリーじゃないけど。
    なんか読んでいて不安になる。すごく不安になる。でも面白い。うーん、黒沢清の映画を見ているのと同じ感じ。
    死体が動くなぞを解くって、え?ゾンビ? 解けない謎って、ちょっとポストモダン的な文学っぽい感じもしながら、まったくそうでもなく。
    よくわからない音とか、マネキンを使って交霊術を行う家主とか、なんかもう不安をまきちらされてそのまま。
    まあ、謎なんて解けると思うなよ、って「ソラリス」にも通じるけど、SFだとまあ、そうだよね、と思うけど、それをミステリーでやられたらやっぱり不安。
    いや、ミステリーじゃないけどね。
    「エデン」「ソラリス」な感じをミステリーで試した作品だろう、と思ったら、書かれたのは1959年。「エデン」「ソラリス」よりも前なのね・・・。

    • 深川夏眠さん
      私、こっち版を登録しちゃいました。
      http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/...
      私、こっち版を登録しちゃいました。
      http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/B000J8MWX6
      2015/08/11
  • 一度読んだだけではよくわからない。

  • これはSFでない  
    表紙   4点栗原 裕孝
    展開   3点1959年著作
    文章   4点
    内容 250点
    合計 261点

  • 死体安置所から死体が消えるという事件を追うスコットランドヤードの警部補。手がかりはなく、推論を進めていくほど、事件の真相は超自然現象と結論付けざるを得なくなっていき...。
    SFでもなく、ミステリーでもない。分類を拒む異色の小説。すっきりした読後感とは無縁。

  • とりあえず論理的で実現可能な解答を出して、実はSF的だったりホラー的な解答でしたー。とかじゃなくて、わかんないものはわかんないないよ、と繰り返す。ああ、『砂漠の惑星』『ソラリス』『エデン』とか読んでも、言いたいことは一貫してるなあ。

  • 冬のロンドンで連続する死体消失事件。グレゴリイ警部補が事件の謎を追うのだが……。ミステリでありSFでありホラーであり、そのどれでもないような不思議な思弁的小説。
    全編に漂う不穏な空気、見え隠れする人間の理解を超越した”何か”、統計学が提示するアレな説……、嗚呼レムですなぁw。この、世界から取り残されたかのようなモヤモヤ感、不安感がタマラナイ。面白かった♪

    • diver0620さん
      こんにちは。
      この作品は中学時代に読んで挫折。まさしくレム世界から取り残されました。
      もう一回挑戦してみよう。
      こんにちは。
      この作品は中学時代に読んで挫折。まさしくレム世界から取り残されました。
      もう一回挑戦してみよう。
      2011/08/05
  • 20100824
    ■ 捜査論
     「Amazon.co.jp: 捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306): スタニスワフ・レム, 深見 弾: 本」、着手。高校生の頃、一度読んでいると思う。何となくレムの母国が舞台かと思っていたけれど、イギリスの話であった。レムの手による「警察小説」へのパスティーシュのようなものかもしれない。多少予断を含んで読んでいるところがあるけれど、ここでも「人間の尺度ではない何かをどう描くか」ということがテーマになっているように見える。


     主人公の新米刑事の名前はグレゴリイ。何となく「グレゴール」を連想させて、カフカの例の作品に繋がるイメージもないではない。商店街の大鏡に映った自分を他人だと思って驚くという不思議なシーケンス。コミュニケーションが成立しているようなしていないような主任警部とのやり取り。説明の付けづらい謎の行動をとる家主の夫婦。


       ***


    20100825
    ■ 捜査論・II
     「Amazon.co.jp: 捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306): スタニスワフ・レム, 深見 弾: 本」、読了。そもそもそんな厚手の本でもないが、一気呵成に読み終えてしまった。この速度感は久々かもしれない。決して消化の良い親切な文章ではないけど。


     冬のロンドンに謎の死体消失事件が連続して発生。怪しげな理論を振り回す異能の天才学者と、それを追うはみ出し刑事。しかし、彼の背後にはいつも主任警部の影が。果たして彼は敵か見方か…、それとも。ミステリー仕立てでもあるので、いろいろ書くとネタバレになってしまいかねなく、なかなかいろいろと書きづらい。ともあれ、不思議な作品ではある。


     「読む」という行為は、ただひたすらに「未知」のものと出会う行為ではない。実際のところ、既に「読む」前からある程度の「予想」を立てている。自分がそうであって欲しいと思うものを無意識的に引き寄せている。ある文章を読んでそれが何かのカタルシスを引き起こすとすれば、それは既に読み手の中に準備され、今にも孵化する寸前になっていたものに対してきっかけを与えたに過ぎない。レムの小説はそれを見越して、常に読者のその視線から逃れようとする。ここかなと思ったところから常に半歩先のところへ着地させる。我々すれからしの読者は外され具合を幻惑感と共に楽しむ。


     「人が理解するとは、そのように整形しているからに他ならない」。これはレムがその作品で繰り返し表明してきたことであると思う。アーケイドの行き止まりにある大鏡に驚いて引き返すグレゴリイの姿は、「認識の限界線」に慄いて引き返し、住み慣れた「解釈」の世界に舞い戻る「人間」の姿なのかもしれない。そんな彼を見守っているのか、誘導しているのか、脅しているのかも良く分からない主任警部は、もしかしたらその大鏡の向こう側からやってきたルシファーであるのかもしれない。


     解決のつく問題もあれば、つかない問題もある。主人公の住む家の家主が深夜に立てる謎の音の正体。このレベルの「謎」であれば、僕らの生活にも数多く潜んでいるはずである。しかし、住み慣れた解釈の城に住んでいると、そのようなものは意識に引っかからないようになっている。


     しかし、このような判断の留保、括弧入れ作業というのも、無限に後退していく他はないある種の蟻地獄のようなもので、その果てに何があるのかというと、別段何があるというわけでもない。レムの小説もまた、読者の人生を高揚させるような「何かがあるというわけではない」。これを読んで、気に食わない上司を殴って脱サラしたり、なかなか踏み切れなかったプロポーズに踏み切ったりする人がいるとはとても思えない。人生を斜めに見るその角度がさらに傾斜を強めるだけだ。


     しかし、そんな人が人類の先輩として存在しているのだということが、ある種の慰めにもなる、そんな人種もまた確かにいるのである。今日のこの文章がいつもにも増して理屈っぽいのは、それこそレムを読んだからに他ならないのだ。

  • あまりにもレム的なSFミステリ。『ソラリス』のレムですから、ミステリが好きな貴方の求めるものはここにはありません。ここにあるのはミステリの限界です。ちなみに蒔かれた種は後の『枯草熱』で開花し、山口雅也『奇偶』あたりで腐り落ちます。

  • ポーランドSF。
    消えた死体の謎をめぐるミステリータッチの話ですが、はっきりとした終わりはありません。もやもや感を残した感じが逆に新鮮。

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著者プロフィール

スタニスワフ・レム
1921 年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領リヴィウ)に生まれる。クラクフのヤギェロン大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始める。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『インヴィンシブル』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF 作品を発表し、SF 作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティックスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70 年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006 年死去。

「2023年 『火星からの来訪者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スタニスワフ・レムの作品

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