ユービック (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房 (1978年10月18日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784150103149

感想・レビュー・書評

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  • フィリップ・K・ディックで一番人気とも言われる本作。まだ全作品を読んでませんが、自分も読んだディック作品の中ではNo.1だと思いました。

    あらすじ
    1992年、企業が超能力者を雇う一方、その勢力に対抗する不活性者(超能力を無効化する者)を派遣する会社が存在する時代。主人公は、反エスパー派遣会社「ランシター合作会社」の主任測定技師のジョー(ジョーゼフ)・チップ。彼は、社長のグレン・ランシターから、ある企業の月面支社が大規模なエスパー潜入の疑いがあるとの依頼を聞き、社長と選りすぐりの不活性者11人と共に月面に向かいます…とこれ以上書くとネタバレになってしまいますね。

    『偶然世界』にも出てきた、人の心を読む”覗き屋(ティープ)”などの超能力者たち。それらに対するアンチテレパスなどの不活性者や、時を逆行して過去を変えれる能力を持った謎の女性。死後まもない冷凍した人体と会話ができる”半生者”。ドアを開けて外出するだけで金がいる世界観などなど…道具立てもさることながら、ストーリーも起伏のあるミステリ仕立てで、とてもワクワクドキドキして面白かったです。

    ちなみに、ディックの存命中は、あまり売れていなくて、お金に苦労していたせいか、主人公の名前はチップ。電気羊が『ブレードランナー』として映画が完成したのは、著者の死後ですからね。お金のかかるドアと、時間遡行したときのドアの話しのありように苦笑い。ほんとにお金に困っていたんだなと同情もしました。

    ところで、ディックは、人によって合う合わないが激しい作家だと思いますが、シュレーディンガーの猫や量子論、あるいはスピリチュアル系なんかに興味がある人には会うと思います。例えば、映画の『マトリックス』を見て、あーそういう世界、アリかもしれないよね〜と思える人とかね。そういう人には、特におすすめです。

    正誤 24刷
    P233の16-17行目
    “オーディオラ”ラジオに視線を移した。

    “オーディオ”ラジオに視線を移した。

  • SF物語を久しぶりに読みました。
    半生命や時代退行などの世界は面白いと感じました。

    だけれど、私の読解力が不足しており、物語の半分くらいまで、生きている世界なのか、半生命(死者)の世界なのかは分からなかった。
    体温の低下などで、ようやくどちらの世界かわかったのです。
    SFの世界で設定がぶっ飛んでいたり、ありそうでない世界観を味わうことも良いかなと感じました。

  • 生と死の中間である半生命という概念や、超能力集団とそれを無効化できる集団との戦いで、序盤から展開に期待するのも束の間、登場人物たちに何が起こっているのかを考えさせる展開は少し退屈感が。

  • 久しぶりのSFでした。難解な長編で、3分の2くらいまでは、さっぱり分からない展開でした。ジョーチップが、爆発で半生者になり、UBIKというなんというか退行現象を止めるもの(スプレー)をなんとか手にいれる。敵と味方とに分かれて戦うが、チップにも判断できず、最後の方でようやく分かるのです。理解するのに精一杯でした。今でもよくわからないとこ多いです。
    また、超能力の描き方は、漫画のJOJOにも似ている部分もあるのではとおもいましたが、どうでしょう。場面の移り変わりは映画マトリックスにも似ているかもと思いました。
    読み直したいが、再度読んで理解できるのかななんて思った次第です。

  • めちゃくちゃおもしろかった!
    めちゃくちゃおもしろかった!!
    めちゃくちゃおもしろかった!!!
    すごいっ。

    クライマックスから読後の現在、私の身体状況は「頭がクラクラして目の周りがピクピクして指先が痺れている」。
    体の様子はまるで過呼吸の時のようだけど、お腹の底から楽しくて、顔はにやにやしっぱなし。
    最高!

    私があらすじめいたものを書いて、一体何の意味がある?
    「わたしはユービックだ。(中略)わたしは<ことば>であり、わたしの名前は決して口にされず、誰も知らない。(中略)わたしはつねに在りつづける。」(p.315)
    この部分を引っ張ってくるぐらいしか、私にはできない!!
    あー、本当に、おもしろかった!!!興奮!

  • 凄まじい…
    文字の羅列だけ見れば、スラスラと入ってくる類いの文章ではないのに
    あっという間にディックの世界に惹き込まれて、引き返せなくなる。
    一気に読み終えてしまった…

    生涯のベスト5に入るんじゃないかくらい衝撃的。
    ありがとう!!!(誰)

  • 超能力者による産業スパイ活動が日常茶飯事となっている近未来。超能力者集団の怪しい動きを阻止すべく集められた不活性者(超能力者の能力発現を阻止する能力を持つ者、いわば「反超能力者」)達を率いて月面に乗り込んだジョー・チップは、敵の返り討ちに遭って雇い主ランシターを失ってしまう。大きな痛手を受けて地球に帰還した彼らが見たものは、あらゆるものが古び朽ち果ててゆく恐るべき時間退行現象に見舞われた地球の姿だった。退行現象を止められるのはただ一つ、「ユービック」と呼ばれる謎の物質のみ。不活性者たちも一人、また一人と退行現象に巻き込まれて死んでゆく中、何とかこの現象を食い止めようと奔走するジョー。果たして時間退行現象の原因とは、そして「ユービック」とは?

    うひゃー、やられた。面白いですわ。
    冒頭の超能力者集団と不活性者集団の対決に至るストーリー展開で、これは手に汗握る超能力アクションが繰り広げられるのか!?と思いきや、この設定は途中からどうでもよくなりますヽ( ´ー`)ノいやホントにヽ( ´ー`)ノ。この「不活性者」というアイディアだけで充分SFが一本書けると思うんですけどね、ディックにはそんなことどうでもいいんですねぇ(笑)
    それよりもキーポイントになるのが、同じく冒頭に登場する「半生者」というもの。事故や病気で死にかけている人間を冷凍棺桶にブチ込んで死期を引き延ばし、遺族や関係者が必要な時にだけ、脳を活性化させてマイクを通して会話できるようにする。生者の都合で脳を活性化させられるたびに死へと近づいて行く、死んだわけではないけど生きているとも言えない存在です。この何とも気色悪い(ディックらしいとも言える)存在が最初にちらっと登場するのですが、これが後々大きな意味を持ってきます。

    ストーリーはディック作品にしてはかなりスムーズに読める方で、SFサスペンスとして、ちゃんと破綻なくまとまってます。とはいえ、物語全体に漂う不穏なムード、そこかしこに登場する薄気味悪いガジェットなどは実にディック的。時間退行現象が始まってからの重苦しい閉塞感に満ちた描写は、読んでるこちらも息が詰まってくるぐらい重い重い。救いがないのに前向きなラストも印象的。
    またこのラストがねぇ。それまでの謎が解けて一応スッキリしたなー、と気を緩めたところにえっ!?Σ(-Δ-;ですよ。ディック節炸裂ですねぇ。
    前回紹介した「虚空の眼」よりもディック臭が強い作品だと思います。でもかなり読みやすいので、初心者にもお勧め!(-_☆

  • 「ユービックって何!?!?!?」
    読む前も読んでる時も読んだ後も、この問いが頭から離れない、そんな本だった。結局ユービックってなんですか?

  • 無茶苦茶面白い。この作品も多大な影響を与えたと思われるが、物語の内容通り他が退行していったのに対し、これはまさにユービックを吹き付けたかのように今読んでも普遍的な輝きを放っている。
    世界観やテーマ、基本設定は電気羊と通ずる部分があるものの、ベクトルはかなり違う。
    構成も電気羊が変則的な印象があったのに対し、こちらは割とストレートなテンポ感で伏線も直線的に回収して行く。とにかくラストに至るまでの全体の流れの構築力は完璧で――たとえ曖昧な部分や未解決の謎を多く残していたとしても――牽引力が弱まることはない。
    序盤こそ何がなんだか判らず説明不足だと感じたのだが、背景とキャラが頭に入るまで読み込むと(ここが非常に重要)とたんに映像的に読めてくる。
    場面がある→考える→行動する→セリフを言う、この一連の基本的な流れがスムーズなので、勝手に映像的になるのだ。その映像は読んだ人各々違うだろうが、そこが他のコンテンツが絶対に到達できない文章の長所で、それを存分に生かした作りだ。
    翻訳でいうのもなんだが、意外とこれができない作品は多く、そのような細かい部分が差に表れてくるのだろう。

    導入のエスパーvs不活性者の対決というエンタメ的な構図だけでがぜん興味を魅かれたのだが、この鉄板設定をほとんど捨てたことが凄いし、面白さのピークで更に捻りを入れてくる展開力はやはり稀代の作家だと思わずにいられない。
    設定は今読むとテンプレ的な要素で構成されていて、個人的に不活性者が一堂に介したシーンが最初のハイライトだったが、作者はそのようなテンプレを一瞬見せて絶妙なポイントに外す。このズレが異様な面白さを発生させている。音楽でいうグルーヴみたいなものだ。ラストで壮大な場所へ行くのかと思いきや、そこかとか、このタイミングであの人物が来るのかなど――地味な日常感を維持したまま超越的な世界へ連れて行くセンスも良い。階段を登攀するだけでこれほど盛り上げられるのはJGバラードか著者ぐらいしかいないと思われる。

    途中から不安定要素が強まっていくが、話を崩すことなく混乱状態(主に精神的な)を分かり易くすっきり伝えている。だから唐突感がなく、人物と同調しながら自然に深刻さが伝搬してくる。ポイントはそのような絶望の最中でもユーモアがあるところで、乗り物がどんどん古くなっていくところなど完全に笑わせに来ている。著者の発言や写真を見るとシリアスな印象を受けるが、おそらく自分が想像したような人物ではないだろう。

    電気羊は確信めいたものがあったのだが、内部的なものは、それこそ形而上学的なものは全く分からず隠されているのかすらわからない。しかしストレートなエンタメの裡に確実に何かがあるという予感はある。しかも物語の本筋は困惑せずごく自然に明解に読める。ここが最も素晴らしいと思う部分だ。物語自体はグチャグチャにならずあくまでストレートだ。
    あとがきを読んでも、著者は普段から複雑な思考を張り巡らしていると思われる。
    簡単な結論を冗長で複雑にする作品は数多い。しかし込み入った感覚的な話をシンプルなエンタメに変換できる人は希少だ。
    某作家がアートとエンタメは両立出来ないと書いていたが、この作品は境界線が見えないほど融合していると思う。
    例えるなら近寄ると物凄い書き込んでいる精密な絵画などではなく、見た目はシンプルで単純だが内部はどうなっているのか、どうやって作ったのか分からないピラミッドのようなイメージだ。

    個人的解釈になるがテーマ的には著者の一般的に考えて悲観的な世界観が出ていると思う。内容も二律背反的であり、何が正しいのか断定できない。エスパーと反エスパー、エスパーは個人を侵害するCIAのような組織にも見えるが、良識機関も名前通りにも皮肉にも見える。不必要な社会制度、無駄な義務への怒りも垣間見える。著者はこの世界は間違いであると思っているのか。
    PKディックは我々は死んでいると言っているがどういう意味だろうか?
    死んだように生きるとか死んだ方がマシという次元ではないらしい。我々は死んでいるのだ。
    実は自分も同じようなことを以前から考えていた(実際は全然外れてるかもしれないが)。人々はそれを誤魔化して生きていると。だから日々情報を更新するために、倦怠を消し去るために消費する。だからユービックは新商品なのだろう。精神の安定剤としての。
    一方でユービックは神の偏在だという。そう、神や仏もどこにでもいる。特別な事情がないと気付かないだけだ。そのため肝心のユービックでさえも不確かな消費物になっている。
    それでは作中、唯一不変で正しいものはなんだろうか?
    それが冒頭の森なのだろう。一番最初に重要な回答が書いてある。意図は分からない文章の意味がラストまでの物語全体から鮮明ではなくぼんやりとだが浮き出て現れる。この構築力こそが凄い。
    比較的調子がよかった年代のアメリカでこの鋭い視点は異常だ。余計なお世話だが、本作のテーマ性は日本と親和性が高いと思うが、このような作家がなぜ本邦から登場しないのだろう?不思議だ。
    読み返したが分からなかった疑問点をいくつか挙げると

    ・ ルナ爆殺の首謀者
    ・ 失踪事件の真相
    ・ パットの正体
    ・ ホリスやミックは関与していたのか
    ・ メリポーニはどこへ行ったのか
    ・ 予知夢の意味

    以上などは謎のまま放置したとしか読めなかった。しかし、なんとなく全てを詳細に描いても駄目な気がする。不完全なのに完全。そういう不思議な魅力が本作品にはある。

  • PKD選挙第1位を獲得した人気作。
    超能力者、非超能力者、そして反超能力者。
    三つ巴の戦い。
    半死者と呼ばれる存在もあり、なかなか面白い。
    死んだのはランスター? チップ?
    ユービックとは?
    最後までドキドキしながら読めました。

  • 〇読書体験:
    ミステリーなどでは「信頼できない語り手」という手法があるが、本作の場合、全知全能であるはずの作者が三人称で語っているので、そこに意図的な嘘は混ざらないと考えて読み進めると、まず、いよいよ冒険が始まるという段になって、思っいきり読者を裏切る。そのうえで視点人物(ジョー・チップ)の知覚する物事が正常ではなくなっていき、梯子をどんどん外される気分にされる。この感覚は、デイヴィッド・リンチの映画(『ロスト・ハイウェイ』とか)を見ているときの感覚に近い、戸惑いだ。読者は、とにかく出されたものを食べるしかない。料理人が真面目なのかふざけているのか、正気なのか少々狂っているのか、知る由もない。登場人物の衣装がいちいちエキセントリックだとかいう辺り、「あんまり生真面目に受け止めるなよ」というメッセージのようにも読める。一方で、読者にあれこれ推理させる余地もしっかり残すという冷静な配慮も感じられる。名作とは言いにくいけれど、「傑作」という言葉がぴったり似あう作品だ。

    〇創作上の技:
    この作品は17章ある各章のあたまにエピグラフが付いていて、16章までは全部ユービックという商品・サービスの宣伝文になっている。ユービックは特定の商品名ではなく、購入することで生活を改善できる商品全般の代名詞みたいなものらしい。そして、それはつまり、アレのことだと、最終章のエピグラフでわかる。エピグラフって、作品の一部ではあるが、作品内世界の外部にあるテキストだ。このエピグラフの特性をこんなにうまく利用した例を寡聞にして他に知らない。アメリカチックな宣伝文が面白い。

    〇登場人物:
    ジョー・チップ:視点人物は複数いるが、メインはこの男。彼はイナーシャル(不活性者)の能力を測定する技師で、良識組織ランシター・アソシエイツのナンバー2ということになっている。技師がナンバー2の会社って珍しいと思う。おそらく、変人ぞろいのイナーシャルたちを除けば、会社には、社長のグレン・ランシターと、所謂”一般職の婦人”(60年代の作品なので)と、彼しかいないのだろう。金欠で、冷蔵庫のドアの開け閉めにすら困っている(コインを入れないと開けられない)という設定が可笑しい。一人暮らしだが、既婚歴があるのか不明だ。もう少し主人公について書き込んでほしかったが、所詮は狂言回し的存在か……

    パット・コンリーは、典型的ファム・ファタールとして華やかに登場するのに、その後は振るわない。ジョーが半生者の世界へ行ってから、悪魔的なふるまいを見せるシーンもあるが、所詮は傍観者。彼女の活躍する話が読みたかった(これが最大の裏切り)。

    エラ:20歳で半生者となったグレンの妻。彼女の再登場は、アニメ『刻刻』最終話で突然再登場して主人公を救うマリアを連想させた。マリアの唐突感は、12話で終わらせるための大人の事情としか思えなかったが、エラの唐突感は、わざとだろう。エンタメぽさを積極的に装いながら、同時にエンタメのクリシェをおちょくるみたいなところがディックにはある気がする。ネットを検索すると、「半生者の世界で1939年が特別な年になっているのは、エラがグレンと出会った頃だからではないか」といった推察が、大真面目な論文に書かれているのが見つかるが、根拠が薄弱だし、まずありえない。もし、エラがそんなに昔の人なら、死んだときに冷凍保存されることはなかっただろう。

    〇終わり方:
    これについては、別途、拙ブログにながーいのを書いた。
    http://lima21.cocolog-nifty.com/ensayo/2021/04/post-07dd8f.html

  • ディック特有の現実と虚構、生と死のような相反するものの境界を崩し、曖昧にされた世界観が展開される。ストーリーは時間退行現象が始まる中で、少しずつ手がかりを見つけていくミステリーのように読みやすい。前半と後半で全く印象が変わるが、それにしてもコイン投入式のドアはめちゃくちゃ不便そうだし、何より主人公のジョーがお金なさすぎてそのへんの描写は面白く読めた。一番最後の章があることによって一気に本書を読んでいる読者自身も物語世界に引きずり込まれるのが終わり方としてベストだと思った。

  • 初版1969年の時代に1992年の未来を描いた作品。超能力者から一般人を護るための不活性者を擁する良識機関が存在し、そして冷凍処理された死者との対話が可能になった未来。超能力者を追って月に行ったランシターやジョー・チップ一行だが、相手の策略にはまってしまう。そこからの描写は、時間が逆行する中でジョーが中心となっての謎解きの様相を示す。題名となった「ユービック」が重要な小道具となっている。この世界観は映画『マトリックス』のような感じだ。

  • ※ネタバレあり! ここ以外でも決して裏表紙のあらすじは読まないように!

    と、最初に断っておかないといけないぐらい、この裏表紙のあらすじはひどすぎる。要約にもなっておらず、作品を正確に捉えていないばかりか、核心部分(しかも残り100頁を切った部分)にまで踏み込んでネタバレをしている。まさか表紙が変わっても直っていないとは思わなかったが、このネタバレを避けて読むのはもはや様式美だろう。自分の場合は無理だった。と、いうのも自分がこの小説のあらすじを知ったのは巻末の作者の別作品紹介で、そこに堂々とユービックのあらすじ、もといネタバレが書いてあったのだ。田舎だと回避不可でしたねw

    それはともかくとして、まず驚くのはSFガジェットの豊富さである。消費社会をあざ笑うかのようなコイン投入しないと動かない家電製品全般に、半生者という、死者とコンタクトできる施設など、世界観が魅力的である。テレパスに対抗するための不活性者(イナーシャル)という超能力を中和する存在なども面白い。特にプレコグによるビジネスの未来予知や、相手の申し出の裏をかくためにテレパスに心を読ませるというのは実にSF的な、近未来の情報戦っぽくて笑ってしまった。かと思えば、因果律にまで及び、過去に起こった出来事を書き換えて現実をパラレルワールドの方へスライドしてしまう脅威の能力者の女パットなど、そのイマジナリーの飛躍はとどまる所を知らない。

    そんな能力者が月に集結し、爆弾による騙し討ちに遭うわけだが、ここから能力者同士にバトルロイヤルになるかと思えばそうはならず、爆発の影響で訪れた時間退行現象という謎の超現象から逃げ惑うサイコ・サスペンスへとジャンルはガラリと変転する。肉体が対抗してミイラになる様や、珈琲のクリープが腐ったり煙草が風化してボロボロになる描写は中々にゾッとしてしまう。合間に挟まる死んだはずのランシターからのメッセージも相まって、事態は悪夢的な様相へと変貌を遂げる。

    そんな現象の果てにたどり着いた真相は意外の一語であり、ここに来てようやく作品のテーマが現実の虚構性とそれらの喪失であるということに読者は気付く。実は死んでいるのはジョー・チップのほうだという真実がその現実の不確かさを暴き、そこから章ごとに注釈として付いていた謎の物質ユービックが時間退行現象の対抗策としてその正体が明らかになる。そして黒幕かと思われたパットではなく、純粋悪だったのは、冒頭でランシターと妻の会話を邪魔していた半生者の子供ジョリーであり、怪物的な少年が姿を表わすことにより、物語は一気にクライマックスへと突入する。随分遠いところを彷徨った本作の物語ではあるが、凄い角度のロングパスで冒頭の話とクライマックスが繋がるさまは見ていて惚れ惚れとする。綿密な計算されたプロットいう印象はあまり受けず、とっ散らかりそうになった話のパーツが、後から意味を帯びて浮かび上がったような、そんな不思議な読後感だった。小説の定石からは逸脱しているが、この作品丸ごとで現実感をあやふやにしているのは純文学的な要素も感じて実に素晴らしい。ユービックとはまさに万能で、神の意匠ではあるのだが、それに反して挟まれた説明はひどく大衆的な万能アイテムに過ぎず、ここにディックの対比表現の上手さや皮肉のセンスが光っている。オチもまたループめいたゾッとするものであり、まさに悪魔的な読後感であった。ネタバレ表記こそ至極残念な本作だが、それを踏まえても名作であることに疑いの余地はない。

  • あらすじがネタバレと聞いたので一切見ずに読んだが、おおう、なんだこれ、すごい世界だ。と思わず嘆息してしまう。

    超能力者、半超能力者という語感から、X-MENのような展開を予想していたら話は凄まじい勢いで違う方向に転がっていく。グイグイ読ませる怪作だった

  • 時は、1992年。
    読心能力者(テレパス)や予知能力者(プレコグ)といった超能力者がはびこる世界。不穏な動きをみせる超能力者を阻止すべく月面へ向かったランシター率いる不活性者らは逆に超能力者の反撃にあってしまう!
    辛くも超能力者の攻撃を逃れた技師ジョー・チップは他の不活性者らとともになんとか地球へ帰還するが…更なる異変が彼らを待ち受ける。

    ミルクは腐敗し、タバコはひからびる。
    退行していく時間によって、次々に倒されていく不活性者たち。
    死んだはずのランシターから贈られる謎のメッセージ。
    敵は誰で、何が起こっているのか。生き延びるためにはどうすれば…!
    そして、ユービックとは何なのか…!

    これはやられた。ディックおもしろすぎ。
    スリル溢れる展開と複雑に絡み合ったミステリアスな物語は、最上のエンターテインメントといっても過言ではない。

    超能力が産業スパイ目的で悪用されていたり、それを阻止する不活性者がビジネス化されていたり、自宅のドアを開くためにわざわざ5セント支払う必要があったりと、この独自の進化を遂げた世界観だけでも十分な面白みがあるのに…それらはあくまで背景でしかない。もう全ッ然関係ない。

    序盤にパットの能力を見せ付けられた瞬間から、どこまでが真実か解らなくなってしまった。ディックって人は、にくいことをしますね。
    物語も終盤に入り、複雑に絡み合ったいくつかの事象は整頓されて、やれやれ一安心したのも束の間、ラストで再び頭を抱え込むことになった。
    ディックって人は、ホントにくいことをする。

  • ディック作品を読破したいので読了。
    『ザップ・ガン』と違って「ユービック」がちゃんと物語のキーアイテムとなっていて、ユービックとはなんなのかというものを探りながら作品を読むことが出来るのでタイトルが作中に生きていて面白かった。自分が生きている世界に何が起こっているのか、何が現実で何が幻かを探ることを主人公とともに出来るのはディック作品の魅力の一つでありそれがこの作品では存分に味わうことが出来た。
    ただ、終わらせ方はディック作品の悪い癖が出ていたように感じる。(ほん怖のようなゾッとさせるそうなオチをしたかったのだろうが結果的に煮え切らない終わり方になっていると個人的には思う)
    他の人の感想を読んで「結局『ユービック』とはなんだったのか?」という意見が多くあったことが少し気になった。確かに作中で何が起源で誰が発明し作中のようなキーアイテムになったのかといった細かい解説はされておらず、クラムボンのような不思議さを持っているアイテムではある。しかし、作中の演出や進行において特別邪魔になったり違和感がでるほど情報開示がされていないわけではなく「ほどよく考察の余地が残されている」ものであるためそこにばかり固執する必要はなくあくまでエンドコンテンツくらいに捉えるのが良いのかなと個人的には思う。

  • この青く煌めく表紙のユービックを手に取ったそこのあなた!素晴らしいSF体験が待っていること間違いなし!用量、用法はお守りください

  • 一回読んだだけでは全くついていけない,時間が可逆的になった世界のディストピア的物語.時間と直結する生という概念が曖昧模糊となる.早々に朽ちる肉体を再活性化するユービックは,あたかも魂を人為的に追加するかのような効能を持つ.結局知的生命体が生命を制御できるようになっても,救いのある未来にはならない.

  • ディック2冊目。
    アンドロイドより面白い。
    amzonのレビューにジョジョっぽいと矢鱈と書いてあるが、確かにジョジョっぽかった。

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著者プロフィール

1930年生。英米文学翻訳家。大阪外国語大学卒。主訳書にヴォネガット『タイタンの妖女』、ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、ラファティ『九百人のお祖母さん』、ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』(以上ハヤカワ文庫SF)、著書に『ぼくがカンガルーに出会ったころ』(国書刊行会)。2010年没。

「2022年 『SFの気恥ずかしさ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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