この人を見よ (ハヤカワ文庫 SF 444)

  • 早川書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150104443

感想・レビュー・書評

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  • 自分の人生に全く自信が持てない精神医崩れのユダヤ人カール・グロガウアー。イエス・キリストの生涯に並々ならぬ執着を抱く彼は、市井の素人科学者が作ったタイムマシーンに乗って西暦29年のエルサレムへと旅立つ。そこで彼が見たものは、自分の名前しか言えない白痴のイエスと、セックスにしか関心のない淫乱なマリアだった。生きるよすがを失ったカールが取った行動とは?そして、彼の行動が歴史に与えた影響とは?

    暗い。どうしようもなく暗いorz
    鴨がこれまで読んだSF、というか小説全般の中で、これ以上に救いようのない話はないと思われる筆舌に尽くしがたい暗さ。物語の半分以上は、カールがこれまで歩んだ半生が如何にどうしようもなかったか、という説明に費やされます。そもそも、カールがキリストの生きた時代に行こうと思ったきっかけが、とにかくもぅこの嫌な現代(=自分の人生そのもの)から逃げ出したくて仕方なかったから、の一言に尽きます。西暦29年のエルサレムに辿り着いてから後も、プレッシャーに負けそうになって人前でゲロ吐きまくったり、マリアの誘いに乗って欲望全開にしちゃったり、と本当にフォローしようがないダメダメな主人公です。

    <以下ネタバレ注意>
    そんなダメダメな彼が、白痴のイエスに成り代わって自ら”聖書に記された史実通りの”イエス・キリストの生涯を再現しようと決意したのは、ひとえに自分がそれまで信じて来たキリスト教に縋り付いていたかったから、だけなんですよね。鴨はここに、宗教の本質を垣間みた気がしました。本質はどうでもいい、ただ自分以外の存在に責任を持って欲しい。自分の人生だけど自分で責任負いたくない!そのために命捧げても構わない!という矛盾を矛盾と感じない心性イコール宗教、というじゃないかと。
    キリストとして生涯を終えたカールは、死の間際に醜く生に執着し、死後復活することはありませんでした。そんな即物的なラスト・シーンに、ムアコックの問題意識を感じますね。

  • 第33回アワヒニビブリオバトル「錯覚」で発表された本です。
    チャンプ本
    2018.01.09

    第82回アワヒニビブリオバトル「【往路】お正月だよ!ビブリオバトル2022」第5ゲームで紹介された本です。オンライン開催。チャンプ本。
    2022.01.02

  •  長らく関心があった本。ようやく入手して読む。
     主人公カールを取り巻く男女関係・男男関係が複雑で、英国はずいぶん前から爛熟していたのだなぁと思う。
     イエスの正体は、最初の方でこうなるだろう、と思った通りで、著者もとりわけ隠していない。キリスト教文化圏で、かくも冒瀆的なイエス像・マリア像を提示して、身の安全は大丈夫か、原理主義者に闇討ちされないかと心配になった。
     似たような趣向の道原かつみ『ノリ・メ・タンゲレ』を次に読んでみたい。

  • ヒューゴー賞受賞のムアコックの傑作だそうである。あらすじは読まないが、表紙に書いてあるので。

    小心者で真面目な少年時代、女の子と付き合いたいがそんな勇気のない青年期、キリスト教からユング、そして邪教に継投した成人期という、どこにでもいるカール・グロガウアーは、タイムマシンの試作品のテストパイロットとして、西暦28年、イエス・キリストの磔を見るために向かったが、そこには思っていたイエスは存在しなかった。

    あらすじもオチも同じなので、話としては上記の通り。賢明な方であれば、全てお見通しであろう。そういう話だ。

    聖書から引用し、ニーチェの著作と同じタイトルであるゆえ、スタートは違えども、聖書の範疇からはほぼ逸脱しないのであろう。ヨハネと出会い、期待を裏切ってナザレのイエスを探しに向かう。そのあたりの紆余曲折は、以外なほどにあっさりした描写であり、メインなのはタイムマシンで飛ぶ前の話なのかしらん。

    ☆2の理由は、ひとつはやはりキリスト教(特にカトリック)の考え方が、我々にはさほど思い当たるところがないために、特に現代(二十世紀)の描写に、なぜ怒っているのか、それに対する切り返しの意味がわからないというところにあるだろう。

    また、主人公カールに合わせた感情的な文章が、どうもしっくり来ないんだよね。リズム感というか。

    「ジーザス・クライスト ○○スター」などのパロディともちょっと趣がことなる作品である。

  • 結末が途中でわかる   
    表紙   4点野中 昇
    展開   4点1968年著作
    文章   4点
    内容 400点
    合計 412点

  • 暗い内容だけど、面白い。
    内省的で自虐的な少年性とキリスト教。
    この組み合わせからエヴァンゲリオンを思い出してしまうけど、もちろん別物。でも自虐的な心情から、人々によって偶像(憑代)に祭り上げられてしまうなど、共通性があるとも感じる。
    内省・自虐と祭り上げられ、という組み合わせは、キリスト教的な物語と通じるところがあるのだろうか?

  • こころ(夏目漱石)

     ネビュラ賞受賞。タイムマシンでキリストの時代にいったお話。登場人物はまさにタイムトラベルした主人公のみ(に近い)。でもSFじゃないね。一気に読んだけれど、おもしろくなかった。キリスト教に縁がないからかも。主人公の私小説をキリストの時代に背景を置き換えてつづったものという感じ。だから夏目漱石ね。

     次は長い間楽しみにしていた永劫(グレッグ・ベア)である。シリーズは全部で5冊だったかな。楽しみである。

  • タイムトラベルでキリスト関係ということで興味深く読ませてもらった。読み始めてすぐに今後の展開が読めてしまうけれども。
    聖書には、物語として、歴史を垣間見せてくれるものとして興味があるが、実際の所はこういうことだったんじゃないかという、空想の一端を見せてくれたのが面白い。

  • もしイエスキリストの時代に行けたら?もしイエスキリストが居なかったら?もし・・・?何というか、凄い凄い作品です。このアイデアはマジにきてます。自分の身に置き換えるとどうするだろうか?と本当に悩みますよね。

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