ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)

制作 : 浅倉 久志 
  • 早川書房
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本棚登録 : 706
レビュー : 63
  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150104641

感想・レビュー・書評

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  • この本が書かれた当時、まだ「格差社会」という言葉はなかった。にもかかわらずヴォネガットは、資本主義によってごく少数の人々にグロテスクなまでに富が集中し、一割の人間が、残りの九割が一生かかっても手することのできないお金と特権と享楽を手にするという未来を、正しく予見していた。
    そのようなマンモニズムの世の中で、億万長者の一人が無上の隣人愛に目覚めたら?それがこの小説の主人公エリオット・ローズウォーターである。のらくら者やごろつきどもに愛とお金を惜しまないエリオットは、本書では気違いとして描かれる。しかし、読者はやがて気づくことになる。彼を気違いのように見せているものは、この社会の仕組み──つまり富の独占を善とする経済のあり方ではないのか。人間を勝者と敗者に分け、敗者を「努力せざる者」として切り捨てる社会。その歪みこそが、エリオットを「気違い」として浮かび上がらせているのではないか。
    同時に、この物語は科学が発達した文明社会における人間存在の意味をも問うている。 AIが次々と人間に置き換わろうとしている世の中では、ヴォネガットの作品ではお馴染みのキルゴア・トラウトが語っている通り、人間が人間であるというだけで愛せる理由と方法を見つけられなければ、文字通り人間は抹殺されるだろう。
    なお、日本語では訳されていないが、本書には「豚に真珠」という副題がある。これははたして社会の役立たずに金を分け与えるエリオットを指すのか、それとも肥え太る拝金主義者を揶揄しているのか。おそらく両方の意味を込めていると思われるが、それを考えさせるところに作者の意図が感じられる。

  • 本日読了。
    グローバリズムが、あらゆる富を特定の国の特定の人物に集中さる現代を、恐ろしいほど的確に予見している。

    ヴォガネット作品にはおなじみの架空のSF作家トラウトの言葉があまりにも重たい。
    食料や機械やサービス、あるいは経済や医学のアイデアの生産者として、ほとんど全ての人物はやがて価値を失う。だから、ただ人間であるということにこそ価値を見出さなければ、もう抹殺しても良いということになりかねない、と。

    集まった富を、あらゆる「役立たずの人間」に分け与えようとした者こそが、狂人扱いされる。

    アイロニカルで軽妙だけど、ラスト数ページはあまりのも痛切。
    ぐっときた。

  • 読んでいて、どうすればいいのかわからなくなって、馬鹿みたいにぼろぼろぼろぼろ泣いてしまった。
    ヴォネガットの作品はこれが初読だが、読む前からからそうなる予感はしていた。きっと泣いてしまうし、きっと辛いだろうと。その通りだった。

    「カート・ヴォネガット・ジュニアの『ローズウォーターさん~』は、この作家が世界に宛てた、一番新しい、一冊の怒りのラブ・レターである」(ジュディス・メディル)

    怒りのラブ・レター。まさしく。
    これは愛についての物語である。そして金についての物語である。
    一人の男が限りない愛と、限りなく限りないくらいの金を、その身に背負って、生きる話である。

    誰を救えばいいのか、という話ではない。
    何を変えればいいのか、という話でもない。
    世界はあるがままに。そして人間もありのままに。
    みじめな人生に電話での話し相手と、わずかなお金を。
    何も変わらない世界に小さなユーモアを。
    そして、新しい命へ「ようこそ」と。

    そうそう、あとはこれ。
    「なんてったって、親切でなきゃいけないよ」。

  • 序盤、エリオット・ローズウォーターがなぜこのような慈善の人になったのか、また彼を取り巻く貧しく不運な多くの人々の描写などが、まるで演劇の舞台を基礎から創っていくかのように細かく丁寧に描写される。この状況説明を読みこむのに時間がかかり、「この作品はタイタンの妖女みたいに自分には向いていないのか?」と思いきや、中盤から愛すべきエリオットという人が掴めるようになる(それまでの丁寧な描写がここで効いてくる!)と、どんどん面白くなっていき、最後高みに飛び立って、ストンと終わる。

    でも。
    私にはエリオットのような人間愛はきっと寂しく思えてしまうだろう。彼の妻が、彼を愛していても寂しかったように。彼の父が、常に息子に裏切られ憎まれていると思ってしまうように。彼に助けられたはずの人々が、彼にいつか捨てられると思い込んでいるように。

    最後エリオットは晴れ晴れとしたはずだ。エリオットが幸せなら、ハッピーエンドじゃないか。なのにもやもやとしたある種の寂しさを感じてしまうのは、私が俗物だからなのかもしれない。

  • もしも完全に利他的な人間が、働かなくてもお金の手にはいるような大金持ちだったら?
    これはヴォネガットのいつものユーモアと皮肉と笑いをまじえて大金持ち、エリオット・ローズウォーターの生き方を描いた小説。

    エリオットの周囲にいる人間たちを同じ人間とも思わないような俗物らしいエリオットの父親は、誰をもを愛していると言っているエリオットに対し、特定の人間を特定の理由で愛する自分たちのような人間は、新しい言葉を見つけなければいけないと嘆く。
    エリオットが「役立たずの人間」に奉仕するときの「愛」とはどんなものなのか?
    住民たちのもとを離れ、もう戻りたくないと思いながらも、まだ見もしらぬ子どもたちのためにお金を与えるのはどうしてか?
    助けてきた住民の名前も忘れてしまうエリオット。彼が愛するというとき、それは目の前の個人ではなく、人間という存在そのもの。特別な存在として自分を見てくれないエリオットを、他の人間は愛せないように思う。愛するにしてもそれは神への愛みたいなものか。
    二つの愛という概念は、宗教をもっている人間ならわかるのかな?

  • この手の小説ってあまり読む機会がなくて、ということはあまり好きではなくて、まあ正直言って本書もそんなに面白いとは思わなかった。
    でも中盤の電話での会話の描写とか、終盤に群像が一つになっていく過程とか、小説としては実によくできているとは思う。

    最後の方にあったトラウトの言葉
    「いかにして役立たずの人間を愛するか?」
    これはたぶんこの小説のテーマだろうし、実は僕の人生のテーマでもある。読後感は爽やかで良し。

  • たとえヴォネガットの作品が砂糖の錠剤ににがいコーティングを施しているだけのようなものだとしても、私は彼の作品が大好きだ。読み始めると
    どんなに抑えても感傷的なきもちになってしまう。ギャグっぽくコミカルに書かれているところもあるが私は全然笑えなくてむしろ悲しい気持ちになってしまう。SFを数行でまとめるというアイディアも素晴らしいし、聖書に対する解釈や現代社会の問題点にヴォネガット独自の視点があるし、なにより登場人物達のドストエフスキー的な胸中の吐露が胸に迫る。泣いた。

  • 現代版の異邦人。
    新自由主義社会において、人類愛を語ることは異端なのか。
    カートボネガットのシニカルな問いかけがそこにはある。
    異常という日常。
    ボネガットの皮肉に満ちた文章の中で、
    彼の純粋で無垢な人間愛が浮かび上がってくる作品。

    「あんたがローズウォーター群でやったことは、断じて狂気ではない。あれはおそらく現代の最も重要な社会的実験であったかも知れんのです。なぜかというと、規模は小さいものだけれども、それが扱った問題の不気味な恐怖というものは、いまに機械の進歩によって全世界に広がってゆくだろうからです。その問題とは、つまりこういうことですよーいかにして役立たずの人間を愛するか?」


  • 「俺は神様に一度きいてみたいと思ってるんだ。この下界じゃとうとうわからずじまいだったことを」
    「というと、どんなこと?」
    そうたずねながら、ホステスは彼の体をベルトで固定する。
    「いったいぜんたい、人間はなんのためにいるんだろう?」

    -------------------------------------------------

    「() ちょっと耳の痛いことを言わせてもらいましょう。お気に入ろうが入るまいが、ずばりこうです―あなたの財産は、あなたの目から見たご自分と、他人の目から見たあなたに関する、最も重要でかつ唯一の決定的要素である、ということ。金を持っているから、あなたは特別な人間なんです。金がなければ、一例をあげると、あなたはいまマッカリスター・ロブジェント・リード・アンド・マッギー法律事務所の古参経営者の貴重な時間を、こうしてとりあげることもできないのですぞ。
    もし、あなたがお金を投げだせば、あなたはまるっきりただの人に成りさがってしまうのです。」
     』
    ---------------------------------------------------

    「()-いかにして役立たずの人間を愛するか?
    いずれそのうちに、ほとんどどすべての男女が、品物や食糧やサービスやもっと多くの機械の生産者としても、また、経済学や工学や医学の分野の実用的なアイデア源としても、価値を失うときがやってくる。だから―もしわれわれが、人間を人間だから大切にするという理由と方法を見つけられなければ、そこで、これまでにもたびたび提案されてきたように、彼らを抹殺したほうがいい、ということになるんです」

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    まるでニコ動のアホでカオスな動画を見ているような爆笑を誘う作品。訳わかんないんだけどなぜか笑えて、なぜか心に刺さり、なぜか現代の何かを痛烈に批判しているようなショックを与えてくれる。
    相続した財産によって金持ちだから働かないアル中のローズウォーターは自衛消防団の運営と巷の落伍者からの電話相談及び小切手による無償援助を営んでいる。親戚や一般人からはその“無駄な”行いがやはり理解できず、彼を精神異常者としてみなそうとして、てんやわんやする。

    大雑把に括って利益を行動の指針とする人には、彼の“無駄な”行為が理解できない。だが、現代の、実利主義というか、金本位制というか、“それをやるといくらになるの?OR何がどう変わるの?”という錬金術的な価値観を取り払って彼を見れば結構まともなのかもしれない。例えばマザーテレサのような生き様はまさにローズウォーターの実在人物版(資本を金から自分の体におきかえただけ)だけど、結局のところはどうだろうか。

    お金というカミさま。まさにカネさま。カネさまの前では万人が平等。この宗教は至ってシンプルだ。何の解釈も定義も必要としない。カネを多く持てばそれだけ富み、カネがかかればそれだけ価値があると誰もが認める。あれば便利。ないと不便。カネさまを篤く崇拝すれば、その恩寵(衣食住から社会的認知からアイデンティティの確立まで)を受けることが出来る。しかしカネさま法治下の人間はその恩寵と同じくらいの束縛に悩まされる。カネさまの御心を失うかもしれないという恐怖にも苛まれる。カネさまを信じない人・持たない人は衣食住含め社会から徹底的に排除される。カネさまは信者を使って彼らを非人間にする。信者としても、カネさまの力に影響されず幸せに生きる人間は、カネさまに東奔西走する自分の存在をちっぽけなものにする脅威にもなりうるから必死だ。

    しかしお金の時代はそろそろ終わるんじゃないんだろうかと個人的に思う。んな馬鹿なと思うが、歴史を見れば今まで何度も“有り得ない、不可能だ”と思われてきたことが実現してきたわけで有り得なくも無い。過去は病に翻弄され、王さまに翻弄され、神さまに翻弄され、戦争に翻弄され、そして経済に翻弄され、、、。未解決の部分もあるが幾度も人間は乗り越えてきたんだし。(作品内での小説では人間は自殺する以外死ぬ方法がなくなったので自殺を奨励している。)
    “地球が丸い?あんた馬鹿?”とその時代の100人中100人(つまり100%)が信じて疑わなかったことが今の世では“平面な地球世界を亀が支えて、その下を象が支えて、、ってあんた馬鹿?”になっているわけだ。特に閉塞感、が時代の言葉になっているような今は、案外世界を変えていけることが出来ると思う。ミクシィやスカイプなど金にならない行動が増えてきているのもカネさまの持つ求心力が分散しつつある傾向なんでは??

    そんなこんな色々刺激を与えてくれるとんでもない作品です。

  • お金持ちは富を分配しろ!って庶民は思うけど、
    本当に人のために尽くしたらどんなことになっちゃうのか・・・

    中流階級以上にはキチガイと思われ、
    貧しい人々には神と崇められ、
    それでも本人は首尾一貫しているのが滑稽であり、切なくもある。

    しかし最後の妻に会いに行くところからの超展開はすごかった。
    え、火事?え、テレポート?記憶喪失?え、ケンカ?いつの間に???
    ぜんぜんついていけなかった(笑)
    主人公もなかなかついて行けてませんでしたが。
    ・・・ということは、狙い通りの効果だったのかもしれません。

    彼のやったことは最後に他者の言葉によって説明され、そうしてようやく周りが理解できる意味を持つ。
    だけどそれって本当の意味なんだろうか。
    結局、芯の部分は誰にも理解されないまま、主人公は自分を貫き通したのだと思う。

    他人なんて気にせずに自分の道を歩めという意味ではなくて、
    他人を気にせず自分の道を歩めばどう見られるのか、どう見えるのか、
    という皮肉なのかなあ。

    全体的にシニカルな印象でしたー。
    いちおSFになるのかな?
    文章はフィリップ・K・ディックより素朴で読みやすいようだけど、
    実は結構深くてイジワルでした。


    いやーSFって本当にいいものですね!

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