高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

  • 早川書房
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レビュー : 157
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150105686

感想・レビュー・書評

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  • ◯読み終えて素直に思ったことは、この小説に関して自分がどう考えて良いのかよく分からない、ということだった。
    ◯SF小説を読み慣れていないせいなのかもしれないが、解説まで読んでみても、表面的にしかこの小説を説明していない。訳者あとがきであるから当たり前ではあるが。ある種自由に読めると言えば読める。

    ◯日本とドイツが大戦で勝利するという設定は面白いが、おそらくこの類の小説では使い古されたテーマかと思う。
    ◯すると、この小説で他と類を見ない特徴は、易経による未知な力で展開することではないか。その点、SFというよりはファンタジーの印象。また、偽物の工芸品から違う世界、おそらくは小説の中の小説、比較的我々の現実に近い世界に迷い込むあたりも、まさしくファンタジーである。
    ◯しかし、小説世界での我々に近い小説を描いた人物は、その世界を、易経を使用しておらず、それはこの小説を易経を用いて描いたディックとは一線を画す。鏡描写のような非対称的世界には、フィクションであると確信するとともに、リアルに近い実感もあるのだ。
    ◯我々の世界の違う形をリアルに描いているが、さながら太古の時代のように易経により行く末が決まっていく世界観、リアルとファンタジーをバランス良く溶け込ませて、自分と小説の世界が入り乱れて感じるところは面白いと感じた。

  • 第二次世界大戦に枢軸側が勝利していた世界――の
    アメリカを舞台にした改変歴史SF小説。
    敗戦国民として自尊心を傷つけられた
    アメリカ一般市民の暮らし、
    反目し合う日独の駆け引き、スパイや暗殺者の策動、etc.
    もし連合国が勝利していたら……
    という内容の小説『イナゴ身重く横たわる』が
    ベストセラーになると共に一部地域では発禁になっている世の中で、
    その本と占筮に導かれて接触したり擦れ違ったりする人たちの様子。
    しかし、全体的に地味な群像劇で、読んでいると
    自分が高い場所から箱庭を見下ろしているような気分に
    なってくる。
    タイトルは作中での『イナゴ身重く横たわる』の著者が
    身を守るために堅固な城にも似た屋敷で暮らしているという噂に基づく。
    結末は、途中から漠然と予想していたとおりだった。
    時間が経って読み返せば
    スルメのようにジワジワ旨味が感じられるようになる、のかな(笑)?

  •  フィリップ・K・ディックはわりと読んでいる私なのですが、これは意外と再読しないですね……。う~ん、問題かもなぁ★ 本当に日本人が読むべきディック作品ナンバー1は、『高い城の男』なのでしょうから。

     これほど震撼する「たられば」の設定はありません。第二次世界大戦でドイツと日本が勝利をおさめ、アメリカが支配下に置かれているという、逆転した世界が描かれているのです。そんな作品の作者がアメリカ人作家だという、この構図だけでもすでにギャフン! と言わせられますよね?
     さらなる逆転現象も。『高い城の男』のなかには、発禁になりながらも水面下でひそかに人気を集めている小説、というのが出てきて、それは件の大戦でドイツと日本が敗北を喫する内容なのです★

     ということは、私は仮想日本で暮らしてるのかな!?
     読者の足もとをぐらぐら言わせる。このぐらぐら感を味わうと「ああ、ディックが始まったぞ」と思います。他の作品なら、このぐらぐら感が癖になるな~とかノンキな感想も書けます。けど、これは震源地が近すぎて恐ろしい!

     この小説、ディック作品のなかでも破綻が少なく、充実の出来栄えだったりもします。
     あまり読み返さずに来たたった一つの理由は、作品の良し悪しとは一切関係なく……、作中に出てくる「易径」のせい★ 私はどうもめんどくさい(苦笑)。易経が出てくる場面では、身が入らなくなるのですよ。易や占いって、くわしく書かれると何だか飽き飽きしますね~。なんて、愛好家の人からお叱りを受けそうですけど……。

     思い返せば、学校でも、女の子たちが星占いだが相性占いだかに夢中になり出すと、ひそかに冷め切ってたのでした。世間話で必ず血液型占いの話で盛り上がるのも、さっぱり理解できなかったものです。だって、根拠が薄くて馬鹿げてる★
     何の話だっけ?
     あ、占いには興味ないけど、小説は間違いなく興味深いです!

  • 第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終わった後のアナザーワールドを舞台とした物語。1962年の作品。

    この世界では、戦勝国であるナチス・ドイツと大日本帝国が世界を二分し実効支配している(第三帝国、太平洋連邦)。ナチス・ドイツは、ユダヤ人排斥を強力に推し進めるなど相変わらず恐怖の帝国で、野心的に宇宙開発を進めるなど技術でリードし、日本を核攻撃で殲滅する「タンポポ作戦」など物騒な計画も持っている。一方、日本は東洋思想が支配する真面目で堅実な国。「易経」に基づく占いを重視し、筮竹、道(タオ)、陰陽などが日常生活に溶け込んでいる。何故か、アメリカの古美術や骨董品の収集マニアが多い。

    という訳で、総じて日本人はドイツ人に比べ好意的に描かれている。このような世界に登場する(ユダヤ系を含む)アメリカ人(古美術商のロバート・チルダン、職工のフランク・フリンク、その元妻ジュリアナ・フリンク等)は、卑屈で、屈折していて、退廃的。

    本作中に、連合国側が勝利した後の架空の世界を描いたベストセラーSF小説「イナゴ身重く横たわる」が登場する(第三帝国では発禁)。その作者(アベンゼン)はドイツ側エージェント(ジョー)に命を狙われるが、ジョーといい仲になったジュリアナがジョーを殺害して事なきを得る。

    日本を核攻撃で殲滅する「タンポポ作戦」の存在をドイツ国防軍の情報部員(バイネス)から知らされた、太平洋岸連邦の役人の田上は、ドイツ側の襲撃者を殺害した際に心を病んでしまう。

    この他、古美術を巡る贋作事件や、オリジナル装飾品ビジネスの立ち上げエピソードなどが脈絡なく絡んでくる。とにかく、ストーリーが混沌としていて、オチがあるんだか無いんだか。

    独特の世界観はたっぷり味わえるが、なんとも複雑な読後感だった。

  • ディック祭 2冊目。
    第二次世界大戦で、枢軸国側が勝ったら、という改変歴史SFモノ。さらに、その世界で、「連合国側が勝ったら」という改変歴史SFモノがベストセラーになっている、という、でディックならではのねじれた物語。

    お得意の「本物/偽物」について、それを見分けるのは、「史実性」。その「モノ」がどういう歴史を経たかということ。でも、それは、見ただけではわからないもの。
    つまり、「モノ」がそれ自体の価値ではなく、物語が価値をつける、という「ガジェット化」。

    そして、「本物」が大量にコピーされるとき、「本物」の持つエッセンスが薄くなった「残り香」だけが大衆に広まる、という。つまりは大量コピーによる「キッチュ化」。

    そのキッチュ化を拒むのが、実際は、大衆消費社会を作り上げたアメリカ人というのがなんとも皮肉っぽい。

    易については、・・・よくわからない。ディック自身が易で物語の筋を決めたのではなかと思うようなだらだら感。でもディックのぐらぐら感は少なめ。

  • もし第二次世界大戦で日本が勝利していたら―。
    何かワクワクしませんか? 
    いやね、別に私は戦争を賛美する者ではありません。
    本書は第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、日本とドイツがアメリカを分割統治している世界を描いたSF小説。
    1962年に発表された小説ですから、私の生まれる10年以上も前。
    ちなみに著者は本書でヒューゴー賞を受賞しています。
    今だとフィリップ・K・ディック賞という自身の名を冠した文学賞がありますね。
    有名なSF作家です。
    なんて偉そうに書いていますが、実は「作家の読書道」というお気に入りサイトで、作家の星野智幸さんが勧めていたので買いました。
    そしたら、面白いのなんのって。
    アメリカ人が日本人の顔色を見ながら手もみしたりしているんですよ。
    痛快だと感じて、ふと考えてしまいました。
    敗戦国民として自分の中にも抑圧された心情があるのだと。
    ドイツ人はかなり悪しざまに描かれている一方、日本人の描き方は好意的です。
    著者の戦争に対する透徹した眼差しにも敬服しました。
    正直に言うと登場人物が多過ぎて、アタマの悪い自分は途中、話の筋を見失ったりしました。
    あと帯状疱疹で終盤は身体が痛くて集中を欠いてしまいました。
    でも、面白いですよ。
    ただ、主たる登場人物が易経を行動指針にしているというのが、やっぱりどうしても最後まで馴染めませんでした。
    感じ方は読む人それぞれでしょうが。

  • で、この後どうなっちゃうの?? 誰が主人公なのか分からないし、劇的な出来事が起こるわけでもない(殺人や撃ち合いも起きるのだけれど…)のが返ってリアルな感じ。何にも起きないのかなぁと思いながら読み進めていったけれど、いつの間にか引き込まれてしまった。

  • まさに、今欲している言葉が山ほど出てきた。

    この本で重要なのは「第二次大戦でドイツと日本が勝っていたとしたら、その時のアメリカは…」という設定自体ではなくて。

    ・狂気と正気。
    ・闇の中に生じる光の種子と、その芽吹きによって生じる闇とによって繰り返される、消滅を免れる世界というもの。
    ・主観的歴史にまつわる、<仏教の文化>と<キリスト教の原罪>という考えについて。
    ・そして、全ての道が何らかの悪に通じているとしても、一歩一歩選択することでしか結末を左右出来はしないのだということ。

    真逆のようで一対のそれらの上で混乱をきたして選択を放棄しようとした私が、今確かに、読むべき本だったのだ。

    すごい本だった。
    (たとえ、登場人物の日本人がハリウッド風の謎日本人と謎中国人のハイブリッド的だとしても。)

  • 歴史の「もし・・・」を描いた作品。

    このテーマを描いた作品は、他にもいくつかありますが、中でもこの作品は異色ですね。だって、本の登場人物たちが、本を読んでいるんですから。加えて言うと、だからと言って、歴史が変わるような動きを(明示的に)示すわけでもない。暗示的には、示しているのかもしれませんけどね。軍事を描くシーンも少なく、抑圧下の被征服人民の生活を描いた作品ですね。いやぁ、不思議な感じです。

    もう一つ不思議なのが、易経が数多く描写されていること。物語的に、日本もその描かれているテーマの一つということもあるのと、作者自身が易経に傾倒していたと言う事も有るようで、そのような描写になったのかもしれませんが、それでもねぇ。欧米の人は、エキゾチックな気持ちで読むんでしょうか?

  • みんな大好きPKDの最高傑作とも囃される小説、特定の主人公を持たず複数の登場人物たちの行動の複雑な絡み合いによって相対的に語られる群像劇。舞台はWWⅡにおいて枢軸国側、つまりドイツ日本イタリア側が勝利した世界という、まあありがちなifの世界だが、独創的なのは物語世界の中で登場するフィクション小説が実際の現実つまりアメリカが勝利した場合の世界を描いているという鏡構造だ。作中で誰かも語るが、あまりSFとは言い難い。あくまで平行世界を描いたわけで未来ではないし、胸躍らせる未来ガジェットも何一つ登場しない。では何故これがSFか?その答えの一つが、この綿密に練られた鏡構造にあると思う。
    海外SFであまり登場しない日本人が登場する。日本人なら誰もが感じるであろう、むず痒さ。まさか他国の人間にここまで愛国心をくすぐられるとは。勝ったのに結局核を打ち込まれんとするのはなんかもう笑うしかなかったが。
    ディックの好きなテーマ、本物と模造品というのも登場する。本物だけが持つ史実性は頭の中にしかない。つまり本物か偽物かというのは本人次第でしかない。物語とは現実の模造品なのか?
    敗戦国となったアメリカがようやく前を向こうとする姿が、その史実性を持った本物と持たない偽物から脱出して、史実性を持たない本物、全く新しいものを作ろうとする姿勢を希望の萌芽として描いたことももちろん、登場人物たちの交差点や物語全体を支配する本当の主人公、易の存在感。どれをとっても一級の「純小説」と言える。SF嫌いでも読める。
    表題の高い城の男というのは、物語世界の中の小説の作者、つまりこちらではディック自身ということになる。さながら遊園地にある鏡張りのアトラクション、最後に待ち構えるのはそのアトラクションの作者との対面だ。完膚なきまでに極上のエンターテイメントではないだろうか。
    余談だが、翻訳では田上氏とされる人物は原作ではTagomiと表記されている。タガミではない。
    また、どうやら現在海外ではタイミング良くドラマ化のプロジェクトが進行中らしい。田上氏は渡辺謙とかピッタリじゃないでしょうか。

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