- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150105686
感想・レビュー・書評
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もしもドイツと日本が、第二次世界大戦の戦勝国だったら……(; ・`д・´)
非常に興味深く面白い作品!!
ドイツの第三帝国(ナチスドイツ)に至るまでの大まかな歴史と、ヒトラーの周囲を固める親衛隊SS達(ヒムラー、ゲーリング、ゲッベルス、ハイドリヒ等)を知識として知っていると、理解がしやすいと思いました。
この小説の冒頭に参考文献としてウィリアム・シャイラー著『第三帝国の興亡』が挙げられていました。
この本、1から5巻まであるのですが、たまたま私、1巻だけ既読で………
なんで全部読まなかったんだぁ〜と後悔(^^;;
一巻はですね、第一次大戦後のハイパーインフレで国が混乱している中、ドイツ社会民主党を抑え、ナチ党が誕生するまで。
独裁国家の始まりまででしたが、読み応えたっぷりでした…(~_~;)ブアツイ…
私が、以前読んで非常に参考になったと思った文献は風刺画集でした。
『風刺画とジョークが描いたヒトラーの帝国』
プロパガンダで使われた風刺画がジョークも交えとても分かりやすく、読みやすかったです。
さて『高い塔の男』の感想に戻ります(^^;;
戦勝国はドイツ帝国、イタリア、日本。
アメリカには、日本やドイツの占領地区があり、ユダヤ人はドイツ領に送還されてしまう世の中。
ドイツの科学技術で月へ、火星へと進歩していますが、日本は技術的にはいまいち…笑
アーリア人が最高種族であり、人種差別が凄い…。
故に、登場人物のアメリカ人達は(敗戦国だからと)卑屈な気持ちで生きています。
と、まぁ、予測出来るような世界になる訳ですが、この小説の面白い所はそこだけじゃありません!
登場人物の日本人はものごとを選択する際『易経』を使用します。
日本のイメージよ…σ^_^;
日本が戦勝国である為、一部のアメリカ国民にも易経が普及。
自然に取り入れられているのが不思議ですが、信じる人は当たり前のように占います。
この易が占う結果と『パルプ・フィクション』のように繋がっていく登場人物達が見どころ(〃´-`〃)
もうひとつあります!
ホーソーン・アベンゼンなる作家の『イナゴ身重く横たわる』というベストセラー本が出てきます。
この本が「もしもドイツと日本が戦争に負けていたら」というテーマで書かれているんです。
この作中作の仕組み、大好きでして(๑¯ㅁ¯๑)♡
そうきたか!
リアルの今と違うんか?
と、興奮してしまいました笑(º﹃º )ヨミタイ…。
登場人物達の心理描写も細かくて、反発や揺れ動く気持ちは何とも言えずリアルな感じ…。
難しかった…という感想が多いように感じ、⭐︎評価がいまいちですが、私はすんごくすんごく面白かったです!!
『アンドロイド〜』『ユービック』と共に同じくらい好きな作品になりました(ღ*ˇ ˇ*)。o♡
おすすめですよ!!!
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◯読み終えて素直に思ったことは、この小説に関して自分がどう考えて良いのかよく分からない、ということだった。
◯SF小説を読み慣れていないせいなのかもしれないが、解説まで読んでみても、表面的にしかこの小説を説明していない。訳者あとがきであるから当たり前ではあるが。ある種自由に読めると言えば読める。
◯日本とドイツが大戦で勝利するという設定は面白いが、おそらくこの類の小説では使い古されたテーマかと思う。
◯すると、この小説で他と類を見ない特徴は、易経による未知な力で展開することではないか。その点、SFというよりはファンタジーの印象。また、偽物の工芸品から違う世界、おそらくは小説の中の小説、比較的我々の現実に近い世界に迷い込むあたりも、まさしくファンタジーである。
◯しかし、小説世界での我々に近い小説を描いた人物は、その世界を、易経を使用しておらず、それはこの小説を易経を用いて描いたディックとは一線を画す。鏡描写のような非対称的世界には、フィクションであると確信するとともに、リアルに近い実感もあるのだ。
◯我々の世界の違う形をリアルに描いているが、さながら太古の時代のように易経により行く末が決まっていく世界観、リアルとファンタジーをバランス良く溶け込ませて、自分と小説の世界が入り乱れて感じるところは面白いと感じた。 -
時代設定は発表と同じ頃か。第二次世界大戦は枢軸国の勝利で終わっていて、アメリカは日本統治の太平洋連邦、ドイツ統治の東海岸、そして中間にロッキー山脈連邦ができている。ドイツは火星にも進出している。そんな世界で、サンフランシスコで骨董品店を営むロバート・チルダン、チルダンが売り込もうとする日本人田上、偽骨董銃を作ろうとするフランク、フランクの元妻ジュリアナ、スウェーデン人芸術家と名乗るロッツェ、などがそれぞれの生活を営む。
彼らの間で密かに話題になっているのが「イナゴ身重く横たわる」という小説で、これはアメリカ、イギリスが勝利した世界を描いているものなのだ。
アメリカ人が書きアメリカで発表するのに、この「現実の勝利国」の設定の本を登場させバランスをとったのか、などと思った。ジュリアナの今の恋人ジョーは「戦争が終わるとアメリカとイギリスが世界を山分けする。ちょうど現実の世界でドイツと日本が山分けしたようにな」とまだ読んでないジュリアナに本を説明する。・・どっちが勝っても勝者が敗者を支配する、という世界をディックは示したのか。
サンフランシスコのアメリカ人、どうにも日本人の価値観にはなじめないし、底では認めていない。ディックの日本人の表現も「黄色いチビども」とある。
そんな中ドイツのボルマン首相が死亡する。ヒトラーは死んだ設定だが、ゲッペルス、ゲーリンクなどは生きていて、次の首相は誰になるかドイツはかたずをのむ。ジュリアナはバルドゥール・フォン・シーラッハが唯一まともな顔をしている、しかし次期首相にはなれる見込みはないわね、という。・・ここで驚き。少し前にこのシーラッハの孫のフェルディナンド・シーラッハの小説を読んだのだった。祖父のシーラッハはニュルンベルグ裁判で有罪になり1966年に出所、とあるのでこの小説の時点では服役中。
転倒小説「イナゴ」の作者は「高い城」に住んでいると言われ、ジュリアナは作家に会いに行く。
「高い城の男」は発表の翌年1963年のヒューゴ賞。・・十分には理解できなかった。
1962発表
1984.7.31発行 1993.3.31第15刷 図書館 -
原題 The Man in the High Castle
”かかる人々は高き者を恐る畏しき者多く途にあり 巴旦杏は花咲くまた蝗もその身に重くその嗜欲は廢る”
すべては虚しく、
それでも生きる。
グランド・ホテル形式で織りなす、
枢軸国が連合国に勝利した世界の、
意味の中に無意味な真実を見出す、
救われないようで救われた人たち。
…かな?
それにしても易経とはね。
決定された未来に一喜一憂し、希望をなんとか(都合よく)読み解こうとするのは、とても人間ぽい。
「イナゴ身重く横たわる(The Grasshopper Lies Heavy)」という作中作が虚偽の虚偽で、じゃ真実かというとそうでもなく、でも真実という卦が出るのも面白いです。
なに言ってるかわかんないですね笑
読めばわかります(たぶん、ですけどー)。
これと同じような和訳があてられているデビュー作「ウーブ身重く横たわる(Beyond Lies the Wub)」も読んでみよっと。 -
第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終わった後のアナザーワールドを舞台とした物語。1962年の作品。
この世界では、戦勝国であるナチス・ドイツと大日本帝国が世界を二分し実効支配している(第三帝国、太平洋連邦)。ナチス・ドイツは、ユダヤ人排斥を強力に推し進めるなど相変わらず恐怖の帝国で、野心的に宇宙開発を進めるなど技術でリードし、日本を核攻撃で殲滅する「タンポポ作戦」など物騒な計画も持っている。一方、日本は東洋思想が支配する真面目で堅実な国。「易経」に基づく占いを重視し、筮竹、道(タオ)、陰陽などが日常生活に溶け込んでいる。何故か、アメリカの古美術や骨董品の収集マニアが多い。
という訳で、総じて日本人はドイツ人に比べ好意的に描かれている。このような世界に登場する(ユダヤ系を含む)アメリカ人(古美術商のロバート・チルダン、職工のフランク・フリンク、その元妻ジュリアナ・フリンク等)は、卑屈で、屈折していて、退廃的。
本作中に、連合国側が勝利した後の架空の世界を描いたベストセラーSF小説「イナゴ身重く横たわる」が登場する(第三帝国では発禁)。その作者(アベンゼン)はドイツ側エージェント(ジョー)に命を狙われるが、ジョーといい仲になったジュリアナがジョーを殺害して事なきを得る。
日本を核攻撃で殲滅する「タンポポ作戦」の存在をドイツ国防軍の情報部員(バイネス)から知らされた、太平洋岸連邦の役人の田上は、ドイツ側の襲撃者を殺害した際に心を病んでしまう。
この他、古美術を巡る贋作事件や、オリジナル装飾品ビジネスの立ち上げエピソードなどが脈絡なく絡んでくる。とにかく、ストーリーが混沌としていて、オチがあるんだか無いんだか。
独特の世界観はたっぷり味わえるが、なんとも複雑な読後感だった。 -
第二次世界大戦に枢軸側が勝利していた世界――の
アメリカを舞台にした改変歴史SF小説。
敗戦国民として自尊心を傷つけられた
アメリカ一般市民の暮らし、
反目し合う日独の駆け引き、スパイや暗殺者の策動、etc.
もし連合国が勝利していたら……
という内容の小説『イナゴ身重く横たわる』が
ベストセラーになると共に一部地域では発禁になっている世の中で、
その本と占筮に導かれて接触したり擦れ違ったりする人たちの様子。
しかし、全体的に地味な群像劇で、読んでいると
自分が高い場所から箱庭を見下ろしているような気分に
なってくる。
タイトルは作中での『イナゴ身重く横たわる』の著者が
身を守るために堅固な城にも似た屋敷で暮らしているという噂に基づく。
結末は、途中から漠然と予想していたとおりだった。
時間が経って読み返せば
スルメのようにジワジワ旨味が感じられるようになる、のかな(笑)? -
ナチスドイツと大日本帝国が戦勝国となった世界で、アメリカ、サンフランシスコを舞台として様々な人種が戦争の意義を背景とし社会に翻弄される。「もしもアメリカとイギリスが戦勝国となっていたら」という内容の小説を通底させ、現実と小説、工芸品・人物真贋に捻れを加える。現実に迷った時、指針となる易経が印象的だ。日本文化が受け継ぐ中国文化、道教の無。ナチスドイツの内乱、工業と宇宙開発。多様な人種、性格、身分が交錯し、人間性と歴史性の境界を描く。人は、真実、現実に直面した時、それを勇気を持って受け入れられるか。
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ディック祭 2冊目。
第二次世界大戦で、枢軸国側が勝ったら、という改変歴史SFモノ。さらに、その世界で、「連合国側が勝ったら」という改変歴史SFモノがベストセラーになっている、という、でディックならではのねじれた物語。
お得意の「本物/偽物」について、それを見分けるのは、「史実性」。その「モノ」がどういう歴史を経たかということ。でも、それは、見ただけではわからないもの。
つまり、「モノ」がそれ自体の価値ではなく、物語が価値をつける、という「ガジェット化」。
そして、「本物」が大量にコピーされるとき、「本物」の持つエッセンスが薄くなった「残り香」だけが大衆に広まる、という。つまりは大量コピーによる「キッチュ化」。
そのキッチュ化を拒むのが、実際は、大衆消費社会を作り上げたアメリカ人というのがなんとも皮肉っぽい。
易については、・・・よくわからない。ディック自身が易で物語の筋を決めたのではなかと思うようなだらだら感。でもディックのぐらぐら感は少なめ。