禅銃(ゼンガン) (ハヤカワ文庫SF ヘ 3-1) (ハヤカワ文庫 SF 579)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150105792

感想・レビュー・書評

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  •  ワイドスクリーン・バロックなる術語はブライアン・オールディスがそのSF史書『十億年の宴』でチャールズ・L・ハーネスの作品を評して作り出した言葉だが、件のハーネスがほとんど訳されないまま、この術語が日本では一人歩きして、やれこれはWSBだ、いやそうじゃない、といったことになっている。
     ここでオールディスがバロックという言葉を使ったところがミソで、17世紀の芸術をロココの時代の人々が、悪趣味、品がない、装飾過多、複雑で難解、節度がないと腐したのがバロックなる言葉なのだ。
     で、ワイドスクリーンのほうは、地球から事象の地平線まで、宇宙開闢から終焉まで、とにかく大広敷を広げたといった意味で、大長編や連作でワイドスクリーンな世界を緻密に構成していくのではなく、1冊で一気に宇宙の果て、時間の果てまでいてしまうほうがWSBらしい。などとWSBの定義を述べ出すと収拾が付かなくなる。
     とはいえ、これがWSBといわれる作品はいくつかあって、この『禅銃』もそうである。
     まず登場するのが、銀河帝国宇宙軍の提督アーチャー。彼の副官がミニサイズの象。もうこの辺りからずっこけているのがよろしい。彼は年貢を納めない惑星を懲らしめに来ているのだ。年貢とは何かというと、芸術的才能を持った人間たち。彼らを帝国中心に連れて行くのが使命。というのも出生率の低下で、人間が少なくなり、動物の知能を高めて、二級市民にしているのだが、動物には創造性がないので、創造的な人間は辺境から搾取してこないと、帝国の芸術的水準が維持できないという、大変頽廃した帝国なのだ。コードウェイナー・スミスみたいな設定だが、あんな華麗さはなくて、まるで動物農場。人間の兵士も人材難で幼児が砲塔を操っている。
     さてスケールがでかいWSBでは、個人など消し飛んで主人公もはっきりしないが、重要な登場人物の一人が〈小姓〉池松八紘、伝説の戦士、もののふである。といっても彼は全身に火器を装備したガンダムみたいな出で立ちだ。そして、禅銃は木製のちっぽけな銃だが、どうやら詫び寂びを極めた〈小姓〉にしか十全には扱えないらしい。禅銃の力は最後になって明かされる。
     他方、禅銃の機能は本書のトンデモ宇宙論と関係している。つまり宇宙の粒子間には引力ではなく斥力が働いているという理論である。2つの粒子が一見引き合っているのは、宇宙の他のすべての粒子から押されているからだというのである。等々のアイディアを投入し、帝国の覇権、銀河帝国の興亡などが、伏線をあやなして、あれよあれよと話は終わる。最近の分厚いスペースオペラよ、反省せよとばかりに。

  • やっぱりベイリーは最高

  • 前にワイドスクリーンバロックと呼ばれる作品をまとめて
    読んだ時にリストからもれてしまった禅銃を改めて読んだ。

    この作品は日本趣味やナンチャッテ物理理論をどうこう言う
    ことなく、イメージとアイディアの奔流をひっくり返した
    玩具箱を楽しむ感覚で味わえば良いのではないかと思う。
    膨らませようと思えばいくらでもできそうなところをこの
    程度の分量に収めているところにセンスを感じる(笑)。

  • 作者の作品は初めて読んだがすごいSFだ
    宇宙最強の銃「禅銃」と退廃する銀河帝国の崩壊という話ではなく
    後退理論などの小道具が素敵
    ファンタジー小説としては楽しみにくいが
    そうあるべく書かれた話でないから仕方がない



  • mmsn01-

    【要約】


    【ノート】

  • 全くのれずリタイア。ベイリー作品って合うあわないがあるのか・・・

  • 作者はもっと日本の文化を勉強しろ
    表紙   6点木嶋 俊
    展開   5点1983年著作
    文章   4点
    内容 550点
    合計 615点

  • 銀河帝国に謎の超強力兵器に動物の人間化にと多くのガジェットを組み込んだ話。主人公がやっと動いたと思ったら話が終わってしまう。禅銃の説明はテロリストの肯定なのではないか

  • タイトルとか背表紙の粗筋とか、スケールデカそうな予感がするけど、全然そんなことなくて身構えて読み始めたら肩すかし。でも、スゲー面白かったよ。宇宙船同士の艦隊戦もあるし、別次元の知性体もいるし、超兵器も超人も出てくるし、そうやっていろいろ詰まってるわりにはどれもあっさり描いちゃってて展開がスピーディー。気軽にSF読みたいときにはおすすめ。

  •  SFは他のジャンルに比べて日本文化の「海外進出」が盛んな気がする。
     例えばクリス・ボイスの『キャッチワールド』では宇宙艦を指揮するのが田村艦長であったし、イアン・ワトスンの『デクストロII接触』では異星人とコンタクトを行うのが言語学者の高橋恵子だった。ニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』は主人公のピザ配達人ヒロをはじめとして日本趣味が散見される。あとはウィリアム・ギブスンによる問答無用の超有名作『ニューロマンサー』は日本文化がガンガンフィーチャーされている(この影響から映画『マトリックス』では日本的なものがちょくちょく登場したのである)。こうしてみると名作も怪作もいろいろあるなあ。
     今パッと思いついただけでもこれだけ出てくるのである。純文学やミステリーの海外作品で、こんな風に日本のものが重要な役割をもって登場する作品はあまり見かけないように思うのだ。だって日本では2007年に世界SF大会がアジアで初めて開催されたくらいだ。

     そんな訳で本作である。『禅銃』とかいて『ゼン・ガン』と読む。いろんな意味ですごい小説である。
     宇宙で繁栄を誇った銀河帝国は斜陽の時を迎えていた。そんな中、銀河の一角で究極の兵器「禅銃」が出現、これが銀河帝国に危機をもたらすという情報が駆け巡る。
     騒然とする銀河帝国だが、そんな折、宇宙規模の異変が観測され…。宇宙を駆け巡る奇想天外な宇宙SF。

     壮大なスケールの物語、悪趣味な合成生物、奇妙な超未来の社会構造。へんてこなSFばっかり書くことで有名なバリントン・J・ベイリーだが、本作は極め付きである。
     謎の兵器「禅銃」も相当ヘンだが、もっとヘンなのは物語で重要な役割を果たす超戦士である。銀河にその名を轟かせる完全無欠の戦士についてベイリーはなんと「コショウ(小姓)」と名付けているのである。ここでサムライでもニンジャでもなく小姓を選ぶところが何かズレている。これが日本文化を誤解しているのか、わかっててひねっているのかはよくわからない。逆にものすごく日本文化に精通しているゆえにこんな単語が出てくるのではないかという気もする。
     ただし、この物語に登場する小姓・池松八紘はめちゃくちゃカッコいい活躍をするぞ!妙な登場人物の中でなんか頼れる感じである。だってとっても強いのだ。ちなみに彼の甥っ子は「審美庵(シンビアン)」という。
     日本趣味がこういう形で宇宙SFに溶け込むとは、すごい力技である。

     その他にもウソかマコトか(もちろんウソに決まっているが)画期的な物理理論「後退理論」については巻末に解説まで付されている念の入りようである。
     そんな訳でなんだか不思議な雰囲気の奇想SFだが、ハマってしまえば中毒に近い症状をきたすのではないか。
     そしてこんなへんてこな物語で宇宙へ連れて行ってくれるのがSFの醍醐味でもある。

     まだまだ長らく読み継がれていきそうな勢いだ。星雲賞受賞作。

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