所有せざる人々 (ハヤカワ文庫 SF 674)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (513ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150106744

作品紹介・あらすじ

恒星タウ・セティをめぐる二重惑星アナレスとウラス-だが、この姉妹星には共通点はほとんどない。ウラスが長い歴史を誇り生命にあふれた豊かな世界なら、アナレスは2世紀たらず前に植民されたばかりの荒涼とした惑星であった。オドー主義者と称する政治亡命者たちがウラスを離れ、アナレスを切り開いたのだ。そしていま、一人の男がアナレスを離れウラスへと旅立とうとしていた。やがて全宇宙をつなぐ架け橋となる一般時間理論を完成するために、そして、ウラスとアナレスの間に存在する壁をうちこわすために…。ヒューゴー賞ネビュラ賞両賞受賞の栄誉に輝く傑作巨篇。

感想・レビュー・書評

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  • SF小説の必読書と言われる本書。SFファンとしては読まずにはいられない!ということで読んでみた。

    果たして、必読かと問われれば、微妙かもしれない。SFファンとしてはそれなりに楽しめたけれども、人に勧められる自信があまりない。

    何しろ長い。560ページだ。しかも本書の構成は少しトリッキーで、過去と現在が交互に描かれる。

    主人公がアナレスという星で暮らしていた過去と、ウラスという星にやってきた現在は、各々数十ページの文量を割いて交互に登場する。

    そんな構成のせいか、個人的に面白いと感じ始めたのが400ページ辺りからだったw

    しかも、さすがのル・グィン。文化描写に余念が無い。人々の生活や思想の説明がこれでもかと描かれるので、苦手な人は苦手だと思われる。

    そんな本書の最大の特徴が何かと問われれば、「文化の越境」かもしれない。

    (長くなってしまうので省略。続きは書評ブログに書きましたのでそちらでどうぞ)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BA%BA%E9%A1%9ESF%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E5%B3%B0_%E6%89%80%E6%9C%89%E3%81%9B%E3%81%96%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%80%85_%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%82%A3%E3%83%B3

  • 読み終わってしばし呆然。ずっしりと重い課題と、ひとかけらの希望を飲み込んだような気分。SFという括りを超えた名作だと思う。
    ウラスとアナレスの双子星が舞台。ウラスは自然豊かで長い人類の歴史を持つけれど、競争主義社会で貧富の差がどうしようもなく広がっている。対するアナレスは荒涼とした植民星で、人々は協力し合い、飢えと闘いながら必死で生きている。一見すると共産主義礼賛のように捉えられてしまうのか、発表当時は作者の政治的思想に対して様々な批判があったらしい。私には、現代の政治的イデオロギーなどを超えた、普遍的な問題提起だと感じた。もっとも作者は、問題提起など全く意図していなかったらしいけれど。
    主人公が述べた、「誰かが飢えている一方で、他の誰かが腹一杯食べているということはあり得ない」というアナレス星を表した言葉が心に残る。今、世界は「ウラス的」な方向に向かいつつあるのではないか。人類にとってのユートピアとは?それを実現するために、人間の「所有する」欲望をどのように扱っていくのか?作者の意図を超えて読み手に様々な課題を突きつける、希有な本だと思う。

  • 小説とは人間を描くものである、というル・グィンの言葉通りの本。
    主人公シュヴェックを語るためにアナレスとウラスという二つの世界があり、本書が存在する。
    個人的には彼の親友であるベダップが凄く印象的でした。終始一貫してシュヴェックの視点で語られる物語において、例外的にべダップが語る場面が存在するからでしょうか。
    彼が持ち得ない(という言い方はこの本だと不適切ですが)「それ」に対する気持ちにシンクロしてしまってしょうがなかったです。彼の話が読みたい。
    あと姉妹短編の「革命前夜」も読み返さなきゃ。

  • 理想の社会構造ものって言っていいのか
    貨幣なし世界だとどうなんだろうと思うけど、その1つのあり様が描かれた作品
    お金のことを考えないとどこまでできるのかと言うのは考えたことはあるけど、この作品はソ連みたいな社会主義の顛末を念頭に置いたものっぽい。
    プロジェクトヘイルメアリーや機本伸司さんの僕たちの終末みたいにお金のこと考えないと凄いことできるみたいな可能性じゃなくて、継続的な生活が描かれていた。

  • ・・・うーん・・・これは評価が難しいですね。本質的に、SFではありません。SFのフォーマットを土台にした思考実験です。いや、それこそSFか・・・。
    と、悩みながら、読了1ヶ月が過ぎようとしております。

    社会科学系SFの傑作と評されている作品です。
    ル=グィンがこの作品を描いた当時の社会情勢に鑑みて、資本主義の象徴たるウラスと共産主義の象徴たるアナレスを対比して共産主義を称賛する作品である、と表層的な評価をすることも可能な作品ではあります。
    ウラスとアナレスの兄弟惑星(物理的には兄弟ではあるが、社会的には隔絶の彼方にある両星)の社会描写が流石のル=グィン節で、とにかく重厚にして精緻。登場人物の心理描写も丁寧です。その分、ストーリー展開は遅々として進まず、主人公・シェヴェックの心身の動きにだらだらと付き合って、最終的によくわからないラストシーンに至る・・・という、小説としては不完全燃焼極まる作品です。

    鴨的には、一読しての印象は、資本主義/共産主義の対立項は正直どうでも良いな、と思いました。
    ウラスでもアナレスでも、シェヴェックにとって心の休まる場所はない。ウラスでは自身が打ち立てた研究成果を横取りされて絶望し、アナレスならこの成果を広く人類社会に周知できるはず、と意気込んで亡命したものの、アナレスはその成果を金に変えようと企む者たちばかりだった・・・ここでも絶望し、ウラスに残る妻と子の元に帰還することを望むシェヴェックの姿を描いて、この物語は幕を閉じます。

    ・・・厨二病かよヽ( ´ー`)ノ

    と、リアルな資本主義社会に生きる鴨は、思ってしまうのですね。
    主人公シェヴェックの価値観がブレまくり過ぎて、結局自分自身の小さな王国を守りたいだけじゃん、と。
    ・・・まぁ、でも、人間って、そういうもんですよねヽ( ´ー`)ノ

    理想主義に満ちた作品です。ル=グィンも、その辺は重々承知して書ききった、大人の寓話だと思います。
    社会経験を積んだこの歳になって読むことができて良かった、と鴨は思います。若いうちに手を出せる作品じゃないなー。

  • なんだろうこれは。すごいものを読んでしまったのに、この本の世界は、私たちのいる現実であってまったくの異世界でもある。
    この本の「人間」というものが、わたしたちと同じ形をしているかもわからないのに、悩んだりそして(まやかしであっても)解決策を見つけようとしたり、他を上と見たり下と見たり、またはそういう上下関係が全ていやになったりすることは普遍的な問題であって、それが描かれているために、異世界の話なのに妙に身近な問題の手ざわりがする。

    集会シーンは、ハクスリーのすばらしい新世界のオマージュかなと思った。

  • 最初はなかなか慣れず、アナレスとウラスのセクションの時間軸が今ひとつわからなかった。最後まで到達してようやく理解でき、読み終わった直後にもう一度読み直した。

    『闇の左手』にも記載したが、そもそもル=グィンのハイニッシュシリーズはSFというジャンルなのだろうか。
    確かに異星の物語で近未来という意味ではSFだが、文化や人に焦点が当てられていることを考えると、異星というのはただの舞台に過ぎないように感じる。

    ル・グィンの素晴らしい点は、やはりその精密な世界構築だ。描く世界の文化や気質、時には歴史など、説得力のある世界を描く。今回は一般に資本主義の象徴のように語られるウラスと、共産主義のアナレスという2つの世界だ。
    もちろんフィクションなので、これら2つの世界はある意味極端で、それをもとに現実の世界を語ることはできない。思考実験的な要素もあるのかな、と思う。
    ただ、どちらの世界にも理想と現実があり完全ではない描写は、物事を二元論で語りがちな私達には少し立ち止まって考えさせるきっかけになるのではないだろうか。

    描かれるアナレスとウラスは、ハイニッシュ・ユニバースの中では比較的文化的発展途上にあるようだ。作中にはおそらく地球であるテラという星が登場するが、テラは若干発展しているようで(西暦2300年らしいが、地球人はあと300年でここまで成熟できるだろうか?)、むしろアナレスとウラスに現在の地球の世界を投影してしまう。ナショナリズム的思想が強くなっている現在はなおさらだ。

    さて、主人公シェヴェックはアナレスとウラスの両世界を知ることによって、本当の、そしてこの世界で唯一のアナーキストになったわけだが、彼はこれからどう世界に影響を及ぼすのだろうか。

    改めて作品だが、異なる時間軸の2つの世界を交互に描くという手法は、もしかしたら読者に混乱をもたらすかもしれない(少なくとも私は混乱した)が、最後にここに到達するのか、という種明かし的効果があり、クライマックスを盛り上げる方法としては素晴らしいと思う。なるほど、と頷くラストだ。

    主人公は、私には少々偏屈な人物に思え感情移入は難しいが、ウラスに向かう、あるいはウラスで貧困層を探しに出かけるためには必要なキャラクターだったのだろう。

    とても素晴らしい作品だとは思うが、若干私には難しく心を動かすまでには至らなかったので、私的には★4。
    私にもう少し賢さがあれば★5だったかも。

  • 所有を悪とする国は既に地上にあるのでSFでない

  • 1974年のSF作品。

    ウラスとアナレスは二重惑星。170年前、オドー主義者たち(無政府主義者、国家権力を否定し、所有や競争、貨幣、結婚制度、刑罰を排除し、小グループ同士が相互に助け合う社会を目指す人々)が、緑豊かな星ウラスから砂漠の星アナレスへと移住した。

    中央集権を廃しながらも厳しい環境を生き抜くための互助システムをアナレス構築したオドー主義者たちだったが、時を経るにつれて、当初の理念とは裏腹にお互いを忖度し合う窮屈な社会(「自分の自由を尊重するよりも、隣人の思惑を惧れ」る社会)、異論や改革を受け入れない保守的な全体主義社会に成り下がってしまった。

    そんな中、傑出した才能を持つ物理学者シュベックは、研究成果を認められず、発表できず、成果を搾取され、ポストを剥奪され、と散々な扱いを受ける。

    状況を打破すべくウラスのア=イオ国へ亡命した(厳密にはア=イオ国のアカデミアに招聘された)シュベックは、学者として厚遇されるものの、厚遇の裏には彼の「同時性理論」入手という営利(軍事)目的が隠されていた(「同時性理論」が完成すれば、星間を即時移動できる道が開ける)。営利に利用されることを嫌悪したシュベックは、理論の完成を待って管理下から抜け出し、市民運動に身を投じる。

    以上のような内容で、とにかく読み終わるのに時間がかかった。結構読みにくかったし、物語の進行も遅かった。物理学者の主人公が打ち立てた架空の物理理論「同時性理論」がちんぷんかんぷんなのはいいとして、主人公の哲学的な独白にもわけわからない部分がちらほら。主人公シュベックが、頑固で激情家でかつナイーブという、あまり好きになれないキャラで感情移入もできなかった。本書、手にとって失敗だったな。

    著者は、異星を舞台としたSFという形式を借りつ、理想のイデオロギーや社会システムが何なのかを問いたかったのかなあ。東西冷戦期の作品でもあるし。あと、女性差別に対する批判が随所に見られるのも、女性作家ならではと思った。

  •  人間にとっての理想郷はどこにあるのか? この小説の主人公であるシュヴェックとともに、読者である自分もそんなことを考えていました。

     経済の繁栄した自由主義・資本主義的な惑星のウラス、自由や平等をモットーに荒廃した惑星を切り開いてきた、共産主義的な惑星のアナレス。

     歴史、政治、文化、言語……、回想と現在を行ったり来たりし、二つの惑星の違いを丹念に浮かび上がらせていく、その詳細さは、本当に二つの世界があるように思わされます。

     シュヴェックは共産主義的な惑星のアナレス出身。そんな彼は、経済や文明が繁栄しているウラスの光、そして闇も先入観なく見つめます。時間や仕事に囚われ、芸術にすら価値をつけ、自由なはずなのに資本を所有し、拡大させることを生まれながら義務づけられたウラスの人々。

     シュヴェックのウラスの人々に感じる疑問は、そのまま今の世界を生きる自分たちの矛盾点をついてきます。

     しかし平等や共有を謳い「所有せざる」ことを美徳としてきたウラスも、その理想通りにいかない現実があることが、シュヴェックの回想から徐々に浮かび上がってきます。それは気高い理想を持ちながらも、保身や欲から逃れられない人間の限界を示しているように思います。

     では結局、理想郷は無理なのか。僕個人的には悲観的なのですが、でも物語の結末を見ていると、こういう人たちが一人でも多く増えれば夢ではない。そんな風に希望のボールを読者に委ねる、そんなラストだったように思います。

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著者プロフィール

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)
1929年10月21日-2018年1月22日
ル=グウィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。
代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。
(2018年5月10日最終更新)

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