母なる夜 (ハヤカワ文庫 SF 700)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107000

作品紹介・あらすじ

第二次大戦中、ヒトラーの宣伝部員として対米ラジオ放送のキャンペーンを行なった新進劇作家、ハワード・W・キャンベル・ジュニア-はたして彼は、本当に母国アメリカの裏切り者だったのか?戦後15年を経て、ニューヨークはグリニッチヴィレジで隠遁生活を送るキャンベルの脳裡に去来するものは、真面目一方の会社人間の父、アルコール依存症の母、そして何よりも、美しい女優だった妻ヘルガへの想いであった…鬼才ヴォネガットが、たくまざるユーモアとシニカルなアイロニーに満ちたまなざしで、自伝の名を借りて描く、時代の趨勢に弄ばれた一人の知識人の内なる肖像。

感想・レビュー・書評

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  • レーベルはSFだけどSFではないんだよね…
    ある種問題作かもしれません。
    (まあ仮の人物としてがSFか?)

    一人の二重スパイがこの状況にまで
    至るまでのお話。

    結局言ってしまえば、
    戦争というものは様々な憎しみの種を植え付け
    どこまでも暴走していくということ。

    まあそれでもこのキャンベルは
    うまく立ち回ったとは思うのよ。
    じゃなきゃ最初につかまった時点で
    とっくに絞首刑になっているので。

    そして一時の幸せであろう生活までもが
    途中で暗転してしまう恐ろしさ。
    それが彼にとっての「報い」だったのかもしれません。

    結局は彼は望んで
    延長されていた罪を受けることになります。

    そうなるとどんなにすごい人でも
    あっという間に牙をむいてくるということ。
    それはズッ友と信じていた人まで。

    戦争はむごい。

  • アメリカのスパイとしてナチスドイツに仕えた男が、戦中・戦後の出来事について綴った手記という形をとっている。一人称でありながら、心情はとてもドライに描かれる。ハードボイルド的といっても良いかもしれない。彼はユダヤ人迫害の正当性など何一つ信じていないのに——彼自身が言うところの分裂症的に——表向きは完璧にナチスの手助けを続ける。生き延びるために罪を背負わざるを得ない、このような人物を一体どう捉えればよいのだろう。どこまでも辛い物語だが語り方には優しいまなざしが感じられ、そのギャップが強く印象に残る作品だった。

  • 第二次世界大戦について、欧米の人々の考え方や捉え方が少し垣間見えた気がした。章が短くて読みやすいし、これからどうなっていくのか気になってさくさく読めたけど、思想的には難しくて深いところまでは楽しめなかった。

  • 人生において自分が何の役なのか、自分の役は善悪どちらなのか、自分を見つめる周りの目にはどう映るのか、それを知らないまま生きることも幸せな人生の一つの答えなんじゃないかなと思う。 それを知り、生きる意味や目標を追求することは普遍のテーマだけど、その達成は同時に失う事も所有することとなり、誰もが小さなレシと同じ結末を迎えることになると思うから。

  • なぜ人はこうも寂しいものなのかという事をつくづく感じるばかり。畳み掛けるユーモアの効いた皮肉にズキズキ心が痛む。

  • 名作だがこれは自伝である
    表紙   7点和田 誠
    展開   6点1961年著作
    文章   6点
    内容 600点
    合計 619点

  • ヴォネガットの他作品と違って、
    SF的寓話性もスプラスティック的展開も無い。
    シリアスで痛切。

    国家の正当性を求める闘争=戦争は、
    個人の意思を無効化し、
    善と悪の概念さえも形骸化する。

    あまりにもリアルだった「偽りの扇動」、
    あまりにも密やかだった「国家的任務」。
    争いが終わると、後者を証明するものは何もなく、
    人々の記憶には憎悪を伴い前者だけが残される。
    主人公の正義は、運命の業火になすすべもなく燃えつくされる。
    それでも、作家である自分自身と個人の意志の存在を証明するかのように、
    自分の結末を自ら演出するラストの切なさは、
    前作「タイタンの妖女」にも通じる。
    タイタンのラストシーンには美しく叙情的な舞台が用意されていたのに対し、
    本作のそれは、
    乾ききった無機的な空間。

    「わたしは放送屋として、ただ滑稽なお笑いを提供するつもりだったが、この世界でナンセンスを楽しむなんて至難の業だ。なにしろあまりにも多くの人が笑うのをひどくいやがり、ものを考える力をすっかり失い、信じて、ののしって、憎悪することばかりを熱望していた。あまりにも多くの人が、わたしの言うことをまともに信じたいと望んでいたのだ!」

  • 自分の生き方を持っているからこそ、何も考えていない者を嘲笑う様子が考えさせられる。この作者はユーモアに関しては誰にも負けない物を持っているように思う。この作品では、終わり方が無情であるということもあり、深く印象に残って消えない。

  • うー、なんだかとても切ない気持ち。スパイ小説、ということらしいけど。いつ刑に処してもらえるんだ?ってこっちまでじんわりと悲しくなる。軽やかでおかしさを誘う文章がまたたまらん。すごく好み。アウフ・ヴィーダーゼーン?

  •  今までに読んだ彼の作品の中で最も好きな作品。
     主人公はアメリカのスパイ。戦争を責任、罪、罰等でかたずけられず、感動的というより、悲しくせつない小説。
     彼はこの小説の中で、人間の曖昧さ、理性というもののいい加減さを露骨にする。誰も自分を真にコントロールすることはできないということ感じさせられる。そんな中で素朴さに価値を求めるか、多くの変化・非日常性を求めるか、無意味さを感じ全てを断ち切るか、ただ生きるのか。
     主人公は言う。皆は自分が何をやっているのかを理解しているのだろうか?自分に自信をもっているということは「自分は一体何をやっているのか分かっていない」ということに他ならないのではないのだろうか?と。
     でも、そんな中で生きる人の素晴らしさを感じさせてくれる作品だった。

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