たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫 SF 739)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107390

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  • 大学図書館の司書が、連邦草創期のヒューマン(人間)のファクト/フィクションを調べているコメノ(という種族)のカップルに三つ選んであげる、
    という形で中編三話を並べた形式。

    ※「ファクト/フィクション」とは、重要な事件や時代をとりあげて、既知のディテールのすべてをそこにぶちこみ、ドラマティックな物語に再構成したもの。
    それによって歴史が記憶しやすくなるという。



    〇第一話「たったひとつの冴えたやりかた」

    ストーリーを一文でいうと、
    「冒険心の強い少女が宇宙の辺境を旅して、脳に宿った生命体と友情を育むが、自我が制御不能になる前に共に犠牲になることを決意する」


    主人公:コーティー・キャス(16歳)

    ライバルもしくは協力者:シロベーン/シル(イーア、イーアドロンという種族)



    What if ~(もし~だったら? セントラルクエスチョン)

    もし脳に寄生する生命体がいたら?
    もし自分が自我を失い、他人に害を及ぼすことが確定的になったとき、残された時間でできることは何?


    What(何を描いているか? テーマもしくはコンセプト)

    自己犠牲と友情の尊さを描いている。


    How(自作にどう活かすか?)

    単なる自己犠牲だけではなく、そこに友情や愛情などの絆もえがくことで、感情が大きく動く。



    〇第二話「グッドナイト、スィートハーツ」

    一文でいうと、

    「回収救難官の男が、現場で偶然出会った昔の恋人とそのクローンを救うために、宙賊相手に命を懸けた危険な行動をする」


    What if

    もし、自分を含め三人のうち二人しか命を救えないとしたら、時間がない中でなにを基準にどう選択するか?


    What

    崇高な自己犠牲的行動が成功した直後に、一攫千金か昔の恋人か、どちらを取るかという俗なことで迷ってしまうのが人間というものだ。


    How

    人間の崇高な部分と卑俗な部分を同時に描くことで人間性の深みを表現できる。



    〇第三話「衝突」

    一文でいうと、
    「異星人同士のファーストコンタクトで、誤解や犠牲などを払いながら、カタコトのコミュニケーションで全面戦争を防ぐ」


    主人公は不明確だが、ヒューマンとジールタン(という種族)のホームと現場でそれぞれ主要な人物がいる。

    ヒューマン:連邦900(基地)ポーナ 現場:トーラン、船長

    ジールタン:カナックリー 現場:ジラノイ



    What if

    敵意を持ち、言葉もあまり通じない相手に最後まであきらめずに向かい合って、争いを回避できるか?


    What

    自分と異なる存在とわかりあうことの難しさと、相手に信じてもらうためには、自分から信じることが大事だということ。


    How
    争いごとは、ほんの些細な行き違いで起こる。あきらめずに粘り強くお互いを信頼しようと努めることで争いは回避できる。



     

  • 極限状態での選択をテーマにした3つのストーリーを納めた一冊。SFであるが、描かれるシーンやそこに流れる問いはリアルである。あとがきで語られる訳者の言葉もまたこの作品の底流を暗示する。

  • 地球人が宇宙を自由に飛び回るSF的背景を持った世界での連作短篇集。「たったひとつの冴えたやりかた」「グッドナイト、スイートハーツ」「衝突」の三篇。どれもものすごく好み。こんなに素晴らしいとは…。三篇とも図書館司書が学生に、論文執筆の参考のために案内して、物語が始まっていくという形式。この形式もちょっと面白い。

  • どの話もすごく引き込まれる!
    見立て通り、非日常気分にどっぷり浸かることが出来て、旅の供には最適だった。
    3作品の中でもとりわけ表題作の後引く読了感が忘れられない。それにしても、本当にセンスの良いタイトルだなあ…。

  • 人間とエイリアンの関係性を描く短編集。

    「たったひとつの冴えたやりかた」
    いたるところで散々パロディに使われているのは知っていたが、未読だったので今回が初読である。当初はハートフルなSF冒険譚のイメージだったのだが、中盤でのホラーへの変容、そして最後の悲劇的な結末には驚いてしまった。エイリアンとの初遭遇はワクワクする反面、何もかもが人間と違うということを思い知らされる。当然ながら言語体系はおろか精神構造も肉体構造も違うため、接触には当然ながらリスクが存在する。頭のなかに住み着いたエイリアンとの意気投合から始まるが、まさかその寄生生物が人類の存亡を賭けた厄災になるとは露ほども思いもしなかった。巧みなのは、この作品には明確な悪役が存在しないことである。シロベーンは抗いようのない本能に従っただけだし、主人公の少女コーティーは冒険心を抑え切れなかっただけである。この抑え切れなかった感情の衝突が、悲劇に繋がったとも言えるが、これは単純な悲劇や自己犠牲の物語ではない。種族を越えた友情を証明するための最初で最後の決断なのである。それこそが「たったひとつの冴えたやりかた」なのであろう。ある種の不幸なめぐり合わせによって若い才能が潰えるというのはまさに悲劇なのだが、それに対して恨み言の一つも言わないのは、物悲しいが非常にクールだ。星の名前にコーティーと付けるのはやや蛇足かつ感傷的すぎた気もするが、この悲しくもすっきりとしたオチは非常に気に入っている。

    「グッドナイト・スイートハーツ」
    最終戦争の記憶を消し、冷凍睡眠を繰り返してはるか先の時に生きている男レイヴン。そんな彼が燃料切れの豪華宇宙船船を発見する所から物語は始まる。パルプSFの三文スペースオペラめいた軽薄さが漂うが、美容整形で美しさを保ったかつての恋人と若々しいそのクローン、奴隷首輪商人も巻き込んでのアクションシーンは見ごたえがある。船内を掻き回す釣り竿のような武器に、服剥がしガスとガジェットも面白い。最後の最後で夢見た宝のサルガッソーへ行くか、美女を取るかの選択肢、謂わば自由か愛かの二択を迫られるという、全編に渡って男のロマンを詰め込んだような短篇だった。

    「衝突」
    表題作と同じく、異星人とのファースト・コンタクトを描いた本作であるが、こちらは戦争の到来を予感させる二つの星の緊張関係があり、前者に比べてはるかに意思疎通の困難さがある。表題作と同じ、メッセージパイプを受け取るヒューマンの視点から始まるが、このメッセージパイプというややアナログ過ぎる仕掛けが面白く、何光年と離れているため、届くのに時差があり、受け取った瞬間にはもう事態が起こった後というズレが味わい深い。作品的な仕掛けとして見ると少々薄い味付けだが、このタイムラグが緊迫感や不安感を生む装置としての役割を果たしているのだ。今回は生活習慣や生物的な壁に加え、今回は政治的な壁と言語の壁まであり、ファーストコンタクトの難しさがヒシヒシと伝わってくる。暗黒界の人間と探査員の人間の「違い」が他種族に中々伝わらず、戦争寸前にまでなるが、犠牲者を出しつつも物語は大団円を迎える。表題作のような突飛なアイデアが実を結ぶのではなく、ここに至るまで数多くの奇跡や偶然が重なり合い、天秤が和平へと傾いたというのが非常に面白かった。クルーが殺されても、なおエイリアンを信じようとし、和平への道を模索する主人公には偽善めいたものは一切感じず、むしろ仲間が死んでもそれを交渉の材料にする強かさすら感じる。ただそれはドライな決断などではなく、死んだ人間も生きた人間も誰も戦争を望んでおらず、その意思のバトンを繋いだだけにすぎない。自動翻訳機で説明できない感情や言葉。片言の言語を駆使しての必死の説得が胸に刺さる一本である。

    甘ったるいロマンチシズムとシビアな空虚さが同居する不思議な短編集だった。それでも根底に流れているのは人間愛であり、種族としての人類、それに敬意を払う個人の意思に震えるSFである。

  • 登場人物たちは割りきりが早くクール。呆気ないほどあっさり人が死ぬ。作者の醒めた目線を感じる。

    ちなみに、この表題の話で泣かなかったら人間じゃないらしいが、わたしは泣かなかった。

  • 《目次》
    ・「たったひとつの冴えたやりかた」
    ・「グッドナイト、スイートハーツ」
    ・「衝突」

    メモあり。

  • もう一山どんでん返しでハッピーエンドを期待した

  • SF

  • 短編三話。一話目のタイトル話を読み終えて、途中で終了。主人公の考え方は興味深く、勇気もあると感じたものの、それ以上のものが入って来なかった。

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