たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫 SF 739)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107390

作品紹介・あらすじ

やった!これでようやく宇宙に行ける!16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造し、連邦基地のチェックもすり抜けて、そばかす娘コーティーはあこがれの星空へ飛びたった。だが冷凍睡眠から覚めた彼女を、意外な驚きが待っていた。頭の中に、イーアというエイリアンが住みついてしまったのだ!ふたりは意気投合して探険にのりだすが、この脳寄生体には恐ろしい秘密があった…。元気少女の愛と勇気と友情をえがいて読者をさわやかな感動にいざなう表題作ほか、星のきらめく大宇宙にくり広げられる壮大なドラマ全3篇を結集!

感想・レビュー・書評

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  • 未来の人類が宇宙を舞台に活躍するSF連作中篇、「たったひとつの冴えたやりかた」「グッドナイト、スイートハート」「衝突」収録。

    自分好みのスペースオペラ。SFの面白さを満喫できた。

    「たったひとつの冴えたやりかた」
    冒険好き少女コーティーの頭の中に、未知の宇宙人シロベーンが寄生した。2人は、行方不明になったボーニイとコーの宇宙船の救助に向かうが…。

    「グッドナイト、スイートハート」
    難破船の救助を生業とする一匹狼の宇宙船乗りレイブンは、燃料補給のためマイラⅡ号に乗り込んで、かつての恋人と再会し、大きく動揺する。

    「衝突」
    ヒューマンのアウトロー〈暗黒界〉が〈調和圏〉に属するコメノ族の星々を侵略し、非道な行為を繰り返す中で、ヒューマンの連邦は〈リフト〉聖域を横断して〈調和圏〉のジーロ・ジールタン族(1つ目で尻尾と4本の腕を持つ種族)とのファーストコンタクトを試みる。連邦は、ヒューマンへの憎しみを募らせている〈調和圏〉との武力衝突を回避できるのか?

  •  約30年ぶりに再読。川原由美子氏が表紙と挿絵を描いた初版本。若い学生のカップル(地球外生命体)が銀河連邦草創期のヒューマン(人類)の雰囲気を知りたいというリクエストをデネブ大学の図書館司書に投げかけ、司書が薦めた3編の記録という形をとっている。

     表題作は読んだことがなくても、題名は有名なので聞いたことがある方も多いと思う。この本が出版される少し前に、作者の自死が報じられ、初読のときはそれと関連付けたイメージで読んでしまった。
     今回再読したが、表題作より他の2編の方が印象に残った。特に自分も老いを感じるようになってきたせいか「グッドナイト、スイートハーツ」が。

  • 冴えたやり方:初宇宙船飛行でコーティはmsgパイプを拾い,脳寄生体シル(脳を食殺)と友になり,接触汚染を防ぐ策を打つ。
    グットナイト,SH:元カノかクローンか究極選択
    衝突:未知生物との戦争回避

  • 冒頭の場面は、異星の大学図書館。
    司書が「連邦草創期の人間(ヒューマン)ファクト/フィクションを選んでほしい」という若いカップルのレファレンスに応えて推薦した3つの物語が、本書の本編です。

    表題作は16歳の少女・コーティーがたった一人で銀河に旅立つ冒険譚。
    …と思ってわくわくしながら読み進めていたのですが、後半に行くにつれて「まさか…」という展開になり、物語の結末には茫然。
    勇敢で賢くてしっかり者のコーティーゆえの決断…と思いつつも、涙が滲むのを抑えることはできませんでした。

    3つの物語とそれを包む大学図書館パート、全編通して、著者の描き出すさまざまな地球外生命体や星々の様子に魅了されました。
    最初は見慣れない表現に「これは何のことだろう…?」と引っかかりを覚えても、読み進めて行くうちに世界観にいつのまにかどっぷり浸っていたのでした。

    しかし、個人的には著者の最期に言及されている訳者あとがきが一番衝撃だったかも…。

  •  人間の多様な側面、とくに愛や勇気に関しての内容が宇宙という広大な未知の世界で描かれてました。
     作品は3つの連作中編集で構成されていて、様々な宇宙生命が共存している世界の大学図書館でカップルの星人が連邦草創期のヒューマン(人間)に関する文書を求め、司書が3つの物語を推薦するところからはじまります。世界線が同じというだけで全体的な繋がりはないですが、どの作品も人のもつ感情的な面が浮き彫りにされていて興味深いです。個人的には『グッドナイト、スイートハーツ』が渋くて好きです。

    【たったひとつの冴えたやりかた】
     表題作にもなっており、『神様のメモ帳』という作品に出てくる「it's the only neet thing to do」という語彙の元ネタの「the only neat thing to do(原題)」でもあるらしいです。
     宇宙旅行を夢見る少女コーディが親に黙って念願の未知の宇宙へ旅立つ物語。難破船の跡を追う中でコーディは未知のエイリアンと出会い仲良くなっていく。そんな2人は難破船に迫っていき、恐ろしい問題に直面する。
     あまりにも苦痛に満ちたジレンマの果てにコーディがとった“たったひとつの冴えたやりかた”はとても切なかったです。他者を愛し、他者のために生を全うする勇気に感動しました。

    【グッドナイト、スイートハーツ】
     ガス欠した宇宙船にガソリンを届ける仕事をしているレイブン。彼は戦役後のリハビリ療法で戦争に関わるトラウマ的な記憶を押し込め忘れかけていた。ある日、一隻の燃料切れの船に燃料を届けに向かったところ、その船に乗っていたのは忘れようとした恋人だった。彼女との再会が彼に自由と愛の選択を迫る。
     世界観や雰囲気がカウボーイビバップにとても似ていてレイブンの声が山寺宏一さんで再生されました(アニメだとレイブンは敵役だけど笑)。人と人とが出会うことで選択に重みが生まれることを改めて感じたのと、レイブンの選択はとても好感が持てるような気がしたし、とても人間らしさを感じました。

    【衝突】
     未開拓の領域に踏み込んだ探測船リフト・ランナー。長旅の果てに乗員たちがファーストコンタクトしようとした異星人たちは、人間種に恨みをもっていた。同じ人間によって虐殺された異星人との対話が行き着く先は戦争か和平か、緊張感のある話。
     異星人たちから見たら虐殺を行った人間たちも、和平を求めてる人間たちも同じひとつの種族にみえる。現実にも何人は悪いみたいに言われたりするけど、個として関わると良い人に思える。人間の集団もどんな人が何をするかで良くも悪くも思えてしまうのがよくわかる話。どこまでも対話を諦めず、信じ合える道を模索するリフト・ランナーの面々に感服しました。

  • 20世紀アメリカのSF作家ジェイムズ・ティプトリ―・ジュニア(1915-1987)によるスペースオペラの連作中編集、1986年。

    どの話も好きになれない。

    □ 第一話「たったひとつの冴えたやりかた」

    集団のために自分の生命を犠牲にする行為を有意味かつ美しいものとみなす「英雄主義」の感性、そうした犠牲者を称揚する「英霊主義」の感性は、もしそこに政治的な思惑がないとするならば、ただの独善的な自己陶酔でしかない(もちろん、政治的な思惑がないからといって、政治的な効果をもたないということにはならない)。いかにも「日本人受け」する物語であろうとは思ったが、アメリカ本国でもそれなりに評価されているらしい。要は「特攻隊モノ」。この物語と同族のヴァリアントはいたるところで目にするありふれたものだが、そのプロトタイプは歴史的にどこへ/どこまで遡ることができるのかという点には興味がある。自己犠牲の物語が異様にひとを惹きつけるものであるのは事実であるから。「この小説を読み終わる前にハンカチがほしくならなかったら、あなたは人間ではない」と評されたそうだが、「感動」というのは確かに生理現象に近いものなのかもしれない。

    「あたしゾンビになって生きのびたくなんかない」(p109)。

    少女の宇宙冒険譚、という設定は面白そうでいい。なお原題は、”The Only Neat Thing To Do.”

    □ 第三話「衝突」

    この物語は、他者との関係性を構築しようとしているのではなくて、自己の内なる疑心暗鬼を他者に投影し、実際は不可能な正義の振舞いに自己を同一化させただけのものにしか思えなかった。そこにあるのは、他者を他者としてみることができずにいる、あくまで自己を主体として他者を劣位の客体のままに固定しておこうとする、独善的な植民地主義の眼差しであり、欠けているのは、自己を対象化する反省的な眼差しである。

    第一話と第三話は、どちらも末尾における後日譚の語られ方に、物語の正体(作品とそれを消費する読み手とがともに前提としているイデオロギー)が暴露されてしまっている。

  • こんなかわいい表紙なのでハッピーしかないと思ったらいろいろと切ない部分もあり。表題作がいちばん好きだったかなあ。最後のお話も好き。ふたつめはあんまり……。

    SFの、いやSFに限らないかもしれないけれどSFには必ず出てくる、現実にはないけれどその作中では当たり前となっている技術や物や文化と、作中での未知の書き表し方がすごいなと思う。作中で未知であることはほとんどの場合は現実のわたしたちにとっても未知だけど、珍しく逆(他の種族から見たヒューマンの特徴とか)があって、他種族側の目で話に入り込んでいる自分に気づいて面白くなった。世界観を楽しむのが好きなので、そこがお上手な作家さんだとまた読みたいなと思う。

    桜庭一樹さんの読書日記にも登場していたと思うので、他の作品も読みたいです。

  • タイトルだけはとあるオマージュで知っていて、18年越しにやっと手に取ることに。宇宙で繰り広げられるファーストコンタクトを描いた連作中編3作が収められている。

    SFは普段読まないので、用語や世界観を掴むのがなかなか大変だった。理解が及んでいないところも結構あると思う。文章自体はどっしりと骨のある落ち着いたもので、読みやすさを感じた。リフトと呼ばれる宇宙の境界やその向こう側の話はワクワクさせられた。そういう未知への好奇心がくすぐられる物語。

    そして、何より魅力的なのはその中で人間の営みや思考が丁寧に描かれているところ。表題作でもある『たったひとつの冴えたやりかた』は、憧れの銀河へ旅立った少女・コーティーと頭の中に住み着いたエイリアン・シルのやり取りがあたたかくも切ない。
    「もしあんたがこれからあたしになにかひどいことをしても、あたしはそれがほんとのあんたじゃないってことを知ってる」
    この言葉とシルを気遣う行動、そして人類のために下した彼女の決断には唸らされた。

    『グッドナイト、スイートハーツ』は辺境の宇宙でサルベージと救難を生業とするレイブンが主人公。冒険活劇としても楽しめるし、かつての恋人とその若きクローンと巡り合うという設定が心をかき乱してくる。窮地に立たされるレイブンたちと、その恋人への複雑な感情に揺さぶられる後半はスピード感があった。

    『衝突』はリフトの向こう側の世界とのファーストコンタクトを描いた作品。最悪の印象を持たれている中で、戦争を回避するために言語と心を一歩ずつ交わしていくシーンには息が詰まるようだった。通訳のジラが愛らしい。片言で紡がれる言葉だからこそ、その熱意が伝わってくるね。

  • 「ハンカチが欲しくならなかったら、人間ではない」と当時の書評家に言わしめた表題作をはじめ、魅力的なSF短編が3作まとまった作品集。現代の魅力的なSF作品に触れた立場からすると、前述した書評は正直言い過ぎかなという感じですが、それでもラストの展開には込み上げるものがありました。

    個人的には表題作以上に「衝突」が、ファーストコンタクトものとして非常に良くできており好みでした。文化もわからず言葉も伝わらない、けれど敵対することなく友好関係を築くために奮闘する描写がリアリティがあり良かったですね。

  • 最高。未知との遭遇。
    あっちからしたらこっちもエイリアンで、お互いに恐る恐る、でも好奇心を持ってコミュニケーションを取る場面が随所にあって、とても良かった。

    SFの魅力は、宇宙戦争とか、未知の生命体との遭遇とか、荒唐無稽なことを描いているようで、実は自分たちの世界と繋がっていることを感じさせてくれることだと思う。
    舞台は宇宙じゃなくても、紛争は地球上至る所で起きていて、他者と分かり合うことはとても困難で奇跡的なことで。だから「わかるわかる!」って部分も多くあるし、一方でスケールの大きさにワクワクもできる。

    第3部の「信じる」「友だち」の概念をどう伝えるか?のシーンは秀逸。第1部の脳寄生物体と女の子の友情の物語も良かった。

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