流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房 (1989年2月10日発売)
3.66
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784150108076

作品紹介・あらすじ

3000万人のファンから愛されるマルチタレント、ジェイスン・タヴァナーは、安ホテルの不潔なベットで目覚めた。昨夜番組のあと、思わぬ事故で意識不明となり、ここに収容されたらしい。体は回復したものの、恐るべき事実が判明した。身分証明書が消えていたばかりか、国家の膨大なデータバンクから、彼に関する全記録が消え失せていたのだ。友人や恋人も、彼をまったく覚えていない。“存在しない男”となったタヴァナーは、警官から追われながらも、悪夢の突破口を必死に探し求めるが……現実の裏側に潜む不条理を描くジョン・W・キャンベル記念賞受賞作!

みんなの感想まとめ

ある朝、男が目を覚ますと、自分の存在が消え去っていた。国家のデータバンクからも記録が消失し、友人や恋人さえ彼を覚えていないという衝撃的な状況に直面する主人公、ジェイスン・タヴァナー。彼はかつて三千万人...

感想・レビュー・書評

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  • ジョン・タウランドの『流れよ、わが涙』(涙のパヴァーヌ)をタイトルに持つ本作。作中にも触れられていて、ディックはクラシック音楽が好きなんですね。

    ある朝、男が目を覚ましたら誰も自分を覚えていない…国家データバンクからも記録が消失した”存在しない男”になっていた。男の名は、ジェイスン・タヴァナー。一般人ならいざ知らず、彼は歌手であり司会も務める、三千万人の視聴者に愛されるマルチタレント。誰もが知っているはずなのに、かつての愛人まで知らないと言う。そして、管理社会であるこの世界で必須のIDカード(身分証明書)も無い…あるのは大量の現金だけだった。

    彼は、何が起きているのか確かめるためにも、偽造でもいいからIDカードの入手に迫られ、偽造ID製造を生業にしている女性に接触します。しかし、その女性の精神異常に翻弄されて、その後は警察に目をつけられることに。警察でも彼の記録は確認できないでいましたが、フェリックス・バックマン警察本部長だけは”ジェイスン・タヴァナーは実在している”と考え動き出します。

    という話しなのですが、後半は視点がタヴァナーからバックマンに移ったり、パラレルワールドかと思ったらそうではなかったり、と全体的に説明不足ながらも意外性のあるストーリーで楽しめました。それは、ひとえに解説が秀逸なこともあるのだけれど。例えば、タヴァナーとルースとの愛についての会話のやり取り(この場面、結構好きです)で、なぜタヴァナーがあれほどドライな応対だったのかとか、エンディング間際のバックマンの大袈裟過ぎなのではと思われた行動などが理解できて良かったです。

    ※読んだのは、黒背景の表紙がポジトロンの文庫です。

    正誤 15刷
    P263の8行目:
    なっったように思えた

    なったように思えた

  • 非常に読みやすい!
    ディック長編の入門書としてもおすすめかもしれない作品。

    実は「逆まわりの世界」を読み始めたんだけど、
    内容は絶対好きなやつなのに、2〜3日経っても全然読み進められず、、
    それでそちらを諦めて、次に本棚から手に取ったのがこちら。
    とっても読みやすくてあっという間に読んでしまった。

    面白いのが、読み手のドキドキの対象(語彙力ほしい…)がある時点でガラリと変わること。

    最初、パラレルワールド的な展開に直面して「やっほー私の大好物!!」となったと思いきや、
    なんとその真相は非常にアッサリと解決されてしまう。笑

    でもそこで何故か全然落胆(期待外れ感)はなくて、
    その後は凄いスピードで物語の方向が変化していく。

    私にとってはそのからくり(?)自体がもう想定外すぎてかなり衝撃的。
    しかもこんな凄いSF仕掛けを思いついたのに、それをさらりと解放してそれで終わりっていうところが、ディックの天才要素を体現している気がして感無量。

    (だってもし私がこんな仕掛け思いついたら、これをテーマに掘り下げて掘り下げて、長編一冊描きたくなるもの!!普通はそうだよね?)


    ブレードランナーから入った私は、スイックス→six→セブンって並びを見てネクサスシックスやん!って興奮したのも思い出。


    あとがきを読んで初めて、「あ〜たしかにタヴァナーは一度も涙流してなかったかもなあ」とは思ったけど、“愛”についての深い描写についてはあまりピンとこなかったかなあ。
    もし結婚したり子供ができたりして、“最愛の人”という存在ができた時には、また違う感動が得られるのかもしれないな。

  • アイデンティティという薄っぺらな幻想

    「悲しみは最も完全で圧倒的な体験、だから悲しみを味わいたいのよ。涙を流したいの」

    愛するということの人それぞれの解釈、そして、愛を得て失うという痛みが、主人公ジェイスンの置かれた状況に絡みつく登場人物達によってもたらされる。
    キャシイ、ルース、メアリー・アン、バックマン、アリス……

    「ブレード・ランナー」のような世界観とはひと味違うが、これもまた、特別なフィリップ・K・ディックの世界。

  • ディック作品を読破したいので読了。
    『大事な何かをなくしてしまうことの喪失感とそれに付随してくる涙』が作品の根幹にあることを頭に入れておくと読みやすいなと思う。設定や物語の展開も綺麗で読みやすく最後の物語の畳み方も綺麗だと思う。
    最初に読み始めた時は「自分がなぜ世界から忘れ去られてしまったのかを探りながらも取り戻すミステリーSF」なのかと思っていたため、主人公の周りで狂乱する登場人物を少々くどく感じていた。しかし、読み終わり振り返ってみるとそれらは物語として必要なピースであり、主人公の問題には関与してしなくとも作品全体としては必要なものだったのだと気付かされた。「謎は主人公が解決するものであり、関わる多くの人達が解決のためのヒントなのだ」という先入観が私自身の中にあったことに気づけて良かった。

  • 最愛の人に去られたディックの自伝的小説という趣の強いこの作品は、自己の同一性や認識している世界の崩壊というディックの作品に通底している恐怖をベースにしつつ、もう一つのテーマとして愛を割と純粋に語っている作品でもある。愛は自己保存の本能を凌駕し他者への献身、執着をもたらす。
    作中で様々な人物が自分なりの愛を見出そうとしているが、その中で主人公であるジェイスン・タヴァナーだけは愛を理解しない。それは彼がスイックスだからかそれとも生来のものなのか。

    現実の分裂は観測者だけのものではない。観測されるものもそれに巻き込まれる。
    また絶望の底に落ちてからの再生を匂わせて終わるところもらしい部分である。
    その他にも警察機構、大学、学生運動、ドラッグなどディックの実体験も物語の随所に散りばめられている。

  • 主人公のタヴァナーの言動行動がどこか人間味に欠けるなぁと思っていたら、そういうことだったのか…!ある種のアンドロイドなんだ。
    一見悪役であったバックマンがタヴァナーと違って他人にシンパシーを感じ悲しみに涙することのできる人間だったんだな。前半と後半ではストーリーの軸というか誰を主人公と捉えて読むかがガラリと変わる本。

  • 著名なTVタレントのジェイスン・タヴァナーがある日目覚めた、見知らぬ安ホテルの一室。その世界では、誰も彼のことを知らず、彼に関する一切の記録が存在していなかった。自己を証明する一切を失い、かつての愛人からも不審者扱いされ、行き場を失ったタヴァナーは警察に追われる身となる・・・

    タヴァナーが「自分に関する記録/記憶が一切ない世界」に放り込まれた理由が後半で明かされ、SF的な理屈が付けられています。が、それはこの作品の主要テーマではありません。
    ディックがこの作品で表現したかったこと、それはSFの文体を借りた「愛の喪失」の物語である、と鴨は読み取りました。全てを失ったタヴァナーの逃避行の過程で、様々な男女の愛の喪失が語られます。誰からも顧みられない存在となったタヴァナー自身がそうですし、既に亡い夫の帰りを妄想し続けるキャシィ、誰かと接触し続けていないと生きていられないアリス、そんなアリスを嫌悪しつつも愛さずにはいられないバックマン本部長・・・どの愛も決して満たされない、メランコリア溢れる物語です。

    そんなSFの枠を超える普遍性を備えた作品ではあるのですが、鴨の読後感は正直イマイチ・・・たぶん、登場人物に共感できるところがなかったからだと思います。
    特に、ストーリー展開のキモとなるバックマンの愛の形が、物語の前半と後半とでは印象が全く異なり、一貫性がないのが辛い。筋立てよりも、登場人物の心の遍歴を描きたかった作品なのだと思います。登場人物に感情移入できないと、結構厳しいですね。
    ハマる人にはたまらない作品だと思います。

  • ハヤカワSFが読みたくて購入。電気羊も読んでる途中なんだけど、どうもしっくりこない。アメリカ的な会話のやり取りがダメなのか、込み入った話の構成がダメなのか。。とにかく海外SFはちょっと距離置こう

  • 朝目が覚めたら誰も自分のことを覚えていない?主人公はこの悪夢から逃れようと必死にもがく。そんな彼を追うある警部。密告、駆け引き。題名の意味が最後に分かる。監視される心理をディックが実体験をもとに書く

  • 「流れよわが涙、というのは、ダウランドの楽曲から取っているらしいけど―――泣きたいってのは、どういう感情なんだろうね」
    彼は、ぼんやりとそんなことを言った。
    「まあ、『泣きたいわー』とか、よく言いますけどねえ」
    「ああ、君はよく言ってるね……」
    くたびれたソファで向かい合い、二人は同時にため息をついた。
    「にしても、秀逸なタイトル」
    葉月は、改めてその黒い表紙をまじまじと眺めた。
    「このタイトルがなければ、ただの不条理小説として読んでしまうところでした」
    「そうかもしれない」
    彼は頷き、恐らくはもう冷め切っているであろうコーヒーを、一口啜った。
    「これは、有名なTVスターが、ある日突然、誰からも忘れられ、役所の戸籍からも消え、しまいには身元不明の人物として警察に追いかけ回されるというストーリーだね。確かに、不条理小説のような展開だ。そのまま受け取れば、だけど」
    「何かの暗喩だと、解釈しましたか」
    「まあ、俺たちだっていずれは、全部失うんだよ。彼はただ暴力的にそれをはぎ取られたけれど。俺たちだって、人とは疎遠になるし、あるいは死別するし、やがては自分自身も死んで忘れられていくんだ」
    「……うわあ、泣きたい」
    「うん、それだろうね」
    彼は頷き、それから何か考えるように、自分の髪を軽く掻き回した。
    「いつだって、泣くのは何者かのためだ。誰かでも、何かでもいい。でもそれが何かしら、自分にとって呼びかけうる何者かであれば―――ちょっと飛んだ言い方をすると、魂の宿ったもの、と言ってもいい。そういうものが損なわれたときに、人は泣くだろう?」
    そんなことを、言葉を選ぶように、彼はゆっくりと話した。
    「その対象が、自分であっても?」
    「そう、自分のために泣くというのが、もしかしたら一番、多いかもしれないね」
    「じゃあ、どうして彼は泣かなかったんです? 自分自身がまるっと損なわれたのに?」
    言いながら、葉月ははっと気付いたように、彼に目を向けた。
    彼は、意地悪く笑って、言った。
    「それは、彼が自分自身にとっての、何者でもなかったからかもしれないね」
    そうして彼は立ち上がり、コーヒーを淹れ直すためにキッチンに入っていった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「にしても、秀逸なタイトル」
      ほんと、タイトル買いしちゃう本の上位を争うくらいに、、、
      「にしても、秀逸なタイトル」
      ほんと、タイトル買いしちゃう本の上位を争うくらいに、、、
      2014/03/25
  • 何とも恐ろしい愛の物語であった。
    三千万人の視聴者を抱える人気歌手ジェイスン・タヴァナーが、
    或る日、目覚めると自分の存在がこの世から無くなっている。
    誰もが自分のことを知らず、あげく警察から追われる羽目に。

    触りだけ触れると、どんなトリックが隠されていて、
    どんな強大な陰謀がその裏で渦巻いているんだと思いがちだが
    物語はそんな単純なものではなかった。

    この物語のタイトルである、「流れよ我が涙、と警官は言った」
    このタイトルの示す意味に物語の後半で気付かされる。
    その時に初めて、この物語の本当の主人公に気付く。
    これは、何とも言い難い哀しい物語であった。
    それでも、どこか救われたのではないかと最後は思いたかった。

  • タイトルに惹かれて買った。
    ディックの小説はSF独自の舞台道具小道具を使って人間の本質を突き詰めて行くのが面白い。彼の作品はあまり読んで無いけれど、どれも鬱屈とした世界観だよね。ただそんな押しつぶされそうな世界において、決して諦めようとしない人間の強さ、意思を感じ取れる。

  • S・カルマ氏かと思って読んだらハルヒだった。

  • なんという人間らしいSFだろう? この物語の主人公は稿の8割方を彼が占めるところのタヴァナーではない、語られる世界を生み出した主体たるアリスでもない、愛する者を失い崩れ落ちるバックマンだ──そして同時に三者いずれもが主人公であり得る。

    中ほどでルース・レイが語る悲しみと愛についての言葉は、コンテクストから切り離された状態でさえ主題と深く関わっていることを悟らせる力がある。「悲しみは自分自身を解き放つことができるの。(略)愛していなければ悲しみを感じることはできないわ(p198)」「悲しみはあんたと失ったものをもう一度結びつけるの。同化するのよ。離れ去ろうとする愛するものや人とともに行くのね(p200)」工藤直子の詩──好きになるとは心をちぎってあげるのか、だからこんなに痛いのか──を思い出す。心を動かす軋み、つらくてもやめることの叶わない人の営み。

    アリスの見た夢にタヴァナー他が巻き込まれたという構図はまさに、「鏡の国のアリス」でディーとダムに「あんたはこの赤のキングの見てる夢さ」と宣告されるアリスを思い起こさせて暗示的だ。物語の世界設定と各所に鏤められたガジェットがSFであるだけで、その実は普遍的な文学を描いていることが感じられる。この逆転したアナロジー(夢を見たのはアリス)はもう少し突き詰めても面白いかもしれない。

  • サンリオSF文庫で読了。出自抹消プレイディック。

  • フリップ・K・ディックらしい、「現実」と「虚構」の境界が曖昧な一冊だった。国民的スターである主人公が、ある日突然「存在しない人間」になるという不条理な状況に放り込まれ、そこから彼のアイデンティティと社会のシステムが崩れていく過程が描かれる。ラスト近くでは、その異常体験に一応の説明が提示されるが、かなり強引で、「結局何だったの?」という疑問は残る。ただ、その“納得しきれない”感覚こそが、まさにディックらしさでもある。整合性よりも、喪失や孤独、不安といった精神のリアリティが強く伝わってきた。タイトルに込められたルネサンス音楽の哀しみが全編に響いており、読後には不思議な余韻が残る。「説明できないけれど、何かが壊れ、何かが変わった」——そんな読後感を与えてくれる、特異な作品だった。

  • 「有を名TVのMC・歌手で3000万人の視聴者を持つ男」が目覚めたら薄汚いモーテルにいた。誰も自分を知らず、政府のIDバンクにもデータがない「名無し」になる、というサスペンスフルで思わず読みたくなる導入から始まる。が、そこから主人公と女たちの会話に重点が置かれて愛と別れが語られ文学的な味がする作品となる。後半ではもう一人の主人公である警察署長に視点が移ってしまい当初の緊迫した謎や展開はどこかにいってしまう。
    個々のエピソードは素晴らしいが全体としてみると序盤の期待が外れてしまうため残念がところがある。はじめから愛と別れをテーマにした文学作品だと思えばいいのかもしれない。

  • 世界のみんなから知られているタヴァナー
    しかし、目を覚ますと世界の誰も自分のことを覚えていない
    記録からも消失し、警察からも追われる
    タヴァナーは警察のパワーゲームのために犯罪者の容疑にもされていき、より奈落に落とされていきそうになる
    警官のバックマンが親しき人の深い悲しみに包まれた時に涙が流れる

  • スイックスという存在に惹かれた。
    いわゆる遺伝子操作された特別人種みたいな存在大好き。
    ディックの小説はSFだけど哲学的なテーマが垣間見えて文学チックで良いよね!

  • ディックの名作とされる作品。ただ後半はよくわからなかった。なぜ警官はタヴァナーに罪を押しつけなければならなかったのか。タヴァナーが世界を異動したことの意味、エピローグの意味は何なのか、とか。もう一度読む必要があるか、、、。

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