まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫SF ディック傑作集)

  • 早川書房 (1992年4月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (287ページ) / ISBN・EAN: 9784150109691

みんなの感想まとめ

独特の世界観とユーモアが交錯する短編集で、コメディやブラックユーモアを織り交ぜた作品が特徴です。特に「フヌール」の設定は、身長がわずか60cmの宇宙人が、タバコやアルコールで成長し地球人に紛れ込むとい...

感想・レビュー・書評

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  • [フヌールとの戦い The War with the Fnools]
     まあ、一種の馬鹿話。こんな間抜けな奴らに侵略される方もされるほう。2フィートしかない侵略者が、酒や煙草など初めての経験をすると背が大きくなるというアイディアを考えたら、もっとシリアスなパニック小説だって書けるのに。逆にこのアイディアで短編しか書かないってところがディックなのかもしれないけど。後で長編化するつもりだったりして。
     ワルシャワとかの伏線が、結局何の意味もないところがさすが(^^;)。

    [最後の支配者 The Last of the Masters]
     ディックの短編としてはいまいちかな。せっかく戦争をなくすために世界中の政府を打ち倒したアナーキスト連盟と、自分の知識を総動員して統制された社会を維持しようとする前時代のロボット、という図式を用意したのに平凡な展開だし、オチもありきたり。
     ただディックが解説で、自分がロボットを信用するのはアンドロイドと違って自分の姿を偽ろうとしないないからだ、と言っているのは興味深い。

    [干渉する者 Meddler]
     未来に探査機を送り込んだ影響で、未来で戦争が起こる。その問題に干渉しようとした試みは全て逆に悪影響を及ぼしてしまい、ついには未来の世界に人間がいなくなってしまう。そこで探査機の専門家が原因調査のために未来へと送り込まれる、といういかにもSFらしい出だしで始まる短編。オチはありがちだけど、この頃の方が典型的なSFを描いてたんだなあ。

    [運のないゲーム A Game of Unchance]
     アメリカ人はなんかサーカスに特別な思い入れがあるのかな。レイ・ブラッドベリとかクーンツとか、アメリカのサーカスってよっぽど不気味なんだろうか。そういえばこの短編、ブラッドベリっぽい。
     サーカスのゲームに勝って、やっと取った景品で異星人に侵略され、それを捕まえる罠を別のサーカスが持ってきたけど、それもひょっとしたら仕組まれているのでは・・・。なんか星新一かシェクリィみたいだな。

    [CM地獄 Sales Pitch]
     なんかいまいちパッとしないなあ。自分で自分を売り込む商品というアイディアと現実から逃れたがっている主人公という組み合わせも、結末が悲劇的なことも悪いわけじゃないんだけど。なんかとんがった部分がないからかな。
     奥さんと主人公の人物設定がなんか「トータル・リコール」を思い出させた。

    [かけがいのない人造物 Precious Arcifact]
     そうか、そういうことか。ディックの小説でシュミラクラが何を象徴しているのか、なんとなく分かった気がする。うーん、こうなってくると「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」も、もう一度読み返さないといけないかな。
     自動販売機のところとか、火星の植物が枯れてしまうところとか、現実は見た目通りではない、と気がつくときの不安な雰囲気が、いかにもディックらしくていいっす。やっと著者らしい短編が読めてよかった。

    [小さな町 Small Town]
     これは話としてはけっこうあるよな。別にディックでなくてもいいって感じ。ただ、ハスケルが消えたときに、彼は自分の世界に行ってしまったんだ、って精神科医があっさり納得するのがちょっと変ではある。

    [まだ人間じゃない The Pre-Persons]
     これ、これ。これを待ってたんだよ。こういうとんがった攻撃的な短編が読みたかった。生まれても十二歳になるまでは、両親が望めば堕胎されてしまう社会。この設定だけでOK。中絶という問題をこの設定に持って行けるとこがやっぱ並の作家じゃない。
     まあ、せっかくこの設定を考えたのにその後の展開があんまりぱっとしないのと、ラストも中途半端に終わっちゃうのは残念だけど。もしウォルターが十二歳以前に設定されていたら、かなり凄い短編になりそうな気がするなあ。
     「男たちの知らない女」を書いたときのティプトリーだったら、これにどんな感想を持つんだろうか?やっぱ俺個人としては、自分が男だからってのもあるけど、ディック側。

  • 主人公は木星にあるテラ金属開発工業に勤務するモリス。彼は地球から毎日2時間の通勤をこなしているが、木星第3衛星であるガニメデから地球への帰途(火星や土星からの支流がぶつかるあたりでは渋滞も)は広告で埋め尽くされていた。その広告は脳の視聴覚部位に直接圧力が加えられるような”視聴覚ジャック広告”で、彼にとってはそれが通勤の大きなストレスにもなっている。

    自宅に帰ると夜にセールスロボットが自宅に訪問。”ファスラッド”の名乗るロボットは、突如として家の中にあるものを壊して暴れ、その全てを直すことで、自分の実演販売を開始する。自らを「現代家庭に必要な必需品」だと自負しており、この家から出ていけ
    とモリスが命令しても「まだあなたのものではないから命令しても無駄」だとして、家に居座る。

    CMの話もあったが、メインはAI駆動による自律販促機能を有したロボットの話で、次世代のマーケティングナイトメアといった感じ。そもそもこんな時代にも通勤はあるのか、しかも通勤地獄まで残存するのか、という点もナイトメア。

    ファスロッドが「わたしにできないことはたくさんあります。しかし、あなたにできることはなんでもできますよ。しかも、ずっとうまく」と言うところは、汎用型人工知能の脅威に向き合う2020年代にぴったりなアクチュアリティがある。

    ”性的魅力がいっぱいですが、高次の知的思考には向いていません”とファスロッドに評されるモリスの妻は「そんなに高くないから買ったらいいんじゃない?」と購入にも乗り気な中、モリスは太陽系の外に出て通勤宇宙船のエンジンを自爆させることでファスロッドもろとも宇宙に葬ろうとするが、そんなに自殺願望があったのか?とラストの展開には唐突さを感じた。

  • 重苦しい世界、追い詰められた人々、短編でここまで別の世界を描けるのは本当にすごいと思う。何度も読み返す本。

  • 夏のディック祭。短編集で、こういうのはちょっと後においておきたかったなというのが読んでからの感想。

    身長がたった2フィート(60cm)しかなく、地球での侵略時には、仲間がみんな同じ形になってしまう宇宙人「フヌール」。60cmだからすぐ見分けがつくと思っていたら、タバコを吸うことで背が伸び、更にアルコールを飲むことで6フィート(180cm)まで伸びてしまった。これで地球人に混じれば全く見分けがつかない…。

    冒頭の「フヌールとの戦い」から、ちょっといつものディックと異なり、コメディーやブラックユーモアというたぐいの短編が多い。その中でも引っかかりそうなのが「干渉する者(Meddler)」であろう。タイムマシンを用いた話(深くは書かない)であるが、どう読んでも、映画「地球が静止する日」のキアヌ・リーブス版のアイデアの元である。

    全体に、ショートショートっぽいというか、オチがブラックなものが多く、表題作(最近は改題されているようだ)を含め、ニヒルで冷たい印象の作品が多い。ただディック自身のあとがき解説にあるように、「批判が多かったので、オチを変えればよかったかな」ってのはどうなんだろう。変にいじらないこのままで良いと思う。

    まあ、時代のものかもしれないが。

  • ディック傑作集〈4〉まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫SF)

  • 暗い話が多く読むのがしんどい
    表紙   6点野中 昇
    展開   6点1980年著作
    文章   7点
    内容 650点
    合計 669点

  • ディックは有名だ。SF小説好きなら誰でも知っている。
    その世界観を好きな人も多い。
    だけど、やっぱり外国の人だからかな?僕にはちょっとその皮肉だったり小話的なところとかが、わかりにくい。と思ってしまう。
    むしろ、これを読んでいて、あれ?これって眉村卓じゃないの?と思うような世界観だったり展開だったりがとても多い。と感じた。
    二人の作品はとても似ている。と思う。

    みなさん、眉村卓をもっと再評価してみませんか?

  • 「フヌールとの戦い」
    「最後の支配者」
    「干渉する者」
    「運のないゲーム」
    「CM地獄」
    「かけがえのない人造物」
    「小さな町」
    「まだ人間じゃない」

    「フヌールとの戦い」
    太陽系を征服しようとしている宇宙人フヌールとの戦いを描いた一遍。ただこのフヌールというのが、間抜けで(地球人から見たら)とぼけた存在となっている。様々な人間の姿になれるのだけど、なぜか身長2フィートで、「チビのセールスマン」だったりする。
    各国の対応や、結末が皮肉。

    「最後の支配者」
    ディックのメモが面白い。「わたしがロボットを信用し、アンドロイドを信用しないのは、興味深い。たぶんそれはロボットがその正体を偽ろうとはしないからだろう」

    「干渉する者」
    時間ものとしてはよくあるタイプ。見所はどこだろう?

    「運のないゲーム」
    ある星の開拓村にやってきたサーカスたちに対して、他のサーカスに持っていかれた収穫物の恨みを果たそうと、やりかえす計画を立てた開拓民たち。
    途中やってきた軍人の「考えるな」という言葉が痛い。彼らを取り巻く状況に閉塞感を感じた。

    「CM地獄」
    ファスラッドというロボットによる強制実演販売。「ファンはこの作品をくそみそにけなした」とあるが、個人的には可もなく不可もなく。

    「小さな町」
    タイトルの時点でオチを予測できるかもしれない。既視感はある。

    「まだ人間じゃない」
    12歳未満は魂を持たないとされ、親がきちんといてカードがなければ野良犬のように連れていかれ処分されてしまう社会。
    作中の中絶に関する部分などでだいぶ論議を呼んだらしい。
    現代の、出生前診断からの人工妊娠中絶ということに対してディックならどんなことを書いたのか?

    あと、ディックによる作品メモが付されていて、それがなかなか面白い。(ただし、訳者によるとディックほど発言をまともに受け止めると馬鹿を見る作家は珍しいらしい)

  • 最近復刻版も出たみたいだけど、
    20年くらい前に買って家にずっとあった初版を改めて読み返す。

    割と初期の作品が多くて、
    筋がシンプル、ディックらしいひねくれきったストーリーが無くて
    良く言えば読みやすい。

    まあ今となってはコレクションの中の一冊というところか。

  • 片付けの途中で「まだ人間じゃない」が出て来た。
    「フヌールとの戦い」がおかしかたったよな、と読み出したら、結局最後まで読み通してしまった。
    SFマガジンに載っていた頃の初期のディックの短編はプレイボーイ・マガジンあたりに載ってそうな「落ち」話が多くて、そういうところが好きだったのだが、今は評価が高くなりすぎて正直よくわからない。
    あとがきを見ると、ディック自身も旧作を客観的にみていて、「結末はわたしのもまったく意外だった」などと書いているので、現在の自分に対する賞賛をどう思うか聞いてみたいところだ。

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著者プロフィール

1930年生。英米文学翻訳家。大阪外国語大学卒。主訳書にヴォネガット『タイタンの妖女』、ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、ラファティ『九百人のお祖母さん』、ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』(以上ハヤカワ文庫SF)、著書に『ぼくがカンガルーに出会ったころ』(国書刊行会)。2010年没。

「2022年 『SFの気恥ずかしさ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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