本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (480ページ) / ISBN・EAN: 9784150112721
みんなの感想まとめ
未来の地球を離れ、ケニアの民族たちが新たな星「キリンヤガ」で築くユートピアを描いた物語は、伝統と変化の狭間で揺れる人々の姿を浮き彫りにします。物語は、掟を守ることと時代の流れにどう向き合うべきかという...
感想・レビュー・書評
-
欧米の文化に毒されたケニヤを出て、ユートピア惑星キリンヤガに移住しよう。緑滴るサバンナで野生動物が暮らし、畑の実りと自然の恵の中で我々も伝統を守って暮らすのだ。ムンドゥムク(祈祷師)に導かれた人々。
アフリカ・ケニアは欧米の進んだ文化文明が浸透し、ビルと工業の町に変わっていた。
2123年当時、欧米文化はアフリカも席巻し工業化で空気汚染はひどく青空が見えなくなっていた。
サバンナでのびのびと生きる動物やかつての暮らしはもう見られない。それを残すためには、同じ思いでいるケニヤのキクユ族を連れてユートピア小惑星にキリンヤガという名をつけ、そこに移住するほかはないと考えたコリバという一人の老人の話である。
彼はヨーロッパとアメリカで教育を受けた博士であり、移住を言い出した時、息子一家は外聞もあり猛反対をした。
コリバは公害で汚染された地球にもうユートピアはないと感じていた。宙港から宇宙船に乗り、新しい惑星でムンドゥムクになった。新しい土地にある山をケニア山、キリンヤガと呼び、その頂に住む絶対神ンガイの予言をきき、人々を教え導く祈祷師になった。
ケニアからユートピアを求めこの世界に移住した人々は、その後この緑あふれる大地で、伝統的な鍬で耕して行う農業や狩りや、まじないを信じて自分たちの国を守ってきた。
みな心の片隅にささやかな希望やよりどころや夢のような漠然としたものを抱えている。それが実現してもしなくても何かの時に支えになるかもしれないと思っている。それが全く消えてしまったとき絶望して生きることをやめてしまうか、ただ生涯を流れに任して一生を終わる。ムンドゥムクの導きは天啓のようだった。
この物語は、SFの形をかりた現代の寓話であり、ムンドゥムクが子供たちを集めて話す言葉は、それも形は違っても「イソップ」童話のようであったり、教訓だったり、言い伝えだったりして、それがユートピアを担う次の世代の糧になってきた。
しかしムンドゥムクは機械文明のかけらからは離れられなかった。彼が望んでいなくても、「共同体」という宇宙組織の監視下にあり(それは監視して、助けがいるときに何らかの援助ををするだけのものにすぎなかったが)持参したパソコンで情報を得ていたり、何よりも、今まで欧米の名門大学の教育で得た知識があった。
彼はそれがユートピアを維持するために必ず役立つものだと信じていた、住民も彼の知識の前に頭を垂れ、尊敬し指示に従って暮らしてきた、その知識はキリンヤガの世界では大いなる智慧にまで昇華されていった。
あくまで、キリンヤガで事故が起きるまで。
宇宙船が墜落し、瀕死の重傷を負ったパイロットを助けるために地球から先端の医療機器を持った医師が来た。
住民は医師が骨を接ぎ輸血をするのを目の当たりに見た。
今まで信じていた、軟膏や、祈りやお告げは何だったのだろう。
ムンドゥムクは自然に逆らわず生きることを理想にしていた。しかし住人は考え始めた。
丸い草ぶきの家に住み、女が働き、限られた財産を得られなくなった息子たちは、畑の外で共同生活をする。昔は野生動物と戦うために使った槍も腐って錆びてきた。これはユートピアか。
この作品が新しい現代の寓話として発表されたときは多くの賞を受け、続く短編も次々に賞を受けて賞賛された。「キリンヤガ」は短編集になっている。
中でも
「空にふれた少女」は絶賛されたという。
たまたまムンドゥムクの小屋でコンピュータを見て驚く。文字などいらない、本を読んではいけない、コンピュータに触るな。解るな。そういわれて育ったが、彼女はまれにみる聡明な頭を持っていた。コンピュータと話せないならと、自分の言葉を創ってこっそりと会話ができるようになった。
ムンドゥムクにもわからない言語で話す少女を出入り禁止にした。少女は言葉に飢え、知識に飢えて、食べることも忘れて一心に考え、ついに命を失った。
ムンドゥムクは少女を悼みながら、この世界の規律は絶対だと信じていた。新しい言葉や習慣に浸食されて、この緑の楽園を枯らすことがあってはならない。
この短編は悲しく聡明な一人の少女の運命だけではない多くの示唆を含みながら胸に残る。
ムンドゥムクの思い描いたキリンヤガという自然に守られた国、穏やかな生活。昔ながらの掟は、時の流れ、民族の歴史、風土の変化にどう対応していったか。
時は少しずつ変化をもたらす、良きにつけ悪しきにつけ。
二律背反、二面性、価値観の二義性、気づかないほどの矛盾。言葉は知らなくてもそういった割り切れない感じを持たせないとする掟には、どこがニュートラルでどこにユートピアがあるのか。人は考え始めた。
掟にはどんな価値があるのか。硬貨の裏と表、人の背と腹。境界は薄すぎて見えない。
それに代わる言葉を人はたくさん考え出した。思いようさ、人は人、自分は自分さ、拘るな、色即是空さ。すべては正しく、裏返せば違う解釈もある。
そうだ、こういったすべてがこの私、ムンドゥムクの寓話には含まれているのだ。コリバは自分も縛った。
しかしそれはこの物語を読めば、私に大きなヒントを与えてくれてはいる。コリバのユートピアは全てのユートピアに似ているかもしれないが、時とともに生きることの解決にはならない。命は流れ行くもので止まってはいない。
信じることよりも疑うことから世界は進化してきたようにも感じる。
おもしろく悲しく興味深いはなしは、また読み返せば違った顔を見せるかもしれないと思えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
西暦2120年代、ケニアに暮らしていた民族たちは白人に追われ、サバンナを失い、やがて地球を旅立つ。
旅立った先の星を古代からの言い伝えとともにキリンヤガと名付け、その場所をユートピアとして暮らしていく祈禱師と住民や地球からやって来る人たちとのストーリー。
その場所の純潔を守るためには揺るがない掟は大切だが、川が流れるように時代は流れていく、その川の流れを掟で止めたり変える事は良いのだろうか?考えさせられた。
SFに民族文化を融合させた秀作
-
SF。連作短編集。
初めてのレズニック作品。
一言で、傑作。なんでこの作品が絶版なのか。
テーマは"ユートピア"と"伝統"と"変化"か。
とても面白いが、読後感は正直良くない。読んでいて、とにかくもどかしい。
経営者や政治家のような、上に立つ立場の人が読むべき一冊。
むしろ、全人類が読んだほうが良いとすら思える。
物語を通して、不偏的な教訓や知識が示唆され、滅茶苦茶に考えさせられる。
評判の良い「空にふれた少女」も素晴らしかったが、個人的ベストは「マナモウキ」。
ムンドゥムグの語る物語が、ムンドゥムグ自身に跳ね返ってくる結末が、非常に切れ味鋭い。 -
初めて読んだのがSFマガジンに掲載されていた「空にふれた少女」で、図書館だったというのにもうボロボロに泣いてしまった。
たとえそこが楽園であったとしても、その場で停滞することをよしとしない、人間の宿業のようなものを感じた。
楽園というものは知恵の実を食べた者をとどめておけば崩壊してしまうものらしい。
途中までは住民個人に関する悲喜劇のエピソードが続くが、「ロートスと槍」あたりからキリンヤガの構造そのものに話が及んでくる。
日本だってどちらかと言えばここに出てくる「ケニア」に近いから全くの他人事ではない。似たテーマのSFもいくつかあったように思う(「金春屋ゴメス」など)。
でもさすがに国民の大半がヨーロッパ系の名前を持つとか、日常的にヨーロッパ系の言語を話すとか、キリスト教会が社会的に重要な位置を占めるというところまではいってない。
日本がアフリカほど徹底的に文化破壊されなかった理由はいろいろあるだろうけど、もしキクユ族がこのへんで止まっていればコリバは妥協できただろうか? -
寓意に満ちたオムニバス長編SF。絶滅に瀕したアフリカの種族・キクユ族は自らのユートピアを築くため小惑星・キリンヤガに移住する。文明社会で教育を受けたコリバは祈祷師として、その楽園を護るため孤軍奮闘するのだが・・・。
伝統的社会と文明、村と個人、理想と現実等、様々な対立や問題がコリバの語る寓話やキリンヤガでの出来事を通じて読者に問いかけられ、深い余韻を残す。
卑怯だなと思いつつも、「空にふれた少女」はやっぱり素晴らしい。 -
#23奈良県立図書情報館ビブリオバトル「祓う」で紹介された本です。
2012.12.15
http://eventinformation.blog116.fc2.com/blog-entry-902.html?sp -
近代化を拒絶するケニアのとある部族。本書の舞台は、その伝統社会を存続させるために設立されたユートピア小惑星キリンヤガ。言ってみれば、「本当の私たち」を取り戻そう!という、反近代的でウヨクな究極の夢がもし叶うとしたら……、というSF寓話集だ。このような近代化とそれへの反動を扱う作品は研究書を含め数多あるわけだが、一定のアカデミックっぽさと文学作品としての叙情性をあわせもつ本書はその中でも抜きん出ていると思う。
その主たるテーマは、伝統を守ろうとする強い意志と、それを押し流そうとする大きな流れとの葛藤だが、多くの読者がその相矛盾するどちらの立場にも自分自身を見出しうるだろう。それは哀しく、苦しい。本書においてこの葛藤はある意味ありきたりかもしれない、冷酷な結末へと収束させられる。結局のところ人から離れて至高の価値など存在し得ないのであり、注意すべきは自らを正しい少数者と見なすに至る自己認識の段階ということなのかもしれない。
「キリンヤガは、ふたつのまったくことなるグループに分かれているようだった。日々の生活に満足してなにも考える必要のない人びとと、なにかを考えれば考えるほどわれわれが築きあげてきた社会から遠ざかってしまう人びとだ。」
なお、アカデミックな知見を踏まえた本書は、近代化をめぐる諸問題を学ぶための教科書としても面白い。例えば、至高の価値を体現する「伝統」社会が、どこにもないという本来の意味でのユートピアであるだけでなく、それさえも近代化の産物であることなども、物語の中に織り込まれている。また、近代化の問題が世代の問題、ひいては親子の問題であることが物語の通底にあるが、私にはこれが本書の性格を特徴付けている一つであるように感じられた。主人公にとってのディストピアという点では、オーウェルの『1984』との対照を考えてみるのも面白いのかも。キリンヤガの「故郷」ケニアの人がどう読むのかは気になるが、この種の問題に興味のある人にはお勧め。文学ってすごい、というのは堪能できる。 -
表紙が理由で買ってなかったのを後悔、アフリカの一部族 × SFというのも新鮮だったけど考えさせられる内容で面白かった
-
-
西洋文明に侵される前の、民族文化を、テラフォームされた惑星で保存しようという試み。
短編のオムニバス形式で進んでいく。
かなり示唆に富んで面白いというか、結局は予定調和だったという面も感じた。
何より、西洋文明を排除しようと言いながら、他の惑星に移住する技術はその西洋文めに依存している。祈祷師も、その西洋文明を最大限利用することで奇跡を実現させている。はなから、矛盾があるのだ。
いろんな賞を取っている作品だそうだ。
かなり地味だけど。
自分の理想郷を、他人を犠牲に実現しようとした男の没落譚。 -
ユートピアを”維持する”ってどういうものなのか。変化のない世界はユートピアと言えるのか、と難しい問題を提起する作品でした。
-
成長と変化、歴史と進化。年代や役割、時代と共に変わる主張と頑に変えられない考え。リーダーはいずれ老害に。自分の今の居場所とこれからを考えさせられる物語。
-
オムニバス短編集。個々の作品の発表年はバラバラ。
【書誌情報】
『キリンヤガ』
原題:Kirinyaga: A Fable of Utopia
著者:Mike Resnick
訳者:内田 昌之
出版社:早川書房
シリーズ:ハヤカワ文庫SF
出版年月:1999.5
版型:文庫版(16cm)
頁数:479p
ISBN:415011272X
価格:820円
【目次】
献辞 [003]
目次 [005]
プロローグ もうしぶんのない朝を、ジャッカルとともに One Perfect Morning, with Jackals 009
1 キリンヤガ Kirinyaga 025
2 空にふれた少女 For I Have Touched the Sky 059
3 ブワナ Bwana 105
4 マナモウキ The Manamouki 183
5 ドライ・リバーの歌 Song of a Dry River 243
6 ロートスと槍 The Lotus and the Spear 281
7 ささやかな知識 A Little Knowledge 315
8 古き神々の死すとき When the Old Gods Die 369
エピローグ ノドの地 The Land of Nod 415
作者あとがき [465-474]
訳者あとがき(一九九九年四月) [475-479] -
古書購入
-
これがSFかと目から鱗が落ちるような作
表紙 7点田口 順子 内田 昌之訳
展開 8点1998年著作
文章 7点
内容 730点
合計 752点 -
世界の先住民族は入植者に依って駆逐され、殺害された歴史がある。入植者達の技術や思想、全てが悪なのだろうか?
ユートピアとは何なのか?を、今では形骸化し、ヨーロッパの文化に晒されてしまったケニアのかつての部族民の生き残りを通して描いた大作。
舞台は近未来で、主人公である祈祷師自体も欧米での教育を受け、更に自身が生まれた時点でケニアは近代化していたため、時代錯誤も甚だしい話ではあるが、かつての欧米文化入植前の世界=ユートピアを追い求めるが、段々と老害化してしまっているのが悲しい。
トータル500ページ近くの容量だが、複数の短〜中編で成り立つ「火星年代記」を彷彿とする構成に加え、会話中心の物語でかなり読みやすい。
「ある社会がユートピアでいられるのはほんの一瞬なのだ。一旦完璧な状態になった後は、どんな変化があってもそれはユートピアではなくなってしまうのだが、社会というのはそもそも成長して進歩するものなのだ」 -
ソクラテスの本を読んでいるみたい。いろんな寓話と問答を読むだけでも楽しめる。
主人公はどう考えても狂信者でしかないんだけど、なんだか感情移入してしまって、徐々にユートピアが崩壊していくさまははかなく、切ない。なるほど、こういうSFもあるのかと思わされる。 -
古き良き時代を懐古する…。子供を永遠に子供のままにしておきたい気持ちと似ている。でも子供はいつしか成長し、変化していく。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
この本が好きな人におすすめの本
マイク・レズニックの作品
本棚登録 :
感想 :
