祈りの海 (ハヤカワ文庫 SF イ 2-3)

  • 早川書房
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150113377

作品紹介・あらすじ

二万年前に惑星コブナントに移住し、聖ベアトリスを信奉する社会を築いた人類の子孫たち。そこで微小生物の研究を始めた敬虔な信者マーティンが知った真実とは?ヒューゴー賞・ローカス賞を受賞した表題作、バックアップ用の宝石を頭のなかに持った人類の姿を描いた「ぼくになることを」ほか、遙かな未来世界や、仮想現実における人間の意志の可能性を描く作品まで、多彩な魅力あふれる11篇を収録した日本版オリジナル短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • ハードSFの大家グレッグ・イーガンの11の短編を収録した本書は、文中の言葉を借りるならば、「きみがきみであること」「自分が何者であるか」、すなわちアイデンティティを共通したテーマに据えている。

    SFの手法でアイデンティティを語る作品としては、個人的にはロボットを題材にした作品が多い印象を受けるのだけど、本書においてはそれに依存することなく、多彩な視点からアイデンティティを捉えている。

    ヒューゴー賞/ローカス賞を受賞した表題作もさることながら、次の2作品が特に素晴らしかった。

    ・『ぼくになることを』
     衰退する脳を排出し、その代わりに衰えることを知らない"宝石”を移植することが一般化した未来社会。"宝石”を移植しても、その人物の思考は従前までと何も変わらない(移植するまでの間、脳と"宝石”は常にシンクロナイズされているからだ)。だけど、脳のない人間は、果たして"人間"と呼べるのだろうか…
     "宝石”の移植を頑なに拒む主人公の顛末。それが、とにかく割りきれなくて、心に刻まれるほど気色悪い。

    ・『百光年ダイアリー』
     未来には行けないが、知ることはできる社会。主人公をはじめとした一般市民は、"未来の自分が記した日記"により、将来を理解していた。"自分という存在"は、過去と未来の自分によって形作られる。そんな社会を甘受していた主人公だが、ある日、歯車が狂い始め…
     アイデアとなにより展開が秀逸!これは面白かったなぁ。

    全作品を通じて、とにかく後味は良くない。
    心を覆い尽くすのは、不安。だけど一抹の希望が潜んでいることを否定できない。
    そんな不透明な心境に陥るのだけど、でもアイデンティティを認識した時って確かにそんな気持ちかもね。決して爽快な気分じゃないと思うんだ。
    そう考えると、微妙なセンチメントを表現してくるグレッグ・イーガンは、流石と言わざるを得ない。

  • SFって自分がちゃんとテーマを理解できてるか読んでいて不安になる。1番お気に入りは「繭」

  • 短篇 「キューティー」をぜひ。

    「二万年前に惑星コブナントに移住し、聖ベアトリスを信奉する社会を築いた人類の子孫たち。そこで微小生物の研究を始めた敬虔な信者マーティンが知った真実とは?ヒューゴー賞・ローカス賞を受賞した表題作、バックアップ用の宝石を頭のなかに持った人類の姿を描いた「ぼくになることを」ほか、遙かな未来世界や、仮想現実における人間の意志の可能性を描く作品まで、多彩な魅力あふれる11篇を収録した日本版オリジナル短篇集。」

  • イーガン二冊目、引き続き読みやすいと評判の短編集を手に取りました。読めば読むほど、イーガン好きだなあと思いました笑。とりあえず次は『宇宙消失』を読もう。

    イーガンを調べている中で、最近「文藝」で特集が組まれたとのことで、その刊読みたいな~と思っていたところ、あれこの表紙は…と家にあることが判明笑。特集の一つにアニメ平家物語があって、それで買っていたんですね。今年一年ハマった平家物語から、イーガンにバトンが渡されたような、そんな気がしました。2023年はイーガンイヤーになるのかな?
    イーガンは日本で謎に人気が高いということで、え~こんなに面白いのに、、と思いつつ、英語でおすすめSF記事を探すと、イーガンがあげられてるところほぼ見たことがなく、そういうことかあと少し納得。

    さて『祈りの海』ですが、「キューティ」、「繭」、「放浪者の軌道」あたりは特に好きでした。その他の「貸金庫」、「ミトコンドリア・イヴ」、「イェユーカ」、「祈りの海」あたりも面白かった(基本全部じゃんという)
    今回収録されているものは、特にどの作品も、アイデンティティとは何か?を様々な角度から取り扱ったもので、こんなにいろんな角度で考えられるのか…と驚きながらどんどんハマるイーガン…。とはいえ短編集としては、『しあわせの理由』の方が好きだったかな?

    「繭」の、「…大衆はそこまで想像力を欠いちゃいけない。だれだって記号論は幼稚園で学んでるんだ、メッセージの解読法くらい知ってるさ」にしびれた笑

  • プロットにリアリティを持たせるために、どんな舞台装置を選び、それについての詳細な説明を加えようとしているのは、ある意味で読者に対する良心的な姿勢だとも言えるが、それも程度問題ではなかろうか。
    全部で11の中・短編集であるが、いくつかの作品は読んでいてひたすら眠気を誘われるだけのものもあった。

  • 難しかったし、SFすぎるのがあまり好きではないので少し飽きてしまった。でも短編集なので手軽に読める。複雑すぎて…

  • 短編集。一編毎に全く違う世界が描かれていて、多彩さに驚きました。
    それぞれの環境の中で、アイデンティティ、私というものをどこに求めるかが突き詰められていて、読みごたえがありました。

  • ハヤカワ文庫
    グレッグイーガン
    祈りの海

    科学とアイデンティティの対立を描くハードSF短編傑作集。共通テーマは「科学の時代に自分のアイデンティティを確立できるか」

    各短編 SFでしか描けない状況のアイデンティティを描いている
    *霊のアイデンティティ
    *DNA操作により生まれた赤ちゃんのアイデンティティ
    *自身のバックアップがいる人間のアイデンティティ
    *母胎システム管理により消滅させられる同性愛者のアイデンティティ
    *決められた未来を生きる人間のアイデンティティ
    *医師不要の時代における医師のアイデンティティなど

    感動したのは 同性愛者のアイデンティティ「生まれつきのものであり、それを 誇りに思うことも 恥に思うこともない」

    終盤2編「イェユーカ」「祈りの海」は読みとりにくい。職業倫理や宗教観が アイデンティティという捉え方でいいのだろうか?



    貸金庫=自分の意識を保存する肉体
    *意識(精神)と肉体 は別
    *意識が 転々と人間(宿主)の肉体に憑依して 記憶を形成していく

    キューティー
    *親の愛は 子どもが人間として存在することを前提としている
    *人間として存在する=赤ちゃんが親へ意思表示(パパと言うなど)
    *DNA操作により生まれ、4歳で死がセットされた赤ちゃんに 親の無償の愛は存在するのか

    ぼくになることを
    *人間は バックアップ用の能に経験を同期し、30歳くらいにバックアップ用の能にスイッチし、永遠に生きられる世界
    *同期により自我と意識は1つになる→一人の人間しか存在していない


    *母体子宮を管理し同性愛者を発生させない細胞(繭)の研究
    *分離主義〜同性愛が病気の一種にされる→一つの人種が地球から姿を消す

    百光年ダイアリー
    *決められた未来を生きる人間にアイデンティティはあるのか
    *不変の未来〜歴史は過去も未来も決定済
    *歴史はつねに勝者が書いてきた〜歴史の作者の干渉〜誰もが操られている

    誘拐
    *自分のスキャンファイルにより、自分の死後、仮想現実に コピーを復元できる
    *私たちはお互いのことをコピーとしてしか知ることができない。私たちに知ることができるのは、自分の脳の中にいる、お互いの一部分でしかない

    放浪者の軌道
    *放浪者=倫理的単一文化の居住者の道徳律から外れた自分
    *一つの思想体系は 信奉者から周辺の人へ広まり、無秩序な集団を取り込んでいく


    ミトコンドリアイブ
    *アイデンティティを確立するために 人間のルーツを規定しようとする誤り
    *男性も女性も、民族主義も〜捨てるべき。そのとき「幼年期の終わり」がくる。先祖を冒涜せよ


    無限の暗殺者
    *無限とアイデンティティの対立
    *主人公のわたし=無限=無限の数のバージョンのわたし〜死ぬことなど気にする必要はない→わたしは 無にすぎない、測度零の集合
    *アイデンティティ=わたしが死ぬときに わたしが引き返さないことで 恥辱に まみれずにすむ


    イェユーカ
    *医師が不要となるヘルスガードという装置。主人公である医師がヘルスガードを付けること自体、医師が病気に負けている世界
    *理解できれば どんな病も癒せる医師としてのアイデンティティが生まれたラストシーン

    祈りの海
    人生を価値あるものにしているものが〜無意味である可能性に面と向かう気構えがあれば〜その奴隷になることはない

    最後のやりとりが印象に残る
    「神ってのは なかなかいい思いつきだが、まるで意味をなさん」
    「でも生きることがつらすぎませんか?」
    男は笑って「四六時中って わけじゃないさ」





  • SF小説はいくつか読んできたが、難しいことを抜きにして楽しめるものと、専門的記述が多く理解し難いために楽しめないものとがあった。

    本書は後者の方で、作者が物語をとおして伝えたいことはSF的な技術進歩等だけではなく人間そのものや自由についてなのだろうが、とても話が解りづらい。人間についてというテーマを語る上で、高度な技術的解説が必要なのか疑問に思った。物語冒頭はまだいいが、だいたい中盤くらいでとても難しい科学技術的な話が出てきて、その後はもうついていけないため、話のオチもよくわからないまま終わったと感じてしまう。

    SFの父、ジュールベルヌも難しい技術的な話が出てくることもあるが、それ以上に物語の展開や登場人物達が魅力的で楽しめる。

  • 「祈りの海」「貸金庫」「キューティ」SF的でいて愛とは人間とは何かをわかりやすく問うものが多かった。科学的には分かっていても、解明されてしまっても人間は動かせない何かがあるのだ。
    貸金庫の、特殊な設定で、それを法則を見つけ慣れていく主人公が面白かった。
    繭、繭の中で、赤ん坊は何から守られているのか。すべてがホルモンやDNAで調節できるとしたら、ジェンダーは左利きは、「正常」以外はどうなってしまうのか。
    誘拐、僕になることを、人格を全くコピーできる世界は、「自分」の認識とは何か。逆に、何を他人と判断するのだろう。スクリーンの妻が毎日苦しんでいたら、病みそう…
    100年ダイアリー無限の暗殺者、ミトコンドリアイブ、サスペンスドラマのようで、別世界のAを殺し、Bがたたかい、難しい…でも世界観があんまり好きではなかった。
    誰かの感想で、イーガンは世界観や枠組みがしっかりしてるのに、最後は個人の感想や主観に落とし込まれてしまうのが矮小化というか物足りなさがある、とありその通りだなと思った。ディアスポラのようなバリバリのSFを読みたいのだ。

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著者プロフィール

1961年、オーストラリア西海岸パース生まれ。SF作家。西オーストラリア大学で数学理学士号を取得。「祈りの海」でヒューゴー賞受賞。著書に、『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』『ディアスポラ』他。「現役最高のSF作家」と評価されている。

「2016年 『TAP』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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