ドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)
- 早川書房 (2003年3月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150114374
感想・レビュー・書評
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2054年のオックスフォード大学では、開発されたタイムトラベル技術を歴史研究に利用している。女子学生キヴリンは現地調査のため、飢餓と疾病が蔓延する14世紀にタイムトラベルするが、キヴリンを現地に送り届けた技術者が未知の病に倒れ、キヴリンが無事現地に到着したか確認できなくなってしまう。キヴリンの非公式指導教授のダンワージーは、彼女の安否を確認すべく奮闘するが、未知の病が次第にオックスフォードを覆ってしまい… 一方、キヴリンは14世紀に到着するも原因不明の病に倒れてしまう。現地人の看護により一命を取り留めた彼女は、もとの時代に戻るために出現地点を目指すが…
全2巻。終盤までは、物語は遅々として進みません。張り巡らされた問題は何一つ解決しないまま、ただいたずらに時が過ぎるばかりで、とにかくもどかしい気持ちでいっぱいになります。とはいえ、退屈というわけではありません。なんといっても「ひとの話をきかない登場人物」の多いこと多いこと。読中、何度も殴ってやりたい衝動にかられるぐらいで、こういった憤りやキヴリンと現地人の交流を微笑ましく思いつつ、読み楽しんでいきました。
終盤以降は、これまでの鬱屈を爆発させるかのような怒涛の展開をみせ、一気にクライマックスまで突き進みます。ただ、この怒涛の展開は決して気分が晴れ晴れするものではないのです。ダンワージー側は悲惨さの割りにお気楽な展開でしたが(メアリが可哀相だ)、キヴリン側は違います。14世紀を襲った黒死病を目の当たりにし、現地人を助けるべくあがき苦しむも訪れるのは歴史の惨劇のみ。読んでいるこちらが悪寒を感じる展開で、彼女がのこした記録(ドゥームズデイ・ブック)の淡々とした描写が悲惨さを助長させました。歴史は変えられないというのが、この世界の鉄則であるだけに、「みんなとっくに死んでるんだ。そう考えても、とても信じられなかった」「どうかロズムンドを死なせないでください。どうかアグネスを感染させないでください」といったキヴリンの言葉が胸を刺します。
先日読んだ著者の短編集がコミカルな内容だっただけに、落差が激しかった… 過去も未来もパンデミックが発生しており、時代の危険度合いは普遍的であるのかもしれませんが、それでもキヴリン側の描かれ方が悲惨かつ迫真であっただけに、歴史の冷酷さを感じる物語でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
☆4.2
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中世史科の学生キヴリン。好奇心旺盛で小柄の女性が研究のために1320年へタイムトラベル。しかしキヴリンは飛んだ先で倒れ、過去へ送りだしたほうのダンワージー教授のところではパンデミックの事態。どちらも原因がわからぬまま話は進む。
出だしで話に入りこむのにいくぶん時間がかかったが(いくつかの普通名詞がどの意味で使われているのか理解するのに手間取った)、わかってしまえばページを繰る手が止まらない系の小説でした。下巻へつづく。 -
いきなり登場人物が当然のように動き出すので
シリーズの続編かと思っていたら、これが初めですか。
14世紀へのタイムトラベル(なにかがおかしい)と
21世紀のパンデミックの混乱が並行で描かれ、
どちらも何が起こって、どうなってしまうのか
気になるのだが、21世紀は周りが自分勝手、非協力的で
かきまぜられて話が進んでいかないし、
14世紀は、時代の隔たりがもたらす
絶望的なほどの違いに、一歩間違えば命を失いかねない
文字通り孤立無援な中、なんの手がかりもなく
当然、進展はゆっくりと時間をかけて。
21世紀は突然の未知の恐怖へ必死にならなければ
ならないはずなのに、個人の主張で
なぜかコミカルにうつる(あの母親のせいか?)。
一方で14世紀は準備万端なはずなのに、
ずれていることで徐々に深まる孤独と恐怖に
さす当時の登場人物の光?というコントラストもある。
上巻では、わからず無駄・冗長な描写と思えるところも
先に『航路』を読んだから、
たぶん何かに収束していくのではないかと期待し、
それ以上に動きだしは遅いけど、
ドンドン引き込まれていく加速感、上巻は★3つだが、
下巻で★は増えるのか? -
上巻は読む必要なし。冗長すぎるよ!<br>
上巻は本当に、21世紀側はウイルスによる隔離騒ぎだけだし、14世紀側はほとんどキヴリン倒れっぱなしだし。<br>
SFというわりにはネット理論とか全然出てこないので読みやすいといえば読みやすいけれど、このタイムトラベル以外は全然未来っぽくありません。<br>
携帯電話もなくて、連絡取るのに苦労してるし(テレビ電話になったくらい?)。<br>
でも下巻からは一気に読めるようになります。<br>
21世紀側ではキヴリンが手違いで黒死病(ペスト)の時代に送り込まれたことが判明し、14世紀側では実際、黒死病患者がキヴリンの助けられた村に襲い掛かります。<br>
つか、このへんは読んでいて辛かったです。<br>
キヴリンが面倒を見ていた幼い少女も、そして田舎神父と領主の姑に馬鹿にされていたけれど最期まで信仰と己の勤めを忘れなかったローシュ神父も皆、恐ろしい病に倒れてしまいます。<br>
ローシュ神父はキヴリンを神が遣わした聖人だと思っていましたが、彼こそが本当の聖人でした。<br>
ローシュ神父の魂の安からんことを。 -
アメリカの作家「コニー・ウィリス」の長篇SF作品『ドゥームズデイ・ブック(原題:Doomsday Book)』を読みました。
「ヒュー・ハウイー」の『ダスト』に続きSF作品です。
-----story-------------
〈上〉
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。
過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。
オックスフォード大学史学部の女子学生「キヴリン」は、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。
だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。
〈下〉
21世紀のオックスフォードから14世紀へと時をさかのぼっていった女子学生「キヴリン」。
だが、彼女が無事に目的地にたどりついたかどうか確認する前に、時間遡行を担当した技術者が正体不明のウイルスに感染し、人事不省の重体に陥ってしまった。
彼女の非公式の指導教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、「キヴリン」のために、新たな技術者を探そうと東奔西走するが!?
英語圏SFの三大タイトルを独占した「コニー・ウィリス」の感動作。
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本作品は、近未来(21世紀中盤)のオックスフォード大学が舞台で、若き女性歴史家「キヴリン・エングル」がイギリスの最も危険な時代と思われている14世紀にタイムトラベルするというSF小説、、、
作者の「コニー・ウィリス」は、これまでにヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しており、1980年代から1990年代における最も優れたSF作家の一人と呼ばれている女流作家… 彼女の作品は初めて読んだのですが、本作品も、その3賞を受賞しているので期待して読みました。
物語は2054年のオックスフォードから幕を開ける… 過去へ向かうタイムトラベル技術が確立され、歴史研究のために利用されており、ブレイズノーズ・カレッジ中世史科の女子学生「キヴリン・エングル」は本人の強い希望もあり、前人未踏の14世紀に送り出される、、、
しかし、彼女が無事目的地に着いたかどうかを判定するデータが出る前に、時間遡行の実務面を担当した技術者「バードリ・チャウドゥーリー」が正体不明のウィルスに感染して突如、意識不明の重体に陥り、「キヴリン」が計画通り1320年に到着したかどうかの確認が取れないが、町はクリスマス・シーズンで、かわりの技術者は見つからない… 「キヴリン」の非公式の指導教授でベイリアル・カレッジの教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、なんとか教え子の安否をたしかめようと孤軍奮闘するが、ウィルス感染が拡大し、オックスフォードは他の地域から隔離されてしまい、自身も未知のウィルスに感染して倒れてしまう。
一方、14世紀にやってきた「キヴリン」も、到着と同時に病に倒れ、やはり意識不明に陥る… たまたま通りかかった現地の人間に助けられ、かろうじて一命はとりとめたものの、意識不明の状態で村まで運ばれてしまったことから、未来世界に帰還するためのゲートとなる出現地点の場所がわからなくなる、、、
果たして「キヴリン」は元の世界に帰り着けるのか… 「レイディ・エリウィス」等の献身的な介護もあり、なんとか体調が回復した「キヴリン」だが、追い打ちをかけるように、思っても見なかった危難が発生する。
周囲の人物が次々と病に倒れ、その症状は、当時、ヨーロッパを恐怖に陥れた黒死病(ペスト)に酷似していた… ペストがイギリスに辿り着いたのは1348年なので、「キヴリン」が到着した1320年には、まだペストはイギリスに存在していなかったはずなのだが、、、
実は、「キヴリン」が到着したのは1348年で、まさにペストが猛威をふるっていた時代だった… 「キヴリン」は、伝染病について無知な村人を少しでも多く助けようと懸命な介護を続けるが、村人は次々と命を落とし、彼女の命の恩人で献身的に村人の介護にあたっていた「ローシュ神父」まで発病していまう。
一方、謎のウィルス感染により発病し、なんとか一命を取り留めた「ダンワージー」は、友人の医師「メアリ」の姪の息子「コリン」とともに、「キヴリン」の迷い込んだ時代に遡り、彼女の救出を試みる… 彼らは限られた時間の中で、「キヴリン」を捜索するが、そこはペストによる夥しい死体が山積みに放置され、見捨てられた村だった、、、
あっと驚く展開はなく、予想通りのエンディングで、期待通りの内容でしたね… 面白くないわけではないのですが、ちょっと物足らない感じかな。
14世紀のパートは、シリアスな歴史小説風な展開で、その時代に生きる人々の息遣いや生活の匂いまで含めて、中世イングランドの日常を鮮やかに描き出されているのに比べ、、、
21世紀のパートは、コメディ風で、交互に描かれる700年の時を隔てたふたつの時代が、巧く書き分けられていることが印象的でした… そのふたつの時代の展開が、ひとつになってクライマックスに向かう終盤の展開は集中して読めましたね。
でも、上下巻で1,000ページを超えるボリュームは、ちょっと冗長な感じ、、、
途中で少し飽きそうになりましたね… シンプルな物語なので、もう少しコンパクトな方が良かったな。
21世紀のパートで、
いつもトイレットペーパーの残量を心配している「フィンチ」、
いつもずぶ濡れになっていて、色の変わるキャンディを舐めている「コリン」、
いつも新しい女性といちゃついている「ウィリアム・ギャドスン」、
いつも行方不明で一度も登場しない史学部の学部長「ベイジンゲーム」、
等々、同じシチュエーションを繰り返すキャラクター達の行動が印象的でしたが… 映像化されることを想定した仕込みのような気がしましたね。
以下、主な登場人物です。
<21世紀(オックスフォード大学)>
「キヴリン・エングル」
ブレイズノーズ・カレッジ中世史科史学生
「ジェイムズ・ダンワージー」
ベイリアル・カレッジの教授
「フィンチ」
ダンワージーの秘書
「ベイジンゲーム」
史学部の学部長
「ギルクリスト」
史学部の学部長代理。ブレイズノーズ・カレッジの中世史科教授
「バードリ・チャウドゥーリー」
ベイリアル・カレッジのネット技術者
「ラティマー」
ブレイズノーズ・カレッジの教授
「ループ・モントーヤ」
ブレイズノーズ・カレッジの考古学者
「メアリ・アーレンス」
付属病院の医師
「コリン・テンプラー」
メアリの姪の息子
「ウィリアム・ギャドスン」
ベイリアル・カレッジの学生
「テイラー」
アメリカ人の鳴鐘者
「ヘレン・ピアンティーニ」
アメリカ人の鳴鐘者
<14世紀>
「レイディ・イメイン」
ギョーム卿の母
「レイディ・エリウィス」
ギョーム卿の妻
「ロズムンド」
ギョーム卿の長女
「アグネス」
ギョーム卿の次女
「ガーウィン」
ギョーム卿の家臣
「メイリス」
召使
「ローシュ」
神父
「サー・ブロート」
ロズムンドの婚約者 -
感想は下巻で。
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4/593 《オックスフォード大学史学部》シリーズ (「ドゥームズデイ・ブック」→「犬は勘定に入れません」→「ブラックアウト」→「オール・クリア」)
内容(「BOOK」データベースより)
『歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キヴリンは、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。』
冒頭
『研究室のドアを開けたとたん、眼鏡がたちまち曇った。
「間に合わなかったか?」ダンワージーは眼鏡をむしりとり、メアリに向かって目をすがめた。
「ドアを閉めて。その気色悪いキャロルで声が聞こえないから」
ダンワージーはドアを閉めたが、中庭から響いてくる「神の御子は」を完全に遮断することはできなかった。』
原書名:『Doomsday Book』 (Oxford Time Travel #1)
著者:コニー・ウィリス (Connie Willis)
訳者:大森 望
出版社 : 早川書房
文庫 : 544ページ
受賞:ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞 -
長い…と感じるくらい話が進まない。