ドゥームズデイ・ブック(下) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-5)

  • 早川書房
4.20
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150114381

感想・レビュー・書評

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  • 後半、話のテンポは上がっていく。
    しかし、これにSF的な派手な展開を期待すると全く外れる。
    あくまでSF的な設定ではあっても、中世と現代とで疾病と戦かう物語として割り切って読めば実に緻密な描写で引き込まれるが、通常のSF(タイムワープ物)的な展開を期待すると全く外れる。

    誰も見たことも無い中世の世界を緻密に描きこみ、多彩な人物をリアルに配置し、二つの時代をまたがって物語を展開する手法は見事だし、後半のシビアな展開には驚く。

    しかしそれであっても、(全くストーリーに関係のない)不要な描写は読み疲れて、正直読むのに努力が必要だった。続編はどうしよう・・?

  • どんな時代であれ、生があり、死があり、その時代に生きる人々のささやかな喜びや悲しみがある。タイムトラベル先の14世紀のイングランドの片田舎で、ペストの蔓延により、知己が次々と倒れていくなか、キンバリーは身をもってそのことを思い知らされたのでは。歴史とは、後世に名を残すこともなく生き、死んでいったこの人の、あの人の人生の集まりなのだと。

  • ☆4.5

    結構シリアスな展開な作品なので確かに読むのは疲れるけども、じゃあそこで読むのやめられるかってんだ。
    だって希望が欲しいじゃないか。
    その希望をくれるのがコニー・ウィリスじゃないか。

    二つの時代で起こる感染症。
    14世紀はメカニズムが判明していない故に、21世紀は世界が発展してるが故に、感染は広がる。
    特に21世紀パートはコロナを経験した今、事実に即してると思えるほどの描写。
    トイレットペーパーのくだりとかも、笑っちゃうけどフィンチは真剣そのもの。
    貧乏くじな彼、結構好き。

    下巻は特に第三部に入るともう怒涛の展開。
    優しい人も、嫌いな人も、聡明な人も、人の話聞かない人も、尊敬する人も、面倒くさい人も。
    それが訪れるのは誰もが同じ。
    怖いしつらい。
    14世紀の孤立無援な中、無力なことに打ちひしがれながらもできることをやり続けるキヴリンを本当に褒め称えたい。

    物語の前半で何気なく使われてるものが、後々意味の重みが変わってくるのは『航路』の時もそうだったけど、とても印象的だった。
    流石"対"と言われることも多いだけある。

    パンデミックのことだけでなく、時間遡行から無事に戻れるかというサスペンスフルな話でもあるので、隅から隅まで浸らせてくれた。


  • コリンの大叔母である医師メアリや、いやーな野心家ギリクリストがあっさり死んでしまったのは拍子抜けしたが、死ってそういうものかも。
    ペストの蔓延するなかで病人の血で汚れることも厭わずローシュ神父とともに奮闘するキヴリンは、原作版風の谷のナウシカを彷彿とさせたし、コリンは12歳らしく溌剌としてて良かった。無事に現代に戻ってから病院で怒られるんだろうなぁと思うとちょっと可笑しい。
    絶望的な話なのに、読後感はとてもよかった。

  • 二つの時代の疫病の蔓延で、物語は加速する。
    わかっているのよ、創作だということも
    すでに700年前に結果が出ているということも。
    でも年代が判明した瞬間、
    あの人(達)が亡くなった(とわかった)時
    何度か震える一行があった。
    なによりキヴリンの最後の一言は、
    文字通りにとってよいのだろうか。

    途中、若さゆえ活き活きと頼もしくもあった
    最終盤では、それがわずらわしくもあるコリンが
    成長して出るなら、シリーズは全部読まないとね。
    もちろん空襲警報も読みなおそう。

    他の方感想に「長い」とあるが、確かに長い。
    (いや、今年ようやく読み終わった『レ・ミゼラブル』
    各巻冒頭100ページに比べたらなんでもない)
    でも、それだけ情報が与えられているなら
    登場人物たちが身近な「あの人」に
    感じられるだけの、異常ななかでも
    なんでもない日常の一コマになるのではないかと思う。
    混乱のなかで、アメリカ人団体に巻き込まれ、
    いつまでもトイレットペーパーに頭を悩ませる
    フィンチ君とか。

  • 最後までちゃんと読み終えてよかった! 何度涙ぐみそうになったことか…。
    昨年の新型インフルエンザ騒ぎの前に読むか、後に読むかで、だいぶ没入感が違うのではなかろうか。

    しかし後半の展開はすごい。痛い胸を抱え、呆然として読み終わった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「新型インフルエンザ騒ぎの前に読むか」
      絶妙な時に読まれたのですね。コニー・ウィリスは結構好き(タイム・トラベル好きなので)。早く「マーブル...
      「新型インフルエンザ騒ぎの前に読むか」
      絶妙な時に読まれたのですね。コニー・ウィリスは結構好き(タイム・トラベル好きなので)。早く「マーブル・アーチの風」「ブラックアウト」が文庫にならないかなぁ~と思っている今日この頃です。。。
      2012/10/02
  • アメリカの作家「コニー・ウィリス」の長篇SF作品『ドゥームズデイ・ブック(原題:Doomsday Book)』を読みました。

    「ヒュー・ハウイー」の『ダスト』に続きSF作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    歴史研究者の長年の夢がついに実現した。
    過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。
    オックスフォード大学史学部の女子学生「キヴリン」は、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。
    だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?
    ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。

    〈下〉
    21世紀のオックスフォードから14世紀へと時をさかのぼっていった女子学生「キヴリン」。
    だが、彼女が無事に目的地にたどりついたかどうか確認する前に、時間遡行を担当した技術者が正体不明のウイルスに感染し、人事不省の重体に陥ってしまった。
    彼女の非公式の指導教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、「キヴリン」のために、新たな技術者を探そうと東奔西走するが!?
    英語圏SFの三大タイトルを独占した「コニー・ウィリス」の感動作。
    -----------------------

    本作品は、近未来(21世紀中盤)のオックスフォード大学が舞台で、若き女性歴史家「キヴリン・エングル」がイギリスの最も危険な時代と思われている14世紀にタイムトラベルするというSF小説、、、

    作者の「コニー・ウィリス」は、これまでにヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しており、1980年代から1990年代における最も優れたSF作家の一人と呼ばれている女流作家… 彼女の作品は初めて読んだのですが、本作品も、その3賞を受賞しているので期待して読みました。

     
    物語は2054年のオックスフォードから幕を開ける… 過去へ向かうタイムトラベル技術が確立され、歴史研究のために利用されており、ブレイズノーズ・カレッジ中世史科の女子学生「キヴリン・エングル」は本人の強い希望もあり、前人未踏の14世紀に送り出される、、、

    しかし、彼女が無事目的地に着いたかどうかを判定するデータが出る前に、時間遡行の実務面を担当した技術者「バードリ・チャウドゥーリー」が正体不明のウィルスに感染して突如、意識不明の重体に陥り、「キヴリン」が計画通り1320年に到着したかどうかの確認が取れないが、町はクリスマス・シーズンで、かわりの技術者は見つからない… 「キヴリン」の非公式の指導教授でベイリアル・カレッジの教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、なんとか教え子の安否をたしかめようと孤軍奮闘するが、ウィルス感染が拡大し、オックスフォードは他の地域から隔離されてしまい、自身も未知のウィルスに感染して倒れてしまう。

    一方、14世紀にやってきた「キヴリン」も、到着と同時に病に倒れ、やはり意識不明に陥る… たまたま通りかかった現地の人間に助けられ、かろうじて一命はとりとめたものの、意識不明の状態で村まで運ばれてしまったことから、未来世界に帰還するためのゲートとなる出現地点の場所がわからなくなる、、、

    果たして「キヴリン」は元の世界に帰り着けるのか… 「レイディ・エリウィス」等の献身的な介護もあり、なんとか体調が回復した「キヴリン」だが、追い打ちをかけるように、思っても見なかった危難が発生する。

    周囲の人物が次々と病に倒れ、その症状は、当時、ヨーロッパを恐怖に陥れた黒死病(ペスト)に酷似していた… ペストがイギリスに辿り着いたのは1348年なので、「キヴリン」が到着した1320年には、まだペストはイギリスに存在していなかったはずなのだが、、、

    実は、「キヴリン」が到着したのは1348年で、まさにペストが猛威をふるっていた時代だった… 「キヴリン」は、伝染病について無知な村人を少しでも多く助けようと懸命な介護を続けるが、村人は次々と命を落とし、彼女の命の恩人で献身的に村人の介護にあたっていた「ローシュ神父」まで発病していまう。

    一方、謎のウィルス感染により発病し、なんとか一命を取り留めた「ダンワージー」は、友人の医師「メアリ」の姪の息子「コリン」とともに、「キヴリン」の迷い込んだ時代に遡り、彼女の救出を試みる… 彼らは限られた時間の中で、「キヴリン」を捜索するが、そこはペストによる夥しい死体が山積みに放置され、見捨てられた村だった、、、

    あっと驚く展開はなく、予想通りのエンディングで、期待通りの内容でしたね… 面白くないわけではないのですが、ちょっと物足らない感じかな。


    14世紀のパートは、シリアスな歴史小説風な展開で、その時代に生きる人々の息遣いや生活の匂いまで含めて、中世イングランドの日常を鮮やかに描き出されているのに比べ、、、

    21世紀のパートは、コメディ風で、交互に描かれる700年の時を隔てたふたつの時代が、巧く書き分けられていることが印象的でした… そのふたつの時代の展開が、ひとつになってクライマックスに向かう終盤の展開は集中して読めましたね。

    でも、上下巻で1,000ページを超えるボリュームは、ちょっと冗長な感じ、、、

    途中で少し飽きそうになりましたね… シンプルな物語なので、もう少しコンパクトな方が良かったな。


    21世紀のパートで、

    いつもトイレットペーパーの残量を心配している「フィンチ」、

    いつもずぶ濡れになっていて、色の変わるキャンディを舐めている「コリン」、

    いつも新しい女性といちゃついている「ウィリアム・ギャドスン」、

    いつも行方不明で一度も登場しない史学部の学部長「ベイジンゲーム」、

    等々、同じシチュエーションを繰り返すキャラクター達の行動が印象的でしたが… 映像化されることを想定した仕込みのような気がしましたね。



    以下、主な登場人物です。

    <21世紀(オックスフォード大学)>

    「キヴリン・エングル」
     ブレイズノーズ・カレッジ中世史科史学生

    「ジェイムズ・ダンワージー」
     ベイリアル・カレッジの教授

    「フィンチ」
     ダンワージーの秘書

    「ベイジンゲーム」
     史学部の学部長

    「ギルクリスト」
     史学部の学部長代理。ブレイズノーズ・カレッジの中世史科教授

    「バードリ・チャウドゥーリー」
     ベイリアル・カレッジのネット技術者

    「ラティマー」
     ブレイズノーズ・カレッジの教授

    「ループ・モントーヤ」
     ブレイズノーズ・カレッジの考古学者

    「メアリ・アーレンス」
     付属病院の医師

    「コリン・テンプラー」
     メアリの姪の息子

    「ウィリアム・ギャドスン」
     ベイリアル・カレッジの学生

    「テイラー」
     アメリカ人の鳴鐘者

    「ヘレン・ピアンティーニ」
     アメリカ人の鳴鐘者


    <14世紀>

    「レイディ・イメイン」
     ギョーム卿の母

    「レイディ・エリウィス」
     ギョーム卿の妻

    「ロズムンド」
     ギョーム卿の長女

    「アグネス」
     ギョーム卿の次女

    「ガーウィン」
     ギョーム卿の家臣

    「メイリス」
     召使

    「ローシュ」
     神父

    「サー・ブロート」
     ロズムンドの婚約者

  • 疫病の蔓延する中世へタイムトラベルしてしまった学生と、現代から彼女を救出しようと奮闘する教授の奮闘。

    長編だが一気読み。途中でやめられないくらい面白かった。
    中世と現代におけるパンデミックを描いている。保作書かれたのは1995年らしいが、パンクする病床、接触者追跡、感染の原因は外国人だとしてEC脱退を叫ぶデモ等、コロナ禍前に書かれたとは思えないほどの生々しさだ。また自分自身も先日ワクチン副反応で発熱したので、主人公が高熱で苦しむ描写などが身に迫って感じられる。
    タイムトラベル部分の情報量も多い。翻訳機を装着しているものの相手が中世の言葉なので分からなかったり、常識が異なっていてコミュニケーションに苦労したりする。読む分にはただ面白いけれども、書く人にとっては膨大な下調べが必要だろう。
    細かい書き込みと、丁寧な描写で、現代パート、中世パートともに、読みごたえのある人間ドラマになっている。登場人物が非常に多いけれども、主人公と深く関わる人物は詳しく、浅く関わる人物もそれなりの存在感がある。しかも、そうやって出てきた人物のうち、かなりの割合があっさりと死ぬ。散々闘病していたのにほとんど数行で済まされたり、かなり重要な役どころだったのに主人公が意識を失っているうちに死んでいたりする。存在感があった分だけ、喪失感がある。パンデミックとはこういうものなのだろう、と思わされる。

  • やっぱり長いが、後半は展開があって楽しめた。

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