楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

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  • 早川書房 (2006年1月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784150115463

みんなの感想まとめ

宇宙エレベーターの建設をテーマにした壮大なSFロマンは、科学と宗教の対立を描きながら、異星人とのファーストコンタクトや架空の歴史を巧みに織り交ぜています。物語は、3000年の歴史を持つ寺院が建つ霊山で...

感想・レビュー・書評

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  • 宇宙エレベーター建設をめぐるハードSFでありながらも、宗教や異星人とのファーストコンタクト、架空歴史ものの要素も盛り込まれた作品。

    宇宙エレベーターの建設への理想的な場所が、3000年の歴史を持つ寺院が建つ霊山の山頂。ここで描かれる宗教と科学の対立。思索的な部分や抽象的な話が多くて、前半はかなり苦戦しました。なんとなく読み進めていたらいつの間にか、具体的な建設の話に移ってしまっていた印象で、自分の読み込みが追い付けなかったのがもったいない……

    一方で宇宙エレベーターの描写や、異星人とのファーストコンタクトの歴史が語られる場面の壮大さがよかった。人間の技術では測れない異星人との出会いが人類にもたらした、宇宙への夢や憧れ、そして野望。また超技術を持った異星人が存在するとわかった時、人は宗教を、そして神をどうとらえ直すのか。壮大な思考実験を小説という形で、読者である自分にも突きつけられるような気がします。

    そして徐々に実現が近づいてくる宇宙エレベーター。しかし、完成直前に大きなトラブルが起こり……
    科学が進んだ世界での宗教の立ち位置や在り方が前半のテーマなら、後半は打って変わって極限の困難に挑む、科学とそして人間の可能性を信じるドラマの部分がより強く打ち出されます。ここも理論がしっかりとしていたり、宇宙エレベーターを頭に描くSF的な想像力は必要とされますが、老齢の技術者がたった一人で困難に挑む姿と、宇宙の描写は分からないながらも壮大かつ、心躍らせ胸熱くするものがありました。

    そしてエピローグで物語はさらなる時代を、宇宙を超えて紡がれる。科学と宗教、そして宇宙エレベーターという壮大なテーマを締めくくる、しみじみと残るものでした。

    自分の理解が足りず読み逃しているポイントも多々あるとは思うのですが、それを補ってあまりある魅力のある作品だったと思います。

  •  SF界の巨匠アーサー・C・クラークによる軌道エレベーター建設を描いた作品。今日では軌道エレベーターを物語上のギミックとして取り入れる作品は数多存在するが、本作はその元祖として名高い。さらに言えば、軌道エレベーターを題材にした作品としては本作以外に知られている作品はほとんど知られていないわけだが、その理由は本作を読了して得心した。1979年の時点でここまで細密に軌道エレベーターについて考察し、実現可能性を追求したものが出てしまっていれば、後発にとってはお手上げであろう。しかも作者は、軌道エレベーターの科学技術的側面にとどまらず、その建設をめぐる政治的・社会的・宗教的影響についても巧みに描写しているのである。軌道エレベーター建設を題材にして本作を超える作品を生み出すことは至難の業であり、それゆえ本作は唯一無二の地位を獲得しているのである。

     本作はさしずめ軌道エレベーターに関する科学論文の様相を呈しており、そうした観点から取り沙汰されることが多いが、物語としても非常に味わい深い。前半部分は科学技術の発展した世界では宗教・神とどのように向き合えばよいのか?ということがテーマと思われるが、読んでいると、物語の舞台に宗教的聖地をもってくる意味があるのか?という疑問も湧いた。しかし、その意味はクラーク流の巧みな仕掛けによって最後にはすべてが明らかになる。最終的に軌道エレベーターが建設可能となったいきさつに地球外知的生命体が絡んでくるところも面白い。全体としては、主人公モーガンが軌道エレベーターの建設を進めてゆくシンプルなストーリーなのだが、特に前半部分はたびたび挿入される舞台タプロバニーの歴史に関する描写によりやや複雑な構造にもなっている。淡々と進んでいく物語は、終盤に用意されたある出来事によって一気にスリリングになり、やはりクラークが一流のストーリーテラーであることを思い知らされた。主役モーガンはもちろんのこと、彼をとりまく他の登場人物たちのキャラクターも非常に魅力的で映画のような没入感を感じられた。

     『ガンダムGのレコンギスタ』で軌道エレベーターを描いたアニメ監督の富野由悠季は、人類が宇宙に行くためには目的が必要であると述べているが、私自身、本作を読んでいて軌道エレベーター建設の目的に関する意図が明確に感じられない点は不満に思っていた。しかし、エピローグを読んでみて、むしろ最初から目的が設定されていない、そういう場合もあってよいのではないか?と思うようになった。ただ、そのように思わせてくれたのは、クラークの一流の手腕ゆえなのかもしれない。

  • 宇宙エレベーター(軌道エレベーター)建設の実現を目指す技術者の壮大なSFロマン。
    21世紀に入って実現の可能性が高まっているらしい、軌道エレベーター建設を1979年に描いた小説。全体の構成としては「プロジェクトX」風とどなたかが書いていた通りの感じ。不可能を可能にしていく建設への積み重ねと、現地スリランカの架空歴史ロマンや、地球外知的生命体との接触もからめて物語は進んでいく。ハードSFとして技術的な話も多く、中盤まで起伏がやや緩やかな展開に感じたが、未知の事象に向かっていくセンス・オブ・ワンダーは健在。アクシデントが続く終盤のスリルと緊張感には映画のような迫力があってのめり込んだ。圧巻の結末にクラークの偉大さを再度思い知らされた。やっぱすげえ。

  • 全長4万kmの巨大な「宇宙エレベーター」建設を夢見る技師モーガンが建設地の候補として選んだ南アジアの島国・タプロバニー。古代の伝説に彩られた美しい島に聳えるスリカンダ山の頂上がその候補地だったが、そこには長い歴史を持ち民衆からも愛される寺院が存在していた。寺院の説得に苦戦するモーガンが試行的に実施したケーブル実験の完成が迫る中、突然の嵐がやってくる。絶望の中にも希望を見いだそうとするモーガンの前で展開されるある奇跡。
    宇宙エレベーター建設が始まってからも、ひとつまたひとつと様々な困難がモーガンの前に立ちはだかる。彼を支える仲間たちと共に、夢の実現に邁進するモーガンが、最後の最後に見た光景とは?

    巨匠クラーク、後期の代表作。後期のクラークに特徴的な悠揚迫らざる筆致と淡々としたストーリー展開はこの作品でも顕著で、血湧き肉踊るドキドキわくわく感を期待するタイプのSFではありません。一人の技術者の挑戦を丹念に描いていく、大人のSFです。

    ストーリーの中心は前半と後半とで大きく異なり、前半は古代から連綿と続くタプロバニー文化を背景に、スリカンダ山頂の利用権を巡るモーガンと寺院との策略合戦を描き出します。タプロバニーの歴史と宇宙エレベーター建設という未来技術、全く相容れないと思われた二つのものが、第三部のラストで魔術的な融合を果たして夢のような光景を現出させます。実験の失敗に打ち拉がれるモーガンの目の前に突如現れる、舞い狂う黄金の蝶の群れの何と言う美しさ!前半のストーリー展開の平坦さはちょっと忍耐を擁しますが、この第三部までは頑張って読み進めてください。SFには理系の知識だけでなく社会科学系の視点も入れると物語に深みが増す、ということがよくわかる、読み応えのある展開です。
    後半は宇宙エレベーターの建設が本格化してからの話。クラーク流のハードSFが堪能できる、端正でサスペンスフルな展開です。ところどころに登場する詩的な情景描写も見所の一つ。

    鴨的には、やっぱり前半部分の歴史と科学の見事な融合が印象的なだけに、後半のあるシーンでのセンチメンタリズムが鼻に付いたのとラストの尻切れトンボ感がかなり残念。たぶんクラークは、最後の一行を書きたいがために、このラストシーンを持ってきたんでしょうね。

  • ハードSF長編。いわゆる「軌道エレベーター」の建造がメインのお話で、それに宗教的世界観と科学との対比が入ります。
    現代になってようやく可能性が囁かれはじめた軌道エレベーターだけど、1970年代にこんなに緻密に描かれてたなんてびっくり。さすがの巨匠です。
    読んでる時の感覚は技術系/歴史系ドキュメンタリーに近いんだけど、エピローグまで読み終えたらやっぱり見事なSF長編でした。素敵!

  • 地球の自転と同じ速度で動くことで空中に静止する宇宙ステーションから地上にケーブルを伸ばせば、全長約4万キロのいわゆる軌道エレベーターが建設できるはず。赤道直下の各候補地のうち、建設条件を唯一クリアした地点は、島国タプロバニーの霊山の頂、そこには3000年の歴史を持つ寺院が建っていた……という筋。

    歴史遺産や巨大建造物の途方もないスケール感に息を呑んだ経験は誰しもあると思う。では、その両面を併せ持った起動エレベーターのベルトが天まで伸びている様に、建設に心血を注いだ技術者は何を見るのか。意外としっとりしたシーンも多く、SF以外では味わえない情緒感がステキ。後半はプロジェクトX的なプロフェッショナルたちのアツさもあり。膨大な数の機構を積み重ねたうえで、どこかたった一箇所のミスで、膨大な予算と気が遠くなる根回し含めすべてが無に帰す技術開発のシビアさ、恐ろしさ。ロケット開発の難しさっていうのもこういうことなのかな。詳しくないけど。

    とまあ主題自体は興味深いのだけど、とにかくシブい。かなり苦戦しました。

  • ロマンの塊

  • ずっと読みたかった一冊。
    現代の宇宙エレベーター構想の礎である小説。

  • 地上と宇宙を結ぶ巨大な軌道エレベーターをめぐって描かれる壮大な物語。アーサー・C・クラーク作品の中でも最も好きな本です。クラークの作品でも特にしっとりと読ませる本だと思うので、落ち着いて読書を楽しみたい方はぜひに。

  • 大林組が宇宙エレベーター構想なんてものを掲示したりしているけど,実際に宇宙エレベーターが建設されるのはあとどのくらいかかるのだろうか。

  • 「ユーリ・ガガーリンが、もっと100キロも高いところで感じたほどには、寂しくないわ。ヴァン、あなたはいままでにない新しいものを世界に持ちこんだのね。空はそれでも無慈悲かもしれない――でも、あなたはそれを服従させたのよ。こういう旅をする勇気のない人たちが、少し入るかもしれないわね。その人たちを心からお気の毒に思うわ」(p.248)

  • 軌道エレベータの完成を目指すエンジニアの奮闘記。
    宗教と科学の対決、というハインライン先生お得意の重厚なテーマが一貫するのかと思いきや、中盤であっさり決着がついてしまう。
    後半はハリウッド映画ばりの緊張感あるレスキュー劇。急に軽い話。
    2,000年前の古代のエピソードに始まり、エンディングでは遥か遠い未来に飛ぶスケールの大きさはさすがです。

  • 宇宙局エレベーター(軌道エレベーター)建設に向けて技術者モーガンが奮闘する姿を描いたハードSF。1970年代の作品。

    後半、展開がスピードアップしてスリリングナ展開へ。なお、前半で所々に挿入されている、2000年前のカーリダーサ王子の王位争いを巡るエピソード、不要なんじゃないかな。

    解説によれば、強靭な引っ張り強度を持つカーボンナノチューブが、軌道エレベーターのワイヤー素材として有望視されているとのこと。知らなかった!

  • このSF小説は、赤道上の静止衛星からケーブルをおろして「宇宙エレベーター」建設を夢見る技術部長と宗教との。

  • 軌道エレベータの話
    スリランカには実際にタブロバニー?だっけ、信仰となっている山が存在する。
    話自体はちょっと散漫な気がする。

  • 夢の扉+ 2011年9月11日の放送でみた
    日本大学教授 工学博士 青木義男 さんのスペースシャトル後の宇宙開発
    夢の技術 ・・・エレベーターで宇宙を目指せ! 「宇宙エレベーター」開発者の挑戦

     ★ 宇宙エレベーター!? そんなことができるの??

    宇宙エレベーターの最初のアイデアは、SF作家アーサー・C. クラークの「楽園の泉」だそうです。
    どんな奇想天外なアイデアがとび出すのか、読む前からワクワクしています。
    独特の雰囲気をもつ登場人物、面白い話だけれど 途中まで。 また借りて続きを読みたい。
    2011/9/13 予約  9/23 借りる。10/1 読み始める。10/10 途中で返却

  • 【由来】
    ・もちろん、出た時から知ってるし宇宙エレベーターだし。ハヤカワの電子書籍50%オフと、それで購入したSF2000レビュー本がトリガー。

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】
    ・面白かった。大体が一人の男が宇宙エレベーターをつくるのに打ち込むストーリーだが、最後が想像されるような大団円じゃない。ある意味、それを上回る未来讃歌。

    ・宇宙エレベーターは銀河英雄伝説だったり最近はGのレコンギスタ辺りで出てくるが、SFとしては本書が最初。しかも実際は宇宙工学や物理学の世界で最初のアイディアは提唱されたらしい。それを自分のものにして、ここまでのストーリーをつくる。しかも、細部のディテールは時代を感じさせないどころか、今の時代に読んで、ますます説得力を増しているってのはすごい。

  • 図書館
    SF

  • *
    蛹がその本を引っ張り出してきたのは、明け方に蝶が死んだからだった。
    テーブル上の虫籠の中に、ありふれたモンシロチョウが横たわっている。先週、葉月が庭先で捕まえて、置いていったものだ。
     
    「どういう話でしたっけ、それ」

    葉月は、そのプラスチック製の虫籠を覗き込みながら、問うた。

    「科学者が、赤道上の山の上に軌道エレベーターを造るまでの話。色々な政治的な困難や事故はあるけれども、ともかくそれだけのシンプルな物語だ。その山には古い寺院があり、昔ながらの文化の中で暮らす人々がいて、そして、三千年前に想い破れた王とその軍団が、今も蝶となって山の麓を彷徨っている」

    「ああ、思い出しました。軌道エレベーター実現のために駆けずり回る科学者と、三千年前の王様のお話が交互に描かれるやつですね。軌道エレベーターの方は、途中トラブルがあって、ものすごい暴風か何かに襲われて、それで――麓の蝶が、山頂まで吹き上げられる」

    「そう、彼らが失った玉座まで。"その昆虫は、彼の掌の中に握りつぶされ、モーガンの見ている前で、束の間の最後の生命を終えていた――そしてその瞬間、これまで慣れ親しんできた宇宙が、自分のまわりで揺れ動き崩れさってゆくかのように思えた"」

    蛹は、物語の一説を抜き出し、読み上げた。
    そして、言った。

    「フィクションが現実の先を歩いてこそSFは美しいのだし、それが遠い過去からの連続性を持っているからこそ、物語は物語としての意味を持つんじゃないのか、と。クラークの小説を読んでいると、そう思う」
    「想い破れた王は、それで報われましたか」
    「死者は死者だ。死者の心を動かすことは誰にもできないよ。動かせるのは、生きている人間の心だけだ」
    「悲しいですね」
    「うん。でも、それが物語だと思うし、だから、まあ、悲しいよね」

    蝶の死骸は、蛹が庭先で焼いた。羽が壊れないように慎重に籠から出し、燐寸の火を白い羽に移した。
    そして、葉月とふたり、燃え尽きるまで見守った。

  • 軌道エレベーターを作ろう!って話。何かでかく、バーン!!っていうのは無いけど、ゆっくり静かに話は進んでいって、堂々のフィナーレへ。それこそ意味通りの命をかけた大事業の話です。

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