タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

制作 : 和田 誠  浅倉久志 
  • 早川書房
3.93
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本棚登録 : 2395
レビュー : 225
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150117009

作品紹介・あらすじ

時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。

感想・レビュー・書評

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  • ヴォネガットは、まったく、ぜんぜん、ほんの少しも生きる価値のないようなくだらなくて愚かで怠惰な人間が、それでも生きがいを探しているのだということを書いてくれる。
    けれども、本当に怠惰な人間は、本当に何もできないし、さらに言えばそもそもきちんとした良心さえ持っていないかもしれないのだ。

    何をどうすればいいのかわからず、自分が何をしたいのかもわからないまま、愚かなままで生き続ける。そんな人間が生きていて、いったい何の価値があるのだろう?

    その圧倒的虚無に対しての、ヴォネガットの優しくユーモアあふれる答えがこの本なのだろう。彼はこの本である種の読者の胸をかきむしらせ絶望させ、そして軽やかに救済する。

    天国はとても穏やかでハッピーであり、そこは確かに存在するのだよと言われて安心したい人間は、しかしとても疑い深いので、なかなか説得に応じない。
    彼らはこの世に疲れ果てていて、できることなら安らかに眠りたいと思っているのだ。でも、眠ることさえ怖いのである。悪夢を見るに違いないと思って。彼らはいい夢なんて、一度も見たことがないので。

    世界中の誰もが幸せになっても、自分だけは幸せになれないと思っているタイプの人におすすめしたい本ですね。

  • 「水星」のエピソードが、やばい。

     空気の振動を栄養にする、水星の原生生物ハーモニウム。彼らにテープレコーダーで音楽を聴かせる男、ボアズ。

     ハーモニウムたちは食料を求めてアンクのもとに集まってくる。ボアズは、ハーモニウムたちを喜ばせようと音楽をかけ続ける。嬉しそうにオレンジ色に輝くハーモニウム。嬉しそうに「こいつらはなぁ、おれを愛しているのさ」とボアズ。

     完全に勘違いなんだけど、二者とも、その関係性=しあわせから抜け出せないんだ。。。

    (p304)おれはなにもわるいことをしないで、いいことのできる場所を見つけた。おれはいいことをしてるのが自分でもわかるし、おれがいいことをしてやってる連中もそれがわかってて、ありったけの心でおれに惚れている。アンク、おれはふるさとを見つけたんだ。
     いつかここで死ぬときがきたら、おれは自分にこういえると思うんだ。『ボアズーーーおまえは何百万もの生き物に生きがいをくれてやった。こんなに大ぜいを喜ばせた人間は、ほかにひとりもねえぜ。この宇宙でおまえを憎むやつはひとりもねえよ』ってな。

  • 後半、すべての謎が明らかになった瞬間思わず声を上げてしまった。
    この物語を読んでいるうちに、自分もいつの間にか一緒に旅をしている気になっていたものだから、すべての話が回収された後、わたしは非常にすっきりとしたなんともいえない爽快感に満たされた。

    「わたしを利用してくれてありがとう」

    441ページの、ビアトリス・ラムファードがマラカイ・コンスタントに向けて言ったセリフのひとつだ。

    人はいつの間にか、誰かに利用されているのかもしれない。
    それは人間とは限らない。もっと宇宙の何者かとか、神とかかもしれない。
    わたしたちの人生は、誰かのための何かしらのものなのかもしれない。

    もうひとつ、このビアトリスの前のセリフに
    「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」
    という、同じくビアトリスによるセリフがある。
    そして先ほどのセリフへと続く。

    利用される、というと聞こえは悪いかもしれないが、
    言い換えるとそれは、私たちの人生が何者かの何かしらの行為に役に立っているともいえる。

    それは、実はとてもありがたいことなのではないだろうか。

    ふだんはなかなか実感できないけれど、案外、私たちは生きているだけでも何かの役に立っているのかもしれない。
    そう考えると、生きるのも悪くないと、そう思える。
    そう思っても、良い気がする。

    最後の1ページをめくった後、いろんな思いがあふれてくる。
    壮大な、とても壮大な物語でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「いろんな思いがあふれてくる。」
      カート・ヴォネガットって、斜に構えた恥しがり屋ですね。。。
      「いろんな思いがあふれてくる。」
      カート・ヴォネガットって、斜に構えた恥しがり屋ですね。。。
      2013/08/05
  • タイタンの妖女は、私にとって初めて読んだと言ってもよい海外SF作品。カート・ヴォネガットの著書を読むのも初めて。
    これまでSFというと、スピルバーグ映画のような、叙情表現は少なく、「未来」「宇宙」というモチーフを使って展開されるエンターテイメント寄りの作品というイメージがあった。
    しかし、タイタンの妖女は私のそんな偏見を良い意味で裏切ってくれた。あとがきに爆笑問題の太田光が、私のような人間にとっては読みにくい作品かも、というようなことを指摘していたが、そんなことはなかった。(確かに取っ掛かりの部分は理解しにくかったけれど・・・・・・・)
    というのも、物語が冒険、宇宙旅行、といた明るいお話ではなくて、宗教や戦争、孤独、裏切り、追放など終始切ない、というかかなり主人公にとってシビアなお話だったからだ。

    とにかくこの物語で一貫しているのは、決して逃げられない不条理であると思う。でも不条理な災厄に見舞われた人たちは、それを受け入れ、意味のようなものを見出していく。生きるための希望とまではいかないが、それぞれが自分自身を温める陽光を見つける。
    主人公を含む登場人物たちに降りかかる仕打ちは容赦ないのに、救いのない話ではなかった。
    誰かに必要とされて、利用されて幸福だと思える人間たちは美しかった。
    たとえ他者の欲望を満たすことや、夢を叶えるコマとして使われたとしても、自分がそこに存在し、何かをしたということは消えてなくなるわけではなく、無意味ではないのかもしれない。

    いろいろ思うことがありすぎて、うまくまとめられないけれど、ラムファードの作った宗教はおもしろかったし(良いという意味じゃない)、サロという機械の自殺や火星人たちの自殺、みんなが一連して誰かに利用されていたことなんかは本当にすごい、よく考えたなーすごい!という感想。
    生まれ変わったらハーモニウムになりたい。

  • 久しぶりに「これはすごい!」と思える小説だった(そんなに小説読まないけど)。
    最初はムチャクチャな設定で登場人物(ラムファード)も何がしたいのか理解できないけれど、読み進めていくうちに「あぁ、なるほど、これはスゴい」と感動してしまいました。
    読むなら絶対最後まで、うん。

    訳も読みやすくて良かった。

  • 物語が壮大になり過ぎて笑ってしまった。
    訳者のおかげもあるだろうけど、ワードセンスが良い。
    ストーリー全体は悲哀に満ちているのにユーモアセンスがあるので気楽に読める。
    一番アツかったのは火星での手紙のくだり。

  • アメリカSFの古典中の古典。
    何だか軽妙で滑稽で、テンポよく展開される、大風呂敷のようで大風呂敷ではない小咄。

    時間等曲率漏斗なるものに突入して、様々な時空間に偏在することになったラムファード氏は、人類救済のための大掛かりな野望に取り組む。
    その道具となった、とある大富豪の遍歴の物語でもある。

    さて、人類を救済するには結局何が必要なのか。ラムファード氏の野望は上手くいくのか?
    行われていることは壮大なのに、どこか珍妙で胡散臭い。それが読み手をウキウキさせるような珍妙さである。
    それでいて、話の収束させ方が実に素朴。
    一周回って・・・と言う感じである。

    ウキウキしてしんみりする。非常に素晴らしい時間つぶしになる。確かに傑作だと思う。

  • 村上春樹が最も影響を受けた作家の一人ですね。
    米国文学史における重要な作家の一人です。
    なんていうぼくは、米国文学にはほとんどなじみがなくて、読書の幅を広げたいと手を伸ばした次第。
    難解でした。
    いや、文章や内容が難解というのではなく、恐らくそこかしこに込められているであろう寓意を十分に汲み取るのが難しかったです。
    それはひとえに、読み手である自分が、本書を読むに値する知性が不足しているから。
    でも、分からないことを、分からないままに読む読書だってあっていい。
    「分かりやすい」本ばかりじゃあ、つまらないし。
    途中から、そう割り切って読みました。
    物語自体は大変面白かったです。
    本書はSF。
    自家用宇宙船に乗ったラムファードは、火星付近で時間等曲率漏斗の中に飛び込んでしまいました。
    そのことで、ラムファードと愛犬カザックは波動現象になり、宇宙のあちこちに存在し、まれに「実体化」することになります。
    ラムファードは神のごとき力を持ち、地球と火星との戦争まで計画して、実際に成し遂げます。
    ラムファードの最大の受難者が、本作の主人公である大富豪のコンスタント。
    コンスタントは、実体化したラムファードから「君は火星から水星、地球、そしてタイタン(土星の衛星)へと旅することになり、火星では自分の妻とまぐわい男児をもうける」とのご託宣を受けます。
    で、実際にその通りになります。
    コンスタントは記憶を失い、水星ではアンクとして登場します。
    登場人物はそれなりに多いので、注意深く読まないと混乱するから注意です。
    全篇、スラップスティックのような趣がありますが、随所にシニカルなユーモアがあって、それも本書の魅力でしょう。
    たとえば、ラムファード夫人のビアトリスの美しさの描写。
    「彼女の顔はマラカイ・コンスタントの顔とおなじように唯一独特のものであり、なじみ深い主題の驚くべきヴァリエーションであった―つまり、その観察者たちに、『そうか―こういう美しさもあるわけだな』と思わせるようなヴァリエーションである。事実、ビアトリスが自分の顔にしたことは、どんな不美人にもできることだった。彼女はそれを威厳と、苦悩と、知性とで上塗りしてから、一刷毛のわがままさでわさびをきかせたのだ。」
    元国税庁職員のファーン青年の「企業官僚」の定義も思わず吹き出しました。
    「企業官僚というのは、物をなくし、まちがった書式を使い、新しい書式を作り、あらゆるものに五枚複写を要求し、いわれたことのおそらく三分の一だけを理解する連中です。いつも、考えるひまを手に入れるため脇道にそれた答えをし、強制されたときだけ判断をくだし、それから責任逃れの工作をする連中です。足し算引き算で悪意のないまちがいをやらかし、孤独を感じるたびに会議を開き、自分が好かれていないと感じるたびにメモを書く連中です。そうしなければクビになると思ったとき以外、絶対に物を捨てない連中です」
    実に痛快ですね。
    こういう行を読んでいる時、ぼくは読書の悦びを感じます。
    それでいて、深いことがさらりと書いてあったりしますから油断できません。
    たとえば、「時間等曲率漏斗」の説明で、こんな記述が出てきます。
    二人の「正しいパパ」を紹介したうえで、「どっちのパパも正しいくせに、それでもたいへんなぎろんになるのは、いく通りもの正しさがあるからだ。」。
    簡単に書いてあるけど、これを理解している人は、ぼくを含めて実に実に実に少ないと思いますよ。
    そんなわけで読書の愉しさを十分に味わわせてくれます。
    もっとも、冒頭に申しあげた通り、すべてが理解できたわけではありませんし、私にもっと教養があれば、もっと愉しい読書となったでしょう。
    ちなみに、爆笑問題の太田光さんが本書の大ファンで、「今までに出会った中で、最高の物語」と公言するほど溺愛しているそう。
    何たって自身の事務所に「タイタン」と名付けるくらいですから。

  • 時間等曲率漏斗の中に吸い込まれたとある金持ちラムファード。彼が主人公である世界一の金持ちで容姿も優れているマラカイ・コンスタントの運命を、ひいては地球人全体の運命の鍵を握る。地球人は拉致され、火星人に仕立て上げられ、地球に戦争を仕掛ける。ヴォネカットの軽快な文体とストーリーに魅せられて”いったい何のために?”という疑問がわいてもこなかったのだけど、その理由はあまりにも残酷というか滑稽というか。ここまでのことをするのか、と少し飽きれたり。
    このマラカイ・コンスタントというのはキリストでありキリストでないみたいな、とにかく宗教的シンボルとしての人生を余儀なくされる。戦後宗教改革が起こったりと、そのあたりの流れが面白かった。サロの人物造形も良かったなー。かれはシステムの代表として物語に出てきたタコ型の機械なんだけど、彼が人間性を持つというのがどういうことなのか。ラストはやはり美しかった。

  • もっと早く、大学生の間に読んでおけばよかったと思った。そうすれば、いま25歳で読み返して、しみじみ変わってないなと思えたのに、
    地球、火星、そして土星の衛星のひとつであるタイタン。銀河系を巡る「そうなろうとする万有意志」の物語。最初は、マラカイとラムファードが嫌いなのに、最後にはなんだか好きになっている。何年か先に読み返したい1冊。

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