タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-22)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150117009

作品紹介・あらすじ

時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。

感想・レビュー・書評

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  • ストーリーは把握できるが、細かな部分がかなり難解だった。

    自由と抑制の狭間で、人は愛を求めては忘れる。
    誰かに操られていたとしても幸せは確かにあるのかもしれない。

    すべてが理不尽だったように感じ、すごく孤独だし、寂しい物語。死ぬ間際、救いはあったのかも。

    壮大な救出劇に人類は利用されることになった。
    アンク亡きあと、サロが自分の星に帰る手段を手にしたあと、初めて人類の歴史が上書き消去されていくんだと思った。

    読了。

  • ヴォネガットは、まったく、ぜんぜん、ほんの少しも生きる価値のないようなくだらなくて愚かで怠惰な人間が、それでも生きがいを探しているのだということを書いてくれる。
    けれども、本当に怠惰な人間は、本当に何もできないし、さらに言えばそもそもきちんとした良心さえ持っていないかもしれないのだ。

    何をどうすればいいのかわからず、自分が何をしたいのかもわからないまま、愚かなままで生き続ける。そんな人間が生きていて、いったい何の価値があるのだろう?

    その圧倒的虚無に対しての、ヴォネガットの優しくユーモアあふれる答えがこの本なのだろう。彼はこの本である種の読者の胸をかきむしらせ絶望させ、そして軽やかに救済する。

    天国はとても穏やかでハッピーであり、そこは確かに存在するのだよと言われて安心したい人間は、しかしとても疑い深いので、なかなか説得に応じない。
    彼らはこの世に疲れ果てていて、できることなら安らかに眠りたいと思っているのだ。でも、眠ることさえ怖いのである。悪夢を見るに違いないと思って。彼らはいい夢なんて、一度も見たことがないので。

    世界中の誰もが幸せになっても、自分だけは幸せになれないと思っているタイプの人におすすめしたい本ですね。

  • 人類の色々な出来事、個人の行動が自分で選んだものではなく大きな存在から仕組まれたものだったりしたら・・・。
    と、聞くと大いなる陰謀から逃れようとする人間の戦いが始まりそうですが、基本自分よりも上位の次元の存在だとしたら、その行動から逃れようとするのは至難の業だと思います。この本もそういう悲しみを湛えた本です。
    読んだときはあまり好きではないと思ったのですが、数日置いたときに何故かじわじわと沁み込んできて、物語の意味を考えてしまう自分がいました。

  • 村上春樹が最も影響を受けた作家の一人ですね。
    米国文学史における重要な作家の一人です。
    なんていうぼくは、米国文学にはほとんどなじみがなくて、読書の幅を広げたいと手を伸ばした次第。
    難解でした。
    いや、文章や内容が難解というのではなく、恐らくそこかしこに込められているであろう寓意を十分に汲み取るのが難しかったです。
    それはひとえに、読み手である自分が、本書を読むに値する知性が不足しているから。
    でも、分からないことを、分からないままに読む読書だってあっていい。
    「分かりやすい」本ばかりじゃあ、つまらないし。
    途中から、そう割り切って読みました。
    物語自体は大変面白かったです。
    本書はSF。
    自家用宇宙船に乗ったラムファードは、火星付近で時間等曲率漏斗の中に飛び込んでしまいました。
    そのことで、ラムファードと愛犬カザックは波動現象になり、宇宙のあちこちに存在し、まれに「実体化」することになります。
    ラムファードは神のごとき力を持ち、地球と火星との戦争まで計画して、実際に成し遂げます。
    ラムファードの最大の受難者が、本作の主人公である大富豪のコンスタント。
    コンスタントは、実体化したラムファードから「君は火星から水星、地球、そしてタイタン(土星の衛星)へと旅することになり、火星では自分の妻とまぐわい男児をもうける」とのご託宣を受けます。
    で、実際にその通りになります。
    コンスタントは記憶を失い、水星ではアンクとして登場します。
    登場人物はそれなりに多いので、注意深く読まないと混乱するから注意です。
    全篇、スラップスティックのような趣がありますが、随所にシニカルなユーモアがあって、それも本書の魅力でしょう。
    たとえば、ラムファード夫人のビアトリスの美しさの描写。
    「彼女の顔はマラカイ・コンスタントの顔とおなじように唯一独特のものであり、なじみ深い主題の驚くべきヴァリエーションであった―つまり、その観察者たちに、『そうか―こういう美しさもあるわけだな』と思わせるようなヴァリエーションである。事実、ビアトリスが自分の顔にしたことは、どんな不美人にもできることだった。彼女はそれを威厳と、苦悩と、知性とで上塗りしてから、一刷毛のわがままさでわさびをきかせたのだ。」
    元国税庁職員のファーン青年の「企業官僚」の定義も思わず吹き出しました。
    「企業官僚というのは、物をなくし、まちがった書式を使い、新しい書式を作り、あらゆるものに五枚複写を要求し、いわれたことのおそらく三分の一だけを理解する連中です。いつも、考えるひまを手に入れるため脇道にそれた答えをし、強制されたときだけ判断をくだし、それから責任逃れの工作をする連中です。足し算引き算で悪意のないまちがいをやらかし、孤独を感じるたびに会議を開き、自分が好かれていないと感じるたびにメモを書く連中です。そうしなければクビになると思ったとき以外、絶対に物を捨てない連中です」
    実に痛快ですね。
    こういう行を読んでいる時、ぼくは読書の悦びを感じます。
    それでいて、深いことがさらりと書いてあったりしますから油断できません。
    たとえば、「時間等曲率漏斗」の説明で、こんな記述が出てきます。
    二人の「正しいパパ」を紹介したうえで、「どっちのパパも正しいくせに、それでもたいへんなぎろんになるのは、いく通りもの正しさがあるからだ。」。
    簡単に書いてあるけど、これを理解している人は、ぼくを含めて実に実に実に少ないと思いますよ。
    そんなわけで読書の愉しさを十分に味わわせてくれます。
    もっとも、冒頭に申しあげた通り、すべてが理解できたわけではありませんし、私にもっと教養があれば、もっと愉しい読書となったでしょう。
    ちなみに、爆笑問題の太田光さんが本書の大ファンで、「今までに出会った中で、最高の物語」と公言するほど溺愛しているそう。
    何たって自身の事務所に「タイタン」と名付けるくらいですから。

  • 後半、すべての謎が明らかになった瞬間思わず声を上げてしまった。
    この物語を読んでいるうちに、自分もいつの間にか一緒に旅をしている気になっていたものだから、すべての話が回収された後、わたしは非常にすっきりとしたなんともいえない爽快感に満たされた。

    「わたしを利用してくれてありがとう」

    441ページの、ビアトリス・ラムファードがマラカイ・コンスタントに向けて言ったセリフのひとつだ。

    人はいつの間にか、誰かに利用されているのかもしれない。
    それは人間とは限らない。もっと宇宙の何者かとか、神とかかもしれない。
    わたしたちの人生は、誰かのための何かしらのものなのかもしれない。

    もうひとつ、このビアトリスの前のセリフに
    「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」
    という、同じくビアトリスによるセリフがある。
    そして先ほどのセリフへと続く。

    利用される、というと聞こえは悪いかもしれないが、
    言い換えるとそれは、私たちの人生が何者かの何かしらの行為に役に立っているともいえる。

    それは、実はとてもありがたいことなのではないだろうか。

    ふだんはなかなか実感できないけれど、案外、私たちは生きているだけでも何かの役に立っているのかもしれない。
    そう考えると、生きるのも悪くないと、そう思える。
    そう思っても、良い気がする。

    最後の1ページをめくった後、いろんな思いがあふれてくる。
    壮大な、とても壮大な物語でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「いろんな思いがあふれてくる。」
      カート・ヴォネガットって、斜に構えた恥しがり屋ですね。。。
      「いろんな思いがあふれてくる。」
      カート・ヴォネガットって、斜に構えた恥しがり屋ですね。。。
      2013/08/05
  • 文学ラジオ空飛び猫たち第101回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/8huabFV3hwb SF苦手な人でもぐいぐい読める内容。テーマが文学的。 我々は自分の意志で生きているのか、動いているのか、という大きなテーマが読み進めていくと立ちはだかるのでぜひともそこを楽しめるような人は読んでもらいたい。

  • 太田光がラジオを始め、さまざまな媒体でお勧めしていて、いつか読みたいと思って取っておいた作品。
    徹底的に無関心な神の教会とかUWTB=そうなろうとする万有意志とか無地獄!と鳴り響く鐘とかどうやったら思いつくのか想像もつかない語彙にまずは圧倒される。軽妙なタッチ自体は既に指摘されている通り、風の歌を聴けに似ているが発想の突飛さは日本の作家では中々お目にかかれない代物。
    物語中盤で主人公のマラカイ・コンスタントはラムファードに自分の人生のネタバレというか予言をされる。その予言はこの著作自体のネタバレに他ならないわけで実際に作品は予言の通りに進んでいく。いわば作品自体がUWTBに突き動かされて進んでいく。
    オイシイところを全部知った上で読む本作を面白いのかと感じる人もいるかもしれない。これがまた面白いのだ。運命論をある種の言い訳と考える人もいるかもしれないが大事なのは手近にいて愛されるのを待っている誰かを愛すること。そう教えてくれたのが本作だった。

  • 物事に意味を求めるのは人間の性。
    でも実は意味なんてないのかもしれない。

    ラムファードすら操られていたということが衝撃的だった。
    しかし何にも誰にも左右されない人生なんて不可能だという点では納得した。
    この世界には神という絶対的に超越した存在はおらず、大きさに差はあれどみんな一つの点なのかもしれない。

    誰かが人間は幸せになる為に生まれてきたと言っていたけど、何が幸せかをフォーカスして考えてしまうと頭が割れそうになる。
    時には誰かに利用されて、時には望まぬ方向に向かっても、それはそれで良いじゃないか。

    コンスタントが幸せだったとも、不幸だったとも思わない。
    人の生涯に評価なんてつけなくていいと思う。

  • 内容の理解が難なくできるにもかかわらず、感想が上手くまとまらないのは素晴らしい作品なんだろうと思う。そしてこの「タイタンの妖女」はまさにそういった作品だ。
    まじでどうでも良い理由で、人生が左右された人が出てくる話だが、結果どうであったかというのは、人生においてはあまり意味がないことだ。長期的にはみんな死んでいるのだから。
    誰かに操られて利用されるというのは、気分の良いことではないが、誰にも利用されないというのはやはり寂しいものだ。「利用される」という言葉にはマイナスなイメージしかないが、誰かのために何かをしているのだ。主体がどちらにあるかの差だけで、起こっていることに違いはない。
    誰もが、自分が良い人間でいられる場所を見つけられると良いなと思った。

  • 400p過ぎから全てを回収しまとめていくのがあまりに読んでいて気持ちいい。
    最高のSFで最高のラヴストーリー。
    好きなフレーズがたくさん。
    また読みたい。

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