月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

制作 : 牧 眞司  Robert A. Heinlein  矢野 徹 
  • 早川書房
3.85
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本棚登録 : 1495
レビュー : 122
  • Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150117481

感想・レビュー・書評

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  • IT関連のフォーラムのセッションで「現在の人工知能を最も的確にあらわしている本・・・」ということでなんと本書をあげられていたので、読み返したくなる。

    はるか昔、やっぱりクラークのほうがいいなぁ、なんて生意気な口をきいていた記憶があります。なるほど、この業界に携わる身からすると、本書の記述は全く現在の人工知能のレベルを正確に表していることが今更ながらわかります(そもそも知能でないからね)。あげく、この小説の人工知能の名前はホームズ!ハインラインすごい。

    AIによる独立戦争のアシスト、囚人ばかりの世界での組織化された動き、月世界での一夫多妻制の生活など、賛否両論織り込み済みの興味深いテーマが満載。やっぱり自分でそのテーマを深堀りできる素材がちりばめられたすごい作品なんだなぁ。

  •  TPPが締結されるとものの値段が安くなるという。他方、デフレ脱却のために政府日銀は物価を上げようとしている。ものの値段というのはそういう小手先の操作でかわっていいものとは思えない。いかに高かろうと、それなりに手間暇かけたものにはそれなりの対価が払われなければならないはずである。そして、ものの値段はひいては自分自身の労働に正当に支払われるかという問題と関わってくることである。
     というような考え方を教わったのは、そうだ、この本だった。タンスターフルTanstaafl──無料の昼食なんてものはないThere ain't no such thing as a free lunch、というのが月世界のモットーなのだ。空気だって買わなければならないのが月なのだ。

     2075年、月は流刑地として、地下に都市が掘られ、囚人とその子孫、それから自発的植民者が住み、穀物を栽培して、それを地球の出先機関である月行政府に売り、その金で空気や水を行政府から買って生活していた。穀物は安価で地球へと射出され、つまりは、月植民地は搾取されていた。『月は無慈悲な……』は月独立の物語である。月行政府のコンピュータが意識を持ち、そのことに〈おれ〉、すなわちコンピュータ技師のマヌエルが気づくところから話が始まる。
     マイク、すなわち名探偵の兄マイクロフト・ホームズと名付けられた行政府のコンピュータという強い味方を手に入れてしまえばクーデターまでは何ということもないのだが、武器も何もない月世界が地球を相手にいかに独立を勝ち取るかというのが痛快な物語なのである。

     ニェット、なんてロシア語もこの本で教わった。多民族多人種の月世界ではなぜか英語にロシア語混じりである。全体としてアメリカ独立のアナロジーで組み立てられた小説にロシア革命のフレーバーを振りかけているのだろう。ハインラインの描く月世界はある種の無政府主義社会、少なくとも「小さい政府」「自己責任」といった自由主義の潮流にある。ただハインラインも無政府主義はその構成員の性善説を採らないとうまくいかないこともわかっていて、月世界は自分で自分の責任をとりながら、他人を助ける精神を持つ、そういう人々で成り立っている社会だとされる。なぜなら「月は厳しい女教師」(本書の原題である)だからである。すなわち月世界は厳しい環境であって、そこで生き延びることができた人々というのは、月という「厳しい女教師」の授業をくぐり抜けたものだということである。

     マイクがCG(なんて言葉は本書では出てこないが)で革命家の頭領になりすまし、電話回線を使って「同志」たちと連絡を取るという設定は、コンピュータが自立した意識を持つということ以外ほとんど実現されてしまい、いま読む方がリアリティがある。他方、タンスターフルには自由主義に収まりきらない思想、環境問題や持続可能な社会といった今日的なテーマにつながっていて、いまやわれわれはこの月世界に生きている!
     ともあれ、痛快な物語で、最後に淡々とした記述で泣かせる。ただ、『夏への扉』に引かれてか、主人公マヌエルの一人称は「おれ」ではなく「ぼく」と訳してほしいと高校生のころ読んだときに思ったが、その感想は変わらない。

  • 読みごたえ十分。読み味良し。
    文句なしに面白かった。

    本当に「人工知能」という言葉すらなかった時代に書かれたのか?と思えるくらいリアリティがあって、現代の私たちにも受け入れられる設定だった。

    そして革命の中心メンバーの3人がまた魅力的なキャラクターを持っている。
    強い信念、大胆な行動力、忍耐、仲間を思いやる心。
    古臭いかもしれないけど、私はこういうの好きです。

    しかし長かった。
    読み終えて結末にホッとしたけど、読みきったことにも安心してしまった。

  • 時は2076年、流刑囚の子孫が築き上げた月世界植民地では、地球政府による搾取への反感が極限に達し、革命への気運が高まっていた。反体制派の集会に偶々遭遇したコンピュータ技師マヌエルは、美貌の女性革命家ワイオミングや頭脳派の思想家デ・ラパス教授らと共に、地球への叛旗を翻すことになる。彼らの活動を陰に支えることになったのは、マヌエルが日々親しく接し、人格を有することを発見していた月世界の中央集権コンピュータ”マイク”。理想も思惑も微妙に異なる”革命家”たちが、互いに励まし合い、あるいは騙し合いつつ、無謀ともいえる革命を成功へと導いていくその顛末は?

    ある意味ハインラインらしいとも言える、政治色バリバリの作品。日本ではハインラインと言えば「夏への扉」ですが、米国では本作の方が圧倒的に人気が高いそうです。確かに米国人受けが良さそうな、これは独立戦争の物語。いかにもSF的な緻密なアイディアやユニークな奇想を堪能するというタイプの作品ではなく、革命を巡る人間模様や社会の趨勢をじっくりと楽しむタイプの作品です。
    筋立ては波瀾万丈の起伏に富み、それなりに楽しく読める作品ではあるのですが、訳文がどうもこなれていない感じで鴨的にはちょっとイマイチ。良いSF作家が良いSF翻訳者になれるわけではない、ということなんでしょうかね。専業翻訳家による新訳を激しく期待いたします。

  • ジャケ買いならぬタイトル買い。
    原題→邦題はだいたいセンスの無い感じになることが多いイメージだが、これは逆。
    流刑地となっていた月。そこの住人が自我を持った計算機と起こした独立のための革命のお話。
    自我を持った計算機とはなんとも情報系の人間に嬉しい設定である。

    序盤で物語の鍵である自我を持った計算機であるマイクが、実は女ではないか(機械に性別というのもアレな話だが)というくだりがあり、かつこのタイトルであるのでこれは…と思ったのだがそういう結末ではなかった。

    このくだりについてはそこまで重要ではなかったようだが、終盤で計算能力を確保するために、リソースを要する会話はしばらく控えてくれないかと主人公に言うマイクだが、通話は繋げておいてくれと言い、最終的には「そばにいて」なんて言い出すのである。なんともいじらしいではないか。

    AIと言うと、無性別もしくは男性的なイメージがあるが、完全な偏見・イメージであり、この世界でいつか開発される自我を持った計算機ももしかしたら女性性を持っているかもしれないのだ。

  • この邦訳はなんとかならなかったものか。
    まず、「あなた」「わたし」が多すぎる。日本語ではある程度主語を省略すべきだろう。かと思えば、文が少し複雑になった途端主語が曖昧になることがしばしば。訳者が文章の意味を捉えていないのではないかとさえ思った。
    また、不必要なカタカナ語も多い。「タンスターフル(無料の昼食はない)」や「ディンカム・シンカム」はまだ分かるけれど、わざわざカタカナ表記を残す必要があったのか?と思う箇所も少なからずあった。
    そして最後に、マヌエルの「マン」という呼称について。マイクとマヌエルの最初の会話では「人間」に「マン」というルビが振ってあった。だから私は「ああ、マイクにとってただ一人の人間(man)の友達だからか」と思った。ところがしばらく読み進めていくと、周囲の人間たちも同じように「マン」と呼んでいるではないか。マンは人間という意味ではなく、単にマヌエルの略称ではないのか。(原本を読んでいないから確証はないが…)

    しかし、そんな邦訳でも700ページ読み切らせてしまうあたりさすがハインラインというほかない。独立戦争という、日本人にはやや馴染みの薄いテーマを扱っているうえに、全体的に地味。最終決戦でさえ華々しさはない。にもかかわらず先を読みたくなってしまうのだ。これはひとえに、キャラクターの魅力によるものだろう。マヌエル、ワイオ、教授、マヌエルの家族、スチュー、そしてマイク…。そう、マイクはとりわけお気に入りだった。「計算のできる幼児」から「完全な人間」へ。この話はマヌエルの成長記であると同時に、マイクの成長記にもなっている。頼りになり、可愛げがあり、時折ドジを踏むマイク。人工知能好きの心を的確にくすぐる、なんとも素敵なキャラクターだった。それだけにあの最期が残念でならない…。

  • 訳が酷い。

  • ハインラインの代表作といえば日本では「夏への扉」ですが、アメリカ本土では圧倒的にこれらしい。
    うん。なるほどゴリゴリ独立戦争の話でした。

    石ころと氷ぐらいしか持たない月社会が
    母なる地球に対して独立戦争を仕掛けるという、どえらいはなし。

    冒頭は月社会のインフラ系すべてを管理する1台のコンピュータと、
    それをメンテナンスするためにやってきた凄腕計算技師である主人公のやりとりから始まります。
    彼はなんだか横着な人間で、コンピュータへのプログラムの入力を音声認識を使って行うようにし、
    加えてその結果も音声で出力できるようにしてしまう。それは自然なこととして行われ、
    やがてコンピュータと人間の不思議な対話が始まる。
    という。
    どうもこのコンピュータは自我を持ちつつあるようだぞと。

    そんなこんなやってるうちに、話の雲行きが
    あれよあれよと月社会の革命運動へ、独立戦争へと発展して行きます。

    冗談を覚えることと、戦争をすることの優先度がだいたい同じという、
    いたずら好きのコンピュータ「マイク」の成長と物語がリンクして進むなか、
    果たして革命は成るのか。否か。

    流刑にされた囚人の末裔たちが独自の秩序を形成する月社会が興味深いです。
    もと犯罪者であるはずの人々が、過酷な環境の中で安全に暮らすために生み出した、
    一切の法律を必要としない強力な倫理観は、自由原理主義としての安定を獲得していて、
    対する地球社会は功利主義末期の鈍い摩擦と、生産を上回る消費と、
    既得権益にしがみつく権力者達で溢れていて、次第に統率を失って行く。という皮肉な展開。


    話が長く、しなければならない説明が多いので中盤ちょっと重くなります。
    そのかわり結末はあっという間。


    オーケー。マイク、シャーロックで頼む。

  • やはりこの時代のSFはSFらしくて楽しい。そしてSFとして語られていることの半分くらいは現実化されていて、分野によっては現実がSFを超えているようなものもあって、そのアンバランスな世界を楽しむこともできる。

  • マイクがあまりにもカワイイ。
    賢くてユーモアが好きで頼りになるスパダリ…であるにもかかわらず、主人公とあたたかい友情を築いてちょっとだけ泣き言を言ったりする。
    マイクはあまりにもカワイイ。可愛すぎる。この可愛さだけで小説を読みきったといっても過言ではない。

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