火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

制作 : Ray Bradbury  小笠原 豊樹 
  • 早川書房
3.98
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  • (9)
  • (7)
本棚登録 : 985
レビュー : 105
  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150117641

作品紹介・あらすじ

火星への最初の探検隊は一人も帰還しなかった。火星人が探検隊を、彼らなりのやりかたでもてなしたからだ。つづく二度の探検隊も同じ運命をたどる。それでも人類は怒涛のように火星へと押し寄せた。やがて火星には地球人の町がつぎつぎに建設され、いっぽう火星人は…幻想の魔術師が、火星を舞台にオムニバス短篇で抒情豊かに謳いあげたSF史上に燦然と輝く永遠の記念碑。著者の序文と2短篇を新たに加えた新版登場。

感想・レビュー・書評

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  • 追悼ブラッドベリ第2弾。

    夏の朝の匂いをかぐと読みたくなるのが「たんぽぽのお酒」ですが、この夏は本書を新訳版で読み返すことに。

    50年代の作品ですが、今なお失われないその輝きに脱帽です。SFではないですねこれは。幻想小説としかいいようのない味わい。見知らぬ土地を見知らぬままでほおって置けず、これまでの景色と同じにしてしまう人間の浅はかさを描いているかと思えば、「第二のアッシャー亭」のようなホラーへの愛着を示すパロディーもあります。

    でも、全体を通じて感じられるのは、滅んでしまったもの、失われたのも、滅びゆくもの、失われてゆくものへの眼差し。郷愁を誘うというより、もう少し冷たく残酷な感じが強く、胸が苦しくなります。

    火星人とすれ違う「夜の邂逅」がやっぱり印象的ですが、「長の年月」も今回は心に残りました。歳とともに響く部分が違ってきますね。

  • 中盤中だるみして読み進めるのに苦労しましたが、前半、後半は急展開に一気に読み進めました。 中でも火の玉、優しく雨ぞ降りしき が好きです。
    SFではなくSF要素のあるファンタジー叙事詩というか連作叙事詩という感じです。時系列にしてたった30年弱……個人的にはある星を支配する種族が入れ替わるには非常に短く感じました。なんとなく物悲しい、それでいて人の営みを傍観しているような、盛者必衰、諸行無常といった言葉がぴたりとあてはまるような、そんな感じがしました。

  • ブラッドベリーを知ったのは、萩尾望都さんのマンガだった。以来というか、つまり高校から大学の時分、次々にブラッドベリーの短編を読み耽り、詩的で美しい文章に魅了されたのだった。

    さて、本書。火星を舞台に様々な物語が展開する。時に心のなかで一番防御の弱いところをしっかり掴んで、甘酸っぱくて、残酷な話を聞かせる。もしかしたら、ブラッドベリーってワルイ人なのかも?
    その他、純粋な信仰の姿を描いた話、ポーのような異常でグロテスクな話などなど…。

    昔、神父と鞄屋の3ページの会話に泣きそうになったが、30数年振りの再読は結構冷静。なにしろ読み返す必要もないぐらい良く覚えている。それでもジーンと感じてしまう処は多かった。

    昔、ユリイカのブラッドベリー特集で、火星とは新世界アメリカの比喩とあって驚きつつ、納得した。そんなことも何度も頭に去来した。実際、技術的占有権があるからと判ったような判らない理屈でアメリカしか出てこない。そのアメリカも何故か、ニューヨークやLAじゃなく、ブラドベリの馴染みの田舎ばかり。それに気付いて読むと感想もかなり変わってくる。

    SFとは云い難いが、そんなこと拘らず、読み耽って戴きたい。

  • 鴨が「火星年代記」に初めて触れたのは、1980年のテレビドラマ版です。当時鴨は小学生、でもSF御三家の代表作を諳んじるぐらいスレたガキで(^_^;このドラマがブラッドベリの代表作を基にしていることは知っていました。何しろスレてましたから「これSFじゃないよなー、ファンタジーだよなー」なんて生意気な感想を持ちつつ観ていた記憶がありますが、映像化された火星の幻想的な美しさは、いまでもはっきりと覚えています。淡々として掴みどころが無いけれど、奇麗で切なくて印象的な作品でした。

    そんなわけで、だいたいのストーリーはドラマの方で把握してまして(改めて思い返すと、ドラマ版は原作をほぼ忠実に、かつ巧くまとめた良作です)、原典に当たるのはこれが初めて。どうしてもドラマ版の印象が脳裏にちらつくので、できるだけそちらを意識せずに、ピュアな気持ちで読むことを心がけました。
    で、読了しての感想・・・やっぱりドラマ版と同じでした。火星を主な舞台とし、惑星間移民をテーマにしてはいるけれど、この作品の本質はSFではありません。
    では何か、と問われたら、これはもぅ「物語」としか言いようが無いのではないかと。地球から様々な思惑を胸に火星にやってくる移民の歴史、地球人に追われて静かに滅びて行く火星人の歴史、双方の心の動きを丹念に描き出していくこの連作は、「地球人対火星人」というわかりやすい体裁を借りてはいますが、読む人によって様々なメタファーが感じ取れます。何分にも古い作品ですので、描かれているガジェット等には一部陳腐化しているものもありますが、人間の本質が変わらない限り、この作品の本質も古びることは無いだろうな、と思います。
    ドラマ版と同様に、奇麗で切ない、薄暮のような作品でした。やっぱりブラッドベリはいいなー。小笠原豊樹氏の流麗な職人肌の訳文もさすがです!

  • 物語は2030年1月からはじまる。あらましを序盤、中盤、終盤にわけるなら、序盤はおもに火星人の視点での叙述となる。地球人の訪問と火星人の抵抗。中盤から視点は地球人に移り、ついに彼らの入植が完了する。そして終盤はふたたび火星人の、かつては地球人だった火星人の視点に戻る。およそ27年にわたる赤い星の記録である。

    序盤に関して、とかく2031年4月の叙述は、著者のもつ主要なテーマでもあるようだ。未来と過去の交代、奇妙なノスタルジア、動いているのに止まった時間。悲壮感と一種のエクスタシーに満ちた詩のように。

    中盤以降、頁をめくる指の動きが早まる。先へ次へ!きっかけは2033年2月の叙述である。地球からの移住者たちがまるでいなごの大群のように火星におしよせる。このあたりから、登場人物は増え火星はにわかに賑やかになる。しかしそれに反比例して、なにやら虚無感が強まる。新しく次々に生まれ出でる入植者の町、しかし傍にはつねに火星人の町、もはや誰も息をしない死んだ町がある。それはまるで、新たな町の行く末を予言するかのように。文明とはなんだろうか。人間の行いとはなんだろうか。それはどんな価値があるだろうか。どんな意味があるだろうか。そう問うかのように。ここで著者の端書きにある「エジプトのどこかに火星」が思い出される。彼の着想にある光景とはまさに、この膨張する虚無感ではなかろうか。新たにできては消える生きた現在と、圧倒的な現実感をもって佇む死んだ過去。
    途中の「第二のアッシャー邸」は、全体の流れのなかではすこし趣が異なるが、ポーのファンとしてはなかなか楽しめる。

    最終局面のはじまりは、2036年11月の叙述、「地球を見守る人たち」である。地球では戦争が勃発する。母なる地球が燃えるのをみた移住者たちの耳に「帰リキタレ」と電報がこだまする。そして12月の叙述、「沈黙の町」で予言は完遂する。個人的にはこの1話がもっとも印象深い。誰もいない町に突如鳴り響く黒電話ーここでもノスタルジアが物語をより高次の芸術に昇華する。

    そして最後の叙述、2057年10月。地球の戦火から命辛々逃れてきた家族が、新たな神話をつくる。かれらはアダムとイヴであり、アブラハムとサラであるだろう。地球人ではなく火星人の。著者は『火星年代記』という神話を編んだ。未来の入り口は過去とつながった。

    はじめから読んでも楽しめるが、気になる1話から頁を進めても本作のもつ魅力は褪せないだろう。SFだけれど叙事詩のような、壮大な物語であった。

  • レイ・ブラッドベリの詩的な文章に酔いしれる。
    失われてもう戻らない風景、人々。
    読み終わった後に訪れる寂寞。
    しばらくは現実世界に戻ってこれなかった。

    それぞれの短編で違った味が楽しめてうれしいが、
    これは、火星年代記に入れなくても・・・
    というものもあり。
    個人的には、
    火星人の夫婦を描く「イラ」やロボットたちだけが働く地球を描く「優しく雨ぞ降りしきる」、新しい火星人たちの「百万年ピクニック」が好き。
    「第二のアッシャー邸」は「華氏451度」などを思わせる言論弾圧やポーの話等も出てきて、話的には好きなのだが、悪ふざけが過ぎて、個人的には火星年代記に入れて欲しくなかったと思ってしまった。

    先日、亡くなったばかりで、
    もう新作が読めず残念・・・
    と思っていたら、この火星年代記、第二部と第三部があるらしい。
    いつ翻訳されるのかわからないが、楽しみ!

  • SFのビッグ3といえば、ハインライン、アシモフ、クラークだけど、ついで有名なのは誰かなーと考えた場合、やっぱりレイ・ブラッドベリなのかなと。
    ブラッドベリと言えば他に『華氏451度』とか、ゴジラの元になった『原子怪獣現わる』の原作やらもですが、とりあえず『火星年代記』。

    ビッグ3と違ってブラッドベリはハードSFじゃないのね!とまずびっくり。ハードじゃないから読みやすい。要するにファンタジー、おとぎ話。
    短編の集まりでひとつの『年代記』、クロニクルになってる構成は今読んでも面白い。序盤のシニカルさも。
    以前読んだ『フェッセンデンの宇宙』と併せて、SFは難しそうだからーって敬遠されてる方にはおすすめ。

    登場人物が、もうちょっと全体を通して繋がってきたりするともっと面白かったかなと。あと、火星人の種類、パターン多すぎ。それと、ハードじゃないから読みやすいけど、逆にハードじゃないから拍子抜けする点も。

    一番好きな話はやっぱり『月は今でも明るいが』ですね。で、ちゃんとこれはのちの話でフォローされているし。
    それと、追加収録された『火の玉』もよかったし、『第二のアッシャー邸』は『華氏451度』と共通するテーマで面白かった。

    今回、たまたま同時に聴いてた音楽は、Shing02の『星の王子様』でした。

  • 火星が舞台だと、現実味もある分
    ハードSFの方が楽しめる気がして、
    ようやく手にして読んだという気がする。
    舞台が火星である必要はほとんどないのだけど、
    途中の話で、どうしても地球が見える必要があるため
    やはり火星でなければならなかったのか。

    異星人、異文化との交流(すれ違い)
    虚構を排した未来の世界は?という話など
    SFと分類しているけど、人類・西洋人・アメリカ人が
    未開の地に足を踏み入れたら?
    (キリスト教的に)宗教、神とは?
    未知との遭遇に対する自らを開かず守る先には?
    といった寓話的要素が強く感じられる物語がある。

    しかし、遠く離れた故郷を思う気持ちや、
    それでも孤独を選ぶ心と行動や、
    それでも家族とありたい心と行動や、
    時空や文化を超えてお互いの日常が触れ合い
    二度と交わることのないであろう何気ない別離や、
    「幻想的」と感じ、表現してしまう中に
    ノスタルジー、メランコリー、抒情的、
    少し物悲しい、思い出す時はいつでも懐かしい
    晩夏の夕暮れのような空気が漂う。
    過去の想像の否定、科学的考証や新しい発見などは
    頭の外に置いておき、やはり読んでよかった。

    元の1999年から+31年されたということだが
    年代が物語に追いついてしまったのではなく、
    人の空想の力が、現実の科学の進歩のスピードの
    より、遥か先を行っているということなのだろう。

  • 日本語が詩的で美しく、心に染み入る場面が多かった。特に乗組員スペンサーが出てくる話は、その情景とともにいつまでも心に残っている。

  •  火星を舞台にした短編をオムニバス調に書き上げた連作。

     不思議さという点では『夜の邂逅』が印象的。言葉ではうまく書き表せないのですが、幻想的で登場人物の言葉にもあるのですが、不思議な夢を見たような感覚もありました。

    『火の玉』も幻想性では負けていません。話は宗教のあるアメリカ的な感じだったのですが、それでもどこかいいなあ、と思ってしまう短編でした。

    『沈黙の街』はこの作品群の中ではユーモアあふれる語り口でいい意味で浮いていて印象的でした。

    『百万年のピクニック』は状況こそ絶望的であるものの、登場人物たちに悲壮感は感じず、希望の感じられる短編でした。

     幕間的にはさまれる1~2ページほどの章がいくつもあるのですが、その文章がどれも詩的なイメージに満ち溢れていて、文章に酔ってしまうような感じを受けました。ブラッドベリの文章はいい、ということは知っていたのですが、ようやくその意味が分かった気がします。各短編それぞれ幻想色があふれていて素晴らしいのですが、それが一つの年代記としてまとめられているところがまた「火星」という場所の不思議なイメージを増幅させてくれているような気がします。

    作中でも火星に地球人が住む時代まで描かれるのですが、その一方で火星の本当の姿というものは書かれていないような印象を受けました。

     今後現実社会でも宇宙開発が進んで、火星を含む宇宙に人が住む時代が来ても、この本がある限り僕は宇宙の惑星に対し、神秘的なイメージを持ち続けるのだろうな、と思います。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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