- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150118709
感想・レビュー・書評
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レイ・ブラッドベリはSF作家なんだと勝手に思っていたけど、実際この短編集の半分以上はSFじゃなかった。ファンタジーであったりヒューマンドラマであったり、ホラーやディストピアや故事のような話もあったり…本当によりどりみどり。SFに特化してた訳ではなかったんだな。
いくつかは面白かったけど、律儀に全部を読まなくても良かったかな、と正直感じた。
訳語が古いせいかかなりとっつきにくかったのもある。文章が読みづらい…でも原文によるところも大きいと思う。すごく詩的な文章。情景描写の分かりやすさよりも文章のリズムや美しさを重視している気がする。
内容自体も、うーんそこで話終わっちゃうのか、、、と感じられる作品がしばしば。
表題作の「太陽の黄金の林檎」「雷の音」「霧笛」あたりは良かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『霧笛』が好きだった。
切なくて暖かい。 -
目次
・霧笛
・歩行者
・四月の魔女
・荒野
・鉢の底の果物
・目に見えぬ少年
・空飛ぶ機械
・人殺し
・金の凧、銀の風
・二度とみえない
・ぬいとり
・黒白対抗戦
・サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)
・山のあなたに
・発電所
・夜の出来事
・日と影
・草地
・ごみ屋
・大火事
・歓迎と別離
・太陽の黄金の林檎
レイ・ブラッドベリと言えば、SF作家でありながら抒情的、ノスタルジックでメランコリーな作風というのがイメージだったし、そういう作品が多いのはもちろんなんだけど、それだけではないことに気づく。
ただ後ろ向きのノスタルジーではない。
かなりはっきりと、行き過ぎた科学至上主義などを批判している。
”無線車で外出していると、連絡は、ひっきりなしです。ああ、連絡か!実に体裁のいい言葉じゃありませんか。連絡とはつまり、いつも摑まえられているってことです。抑えられていると言うべきかな。”(人殺し)
似たようなことは森博嗣も作品の中で「携帯電話は使われている人が持つものでしょう。私は持ちません」と西之園萌絵に言わせていたなあ。
主人公はラジオ、電話、しゃべる家電を壊して回り、刑務所の独房で静かに過ごす。
黒人対白人の野球の試合。
特に記述はないけれど、1960年代のアメリカ南部が舞台でしょうか。
日々体を使った生活をし身体能力の高い黒人と、普段体を動かすことのない白人の試合。
けれども大人はみんな、当然白人が勝つと思っている。
審判はアイルランド人。
案の定白人は審判にも食ってかかる。
試合は黒人が勝ち、観客はそそくさと家に帰る。
「お家に帰りましょう。黒人はカミソリを持ってるかもしれないわ!おお、こわい!」
元の皇帝は、空飛ぶ機械を発明した男を殺す。
その男に悪意がないことはわかっているが、いつか誰かがその機械を大量殺人のための兵器として悪用するかもしれないので、その芽を摘むために。
ごみ屋は仕事をやめようかと妻に相談する。
原爆が落ちたらごみ収集よりも死体の回収を優先するようにと市長に言われて、そんなことはできないと思った。
しかし妻は言う。「家族のこと、生活のことを考えて」と。
ただ時流に流されていけば、何も考えなければ、楽に生きられるのかもしれない。
けれども、その後に悪夢のような日々が来るかもしれないことを、そのツケを子孫に残していくことを想像できないのなら、人間という生き物は何なのだ?
そんなブラッドベリの怒りを過剰に感じてしまったのは、過日に観た映画『マイ・ブックショップ』の影響かもしれない。 -
素晴らしい。
何という美しさ、何という陰鬱さ。
収録作品の中でも圧倒的に知られていると思われる「霧笛」。声高に作品テーマを語ることのないブラッドベリにしては珍しい、込められた寓意を明確に文章で説明している、ある意味「わかりやすい」作品です。が、だからと言って物語が陳腐化しないのがブラッドベリの底力。最後まで静かな余韻を残す、短いけれど心に残る作品です。
「サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)」も印象的でしたね。フツーのSF作家であれば、タイム・パラドックスが起こった後にどう収拾を付けるのか?という点を前面に押し出して一大スペクタクル巨編を書くぞ!ぐらい考えてもおかしくはないのに、ブラッドベリはタイム・パラドックスの起因となった男の愚かしさ、そして彼を取り巻く状況の不穏さを丁寧に執拗に描き出すことによって、一つの作品を紡ぎ上げます。ブラッドベリにとって重要なのは、論理的な落とし前の付け方ではなく、その瞬間の印象深さや肌触りといったものなんでしょうね。
E・A・ポーを彷彿とさせる心理ホラー「鉢の底の果物」、思春期の少女特有の底知れぬ残酷さを描き出して余りある「四月の魔女」、人間がここまで愚かになれることを端的に表現した「山のあなたに」・・・どれもこれも美しく、艶やかで、そして残酷な作品ばかりです。最後に収められた表題作の、ウィットに富んだオチも素晴らしいですね。 -
ブラッドベリ的とは
SF小説は、未来や宇宙世界に対するワクワク感をもたらすものが多いが、この短編集はちょっと異質。
グリムやアンデルセンが動物を擬人化したように、SF小説においては舞台を未来や宇宙に置いて、時には異星人をモチーフにして、かえって人間の愚かさや面白さを浮き出させている。
収録作品には、宇宙も未来も何も出ず、ただ村人の話なんてものもあるが、まったく違和感がない。
そう考えると、「ブラッドベリ的」ということもあながち「独特な」という意味ではなくなってくる。
特にこの(初期)短編集は、カテゴリーによる「SF」というレッテル貼りが無意味に感じるほど「独特」でありながら、「普通」に面白い。
お気に入りは
「霧笛」「ぬいとり」「発電所」「草地」「歓迎と離別」「太陽の黄金の林檎」……とあげていくと、選びきれなくなっていく。
収録作品すべてに「ブラッドベリ的」な余韻がある。 -
懐かしい作品やら、初めて読む作品やら。
が、やっぱり、ブラッドベリは佳い。
(出来うれば、新装版ではなく――つまり、中島梓以外の人が開設しているのを読みたかった(苦笑) -
胃の中に蝶々、心臓が早鐘みたいになって、早く次の頁を読みたいのに、読み終わるのが勿体無くて仕方ない気持ちになった。
色鮮やかで、湿り気のあるブラッドベリの文章を、これまた美しく仄かな湿度を含んだ言葉で紡ぎ訳してくれた小笠原豊樹氏の翻訳が大きかったと思う。
個人的に翻訳ものは、翻訳者との相性が多分にある質なので、初めてのブラッドベリを小笠原訳で読むことができたのは幸運だったと思う。ドンピシャリだった!
訳の素晴らしさを噛みしめるためにも、ブラッドベリ自身の言葉を知るためにも、原書にも当たってみたいと思う。 -
談話室でタイトルがイエイツの引用だと教えていただいたので久しぶりにブラッドベリ。新装版は文字が大きくて読み易い。全部で22の短編集ですが、いかにもブラッドベリ、と個人的に思うタイプの作品は少なく、とくにSFでもファンタジーでもない短編のほうが多かった印象。
お気に入りは太陽にむかう宇宙船の表題作と、萩尾望都のマンガで先に読んじゃってるけど名作「霧笛」、タイムマシンもので恐竜ものの「サウンド・オブ・サンダー」、あとは「塵よりよみがえり」のシリーズでもおなじみのセシーの恋の話「四月の魔女」、そして個人的にとても共感した「人殺し」あたり。
「四月の魔女」は、人間に恋をしてはいけない一族のセシーよりむしろ、セシーに体を乗っ取られて好きでもない男とデートやキスまでさせられたアンのほうが可哀想でした。「人殺し」には無線腕時計というものが登場するんですが、今読むとタイムリーに iWatch みたいですよね(笑)。携帯電話が普及して便利になった反面、いつでもどこにいて何をしていてもプライベートな時間にデリカシーなく介入してくるこの機械が、実は私もときどきとても憎い。
※収録作品
「霧笛」「歩行者」「四月の魔女」「荒野」「鉢の底の果物」「目に見えぬ少年」「空飛ぶ機械」「人殺し」「金の凧、銀の風」「二度とみえない」「ぬいとり」「黒白対抗戦」「サウンド・オブ・サンダー」「山のあなたに」「発電所」「夜の出来事」「日と影」「草地」「ごみ屋」「大火事」「歓迎と別離」「太陽の黄金の林檎」
著者プロフィール
レイ・ブラッドベリの作品





