華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119553

感想・レビュー・書評

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  • 本が燃やされるディストピアを描いたSF小説である。表現の自由が弾圧される。1953年の刊行である。テレビが普及することで、人々は情報を受動的に受け取るだけになり、本を読まなくなったとする。しかし、現実はインターネットが普及し、個々人が主体的に自分が欲しい情報を選択するようになっている。とはいえ動画サイトの普及によって垂れ流された情報を観るばかりになっているだろうか。

    主人公モンターグは本を焼き払う焚書官という仕事であった。しかし、焼き払わなければならない本を自分のものにしてしまった。ここから本に目覚めることになる。良い話のように聞こえるが、公務員が職務で横領した話である。大分県警別府署地域課巡査が警察官として検視のために入ったアパートから鍵を盗み、その鍵で後日侵入し現金やキャッシュカードを盗んだ。それと変わらない。本は禁制品という扱いである。警察官が押収した違法ドラッグを自分で使用する警察不祥事と変わらない。

  • わたしわかるのよ
    目をつむっていても

    あなた幸福?

    だが彼女は行ってしまった
    月光の中を走ってゆく
    玄関のドアがひっそりと閉じた

    いつかブラッドベリに会ったら訊いてみたい
    クラリス・マクラレンはほんとうに死んだのか


  • ブンガク
    かかった時間115分くらい

    これまた超有名な作品なので、焚書の話というのは知っていたが、初読。
    正直、人生の一冊レベルの作品だと思う。訳者の訳もきっと良いのだろう、小説のもつ言葉の美しさや象徴性を駆使して、2019年のいままさに目の前に迫っているディストピアを1953年にここまで的確に描くとともに、人間にとっての時間、思考、つながり、の不可欠性を、登場人物の言葉でこれでもかと訴えている。
    反知性主義、大衆主義になにもできなかった個人たちが、自らが「本」だと語り、それを後代に伝えるために生きる。ディストピアを、しかも今や現実になってしまったディストピアを描きつつ、戦争も災害も超えられるのは人間だけだという、人間の営みへの絶対的な信頼があるのもよい。

    これはやばい。スタバで何度もうるうるきた。再読前提の作品。

  • 本の所持を取り締まるようになった世界、不当に本を所持した者が見つかった場合、その本はファイアーマンによって焼き払われる。人々がバーチャルにひたり物事を考えなくなった未来を描いた、近未来小説。
    「ファイアーマン」が消防士ではなく、本を燃やす人という設定が面白かった。随分前に描かれたものだけれど、デジタルが生活の中に大きく入りこんでいる現代にしてみれば、どこか起こりうる風刺の利いた作品だった。図書館戦争にリンクしているかも。

  • レイ・ブラッドベリ「華氏451度」読了。焚書坑儒のSFか。人を思考停止に陥れ社会を操る事に映画のマトリクスや小説1984年の退廃的な世界観を彷彿とした。翻ってモンターグがフェーバーらと交わす本の問答から本を通じて考える事の尊さを感じるとる事ができた。ふとAIの言語モデルの事が心配になった。

  • アメリカのSF・幻想文学の大家レイ・ブラッドベリ(1920-2012)による〝紙が自然発火する温度(摂氏232.7°)〟をタイトルにした『華氏451度 (Fahrenheit451) 』の新訳版。書物が忌むべき禁制品となった未来社会で、本を焼き尽くす仕事を誇りとする「ファイアマン(昇火士)」たちがいた。 そのうちの一人モンタ-グが、ある晩見知らぬ少女と出会ったことで、今までの彼の人生も棲むべき社会も劇的な変革をもたらすことに・・・。市民生活が徹底的な管理統制下におかれたディストピア社会への抵抗文学。

  • 近未来のデストピアを描いたSF小説の名著。

    その世界では本を持つことは禁じられ、本を持っていることがわかれば家ごと燃やされる。
    主人公はその本を焼くことを仕事にしている。
    冒頭ではその仕事を楽しんでいたが、隣に越してきた不思議な少女との出会いをきっかけに自分の中に葛藤が生まれる。

    その本の無くなった世界で、人々が行うことは出来合いのドラマを観る事、スピード狂になる事、ヤクをやる事など、思考や批判的精神はなくなり、皆目の前の快楽を満たす事しか考えなくなり、いつしか家族との時間すらも失われていく。。

    SF小説と言いながら、現代社会は手軽に手に入る情報ばかりが閲覧され、時間のかかる本は避けられがちである。
    はたしてこの本に出ている事すべてがSFと言えるのか心配。

    本を読むこと、思考する事、そしてそれを人と分かち合う事。それの大切さを痛感させる本でした。

  • Yesの『close to the edge』を聴きながら半日で読みました。
    詩的な表現が多すぎて分かりにくいという声もあるようですが、私はとても好みです。
    こんなにも物事を様々な比喩で表現できる著者にも、それを日本語の最大限の美しさをもって伝える訳者にも感動。
    私は特に主義主張は無く読むので、記憶に残る本というのは、内容の面白さよりも文章表現や思想にハッとさせられたものだと思います。その点で、この本は突きつけられるフレーズが非常に多かったです。
    随分前に書かれたのに、現代がすごく本の中の世界とリンクしていて、ちょっと怖くなりました。

    本を皆読めとは思いませんが、本がこのまま衰退していずれその形を失ったら、人間と世界はどうなってしまうのかな。でもその時は、フェーバー教授のように結局何もできない自分の無力を悔いるような気がしてしまいます。

  • 近未来の本を読むことが禁止された世界を描いたSF小説です。

    この本の世界では、本を所持していると昇火士(ファイアマン)によって焚書されてしまいます。
    ですが、本を読んでいると、わざわざ焼かずとも、この世界の住民はそもそも本を手に取る習慣がないことに気づかされます。
    そして、住民から失われているのは、本を読むことではなく、実は「物事を深く考えること」であることがわかります。

    その背景にあるのは社会のスピード化でした。
    ものが簡単に手に入り、人とのコミュニケーションすらもモニタ越しの疑似家族を通して行うようになった世界では、物事をじっくりと深く考える暇はなくなりました。
    むしろ考えないことのほうが、住民にとっても(そして中央政府にとっても)そのほうが都合がよかったのです。

    本書の中では、反抗勢力たちは、本を所持せず記憶して語り継ぐことで、摘発を逃れ、本当に人々が物事を深く考えることが必要になったときに備えています。
    登場人物の一人が語っているように、本の価値は、本が存在することそのものではなく、そこに書かれている情報なのです。
    その情報を、性急にではなく、じっくり本に対峙して自身のものとすることが、本を読むことの意義であるとされています。

    この本が書かれたのは1953年です。
    60年たった現代、私たちは同じような道を歩んでいるかもしれません。
    SNSやLineで「かんたんに」コミュニケーションがとれて、情報が容易に手に入るようになった現代は、まさ本書の前日譚です。
    現代を顧みながら、物事を深く考えることの必要性を考えさせる一冊です。

  • 現代社会(特に日本)もそうなんじゃないかと考えさせられる一冊。

    隊長の演説で
    「大衆の心を掴めば掴むほど、中身は単純化された」
    という一節があるが、まさに現代の娯楽(短時間で簡潔に
    楽しむことよりも消費することが重要、は言い過ぎかもしれませんが)
    のあり方を表している様に思いました。
    1950年台にかかれた作品とは思えない、まさにSF

    文体は、詩的な表現も多く正直少し読みづらい部分もありました。
    ストーリーがすっと入ってきにくいので、気が向いた時に本を読むくらいの
    人だと少し読み進めるのに苦労するかもしれません(私です)

    アメリカの文学作品にもう少し明るければより楽しめたのかなとも思いました。

    スマートフォンでショート動画とかを見て、理解したつもり満足したつもりに
    なってしまっている私には結構考えさせられる作品でした。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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