ソラリス (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
3.85
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本棚登録 : 1209
レビュー : 99
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150120009

作品紹介・あらすじ

惑星ソラリス-この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が?ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく…。人間以外の理性との接触は可能か?-知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。

感想・レビュー・書評

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  • 新訳が気になりつつ、国書刊行会版はちょっと高いので手が出なかったのだけど、おお、文庫になってる!ありがたや。

    「ソラリスの陽のもとに」は、ずーっと文庫棚の一番上に並べてある。初めて読んだ時のインパクトをよく覚えている。SFって何かというのは難しい問題だと思うが、私は世界認識の変容を迫ってくるものが一番SFらしい気がする。そういう意味で「ソラリスの陽のもとに」はまことに名作。

    旧訳版には原作からカットされた部分があったとは知らなかった。その新たに訳出された箇所の中で、特に「怪物たち」の章の描写が異様な迫力で圧倒された。ストーリーにはほぼ無関係な異星の海の姿が、これでもかというほど執拗に描かれている。ソラリスの海が作り出す想像を絶する形成物「ミモイド」。何のために、またどうやって、それを作り出すのか人間には全く理解できない、その生成と消滅のありさまが、何ページにもわたって延々と描かれる。それはひどく「リアル」で、しんしんと胸に迫ってくる。すごい。

    「ソラリス」は実に様々な解釈がされる作品だ。解説で紹介されているその一端を読むだけでも、あまりに多方面からの読み方があって、目眩がしそうになる。これだけ色々語られるSFもあまりないだろう。私は今回も、旧版を読んだ時と同じく、「生命」や「知性」、「人間」について新たな光を当てる卓抜したファーストコンタクトものとして読んだ。最後にいらんことを付け加えると、これは「ロマンス」じゃないと思うよ。

  • ロシア語からの重訳である旧『ソラリスの陽のもとに』を
    十何年か前に読んだときの感懐は、
    基盤の異なる他者同士は互いにわかり合えないし、
    歩み寄れもしない――という話なのかな……だった。
    冷戦時代の「東側」で生まれた作品なので、
    著者は皮肉と暗いユーモアを込めて、
    「鉄のカーテン」で分断された「わたしたち」は「あなたたち」を
    心から理解することはできず、
    同様に「あなたたち」も「わたしたち」の
    真実の姿を決して知り得ない……とか。
    しかし「わからないものはわからないのダ!」と
    言い切って思考停止するのは
    もったいない気がしてきたので、
    この、ポーランド語の原著からじかに和訳された
    新しい『ソラリス』を手に取ってみた。

    人が宇宙に進出する未来の地球において「約百年前」に
    発見された惑星ソラリスに探検隊が向かい、
    この星が重力的に不安定でありながら均衡が保たれ、
    有機的な形成物であるゼリー状の覆いとしての海が
    存在することがわかる。
    研究ステーションが設けられ、
    探査に派遣された心理学者クリス・ケルヴィンは、
    しかし、施設の荒んだ雰囲気に不審の念を催す……。

    言語も違えば、意思や感情を表す身振りも同じではない、
    異世界の生命体同士がコミュニケーションを図ろうと、
    互いに様々な手段に訴えるが、
    異なる表現型での鸚鵡返しの応酬にしかならず、
    相手が自分の「鏡」として立ちはだかるばかりで
    歩み寄ることはできない――。
    だが、ケルヴィンは個人的な悲しみを乗り越えて、
    諦めなければ、いつかはわかり合える日が来るかもしれない、
    けれど、絶対に努力が報われる保証もない……と悟る。
    そんな話。

    旧版が既に手許にないので実地に比較できないが、
    この新版の訳者あとがきによると、
    旧版には元のテクストであるロシア語版において、
    当時(1960年代初頭)のソ連の政治体制に忖度して
    削除された箇所があったとか。
    それでかなり印象が異なる気がするのかもしれない。
    が、やはり「わからないものはわからないのダ!」
    とはいえ、理解が困難な文化・価値観だからといって、
    決して相手が我々より劣っていることにはならず、
    わからないなりにも敬意を以て尊重すべきだし、
    一方で、相互理解の無理強いも禁物――
    そんなメッセージを受け取った。

    思わず噴き出してしまったのは、訳者あとがきで、
    二度も映画化された小説だが、
    二作品とも各監督の好みによって
    別のテーマに置き換えられてしまって、
    原作に忠実な内容ではない――と、
    作者があまり快く思っていないらしいとわかったところ。
    私は不勉強にしていずれも未見だが、
    本作の主題は確かに「望郷の念」でも「純愛」でもなく、
    作中のソラリス学研究にまつわる文言、
    ignoramus et ignorabimus
    ――我々は知らないし、知ることもないだろう(p.42)
    のとおり、「ディスコミュニケーション」なのだろうと感じた。
    これから録画した『100分de名著「ソラリス」』を観て、
    NHKテキストを読む予定なので、
    その後では、
    また違った感想を持つかもしれないけれども。

    -----以下、ネタバレ臭が漂うので、ご注意願います-----

    ソラリスの海が睡眠中の来訪者の脳をスキャンして、
    当人にとって最も重要と思われる故人を実体化する。
    ケルヴィンは、愛していたが互いの想いを
    きちんと汲み合えないまま自死に追いやってしまった
    亡妻の複製に、今度はきちんと向き合おうと思う。
    だが、コミュニケーションを促進させるための実験として、
    彼の覚醒時の脳電図に従って変調したX線を
    ソラリスの海に照射したところ、
    海は来訪者の脳内に生き続ける死者を実体化させる能力を失った。
    同僚のサイバネティックス学者スナウトは、
    死者のコピーは自分たちの脳の一部を映した
    鏡のようなものだと言う。
    だとしたら、目覚めているケルヴィンの思考波が
    海にダメージを与えたということは、
    結局、彼が愛していると言い張る妻も
    仕事の邪魔をする重荷に過ぎず、
    別れに苦悶し、涙を流しながらも、彼は本当は
    どこか安堵した気分になったのではないか。
    男にとって「鏡のような海」とは他でもない身近な女で、
    二者の間には厳然とした壁が
    立ちはだかっているということなのでは……。

  • 古典的SF。
    発想は奇抜で楽しめたが、途中で飽きてしまった。
    人間の常識では測れないのが宇宙。

  • 新訳で再読。内容はそれほど変わらないが、表紙や文体、追加部分を考慮して新訳の方がやや硬質な印象か。いずれにせよ、人間が理解することも意思の疎通も不可能な完全なる他者、ソラリスの海を巡る本作の素晴らしさは揺るがない。ソラリスが示すのは所詮人間の持つ愛というのは自分の理解できる範囲にしか届かない自己愛でしかないのでは?という問いであり、例え宇宙の彼方へ届こうとも自らの弱さからは決して逃れられないという事実である。他者を理解しようと試みること、その到達不可能な困難さと向き合い続ける中でしか本当の愛は生まれない。

  • 映画ソラリスを見てから、原作小説を見つけたので読んでみたらテーマの違いにびっくり…
    SF、というと「宇宙とそこにいる未知の知的生命体と、人間がどうにかして意思疎通する、あるいはどちらかがどちからを征服するために攻撃する」みたいな物語はメジャーだと思うけど、これはその類のSFじゃなかった。なので映画によくある宇宙人とのドンパチとか勝った負けたの結末が好きな人にはおすすめできない。

    作者の「宇宙がたんに「銀河系の規模に拡大された地球」だと思うのは間違っている」「人間が持っている概念やイメージには決して還元できない」というSFに対する解釈には、それそれ!そういう物語が読みたいんだよ!と、本編よりなぜか訳者あとがきの方で興奮してしまった。

  • 理解できないものを理解するっていうのがSFの醍醐味だと思っていたので、こういうふうに話をもっていかれるとなんとも衝撃。
    人間の尺度にはめるなというレムの教訓は、擬人化だなんだと馬鹿騒ぎしている日本のサブカルチャーが学ぶべきことかもしれませんね。

  • はじまりは「振り」だった。鏡を見て「これは私だ」と(納得してないのに)納得してるような「振り」を「舞う」。「振り」を続けるうちいつしか納得が追いついた。この際、鏡なんて失ってしまえば?って?とんでもない。そしたら他なる世界と通じ合えるとでも?狂気の方がまだマシ。鏡がおっこちると世界が溶け出す。演技の演技ーそれに現実や世界というほかに何という名前があるっていうの?ダンスを止め、「振り」の「舞い」を止めたら、自己は自己が自己であることを証せない。人間はたぶん、そうしない苦しみに耐えられるようにはできていない。

  • *レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版*

  • ストーリーとしては極めて静的で、ほぼ全ての出来事がある惑星上の小さなステーションの密室の中で展開する。それも、主人公のごく限られた視点でのみ語られるため、全体像は読者の想像に委ねられる。

    静かな心理戦とも言えるサスペンス調のストーリーの軸とは別に、主人公が愛読する「ソラリス学」文献の記述が目を引く。わけのわからない謎の惑星生物に対する科学者たちの実証と仮説の数々が積み上げられていく様子が、年代記の形で執拗ともいえるページ数を割いて紹介される。惑星に起こる(人間にとっては一切無意味な)謎現象の詳述も圧巻である。一部、起こっていることが複雑すぎて文章から読解するのを諦めざるを得ない(作者もわかってないんじゃないの)ところすらある。著者はこうした無意味な叙述にこそ快楽を見出す人なのだろう。
    そして、その無意味さ、空虚さ、ナンセンスは、そのまま未知の生物とのなんらかのコンタクトを成功させんとする主人公との先達の科学者たちに立ちはだかる大きな大きな壁となる…。

    ストーリーラインではなかなか感情移入しづらい作品だが、それはむしろ掲げられている大きなテーマ、未知の存在とのコンタクトを捉えるうえでは好都合だ。クライマックスの「神」をめぐる対話など、人間的感情論をさし挟むことで誤読を招く恐れさえある。

    3人の乗組員たちは、この地獄の密室から逃げようと思えばいつでも逃げ出せたのである(主人公のみ事情が異なるが)。このあたり、ストーリーラインだけを追っていると不可解にも思える。それでも惑星に留まり続けたのは、やはり奇跡のコンタクトへの希望を捨てきれなかったからではないか。

  •  意思を持った海に覆われた惑星”ソラリス”。そこに派遣された心理学者のケルヴィンはそこで変り果てた研究者たち、そして出会うはずのない人と出会う。

     ホラー的な幕開けから始まり、そこから恋愛のロマンスが展開され、さらにファーストコンタクトのハードSFとなり、そして観念的、哲学的な問いかけと共に閉じられる。およそ380ページの小説にこれだけのものが詰めこまれています。そしてそれぞれの展開で読ませるのがこの小説のすごいところ! さすがオールタイムベストに選ばれる作品だけあります。

     訳者あとがきによると、旧版の翻訳では、ソラリスの海の活動を記録した章が大きくカットされていたそうです。「この章があるかどうかで読み方が大きく変わるのでは」と訳者の方が書かれているのですが、それには大いに同意しました。この章がなければたぶん僕は、この本のロマンスの部分が一番強く印象に残ったのではないかと思います。

     ソラリスの活動の記録の書き込みはかなり詳細で独特の表現もあり、段落分けも少なく正直読むのはかなり苦戦したのですが、この章があるからこそ、理解不能な知性としての「ソラリス」の存在が確かに感じられると思います。そして理解不能な知性に対し、あまりに無力な人間の姿も。

     あとがきに収録された著者のインタビューなんかを読んでいるとこの本の本当の主題は、おそらくそうしたところにあるのではないかと思われます。

     そうした問いかけに対し、直接的な回答があるわけではないのですが、最後の文章を読んでいると決して著者はそうしたテーマに対し、絶望だけを抱いているわけではなかったのだな、と感じました。

     宇宙開発が進むうちにいつかこの小説のような、人間とは全く違う知性と出会う時がくるのかなあ。それが何をもたらすのか、怖くもあり、でもどこかで楽しみでもあり、そんなことを思わせてくれるSFでした。

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著者プロフィール

1921年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領)に生まれる。クラクフのヤギェウォ大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始め、1950年に長篇『失われざる時』三部作を完成。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『砂漠の惑星』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF作品を発表し、SF作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティクスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70年には現代SFの全2冊の研究書『SFと未来学』を完成。70年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『泰平ヨンの現場検証』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006年に死去。

「2017年 『主の変容病院・挑発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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