- 早川書房 (2015年5月22日発売)
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感想 : 16件
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784150120092
作品紹介・あらすじ
世界未来学会議に出席したヨンはテロに遭遇し、2039年の世界へ紛れ込む……。初文庫化
みんなの感想まとめ
未来のディストピアを舞台にしたこの作品は、薬物によって現実が操られる恐怖を描いています。ユーモアSFとしての側面も持ち合わせており、ブラックな笑いが散りばめられています。特に、登場する造語や薬の名前は...
感想・レビュー・書評
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二重翻訳の旧訳版『ソラリスの陽のもとに』はがんばって読破したもののの読むのがきつかったのですが(映画版はハリウッド版は観ました,個人的にはわるくはないようにかんじてしまいましたが,タルコフスキー版は何度も挫折……),レムはユーモアSFのこの作品はおもしろかったです.もしこれからレムの小説の作品を読んでみようという場合,案外ユーモアSFのほうが最初のうちはおすすめかもしれません.
『コングレス 未来学会議』という邦題の映画版も当時日本橋の新しくできたシネコンに観に行き実写とアニメが織り混ざった手法でそこそこおもしろかった記憶があります.詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分史上いちばんエグいディストピアものだった。ドラッグで万能の理想郷に魅せられている間に、現実は地獄のように、自分の体がオリジナルじゃなくなっている恐怖。 映画『コングレス未来学会議』を先に観たんだけど、そのときは刹那的に世界や人間が変容していくことに対しびっくりするほど泣いた。ただ本作には泣く要素はなく、ブラックなユーモアの効いたSFだった。造語が沢山出てくるが、これらを意味の通るしっくりくる日本語に訳すのはとんでもなく骨の折れる仕事だったと思います。薬の名前とか、ドラえもんの道具みたいで秀逸だった。
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レムのユーモアものってちょっと苦手にしているのですが、やっぱりレムなので読んでみる。
70年代の冷戦時代に書かれた、ディックばりの薬物で現実がコントロールされてしまう世界。
トリガーが薬物なだけで、自分が認識している世界は現実のものなのか区別がつかなくなってしまうという点では仮想空間と現実の融合が始まっている現代も同じなのではないでしょうか?ディックほど病的な精神状態を描くわけではありませんが、淡々と追い詰めていきます。国家間戦争ではなく、テロが横行してるっていうのも現代的。怖っ。
レム祭りスタートするか! -
泰平ヨンとかドラッグの名前とか。翻訳に感動だ。
映画も観てみよう。 -
スタニスワフ・レムの泰平ヨンシリーズ。以前読んだ「泰平ヨンの航星日記」がとてつもないユーモアと深い洞察に富んでいたので、同シリーズのこちらを購入。
またしてもタラントガ教授の甘い言葉に誘われたヨンは、地球の人口問題の解決を目的に開催される国際未来学会議に出席するため、単身コスタリカを訪れる。ところが、会議の最中にテロが勃発。避難するヨンや他の出席者たちであったが…
いいオチです。というか、まさかここまできて、このオチがくるとは思わなかった笑 それまではレムの手がけるドラッグ社会の神秘と脅威が縦横無尽に飛び交っていたためか、もはや注意が逸らされてしまいましたよ。して、物語の中心となるそのドラッグ社会。いや十分おもしろいのですが、これがなんともブラックに富みすぎていて、食傷気味のきらいがあることは否定できません(ヨンシリーズ自体、そんなもんかもしれませんが)笑 ディストピアをドラッグで塗りたくったユートピアというこの構造自体は、すこし見方を変えると、まったく絵空事とはいいきれない気がするのですねえ。
さてこの作品、どうやら「コングレス未来学会議」のタイトルで映画化されているようですね。こんな奔放な内容をどうやった映画にするのか…すごい観てみたい。 -
p.189
「何事にたいしてももはや自然な反応をするものなどだれもいないのだー化学薬品の作用で学習し、人を愛し、反乱を起こし、ものを忘れるのだー薬物で操作された感覚と自然のそれとの間には違いがなくなっている。」
レムのSFを読んだのは、ソラリス以来かな?相変わらず一文一文奇妙な文章だらけなのに伏線が回収されなくずっと話が続いていく感じで捉えどころがない。でもとんでもない未来への想像力、予想もつかない展開、そしてちらりと見える社会問題への皮肉など読んでいて楽しい。
薬品がドラえもんの道具みたいで面白かった。
一層剥がれるたびに残酷な現実が、という瞬間が恐怖。 -
もう長いこと「泰平ヨン」だったから、変な名前だけどそういうものと受け入れていたが、これは最初の訳者・袋一平が、主人公の名前 Ijon Tichy をそのように訳したのが始まり。Tichyはロシア語の「静かな」を舌足らずにしたような感じらしく、苗字を「泰平」にして、名前のイヨン Ijon をヨンと表記したのだという。ニール・アームストロングが「腕強ニール」になるという感じか。泰平ヨンは『航星日記』、『回想記』のシリーズのあと、この中編『未来学会議』と長編『現場検証』、『地には平和を』で主人公として登場する、ピルクスと並ぶレムの重要登場人物である。
今回ヨンは宇宙飛行士ではない。タラントガ教授の依頼で第八回世界未来学会議のためにコスタリカに来ているのだ。そこでテロが起こり、鎮圧のために軍が投下した精神活性物質を吸って、ヨンたちは幻覚にみまわれて何が現実かわからなくなってしまう。軍のヘリコプターに救出されたかと思うと炸裂音。入院して、少女の体に脳が移植されている。しかしどうもそれは幻覚らしくて、多量の幻覚剤を吸って精神に異常をきたした見込みのない患者は未来での治療に希望を託してガラス化の処置。
そう『大失敗』にも出てきた冷凍冬眠技術である。ガラス化。
目が覚めてみるとそこは未来。2039年。精神活性薬物によって精神をコントロールする精神化学文明のユートピア。泰平ヨンシリーズは基本的には風刺小説であって、このユートピアが徹底的に戯画的に描かれ、あまりのばかばかしさに苦笑しているうちに当然のことながらユートピアはディストピアの本性を現すという展開になる。
本書が出てから三十余年、レムの描いた精神化学文明はネット社会という形で一部実現したかもしれない。他方、何が入っているかもわからない中国製の薬物に手を出して、他人を傷つけてしまう世の中なんてレムの予想を超えてしまったかもしれない。
早川書房のレム復刊は多少進んでいたが、本書はむしろ映画『コングレス未来会議』の公開への便乗だ。1984年に集英社から故・深見弾訳で刊行されたものの訳文に大野典宏が手を入れて復刊したものである。映画のほうは2013年に公開されたのに日本公開が2015年となっている。泰平ヨンは出てこないのに本書の理念を忠実に映画化したものだとか。 -
アリエル・フォルマンの映画観たので原作読んでみた。あの『ソラリス』と同じ作家かと思うくらい、スラップスティックなテイストのディストピアSFです。
人口爆発が深刻化している未来世界で開かれている未来学会議。テロ事件に巻き込まれた主人公は、政府の爆弾に含まれていたドラッグを摂取して、さらに未来の、ドラッグによる知覚操作が一般的になった社会を垣間見ることに。
耐えがたい現実から人々の目を背けるために為政者が知覚に麻酔をほどこすという発想は、『華氏451度』など他のディストピアSFにも通じるものがありますね。それでも、大衆社会の統治技術としてドラッグが使用されるという発想は、生存を期待されない階層の間にドラッグが蔓延している今の状況から見ると、この作品が書かれた1970年代当時の「生きさせる権力」と今の権力のあり方が違ってきているのだということを、むしろ実感させる。「知覚の世界が広がれば広がるほど、われわれの実存は狭くなる」という哲学的な台詞が、いろいろ考えさせます。 -
「ソラリス」の作者レムには泰平ヨンが主人公のシリーズがある。「泰平ヨン」とかいうダジャレ的なセンスが嫌いだった。「泰平」という字面は今も嫌いだ。そんな偏見で、こんなに面白い本を読まずにいたわけだ。
主人公の泰平ヨンはコスタリカで開かれる未来学会議に参加する。その会議のテーマは、破滅的に人口激増した世界とその増加の阻止だ。この人口増加による危機というやつは、原著が書かれた頃(1971年刊)には良く言われたものだったように思う。近頃なら地球温暖化になるのだろう。さて、ヨンが会議に参加する理由がよく分らないというのっけからカオスが突っ走るが、テロ事件が起きてあっと言う間に氾濫する。軍部の出動、薬物爆弾という問題外の鎮圧戦術でヨンはメロメロ。ひっちゃかめっちゃかの挙句に冷凍保存され、未来で解凍される。未来は薬物まみれ、現実崩壊大パレードの、キ印世界。この途方もない阿呆くさい出鱈目の描写がこの小説のキモだ。
この未来世界は言葉が変化して、言葉遊びの悪ふざけが度を越したようになっている。野生の鳥や動物は姿を消してしまった。再生医療が発達して、死体も蘇生可能になった。全面軍縮が達成されている。コンピュータとロボットが社会の至るところに進出しているが、知性という内面的自由を持ったコンピュータたちは考えられうる限りの逸脱をしている。要するに仕事をしない。そして何より、この未来世界では精神化学が鍵となっており、ありとあらゆる状況に適した薬物(薬名のダジャレが物凄い)を適切に服用することで人々は幸福な社会生活を営んでいる。ように見える。しかし、実のところは……と、暗鬱というよりはスラップスティック、不安感というよりは猛烈な空転感がぶちまけられ、引っくり返って、思ってた通りのオチになる。まあオチは、一応つけときましたくらいの感じだ。
この小説は、薬づけの社会という現実批判を通り越して、どうやら読むドラッグに近い。ここで体験できるのは薬物による全体主義的社会という、肌が粟立つ幻覚だ。ブラックユーモアなどというお行儀のいいものではない。意地悪になってニヤニヤしながら読むべき小説だ。傑作。 -
映画を見たので原作も読んでみたんだが、話がだいぶ違う。翻訳だと言葉遊びは堪能しきれないので、映像の方が純粋に楽しめたかな。
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ただのほら話でも、クスリの見せる幻覚の模写でもなく
現代からみてリアルなところはないのに、
そっちの方向ではなく知恵を使って
現実の世界を変えていかなければ
とてもグロテスクな世界になるということ、
数々の造語と、言葉の変化で楽しませながら、
当たり前ではあるが、主人公よりぶっ飛んでいるのは
これを生み出せる、著者の頭の中。 -
泰平ヨンはコスタリカで開かれる人口増加問題についての世界未来学会議に参加するが、テロが勃発。さらに混乱の真っただ中、泰平ヨンは何やら自らの感覚にも異常をきたす。
レムといえばオールタイムベストSFの1位に選ばれることが多い不朽の名作『ソラリス』が知られるが、この<泰平ヨン>シリーズのようなユーモアSFも多い。そのユーモアは形而上学的でかつ他に類をみない奇天烈なもので、これまたレムの代表的な顔の一つとなっている(あと架空書評のような論理を究極的に追求した虚構世界、という顔もある)。
本書はいわばレム流のドラッグSFといえなくもないが、たとえばフィリップ・K・ディックのような不穏に満ちた現実崩壊感覚といった要素が目立つわけではなく、むしろ薬物で人間をコントロールするディスピアがスラプスティックに描かれている。またそのディストピアでのコンピュータ・宗教・言語などのテーマについての思考実験が次々に登場して、これが理屈立っているのに奇怪という発想で毎度ながらいったいどうしてこうなるのかレムの頭の中をのぞきたくなるほど(コンピュータの改宗問題とか言語予知学とか最高に可笑しい)。そして黒いユーモアにのぞくペシミスティックな未来像もまたレムらしく(やはりこのシリーズは『ガリバ―旅行記』に似てるなあ)、そのユーモアを支える夥しい駄洒落混じりの造語も非常に楽しく訳者には心より賛辞を贈りたい。
時折のぞくおっさんっぽいユーモアは時代を感じさせなくもないが、時代を超越した想像力は驚異的。優れたストーリーテリングや文章や詩情を楽しむといった読書とはやや違い、読者を選ぶタイプの本だとは思うがぶっ飛んだアイディアや論理はレムでしか味わえないもので興味のある方は是非ご一読を。 -
コスタリカで開催される未来学会議に参加した泰平ヨンはテロ事件に巻き込まれ………。
ドラッグに満ちた未来世界を描きつつ、その世界を何度もひっくり返すことでディストピアっぷりを露わにしていく手際が鮮やか。他の作品同様、人間の "認識"や"知性"の限界というモチーフが見え隠れするのもレムらしい。
それにしても詰め込まれた膨大な量の言葉遊びには圧倒される。訳すの大変だったろうな。
著者プロフィール
スタニスワフ・レムの作品
