- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150120450
作品紹介・あらすじ
片田舎にある平凡な農家こそ宇宙をつなぐ中継基地だった……珠玉の長篇、新訳版登場。
感想・レビュー・書評
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SF。
初めてのシマック作品。
SF的な内容よりも、ウィスコンシン州の牧歌的な雰囲気と、作品全体に溢れる優しさが印象的。
解説によると、これがシマックの作風らしい。好印象。
新訳版で購入したが、淡い色味と可愛らしいイラストの表紙も、作風に合っていて好き。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
銀河の星々を結ぶ中継ステーションと聞いてイメージするのは、羽田のようなハブ空港。
行きかう人々。
雑踏の中で次々に起きるアクシデント。
などを想像してはいけない。
アメリカの片田舎のそのまた人里離れた一軒の古ぼけた一軒家。
そこに何日かに一回の割で訪れる宇宙人たち。
人型の異星人もいるが、植物型、液体型・・・さまざまな異星人たちと、イーノックはとれる範囲で最善のコミュニケーション、つまりおもてなしをする。
そんな牧歌的な日々。
近所づきあいはしない。
新聞や雑誌を届けてくれる郵便配達人だけが、唯一の友人と言える。
ライフル銃を小脇に抱えて日に一時間程度の散歩と、自家用のささやかな畑仕事。
ごくごく狭い世界で日を送るイーノックは、地球で唯一、異星人が日常的に地球を訪れていることを知る存在。
圧倒的に高次な文明や科学に触れながら、それでもイーノックは地球と縁を切ることはできない。
それはイーノックが地球人だから。
100年以上も年を取ることなく住んでいる人間がいるらしい。
そんな噂を聞きつけ、2年の調査を行ったCIA。
思わぬところから地球外生命の存在に気づく。
イーノックの家から少し離れたところに暮らすフィッシャー家。
当らず触らずの関係を長年続けていたが、生まれつき耳が聴こえず話すこともできない娘、ルーシーに対する家族の暴力を見て、ついルーシーを匿ってしまったことからイーノックへ悪意を募らせることになる。
銀河の星々の平和と繁栄のために必要な「タリスマン」と、その媒介者がここ数百年現れず、銀河本部も危機を迎えていた。
100年以上変わらぬ日々を送ってきたイーノックの周辺が一転、俄かに慌ただしくなる。
誰にも秘密を打ち明けることができず、大いなる孤独のなかに100年を過ごすことは、どれだけ淋しいことだろうか。
想像の中に造り出した友人を、異星人の進んだ科学が実体化させる。
しかしそれすらも、最終的にはイーノックの孤独を深めることになる。
けれどイーノックの心はいつも静謐だ。
1960年代に書かれたSFは、今の作品に慣れた目で見るとのどかである。
そして冷戦状態に対する絶望と、ひとりひとりの個人としての人間に対する信頼が、シマックらしい。
解説が、SF作家・評論家の肩書の付いた森下一仁、森下一仁、森下一仁なんです!(超大事なので三回書きました)
言われてみればこの作品、解説が森下一仁ってぴったりだ。
選んだ人、センスあるなあ。 -
読んで損をしない名作
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図書館の新刊コーナーで見かけて読んでみました。50年以上前の作品ですが新訳版ということもあってか古さは感じられませんでした。設定・ストーリーともに違和感なし。一冊にいろんな要素が詰め込まれた感じで読み応えありました。名作に出会えてよかったでです。映像で観てみたいなと思ったらNetflixが映画化するらしいですね。
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原書名:WAY STATION
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2016.11.30
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もっと淡々とした物語を想像していたのだけど、結構波乱。地球の歴史から切り離され星々の旅人をも見送るしかない中継ステーションの管理人の、孤独を感じた。アメリカの片田舎が舞台、ということろもより寂寥感を増しているのか。
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アメリカ中西部の片田舎でひっそりと暮らすイーノック・ウォレス。閉鎖的な土地柄に守られて余計な干渉を受けずにただ一人生活するイーノックは、実は齢100歳を超えながらほとんど歳を取らず、銀河の星々を渡る旅人を送り迎える「中継ステーション」の管理人を務めていた。異星の旅人とのひとときの交流を心のよすがに、永遠とも思える孤独の中に生きるイーノックの周辺で、彼の存在を嗅ぎ付けて正体を暴こうとする不穏な動きが見え始める。大切な中継ステーションと自分自身の生活を守るため、イーノックが取った行動とは、そしてその結末とは?
古き良き、暖かくも寂寥感溢れるSF。
1963年の作品です。牧歌的で懐古的な舞台設定の中、根っからの悪人はほとんど登場せず、ファンタジーのような優しい物語世界が紡がれていきます。如何にも古いSFらしく、詰めの甘さがところどころに感じられますし、訳文の生硬さもちょっと気になります。が、それでも忘れ難いこの瑞々しさ。
この物語は、大切なものを守り続けることを建前にして変化することを拒否してきた主人公が、自ら変化することを選び取るまでの物語でもあります。彼が変化を選択したことによって、世界もまた変革し、物事が良い方向へと転がり始めたように見える、その陰で主人公が感じる救いようの無い寂寥感。このハッピーエンドとは言えないラストシーンが、この作品の真骨頂だと鴨は思います。変わりつつあるアメリカの風景を目の前で見てきたシマックの心象風景が、そのまま反映された作品なのかもしれませんね。