破壊された男 (ハヤカワ文庫SF)

制作 : 寺田克也  伊藤典夫 
  • 早川書房
3.38
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本棚登録 : 126
レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150121112

作品紹介・あらすじ

エスパーが実権を握るディストピアを舞台に、サイバーパンクの先駆けとも言えるスピード感溢れる攻防戦が描かれる。第一回ヒューゴー賞受賞作

感想・レビュー・書評

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  •  かつて『破壊された男』を読みたくても絶版で『分解された男』しかなかったので仕方がなく後者を読んだのだが、それでもやはり人々はベスターの『破壊された男』について語る。「分解」じゃ、何だか溶剤に浸けられて溶けていくみたいだ。そういう話ではない。破壊/分解に当たる原語はデモリッシュで、デストロイのような無目的な破壊ではなく、建物を壊すなどの計画的な破壊の際に使う言葉だという。とすると「解体」が相応しいということになるのだが、本作でデモリッシュされるのは身体ではなくて、精神のほうなので、「解体」ではなく「解心」なのだ……
     1965年のハヤカワSFシリーズ以来、およそ半世紀ぶりに復刊を果たした「破壊」は伊藤典夫の長編初翻訳だった。

     犯罪の撲滅は皆の願いだ。ではどうするか。監視するのである。江戸時代だったら、五人組。住民同士監視させ合い密告させ合うのは全体主義社会の常套手段であった。いまはまさに監視カメラ社会。ソウヤーの『ホミニッド』はネアンデルタール人が進化した平行世界を描いたが、ここでは各自が腕に装着する全方位カメラのようなものですべてを記録していることで犯罪を抑止していた。
     ベスターの描く24世紀は、エスパー(といっても本作ではほぼテレパスのことである)が相当数に存在して、その能力を使って仕事している社会。テレパシーによる監視社会である。計画殺人は久しく不可能になっていたが、モナーク産業の社長ベン・ライクはライヴァル会社の社長ドコートニイ殺害を計画する。その計画をテレパスに見破られないための様々な方策はある。周到に計画された殺人事件。想定外の出来事はあるも、ともかく目的は遂げ、明白な証拠も残していない。
     かたやエスパーにもその能力によって一級から三級まであり、本作のもうひとりの主人公、ニューヨーク市警心理捜査局総監リンカーン・パウエルは一級エスパーの捜査官。パウエルは漏れてくるテレパシーでライクが犯人であることに気づく。だが、自白が証拠にならないのと同様、テレパシーで知りましたでは法廷で戦えない。物的証拠を得なければならないのである。そうなってくるとテレパシーといえども、名探偵の勘とほぼ同等。

     破壊された男というタイトルだが、破壊された男はまだ出てこない。ライクが計画殺人という前代未聞の犯罪で逮捕されたとき、ライクは破壊されるのだ。
     ミステリとしては倒叙ものだが、実は謎がある。毎夜、ライクの悪夢の中に登場する「顔のない男」とは誰か。それはドコートニイだという解釈が最初に示され、ライクは破壊される危険を冒してドコートニイを殺害する。しかし実は殺人の動機はよくわからない。ホワイダニットになっているのだ、この作品は。
     原書は1953年刊だが、見事に古びていない。というか、ようやく時代が追いついたというべきかも知れない。実業家にして宇宙をすべて支配したいという野望を持つ男ベン・ライク。パウエルに追い詰められるライクに感情移入しつつも、私は終始、頭の中でドナルド・トランプをベン・ライク役として演じさせながら読まざるを得なかった。

  • 鴨同様SF好きな師匠曰く「『分解された男』の方がしっくり来るよね」(-。-)ぼそっ
    はい、創元SF文庫で、沼沢洽治氏の翻訳による「分解された男」が刊行されています。鴨もこちらを先に読みました。そのせいなのか、例の歌はやっぱり「もっと引っ張る、曰くテンソル」の方がしっくり来ますヽ( ´ー`)ノ ←わかる人にはわかる。 改めて全編を読んでみて、原題である「The Demolished Man」の訳は、「破壊」よりも「分解」の方がより適切なのかな、という印象はあります。再構築が可能である、という意味において。

    でもですね、全体を通しての完成度は、さすがの伊藤典夫訳です。
    ワイドスクリーン・バロックの代名詞とも言えるアルフレッド・ベスターの第一長編にして第一回ヒューゴー賞受賞作を、クライム・ノベルとしての本質を失うこと無く適度に猥雑に、かつ端正にまとめあげる手腕は「素晴らしい」の一言。創元版ではやたらとヤクザ臭い台詞回しだったパウエルが、それなりに警察官らしい口調になっているのがしっくり来ます。でも、犯人役のベン・ライクが伊藤訳でもやっぱり頭悪そうに感じてしまうのは、原文がそうだからなんでしょうねぇ。この点は創元版でもハヤカワ版でも同じ印象。

    日本人SF者たるもの、翻訳文学の制約はどうしても意識せざるを得ないところです。
    同じ作品を違う翻訳者で読んでみるという体験は、翻訳文学を愛する者として損は無いと思いますので、未読の方はぜひ両方読んでみてください。違った面白さが楽しめますよ!

  • ヒトの進化の先には、深層心理を読むエスパーの能力があった。そんな創造性豊かな設定から、完全犯罪を読み解く。今までにない、SF。

  • テレパシー能力を持った人間から見える世界を、小説という媒体を活かして上手く表現したSFの名作。相手の考えていることが一瞬で読み取れるエスパー故の苦悩など思わず納得させられてしまう描写が多く、作者の想像力の豊かさが推し量れる。

    ただし設定がめちゃくちゃ面白いだけに、オチが若干尻すぼみに感じられてしまった…。

  • 破壊されちゃうんでしょ?ってタイトルでネタバレかと思いきや!「安心してください!ちゃんと履いてますよ!」な展開に。面白かったです。

  • 話自体が装置で
    登場人物が傀儡のように感じて
    全然入り込めず、最終数ページで断念

  • SF。ミステリ。サスペンス。
    癖の強い文章は、なかなか馴染めなかったが、疾走感があり、主人公ベン・ライクのキャラクターには良くマッチしている。
    ストーリー自体は、シンプルなサスペンスのように思えるが、散りばめられたSFのガジェットが魅力的。
    インパクトの強い作品だと思う。

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