- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150121211
感想・レビュー・書評
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実によくできている作品ばかりなのに、飽きちゃうのはなぜなんでしょうね。マア、ぼくだけなのかもしれませんが、どうも、そのあたりがこの作家の「秘密」かもしれませんね(笑)。
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どの短編もお気に入りだが「紙の動物園」「文字占い師」が特に良くできている。表題作はファンタジーであると思った。日本ではSFとファンタジーは明確に分けるのだろうがアメリカではファジーな様である。曖昧さがとても気楽なのである。非常に読みやすくウェットな作風で読みやすい。泣けてしまった。
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どこか古い自分の頭に残っている『SF』というジャンルの堅苦しさ、難しさはそれほどない短編集でした。ファンタジーとも違う、近代の先にある技術や理論に裏打ちされた創造性のある設定がベースにあり、その世界線で交わされる、人々の情の交流と断絶が色濃く豊かに描かれた物語ばかりで、ひとつひとつ違う形で胸に響くものがありました。
表題作がいちばん素直にだれしも切なさを受け取れる短編ではないかと思いました。親子の情が悲しくすれ違っていくさま、もう取り戻せないものへの遥かな思慕が、動く紙の動物たちというユニークでとっつきやすい設定も相まって、やわらかく心を打ちました。
そして「愛のアルゴリズム」もまた同系統の、けれどぐっとベクトルはより取返しのつかない方向へ離れてしまった愛情を描いた物語で、そのきっぱりとした断絶の清々しさが、鮮烈に後に残りました。
「文字占い師」は漢字という日本人にも馴染みやすいアイテムをベースに、少女と老人たちの暖かな交流と、残酷な物語を両面に描いています。文字へ託した想いと、そのものがあっけなく踏みにじられる非情。その酷さをさらりと描き、しっかりとアジアの歴史の一側面を思い知らせてきます。その重さは目を背けたくなるけれど、受け止めなくては、知らなくてはならない。
架空や創造を多分に含みながらも、人々はリアルに細やかに情を交わし、世界は非情な側面をむき出しにしている。短い話のなかで、しっかりとした芯の通った密度の高い世界が構築されていて、凄いと思わされるものばかりでした。
自分には初読みの作者さんでしたが、ほかの本もどんどん読んでみたいと思います。 -
目下、売り出し中の中国系アメリカ人作家、ケン・リュウの短篇傑作集。
蔦屋書店で平積みになっていて、又吉直樹が推薦していたので手に取りました。
ケン・リュウの得意とするSF作品7篇が収められています。
どの作品も、そこはかとなく切なさが漂っていて、胸にしみます。
でも、やはり、表題作の「紙の動物園」が絶品。
米国人の父と、中国人の母のもとに生まれた「ぼく」。
成長するにしたがって母を疎ましく思うようになります。
その母が紙で作った動物が、やがて動き始めて……。
荒唐無稽な設定ですが、そう感じさせないのは、それが中国の古い風習と関係しているから。
でも、それだけではありません。
筆者の力量によるところが大きいと思います。
「ああ、そんなことが実際にあるかもしれないな」
と思いながら読みました。
ネタばれになるので、これ以上は書きませんが、終盤の事実が明かされて以降は、胸を締め付けられるようでした。
「太平洋横断海底トンネル小史」は、第二次世界大戦が起こらなかった世界を描いています。
太平洋海底にアジアと北米をつなぐトンネルを掘るという、これまた壮大な作り話ですが、読ませます。
長篇向きの題材を、この長さ(文庫本で28ページ!)で読ませる筆者の技量は相当なものだと感じました。
「愛のアルゴリズム」も好き。
人工知能を題材にした作品で、生まれたばかりの赤ん坊を亡くした玩具開発者の女性が主人公。
となると、赤ん坊をAIでよみがえらせるという着想が浮かびますが、女性は「自分はもしかしたら玩具のように単なるアルゴリズムで考えるプログラムに過ぎないのではないか」と考えるようになります。
極めてアクチュアルで哲学的な問題に踏み込んでいくのですね。
あっぱれ。
訳者あとがきによると、第1作品集となった本作は「ファンタジイ篇」とのこと。
ただ、どの作品も決して軽くはありません。
むしろ、作品によっては難解なものもあり、集中力を要しました。
第2作品集も買いでしょう。 -
「紙の動物園」
ここまで極端でなかったとしても、米国に移り住んだアジア人家族において
程度の差こそあれ実在する話。子供が成長するに従い、言語・文化・食生活等々、
色々な違いが発生する。その違いをありのままに受け入れられればよいのだが、
どうしても違いを受入れられなかったり、米国が優れていて、自国が劣っている
という構造に陥り易くなってしまう。特に米国においては、どうしても英語優先に
なってしまうし。実際、親にとっても、子供達の英語力が伸びる事が、
米国に馴染んでいる証として感じる部分もある。著者自身もその様な葛藤の中で
育ったんだろう。
息子への愛情、特に、言葉の通じない国で子を育てる苦しみを紙に記す術しか
なかったというのは残念だったろう。その悲しみを主人公はどの様に受け止めて
自身の将来につなげてゆくのだろうか。 -
どの短編もアイデアがとにかく秀逸。輝いている。
そこに歴史(ときには偽史)が接続され、わりと紋切り型のペーソスをまぶしたものが本作品集の短編たちだ。
ときにはそのペーソスが邪魔で読み進められず、ときにはそれが自分の心の型にフィットして、なんだかたそがれた気分になった。
SFというジャンル小説には必要とされないのかもしれないが、世界観は緻密で重厚で刺激的でも、ときにキャラクターの造形(心理描写も含め)が薄っぺらいことが多い気がするが、本作はわりとそこがしっかり描かれている。あるいはわざと外面からの描写しかなされないためハードボイルドっぽい味わいが演出されている。 -
あの史上初の三冠受賞作「紙の動物園」など7つの短編を読む。父さんは香港で出会った母さんを米国に連れて帰り僕が生まれた。母さんが折る折り紙の動物たちは皆命を吹き込まれて動き出す。彼らだけがずっと僕の友達だった。ファンタジーのようだが描かれるのはすれ違いがもたらす悲しみと母の愛。世界は相対的で文化の違う者同士は共感し合えるものではない。そのくせ対立する考えは一方でよく似ている。西洋と東洋の考え方の違い、いや同じ東でも考えは違う。母の愛、でも愛とLoveは違う。そんなテーマを丁寧に描き投げかけてくる。中国では翻訳できない話も書く。ケン・リュウはカズオイシグロばりに子供の頃にアメリカに移民した中国人で天才的な話を書く作家だ。要マーク。
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収録作品の中でも「紙の動物園」がなんとも切ないけれど、味わい深い。「文字占い師」も切なくて、重苦しい展開に息をのむ。単なるSFではなく、東アジア系民族が背負っているものが色濃く出ている。
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『紙の動物園』
お母さんからの手紙が泣けた…。
誰ひとり仲間がいない、心の拠り所がないと思っていた中で自分の子供がいかに希望であったか。
その子供と自分の母語で話すことがどんなに特別なことだったか。
想像するだけで胸がいっぱいになってしまった。
ラオフー、中国語ではどう発音するんだろう。
中国人の友達に読んでもらいたい。