三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3)

  • 早川書房
4.06
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150121389

作品紹介・あらすじ

「宝石の惑星」をはじめとするキャッシャー・オニール・シリーズ4篇、オリジナル版の「第81Q戦争」など全11篇を収録した完結篇

感想・レビュー・書評

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  • 唯一無二の独創的な未来史「人類補完機構シリーズ」を描き出して右に出る者のいない、コードウェイナー・スミス。本邦では長いこと絶版状態が続いていましたが、2016年以降ハヤカワ文庫から彼の全短編を訳出する試みが続いており、3冊目のこの本をもって全短編の訳出が完了となります。といっても、鴨は80年代に一度ハヤカワ文庫で出版された「鼠と竜のゲーム」「シェイヨルという名の星」「第81Q戦争」の3冊を全て持っているので、この旧3冊にも収録されなかったキャッシャー・オニール・シリーズ目当てで、「三惑星の探求」のみ購入いたしました。

    で、キャッシャー・オニール・シリーズについて。
    このシリーズは、「人類補完機構」の歴史の中でも最も後期に位置する作品といわれています。「人類補完機構」系の作品を読んだことのある方ならご存知の通り、前期に当たる作品と後期に当たる作品では全くテイストが異なり、人類の宇宙開拓史でもあり勢いと緊迫感に満ちた前期作品に比べ、後期作品では広がるだけ広がり切った人類社会が爛熟期を迎え、緩やかに停滞していく過程が描かれています。動物を改造して人間の姿にして使役する、「下級民」というグロテスクな存在が主要な登場人物として現れる時代でもあります。
    キャッシャー・オニール・シリーズは、こうした後期作品の特徴が端的に現れた作品だな、というのが、鴨の第一印象。故郷の星を追われたキャッシャー・オニールが他の惑星を経巡りながらある力を身につけて復讐を果たす、という典型的な復讐譚の筋書きはありますが、キャッシャー・オニール自身のキャラクターとしての特徴や魅力といったものはあまり感じられず、むしろ「宝石の惑星」の馬や「嵐の惑星」のト・ルースといった人間以外のキャラクターが異彩を放ち、物語を牽引します。筋書きを追うよりも、こうした舞台設定や世界観の異質さを楽しめ!という性質の作品だと思います。
    特に、「嵐の惑星」のほぼ主役ともいえる下級民ト・ルースの美しさ、そして何よりもグロテスクさ!ただ一人の男を愛し、尽くし、奉仕するためだけに亀から作り出され、男を想う気持ちも男を守るための能力も人為的に刷り込まれ、常人を超える力をもってその男を保護し続ける(そしてそのことに何らの疑問も抱かない、何故ならそのように造られているから)齢3万年に至る絶世の美少女、という針の振り切れたキャラ設定は、正に「人類補完機構」後期でなければできない荒技かとヽ( ´ー`)ノある意味、SFの究極の姿と言ってもいいのかもしれません。一周してきて清々しいですわ。
    シリーズ全編を通して感じられる西欧的宗教の香りも、いかにも「人類補完機構」後期作品ならでは。動物を改造して使役するという発想自体、東洋的な価値観からは違和感を禁じ得ませんしね。

    というわけで、鴨的にはキャッシャー・オニール・シリーズはいろいろと突っ込みどころ満載でして、でも面白くないわけではないです、念のため。この世界観に共感できる人なら、とても楽しめる作品だと想います。鴨は残念ながら、その域に辿り着けませんでしたが(^_^;
    それ以外の作品群は、ストレートなSFまたは幻想小説としてよく出来た小品ばかりで、鴨的にはこちらの方がしっくりきました。

  • 2020/11/30購入

  • 題名が凡庸

  • <人類補完機構>全中短篇シリーズ最終巻は、<人間の再発見>の第二世紀を舞台とする放浪者キャッシャー・オニールの三惑星の探求全4篇に加え、<人類補完機構>最後の作品「太陽なき海に沈む」のほか、<人類補完機構>に属さない作品も収録した全11篇。

    ・宝石の惑星
    ・嵐の惑星
    ・砂の惑星
    ・三人、約束の星へ
    ・太陽なき海に沈む
    ・第81Q戦争(オリジナル版)
    ・西洋科学はすばらしい
    ・ナンシー
    ・達磨大師の横笛
    ・アンガーヘルム
    ・親友たち

    目玉は、やはりキャッシャー・オニールの三惑星の探求全4篇。本書の半分以上を占めるこちらのシリーズは既刊短篇集には収録されておらず、全くの初読でした。こちらを目当てで購入された読者も多いのでは。さて、三惑星の探求のうち、中核を占めるのが「嵐の惑星」。150頁の中篇は、読み応え抜群の傑作でした。
    嵐の惑星に降り立った放浪者キャッシャー・オニールは、惑星の司令官”ミスター・コミッショナー”から依頼を受ける。報酬は一隻の巡航艦。依頼はとある少女を殺すこと… 
    謎に満ち、緊迫感もあって充実した作品です。加えて魅力的なのが嵐の惑星の描写でしょう。狂風が吹き荒れ、漏斗型の竜巻が何本も垂れ下がる惑星。そんな惑星に順応した空飛ぶ鯱「空鯱」や空中生活に適応した野人「風人」など、自由奔放なトンデモ設定に目がくらみます。そして何より、一抹の寂しさを残すラストの描写はお見事の一言。<人類補完機構>シリーズでも随一に綺麗な終わり方かと。

    本書ではさらに本邦初訳にしてシリーズ最後の物語「太陽なき海に沈む」も収録。どうやらスミス没後にジュヌヴィーヴ夫人によって創作された作品のようで、「星の海に魂の帆をかけた女」のようなスミスとの合作ではなく、全くの夫人オリジナルとのこと。とはいえ、スミスの作品と思っても何の違和感もなく読める作品です。解説では本書の結末を物足りないと評していましたが、個人的にはこのあっけなく収束する結末が好きで、それまでの主要人物の心情の描写が細やかだったこともあり、ラストの二行は絶妙に切り捨てた終わらせ方だなぁと。

    さてさて、これにてコードウェイナー・スミスの<人類補完機構>シリーズをすべて読み終えたことに…やっぱり寂しい!!
    でもまた読み返したいシリーズで、出会えてよかったと心から思える素晴らしい作品でした。

  • SF。中短編集。
    人類補完機構シリーズが5作品。うち4作品はキャッシャー・オニール・シリーズ。
    キャッシャー・オニールの物語は、冒険小説の趣向が強い。
    情景描写の美しさと、キャラクターの魅力が素晴らしい。
    やはり「嵐の惑星」がベストか。ト・ルースが魅力的すぎる。
    「三人、約束の星へ」は極めて特殊なキャラ設定・場面設定が印象的。好きだなぁ。
    シリーズものの作品以外は、あまり好きではなかった。「親友たち」が良かったくらい。それでも、人類補完機構シリーズの作品を読めるだけで大きな価値がある一冊。
    それにしても、なぜこんなに美しいのか…。これで全作品が翻訳され、コードウェイナー・スミスの新たな作品を読むことができないことは非常に残念。

  • 「嵐の惑星」
    これほどの作品が本邦初訳ということに驚いた。
    訳されていない=面白くない、とは限らないらしい。

  • 壮大なSF、ファンタジー、神話的、宇宙史。
    その一部分を1長編と3中短編集で垣間見ることが
    できるが、残念なのはその全てを知る
    神に等しい人物が全てを明らかにする前に
    未来の世界に帰ってしまったこと。
    そして、うっかり数千年分の歴史を紛失したこと。
    作者も読者も不完全燃焼であろう。
    完全に整っていると想像される構想が
    部分的に提示された、この不完全さが
    無限の想像力を伴い、惹きつけられるのかもしれない。

  • 人類補完機構の全短編が読めたという喜びと共にこれで全てなのかという淋しさもある。
    エッシャーの建てた美術館でダリやクリムトの作品を鑑賞するような楽しみは飽きることが無い。

  • 『人類補完機構全短篇』完結編。
    巻末の解説によると、これでほぼ全てが邦訳されたとのことで、まずはそれを喜びたい。

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