折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)

制作 : ケン リュウ 
  • 早川書房
4.07
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本棚登録 : 330
レビュー : 34
  • Amazon.co.jp ・本 (517ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150122539

作品紹介・あらすじ

日本で発売後即10万部を突破した『三体』著者劉慈欣による「円」など7作家13作品をリュウが精選したアンソロジー、緊急文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • かなり時間をかけてしまいました。
    「龍馬夜行」人類が滅んでしまった後の世界を、残った機械達に語らせることがシマックの「都市」を思わせる作品。
    「沈黙都市」 まさに今、香港で行われている事を予感させる秀作。他人事とは思わず、私達もこうなる可能性の崖っ淵にいるのだと改めて思い知らされる作品。
     
    作品に国境なし。読まないなんて損をしてしまうと思うアンソロジーでした。
    満足!

  • なるほど、こちらの方が『三体』日本刊行より早かったのだな。

    現代中国SFアンソロジーという、今注目の一冊。
    個人的には冒頭の「鼠年」が良かった。
    大学生活後、就職するために従事しなければならなくなったのは、鼠駆除隊という仕事。
    そこでは遺伝子改造されたネオラットの増殖に立ち向かう人間の姿が描かれているのだが。

    鼠の生も人間の生も、一つの盆の上で操られているというような、やりきれなさが、いい。
    あくまで私の感覚だけど、西洋SFよりも、泥臭いやりきれなさや、人間臭い冷笑が、中華SFには合っているような気がする。
    もっと言えば、中国には「四大奇書」が存在するわけで、そのポテンシャルたるや、と意気込まずにはいられない。

    「童童の夏」「神様の介護係」など、老人(老神)が活躍する話も、SFとしてはあまり読んだことのない切り口で、面白い。
    老いは叡智だ。
    その想いは、日本人にも通じると思う。

    巻末には『三体』についてのエッセイも載っていて、二巻、三巻がどうなるのかと思っていたけれど、いよいよ三巻まで読まなければという気持ちにさせられた(笑)
    訳者さん、すいませんが、頑張ってください。

  •  ケン・リュウや『三体』の大ヒットなど、中国SFが最近話題ですが、この本でようやく自分も、中国SFの熱に触れることができました。なるほど、確かにこれはすごいわ……

     語りたい作品は色々あるのですが、まずはチャン・チウファンの『鼠年』
     企業が遺伝子改良を施した鼠が、研究施設から逃げ出し繁殖した世界が舞台で、その鼠を駆除する若者が主人公の短編。

     ケン・リュウの序文の後に最初に収録されている短編なのですが、いきなりすごいインパクトだったなあ。
    話の異様さもそうなのですが、大学を卒業しても働き口が無く、こうした仕事にしか就くことができない若者たちの姿は、現代の世界に通じる閉塞感や無力感を覚えさせます。

     さらに知性を持ち始める鼠たちの描写が不気味で、技術の恐ろしさを感じさせるばかりか、知性を持った生き物を殺さなければならない若者たちの葛藤や悲哀。

     さらに鼠たちと若者たちの姿を通して、より巨大な力の存在と、それにあがらえない個人の小ささや運命の過酷さ、見えない巨大な力の不気味さを思わされます。

     こうした閉塞感のあるSFというのは、自分は結構好きだったりします。チャン・チウファン作品で他に収録されている「麗江の魚」「シェーズイの花」も、技術だけでは救われない人間の哀切さを表していて好みです。

     また、表題作ハオ・ジンファンの「折りたたみ北京」は格差社会と、それを横断することになる男の物語なのですが、
    これは個人の小ささを感じさせるだけでなく、結末が目新しかったようにも思います。

     これまでのSFならば社会の真実を知った人間は、何かしらの行動を起こすという印象だったのですが、こう締めてくるのか……。

     最近大学入試をめぐって大臣が「身の丈に合わせて頑張ってくれれば」という趣旨の発言をして批判を浴びました。
    出身地域や家庭の経済環境で、学生の試験対策に差が出るのでは、という懸念に対し、大臣はこう述べたそうです。

     この回答は明らかに良くないものだと思うのですが、でもある意味では真実をついている気もして、少し空しくなったのを覚えています。

     この「折りたたみ北京」もそれと同じで、個人の力では越境できない世界があるという現実を。そしてそんな世界で、身の丈にあった幸せしか望めない人の姿を。そしてそれに満足せざるを得ない人の姿をSFという形を通して、描き切っているように思います。
    こう読むと、SFって現代の寓話になりつつあるよなあ、と感じてしまいます。

     ハオ・ジンファンは「折りたたみ北京」の他に「見えない惑星」という短編も収録されているのですが、こちらも面白かった。

    「折りたたみ北京」はどちらかといえば現実的な作品だったのに対し、「見えない惑星」は様々な惑星とそこに暮らす異星人たちの姿や文明を、まるで本当に見てきたかのように描くのです。
    これぞまさにセンス・オブ・ワンダー! 圧倒的なまでの想像力です。

     この二つの作品の、振り幅の大きさにも驚かされます。この幅の大きさも、中国SF作家の魅力の一つなのかもしれないなあ。

     マー・ボーヨンの「沈黙都市」は現代版『1984年』とも言える作品だと思います。
    『1984年』ではテレビなどを通して、国民の思考を監視していましたが、この『沈黙都市』は現代の技術に合わせて、よりリアルな監視社会を作り出しました。

     ネット技術の話から、人間の言語と思想や思考にまで話は広がり、読み応えは十分でしたが、本好きで、レビューなんかも書いてる自分がこんな世界にいたら、すぐに廃人みたいになるだろうな、と思ったり。

     話題の『三体』を抜粋改作したリウ・ツーシンの「円」もすごかったなあ。秦の始皇帝の時代で一体どうやってSFを書くんだ、と思ったのですが、読み終えてみると「確かにこれもSFなのかも」と思わされます。

     というか、あまりの物語の壮大さにSFであるとか、SFでないとか、どうでも良くなった、というのが正しい感想かも知れませんが(苦笑)

     中国の壮大な歴史と、インターネットという概念をこんな形で結びつけるとは! 人間計算機の描写は、想像すればするほど壮大で、実際にこんな光景を観れれば、もう死んでもいいんじゃないか、という気にもなりそうです。最後の幕切れも劇的だったなあ。

     同著者の「神様の介護係」は「円」とは趣向を変えたSFです。突然宇宙の彼方から”神”を名乗る老人たちがやってきて、地球人たちは彼らの技術を目当てに、”神様”を受け入れるのですが……

     高齢化社会を迎えている日本にとっては、ユーモアSFでは済まされない作品……。
    様々な皮肉も交えつつも、読み終える頃には地球のこれからを考えさせられている、なんとも不思議で印象的な作品でした。

     老人が印象的な作品で言えば「童童(ワンワン)の夏」もそんな作品。ワンワンという女の子の家に彼女のおじいさんと、その介護ロボットがやってくるのですが……。

     一億総活躍という名目で、どんどん働かなければいけない年齢が延びている日本ですが、それぞれの身体のこともあり、なかなか難しいのではないか、と自分は思っています。
    でも一方で、その年代の人々の知恵や技術、経験を継承するのは大事なことだとも思っています。

     そんな自分の懸念を見事に捉えたというか、技術を生かした新たなライフスタイルや、絆の誕生をこの作品は描きます。
    ディストピア的なSFは、それはそれで大好物なのですが、技術の明るい未来を描くSFもやっぱりいいなあ。

     この「童童の夏」の著者であるシア・ジアの作品は、他に2編収録されているのですが、どちらも印象深い。

     妖怪や幽霊とアンドロイドを共存させた「百鬼夜行街」も、独特な世界観と、奇抜な展開、そして切ない結末と、印象的な作品。

     そして個人的にこのアンソロジーで最も好きなのが同著者の「龍馬夜行」
    タイトルからはじめはてっきり”坂本龍馬”が出てくるのかと思ったのも、今はいい思い出(笑) 龍馬とは、僕もはっきりとは分からないのですが、どうやら馬の身体に龍の頭を持った空想上の動物だそうです。

     舞台は人間が絶滅し廃墟だけが残る世界。そこで、かつてパレードなどに使われたと思われる機械仕掛けの龍馬が、突然目を覚まし、行く当てもなく歩き始めるところから物語は始まります。

     この話を読み終えたとき、自分が最初に思い浮かべたのは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でした。機械仕掛けの龍馬と、道中で出会う蝙蝠が一緒に誰もいない世界を往く、というメルヘンチックな設定がまずその理由の一つです。

     そして理由の二つ目が情景描写の美しさ! 夜の明かりの描写は本当に美しく、そして神秘的です。読めば読むほどに、物語には様々な意味や祈りが込められているように感じて、この物語世界にずっと浸っていたくなります。

     また龍馬と蝙蝠が夜を往く途中、お互いがそれぞれ自分の知っている話を互いに聞かせ合う場面があるのですが、ここの話がまた印象的。 

     いずれもあらすじしか語られないのですが、それだけで読んでいるこちらもワクワクしてくるようなものばかり。SFの千夜一夜物語といえるかもしれません。

     シア・ジアさんは、ここに出た話で実際に短編集にまとめてほしいです。もしそれが出たらケチな自分でも間違いなく、ハードカバーでも買うと思います(笑)

     短い作品ながらも物語と情報の壮大さに思いを馳せて、酔うような感覚を覚える、タン・フェイの「コール・ガール」

     そしてこちらも短い作品ながら、宇宙を舞台に様々なファンタジックな設定を付加した、壮大な世界観と詩的な文章が印象的なチョン・ジンポーの「蛍火の墓」と収録作品はいずれも個性的で、唯一無二の輝きを放つものばかり。

     今まで読んだアンソロジーの中でも、トップクラスに濃密な作品ばかりが並んでいたように思います。

     そして小説以外にも、中国SFにまつわるエッセイも収録されています。そのエッセイの書き手はいずれも、このアンソロジーに作品が収録されている方です。

     このエッセイも非情に興味深い。中国国内でのSFの変遷の話も面白く読めたのですが、改めて考えたのはSF作品に、何を託すかということ。

     このレビューのどこかでSFは現代の寓話になりつつあるのかもしれない、と書きました。それは、技術が急速に発展し、世界が急速に変わっていく中で、
    技術を使う側だったはずの人間に、その変化から取り残されているような不安があるからではないか、と個人的には思います。

     人工知能、遺伝子改良、核や戦争に関する技術、環境破壊、グローバル化のためリーマンショックのように、
    一企業の倒産でも混乱に陥る世界経済、いつの間にか集められ利用されている、個人情報とビッグデータ。

     いずれも一個人が扱うにはあまりに問題が大きく、そこには個人では力の及ばない、国家や巨大企業の論理や都合が、見え隠れしているように思います。
    かといって、国家や企業が、そうした問題をコントロールできているようにも思えない……。
    またコントロールできていたとして、それを国民や世界人類のために使ってくれる、という保証もない……。

     それでも自分たちは理想を持って未来を信じ、前に進まなければならない、と収録されているエッセイを読んでいると感じます。

     どんなSF作品であっても、根底にあるのは未来への希望だと自分は思っています。希望的な作品は言わずもがなですが、絶望を描くSF作品もそれを描くことによって警鐘を鳴らし、
    より良い未来を開くためには、どのような想像力を働かさせなければいけないのか。
    それを考えるヒントを与えてくれているのだと、思うのです。

     この本の序文でケン・リュウは中国の作家たちは、たんに中国だけでなく人類全体について言葉を発している、と書いています。

     作品を読んでいると、作品で使われるガジェットや設定は、やはり中国という国で育った作家だからこそ、というものがあるように思います。
    そして今の中国だからこそ描けた作中の閉塞感というものも、確かにあるとは思います。

     しかし、作品の根底にあるのは、中国だけでなく、世界に、そして人類全体に共通している普遍的なものだと思うのです。

     米英的な視点で語られてきた、SFの普遍的なもの。それは日本のSFであれば日本的な視点や文化を基に描かれるでしょうし、中国のSFであれば、中国的な視点や文化から描かれるものになると思います。

     その視点や文化が目新しいからこそ、中国SFも面白いですし、一方でその根底にあるものは普遍的なものであるからこそ、中国SFは広範囲にわたって読者を得たのだと思います。

     国家として急成長を遂げたものの、経済格差や環境問題、そしてネットの監視や人権の抑圧と、様々な矛盾や問題も抱えている中国。
    それはある意味では、今の世界の縮図とも言えるように思います。
    だからこそ、その問題を肌で感じ育った、中国作家の作品はより刺激的で、自分たち読者を魅了するのではないでしょうか。

     というわけで、また楽しみなジャンルが増えました。早川書房さんは『ミレニアム』の時の北欧ミステリブームといい、今回の中国SFブームといい、ブームを作るのが巧いなあ。また数年後には、新たな海外小説ブームを起こしてくれるのかなあ。

  • うーん、これはすごい。評判通り。圧倒された。作品もさることながら、収録されている短編の作者の年齢にも、作者の半数が女性だということにも度肝を抜かれた。14億という人口の中にはやはり傑出した人材がいるものだなぁ。
    SFは古典的な名作しか読んでいないので、中国発のSFの「らしさ」などは正直よくわからないのだけれど、個人的には夏笳さんの作品が中国的な雰囲気を感じられて印象に残った。でもどの作品も読みごたえがあり、頭を刺激してくれるような面白さがあった。
    最近、コロナで封鎖中の武漢からWeb日記を公開していた中国人女性についてのドキュメンタリーを見たり、WOWWOWで放送中の中国ドラマ「陳情令」にドはまりしたりしていて、いまだかつてないほどかの国への興味が高まっているので、巻末のエッセイもたいへん興味深かった。

  • 2018年2月ハヤカワSFシリーズ刊。201910月ハヤカワSF文庫化。7作家13編+エッセイ3編の中国SFアンソロジー。表題の折りたたみ北京が、そのままの折りたたまれた世界のお話で笑ってしまいました。秀逸なアイデアのファンタジーです。やはり、リウ・ツーシンさんが、抜きん出ています。

  • 各作家についての感想を書く。

    陳楸帆。サイバーパンクな雰囲気が強い。文学的な情動の描写も細かく、上手くSFの情景とマッチしていた。

    夏笳。新技術に対する旧技術の退廃による哀愁と人間のノスタルジー的な感情が掛け合わされていた。SFに慣れてなくても読み易いと思った。

    馬伯庸。『1984年』へのオマージュだが、言論統制による思想の弾圧という側面にフォーカスしていた。この作品は著者の中でも異質とある。

    馬伯庸。『見えない惑星』は惑星環境による様々な異星人の特徴が回帰的に人間の特徴につながっており、星新一っぽいと感じた。『折り畳み北京』は設定的にはよくある感じだが、文学的にうまく落とし込まれていた。

    糖匪。読んでいて意図的なミスリードにまんまと引っ掛かったが、言いたいことはよくわからなかった。

    程婧波。情景描写が詩的で美しく、退廃的な世界の中の叙情に引き込まれた。

    劉慈欣。『三体』でファンになり、この短編目当てで本書を買った。どちらの短編も異星人や文明を単なる進歩史観的に眺めておらず、異なる文明や技術の接触と融合がテーマにあり、SFの未来だと思った。『三体』シリーズの続編の翻訳出版が待ち遠しい。

  • 欧米のSFの影響を感じた。アイデアは似たようなものが多いが、欧米のSFよりも(翻訳者の力なのか)読みやすく、美麗な表現が多かった印象あり。
    三体の中に出てきたアイデアは、ここの短編で書かれたものだったんですね。

  • いやいや、これは驚きました。
    鴨的にこれまで触れてきた中国SFはテッド・チャンとケン・リュウの短編を数編程度で、テッド・チャンは「たまに当たりあり」、ケン・リュウは「センチメンタリズムが全面に出過ぎてちょっと・・・」というイメージでした。要するに、そこまでピンと来ない感じ。
    でも、最近は劉慈欣「三体」をはじめとして、中国SFがスマッシュ・ヒットを飛ばし続けております。ここはひとつ、ブームに乗っかって読んでおくか・・・と比較的ハードル低めで手に取った次第ですが、一通り読了していやはやこれは、目からウロコ。たいへんに洗練されてエレガントな、それでいて自己批判や内省的な姿勢も忘れない、とてもスマートなSF世界がここにあります。

    語弊を恐れずに敢えて例えるなら、かつての日本SF第二〜第三世代の精神を彷彿とさせると、鴨は感じました。SFという文学ジャンルに目新しさと熱狂を感じる時期を超え、「SFとは何か」というヴィジョンを自分なりに消化しつつ、自己が属する社会や文化といった要素も踏まえながら、独自のSFを構築していると思います。
    日本SFとの大きな違いは、中国SFが「SF」を意識し始めた時点で既にSFはグローバルな文学フォーマットとして国際的な広がりと多様性を見せており、中国SFがそれをもの凄いスピード感と柔軟さでもって貪欲に吸収して自らの血肉に変えていったこと。そういう観点からは、かつての日本SFに溢れ返っていたあの噎せ返るほどの熱気は感じ取れず、むしろ冷静な自己分析や客観的な自己批判の精神が強く感じ取れます。

    どの作品も本当にパワーがあって面白いんですけど、やっぱり劉慈欣が頭一つ抜けている感じ。「三体」の一場面を短編とした「円」の完成度の高さはもちろんのこと、最後に納められている「神様の介護係」の洒脱さも良い!ぜひ新作落語化して柳家喬太郎師匠に高座に掛けていただきたい(笑)ウィットとペーソスに溢れる佳品です。でも、強固なハードSFの骨格が、ちゃんと貫かれているところが素晴らしい。中国SFの肩幅の広さを見せつけられましたね。

    もう一つ、印象に残ったのが、表題作の郝景芳「折りたたみ北京」。北京の中心部が定期的に折り畳まれてひっくり返り、住民もその都度覚醒→活動→活動停止のサイクルを繰り返すという(メタファーではなく、物理的にそうなるのよヽ( ´ー`)ノ)、バリントン・J・ベイリーばりの「奇想SF」です。が、都市がそのような構造になった理由が奇想でも何でもなく、「失業者対策」という極めて生々しい政治的要請に基づくものであるという、救いようのないドゥーミーさ。SFという文学フォーマットが、社会観や価値観の変容を描き込めるという好例だと思います。

    いやー、これは「三体」も読まないとヤバいなー。中国SF、これからも期待大です!

  • 近頃話題の現代中国SF文学。映画『メッセージ』の原作小説であるテッド・チャンの『あなたの人生の物語』や、オバマやザッカバーグも熱中したという『三体』など。
    作品の選定&翻訳 (中→英) は『紙の動物園』などの短編SFで有名なケン・リュウ。非英語圏の文学が世界に広まるためには、一度英語への翻訳を経ないといけないために、二度売れる必要があるが、今回はケン・リュウが後輩SF作家のために一肌脱いだという感じか。
    ちなみに、すでにケン・リュウによる中国SFアンソロジー第二弾の発売がすでに決まっている。

    リウ・ツーシン以外は初めて聞く名前ばかりだったけど、良い作家にたくさん出会えた。スタンリー・チェン、マー・ボーヨンが良かった。リウ・ツーシンもさすが。

    Kindle版ないなーと思って文庫本で買ったけど、「文庫版のKindle版」はないけど、「ハードカバー版のKindle版」があったのね…しかもちゃんと紙の文庫より安い。失敗。



    チェン・チウファン(スタンリー・チェン)
    鼠年 ★★★★☆
    * 遺伝子組み換えされた知能の高い鼠が逃げ出し繁殖している。鼠狩り戦闘員たちのヒューマンドラマあり。
    麗江の魚 ★★★★☆
    * 観光地にあるリハビリ患者向けの地区。そこである女性と出会う。そのリハビリ地区はある種の精神異常を治療するために設けられた場所だった。
    * 時間感覚拡大装置と圧縮装置によって精神に異常をきたした人たちを治療する場だった。
    沙嘴の花 ★★★★☆
    * 男は隠れ住んでいる町でARボディフィルムを販売していた。そこである娼婦に出会う。暴力的な彼氏によって不幸な生活をしていた娼婦を救おうとする。
    * この3作の著者スタンリー・チェンはSF設定薄めで(薄めだけどサイバーパンク調)、人間模様に焦点を置いていて面白い。

    シア・ジア
    百鬼夜行街 ★★★☆☆
    * 幽霊、妖怪の街に一人、ぼくだけが人間。
    童童の夏 ★★☆☆☆
    * 孫目線で語られるロボットとお爺さんのお話。
    龍馬夜行 ★★☆☆☆
    * 龍の頭、馬の体を持ロボット。

    マー・ボーヨン
    沈黙都市 ★★★★★
    * 検閲の厳しいディストピア世界。使ってはいけない単語リストは日々増えていき、自由に話せない。そんな中、「会話クラブ」という地下グループと出会う。「1984年」を語り継いだり、というのも面白い。
    * 規制は激しくなり、最後はすべての言葉の利用が禁止され、町には沈黙が訪れる。

    ハオ・ジンファン
    見えない惑星 ★★★☆☆
    * 宇宙中を旅して見てきた惑星とそこに住むユニークな生物について語り聞かせる、という形態。
    折りたたみ北京 ★★★★★
    * 設定が斬新すぎて最高。数時間ごとに北京の街はひっくり返る(折りたたまれる)。別の地表が現れ、別のグループの活動が始まる(その折り畳まれる様は、言葉でしっかり説明されているが、それでも頭の中で想像がつかない。けどまあそれくらいが良い)。第1グループは上流階級で最も長い時間を地表で過ごす。第2グループは中流階級。主人公は第3グループで、ゴミの分別を仕事としている。基本的に別のグループへの居住区への移動は厳しく管理されており、通常は許されない。主人公はある依頼を受けて、第1グループへの潜入を試みる。
    * 面白いのは設定だけでなく、短編ながらしっかり物語に展開があって、かつスリルもあり、人間ドラマもある。

    タン・フェイ
    コールガール ★★☆☆☆
    * とても短い短編。少し不思議な世界を垣間見る。

    チョン・ジンボー
    蛍火の墓 ★★☆☆☆
    * その星を統治している魔術師が建てた城の中は時間が経過してないという話。冒頭の抽象的な描写は必要だったのだろうか。

    リウ・ツーシン
    円 ★★★★★
    * 中国戦国時代、コンピュータの計算方式を人(隊)で実現する方法を思いついた学者と政王の物語。スケールも、発想も素晴らしいし、短編ながらストーリーもどんでん返しあり、満足。
    神の介護係 ★★☆☆☆
    * 文明が滅びる寸前の神々(20億人)が地球に降り立ち、人間に同居させてもらう話。ちょっとファンタジーすぎたかな。

  • 劉慈欣の「円」は、「三体」にも同じアイデアが出て来るが、始皇帝を狙った暗殺者の荊軻を主人公にしたこちらの話の方がオチが面白い。
    「折りたたみ北京」は、折り畳まれる都市のメカニズムがあまり具体的にイメージできず残念だった。

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