魂の駆動体 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-25)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (484ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150306342

作品紹介・あらすじ

人々が意識だけの存在として仮想空間へと移住しはじめた近未来。養老院に暮らす「私」は、確かな生の実感をとりもどすため、友人の子安とともに理想のクルマを設計する。いっぽう遙かな遠未来。太古に存在した人類の文化を研究する翼人のキリアは、遺跡で発掘された設計図をもとに、あるクルマの製作を開始するが…。機械と人間の関係を追究してきた著者が、"魂の駆動体"たるクルマと自由な精神の解放を謳う現代の寓話。

感想・レビュー・書評

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  • 神林長平さんと言えば、日本を代表するSF作家の一人だと思う。 この方の作品は、これまでに3作ほど読んできた。哲学的な問いかけを含むような作風で、少し難解な部分はある。 久しく読んでいなかったのだけど、書店で見かけたのをきっかけに、本書を購入してみた。

    魂の駆動体。かっこいいタイトルではある。 内容は果たして、非常にSF的。人間を仮想世界に送り込むことが可能となった近未来の話。そして人類が滅亡した後の、「翼人」が生きる世界。2つの世界が、過去パート・未来パート・そして過去パートとして交互に描かれる。

    タイトルの魂の駆動体とは、ダブルミーニング。 1つは、魂を熱く燃やすもの。過去の人間は車づくりに魂を燃やした。ハイテクノロジーの世界だからこそ、何か手触りのあるものを作ることに価値が生まれる。また、未来世界では翼人が空を飛ぶことを愛している。全身全霊でスピードを感じること。それが魂を熱くさせる、と描写される。 もう1つは、仮想世界で人間を起動させるシステムのこと。こちらの方は少し難解。未来の世界は実は、この仮想世界の中なのではないか、と示唆される。が、答え合わせは難しく、曖昧なまま物語は終わっていく。

    総論として面白かった。 SF的なマクロな世界観の中に、魂を熱くさせる人間くささ(翼人くささ?)が散りばめられている。おじさん二人が希少で高価となったリンゴを盗む冒険譚とか、意識が芽生えたアンドロイドが料理に凝るとか、オールドファッションな良い風味を出している。

    ただし、車に関するメカニカルな描写が何度か登場する。自分は難解すぎて少し読み飛ばしてしまった。そういう横道に逸れる作風が許せない読者にはオススメできないかもしれない。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/01/05/%E3%80%90%E5%9B%BD%E5%86%85SF%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E3%80%91%E9%AD%82%E3%81%AE%E9%A7%86%E5%8B%95%E4%BD%93_-_%E7%A5%9E%E6%9E%97%E9%95%B7%E5%B9%B3

  •  物を創る分野に関わるうちに、自分と、ひいては人間の能力の限界を実感し、ある種悟りの境地に達したのだ––––と言えばおおげさかもしれないが、それは現実世界のなかで自分がどこに位置するのか、自分の立場というものを明確に得るということだ。創造してきた者の自信と言えるかもしれない。世界そのものは変えられないにしても、世界観は自分の意識でどのようにも変化する、そもそも世界とはそういうものなのだと、子安は信じているようだ。世界観は自分で創るものであり、創ることができる、という自信があればこそに違いない。
     私は役所でずっと事務職に関わってきて、なんの創造もしてもなかった。だがそれがどうしたと子安なら言うに違いない。どんな境遇でも創造行為は可能だ、と。私はただやらなかっただけなのだ。
     同じ仕事をしていてもそこに創造の喜びを得る者もいれば、そうでない人間もいるだろうから感受性の問題なのだろう。仕事上で難しいのなら趣味でやればいいのだ。私の父がそうだった。子安の父親のリンゴ作りもそうなのだ。ヒトはなにかを創らずにはいられなくて、それができないとき、人は病気になる。
    「人間モ飛行機トイウモノヲ創ッタ。物ヲ運ビタイカラデハナイ、タダ飛ビタカッタノダ」
     意識とは、かつて経験したことのない、まったく新しい事態に直面したときに、それに対処するための手順を自分で生成する能力だろう、とキリアはアンドロイドギアとの生活で、そう思うようになっていた。つまり意識というのは、用意されていないルーチン・プログラムを新たに自分で創り出す能力なのだ。ルールを創造する能力であり、想像力は意識から生まれる。人間が、物や道徳や社会を創り出してきたのは、意識というものが備わっていたからだ。いまのアンドロイドギアには、その能力がない。

  • おがわさとし氏のカバーがいい味の、猫好きの人向け作品

  • 神林長平氏の最高傑作は、本作だと思います。
    クルマというものが、本当に愛しくなった切っ掛けを与えてくれた本です。

    「ものづくり」の素晴らしさ。
    そして、「ものづくり」から、「づくり」へとshiftしていくこと。
    本当の豊かさとは?
    人間の意識と、欲望とは?
    そして、魂とは?
    クルマという、一種の「動物」の持つ魅力。
    老いる事の意義。技術屋の本性。
    そう言ったものを散りばめながら、物語は進んでいきます。

    印象的なsceneをいくつか引用してみます。<blockquote>「無関係な第三者だからこそ、公平な判断が出来るんじゃないか」
    「それをやると称して、そいつは当事者の人格の善し悪しを判断するような事をやる。公平な判断なんか欠陥だらけの人間に出来るわけがない。欠陥のない人間などいないよ。公平、なんてのは、その判定に不服のない者だけが言えることさ。殺されたら、なにも言えん。いい結果が出ても、生き返れるわけではない。それが常識というものだ」
    「殺されるなんて、縁起でもない」
    「だからさ、そうなったら、大怪我をして騒ぎになったりしてもだ、それではこちらの負けなんだ。公平な第三者なんてのが口を出す事態になったら、負けだよ。これは、あの爺さんと、われわれの勝負だ。法律なんてのを考えるのは、負けた後の事だ。勝てばいいのさ」</blockquote><blockquote>「設計というのは」と私は言った。「小説と似ているかもしれないな」
    「そうか?」
    「小説空間は疑似空間だ。一種現実のシミュレーションだとしても、小説自体の存在は架空ではない。HIタンクのなかでの創造は、言ってみれば小説内の登場人物による創造行為といえるのかもしれん。そこでは厳密な乱数は得られないだろう、作者の思惑により管理される世界だから」
    「なるほど」と子安はうなずいた。「で、その思惑というやつから逃れられないわけだが、現実世界のわれわれも、大自然という思惑か法則からは逃れられない、所詮どこでも同じだ、というのが、きみの息子に代表される現代的世界観というわけだ」
    「それは結局のところ、真に新しい事や想像などというのはこの世に存在しない、という考え方だ……寂しい思想だ。息子たちをそうしたのは、われわれの責任だな」
    「なに、そう悲観的になる事はないさ。その時代にあった考え方が生じるのは当然だ。若い者はそうでなければな。十分に創造的態度じゃないか。息子たちを誇りに思えばいいんだ。おれたちに理解できないくらいの方が頼もしくっていい。しかし、まあ、だからといって、旧いおれたちがそれに無理に同調することはない。新しい時代の思潮に納得できるならHIタンクに入ればいいし、逆に嘆くもよし、おれたちはどちらも選択できる立場にいるんだ。時代を創ってきたんだから、その権利がある。歳をとる楽しみはそういうところにあるんだと思うね。長生きはするものさ」</blockquote>この二つの引用は、ともにまだ前半部のものです。
    ここから、クルマの設計が始まり、そして、世界の変容へと繋がっていきます。
    そこで描かれる、「クルマ」を創る一連の描写には、ゾクゾク来るほどの高揚感を貰えます。
    そこに流れる思想、そして創造の手段、試み、結果。
    クルマの魅力。「人間」という生物。そして、魂。
    静かに、でも熱狂的に語られていく、「文明」への気持ち。
    ぐいぐいと引き込まれて、気付いときには、残り僅かになっていることでしょう。
    「クルマ」が好きな人にとっては、その魅力は何倍にも感じられるはずです。

    圧倒的な名作だと思います。
    ぜひ一読を。

  • たまにSF読むと面白い。自動車とクルマの区別としての精神論みたいなお話。SFは男性作家の方が好きかも。

  • 神林長平、いつもスルスルとは読めないなぁ…
    今回は人間が車を作ることの意味、自動車とは、本当の車と魂の関係性、アンドロギア、あたりを延々としゃべっていた気がする。

  • 神林作品の中で一番好きな、って前にも書いた記憶が…
    やっぱりこれかな。人間の欲求なんて、究極に突き詰めるとこうなるという作者のメッセージに共感。

  • 何というか、しんみりとほのぼのが混ざったような読後感。
    メカニックに関する部分はほぼ理解できなかったけど、好きな人にはたまらないんじゃないかと想像できる、楽しそうなやりとり。林檎園での冒険も含め、こういうのを「少年の心」というのかな。

    あと、アンドロギアという存在は、後に『膚の下』のアートルーパー達に発展していったのかな、と思った。

  • 2019年度第3回新歓ビブリオバトル

  • しぶちゃんリコメンド

    これは、、、いかにもしぶちゃんらしいセレクト。

    この人の作品は初めてだし、そもそもハヤカワを読んだのもどれくらいぶりだろう・・・

    私自身はそこまで「クルマ」に詳しい訳じゃないけど、この本で語られている事はそれでも伝わって来た。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

神林長平の作品

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