死の泉 (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-2)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (659ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150306625

感想・レビュー・書評

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  • ナチス支配下のドイツ、そして戦後と
    血生臭く混乱の時代の話なのに
    なんと美しい愛の物語なのだろうと
    読み終わった時の感動もひとしおだった。

  • 久々にのめり込める文学作品に出逢えました。
    最初のタイトルのページからあとがきまで丹念に練られた仕掛けに舌を巻くことになります。。
    登場人物は多いもののメイン、サブ、とも全員に意味のある役割が付されています。また幻想的なシーン、場所、アイテム、台詞、この作品を構成するすべてに無駄が1つもありません。単発で終わるモチーフがないのです。必ず後で反芻されたり、別の意味や文脈で再登場したりと、作者の脚本力と言おうか物語を紡ぐセンスにひれ伏したい気持ちです。
    勿論ストーリーの大きな流れもドラマチックで、クライマックスになるにつれてドキドキが増していき、ページをめくるのが止まらなくなります。
    この作品で描かれている登場人物の複雑な生い立ちや感情や立場を考えると、誰が悪で誰が正義かわからなくなります。自分がこの人物の立場だったら恐らく同じ決断をするだろうと思います。ある意味それぞれの人物に共感できる余地がある、だからこそ登場人物一人一人の残酷な行動や言動や態度に、切なさを覚えます。清濁のみこんだリアルな人間描写にも着目してほしいです。
    また、第2次世界大戦から東西分裂のドイツの抱える閉塞感、矛盾、誇り、祈りを、丁寧に描き出している文章も素晴らしく、政治軍事経済芸術宗教さまざまな知識と理解がないと、これは完成されなかったと思います。60歳ごろからの執筆、構想10年、、

    納得です!!近年の分かりやすい正義と悪の世界観に飽きてきた人、人間の暗い部分に関心がある人、是非読んでみてほしいです。

  • 素晴らしい読み応え!皆川さんの小説で、西洋が舞台の作品は「開かせていただき~」と「海賊女王」しか読んだことがなく、面白く読んだのだが正直和物の方が好みだなあと思っていた。けれどもこの「死の泉」はとても素晴らしかった。冒頭から謎めいたシーンが登場し、その後も秘密めいた治験、黒衣の聖職者、カストラート等々仄暗いモチーフが続々と織り込まれ、また「ペガサスの挽歌」(超好き)を思い出させる背徳的な場面もあり、ただもうぐいぐいと引き込まれて読んだ。最後に明かされる真実には、驚くと同時にそこまでの伏線が前半から張られていたことに気づくと、最後の最後まで味わいつくして読むことができた、と感慨深い。ああでもフランツが不憫...!

  • 狂気じみた執着が生み出すこの世のものとは思えない程の美しさと残酷さ 物語の終盤で明かされる真実に驚かされる場面があるのだけれど、それで終わったと気を抜いてはいけない その後の更なる告白により今作の暗澹とした深い混沌の世界に引きずり戻されてしまった

  • 天国的で背徳的な世界をただよっている、その解けないところがいい。
    第一部が人間から見た哀しい現実ならば
    第二部は人間?から見た悪夢、いやどちらも悪夢なのでしょうね。
    他の方々には、同じ文章を書かせてもこうも魅惑的にならないと思う。
    この内容で皆川さんの流麗な文章であるから幻想的になるのでしょう。

  • ナチス、SS、人体実験、地下洞窟、変声しない美声のカストラート。そして最後でひっくり返される驚き!重厚で海外翻訳ものを読んでいる様でした。「聖餐城」につづきまだ2冊目ですが、皆川博子、恐るべし^^です。凄いです。物語は真実の上にそれ以上の真実らしさをもって物語られる。許されることではないがクラウスの美に対する偏執は判る気がする。それは狂気との隣り合わせ。狂気が物語を構築する。凄まじい話でした!!

    • ななこさん
      日向さん、読了おつかれさまです☆海外翻訳物を読んでいるよう、、、すごく分かります^^「聖餐城」もそうでしたけど、読んでいると日本人が書いた小...
      日向さん、読了おつかれさまです☆海外翻訳物を読んでいるよう、、、すごく分かります^^「聖餐城」もそうでしたけど、読んでいると日本人が書いた小説だという事を忘れちゃいますね~(笑)もう大好きな要素がたっぷりで、終始興奮しながら読んでいました!皆川作品、未読のものばかりでこれから少しずつ開拓していく楽しみができました…(*^-^)
      2012/06/16
  • 皆川さんの長編は初チャレンジ。 ぷはあ、満腹です。 堪能。
    舞台はドイツ。 子供を安全に産むためのナチの施設、〈レーベンスボルン〉から始まる、美と狂気の物語。


    文章は決して読みにくくはないけれど、奥深く精緻で色濃い。
    大抵のレビューで言われるように、言葉の使い方、設定や世界観はグロテスクで、(それ故)最高に美しくて魅力的だと思う。

    でも短編から入った私がそれに加えて感じたのは、物語の速度。
    永遠とも思われる(しかし緊張感に満ちた)時間から、一気に傾れ込んでゆくクライマックスまでのメリハリがとても上手い。
    読んでいてこんなに鼓動が速くなったのは初めてだと思う。 ドラマや映画では味わえない、むしろ漫画に近いようなカメラワークというか。
    胸にどすんと響くこの質量感は高級品の証。 読書好きな人には是非体感してもらいたい逸品だと思う。

  • うわぁぁぁあ、やばい…600ページ超、ずっとゾクゾクしてた…最後の最後までどうなるのどうなるの?という感じで…

    物語の構成自体も、ドイツ語原作を訳した、という形で、その構成自体とあとがきにかえてで明かされる真相がもうこわすぎる…

    科学者が彼らの興味の赴くままに人の体を使って実験できる世界って怖いな。なに、2人の人間をくっつけるって…早熟させた女の子に子供産ませるって…ああこわい。

    皆川ワールドあっぱれ、すごく怖かったです。

    p.253 私のしたが、フランツの唇を割った。すぼめてら吸った。そのとき、わたしの舌が、フランツの唇を割った。舌の先が軽く触れ合った。口の中に、甘やかな感覚が広がった。わたしの舌は、もういちど、ゆっくり、フランツの口の中をさまよった。フランツは目を閉じ、首に回した両腕に力をこめ、わたしを引き寄せた。わたしは舌の罠から少年を解放し、頬と瞼にキスしたが、口の中に残るこの上なく甘い柔らかい感覚が、わたしの全身を浸し、酔いに誘った。

    p.409 言葉を探しているギュンターに、ミヒャエルはさらに言った。「楽しいこと、面白い事は、書物で追体験する方が、現実に勝ります。苦痛だって、想像の中から、楽しみにすり替えることができる。ほんとの苦痛は体験したくない。そうでしょう?何しても、僕は、外は要らないんです」ミヒャエルの言う外に生きてきたギュンターとしては、相手の言葉を認める事は、自分の声の否定に他ならない。

    「それでは、全く、生きているとは言えない」「だから、死人だって、認めています。でも、生者が死者に勝るとは言い切れないでしょう」「君は生きているんだから」「僕だって、不安や恐怖が全くないわけではありません。でも、どうしても避けられないことなら、積極的に受け入れてしまった方が楽です。それが自分にとっていいことなんだと認めたほうが」

  • 萩尾望都さんの絵柄で脳内再生されました。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    第二次大戦下のドイツ。私生児をみごもりナチの施設「レーベンスボルン」の産院に身をおくマルガレーテは、不老不死を研究し芸術を偏愛する医師クラウスの求婚を承諾した。が、激化する戦火のなか、次第に狂気をおびていくクラウスの言動に怯えながら、やがて、この世の地獄を見ることに…。双頭の去勢歌手、古城に眠る名画、人体実験など、さまざまな題材が織りなす美と悪と愛の黙示録。吉川英治文学賞受賞の奇跡の大作。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    歴史好きにも興味をひかれる主題。

    なるほど...
    戦時下のドイツはこんなだったのか...
    確かにアーリア人による統一を求めていたナチスなら、さもありなんですね...

    きれいな子をさらってきて、その遺伝子を残そうとするとか
    本当にあったんだろうなぁ。
    (そこでもユダヤ人は排除だったのだろうけど)

    戦争って人々の発想をゆがんだものに変えていくね。
    それとも発想がゆがんでいく過程で戦争になるのかな...

    今回はこの本の感想なので、日本のことはとりあえずコメントしません!
    ご了承ください!(←誰に)

    こちら、くくりはミステリーなのですね。
    歴史小説ではなく。

    博士の異常な愛情(どこかで聞いたね)に怯え、
    ついには正気を失ってしまうか弱い乙女の主人公...
    ←たぶん

    そしてアーリアンの容姿を持つために、ドイツ人にさせられた
    エーリヒとフランツ、レナ...

    美しい容姿を持つが故、エーリヒとレナはそれぞれ違う研究の対象となり
    あるがままの肉体でいられない改造をさせられてしまいます。

    にしても、美しい人がたくさん出てくるんですよねぇ。
    第一部では主人公のマルガレーテ。
    マルガレーテと一時関係を持つギュンターと言う青年。
    そしてもちろん、エーリヒ、フランツ、レナ。

    純アーリアンの容姿を持っていると言うだけあって、
    皆さん金髪碧眼、白い肌。

    耽美なんですよ(´ω`*)

    特にエーリヒとフランツと言う二人の美少年がね!
    もうね!
    お姉さん心弾んじゃうよね!

    と言うわけで、けっこう厚い本なのですが相当一気に読みました。
    寝不足になるくらい読みました。

    時々出てくる歴史上実在のナチス高官たち(名前だけね)、
    ドイツの風光明美な観光地の描写、
    塩抗、芸術品、崩れた中世の城...

    そんなものも耽美度UPです。

    ミステリーと言うより歴史小説。純文学。
    そんなくくりがふさわしい...

    そう思っておりました。
    「あとがき」を読むまでは...!!!!

    ※ここからネタばれしますよ※

    最後の部分で死んだと思われてたレナとアリツェが生きている描写があります。
    しかもアリツェは結構元気なバーの経営者になってるよ!わお!
    でもその前に「私の姉なの」って言うところでは気づかんかったわ~...

    あとがきは、作者であるギュンターに、
    日本の訳者が会いに行く、という設定。

    えっとね、私これ実はちょっと信じました(ノ´∀`*)
    あ、ギュンターって実在するんだ~、
    日本人が訳した本なんだ~、
    だからドイツの言葉やドイツじゃない言葉や
    ジークフリートの詩やなんか出てくるのね~、って。
    (←単純)

    でも違った><

    でね。あとがきではギュンター=フランツなのよ。
    そしてしかも彼は、犬に噛まれて死んだ(らしい)...と...

    そしてあとがきに出てくる作者ギュンターは、
    どうも容貌や言動がクラウスっぽい...
    って言うかクラウスでしょ...

    で、ネットとか見てたら、やっぱりマルガレーテの恋人は10歳下のフランツ!って意見が多いのだけど、私の意見はねやっぱりギュンター=フランツだと思うの。異論は認めます。

    まぁ、そう考えると矛盾点もたくさんあるのだけど...
    うーん...

    ちょっと難しすぎた。
    すっきりは出来なかったな...

    いつか解説本だしてほしい...
    お願いしますっ!!!!!

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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