永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

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  • 早川書房 (2004年3月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784150307530

感想・レビュー・書評

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  • 地球と月の重力均衡点に浮かんだ巨大博物館苑「アフロディーテ」には、あらゆる動植物、美術品、音楽や舞台芸術が集められている。そこで働く学芸員たちにはある特徴があった。彼らの多くは、手術によって各部署で蓄積された膨大なデータベースと直結され、イメージを思い浮かべるだけでデータの絞り込みができるようになっているのである。
    物語の主人公は、アフロディーテで学芸員として働く田代孝弘。孝弘は、音楽・舞台を管轄する「ミューズ」、絵画・工芸担当の「アテナ」、動・植物部門の「デメテル」を総括する「アポロン」に所属する。「アポロン」の学芸員は、分野を超越した高い地点から分析検討するために、各部署のデータベースに自由にアクセスできるという高い権限を持つエリートである。が、実際は、面倒な案件を押し付けられ、各部署の縄張り争いに巻き込まれて板挟みになる日々。特に人のいい孝弘は、上司のエイブ、通称「案山子」にいいように使われて、案山子の元第一秘書だった新妻の美和子と会話もろくにできないありさまである。

    物語は、孝弘の元に持ち込まれた美や芸術に関するさまざまな事象を、彼がデータベースを使い、関係者と協力しながら解決していく連作集の形をとる。
    読みはじめは、宇宙空間という近未来でのロマンあるお仕事小説、といった感じかな、と思っていたが、読み進めていくと、「もの」の存在感、作り手の思い、表現する者と受け手との関係など、「美」や「芸術」の根本について深く考えさせられるような一本の芯が感じられ、読みごたえがあった。
    さらに、各短編に少しだけ言及されるあるアイテムと、当初は名前しか出てこない妻の美和子が、実は物語全体の大きな推進力となり、最後の短編『ラブ・ソング』へと収束されていく。「美」をテーマにした物語らしい、視覚的にも感覚的にも美しいラストだった。

    各編の中で特に印象に残ったのは『この子はだあれ』。少年の姿をした抱き人形の名前を見つけてほしい、という依頼の対応を押し付けられた孝弘が、直接接続者に複雑な思いを持つ資料室アドバイザーのサリーとともに答えを見出していく話。ものに宿る作り手の思いについて考えさせられたし、データベースを自由に利用することができる孝弘ならではの解決策だったのもよかった。

    本書は続編も出ている。次作は主人公が替わるようだが、「アフロディーテ」のその後を気長に追ってみようかと思っている。

  •  2からSFマガジンで読んでいたが、1も1で面白い。こういう、進歩した世界における人の営みに重きをおいて書かれた作品はすごく好きだ。
     1つ1つで起承転結がありつつも、全体として大きな物語を描き出すような形だともっと好みだが、本作は1編の完成度が高く、様々な趣向が凝らされているのでそうでなくとも面白い。後ろの3つは結構しっかり繋がりもあって良かった。
     思わず唸るようなトリックがあるわけではないが、ミステリを書かれる作家ということもあって、推理小説風味の話の進行は興味深い。多岐に渡る題材からは、美術への深い造詣が伺える。専門用語が多く、想像力の及ばない箇所もままあるが、十分楽しめた。
     キャラクターは魅力に富んでいるし、丁寧な心情描写が胸に響いた。以下、各話の簡単な印象。

    1話は若干の物足りなさを感じた。
    2話は普通。
    3話は言葉遊びに重点を置かれて面白い。
    4話はこれまでとは毛色が違っており、ミステリ風味は控えめながら、好みな味わい。
    5話はめっちゃいい。こういう細かな問題を扱う話は好き。攻殻の新劇場版を若干彷彿とさせる。
    6話は題材が好き。
    7話はテクニカルな感じ。
    8話は図表があるともっと良かった。
    9話は非常に良かった。とりわけキャラクターが魅力的。

  • 長年読みたいと思い続けてきた作品、ようやく手にすることができた。地球の衛星軌道上に浮かぶ、巨大博物館「アフロディーテ」。ここを舞台に、様々な芸術品を巡る人々の想いを描いた美しいSF。
    データベース・コンピュータに直接接続した学芸員・孝弘が主人公だが、根っからの巻き込まれ体質。右往左往する彼の奮闘ぶりにフフッと笑いたくなるが、厄介ごとを抱え込むたび、何だかお疲れゆえに視野が狭まって来てないか?と思うように。微かな杞憂が、後々に響くとは…。
    全9話、それぞれ独立したエピソードではあるが、各話にちょこちょこ登場するとある楽器、とある人物。その伏線がどう回収されるかが見事である。
    近未来の描写だから、一体これはどういう場面なのか、想像するのにすごく頭を使ったが…登場する絵画、音楽、舞踊、工芸品が実際に目に見えるかのような、聴こえるかのような、美しい描写に毎回魅せられる。芸術品を巡る、一見トラブルのようなそれぞれの出来事が、どうしてそうまでして己の想いを貫きたいのか…明らかになるたび、胸が締め付けられる。ラスト「ラヴ・ソング」は圧巻!スタオベものです。活字を追うだけで、こんなに心豊かになれるなんて。美術館、博物館、コンサートを一気に観賞した気分だ。
    日本SFの金字塔と言っても過言ではない、長く読み継がれて欲しい名作。

  • SF初心者だからか少し戸惑ったけれど、知的で優しく美しい素敵な話だ。幸福感が漂う読み味のよさで、読後はうっとり。

    あらすじ:
    地球の衛星軌道上に浮かぶ星には世界中のありとあらゆる美術品、動植物などが集められたアフロディーテと冠される博物館がある。学芸員、田代孝弘は芸術品がらみの部署間の争いや厄介な命令に、頭を悩ませながら対処しているうちに、さまざまな人の想いに触れる。

    何が大変かってそれぞれのデータベースや部署の名前を覚えるのが大変で、さらにいろんな横文字の名前が出てくるから混乱してしまって、初めは「解らないー!」とそこだけ戸惑った。ミステリ風味のストーリーたちはどれも優しく美しくて、素敵。全編を通したテーマがあって、それがまた抜群の効果を持っている。

  • 人生で今まで読んだ本の中で最も美しい本です。

    やっと見つけた…
    たぶん八年くらい前に読んで、タイトルを忘れたままずっと探していた作品。
    やっと見つけた!!!

    SF小説で、宇宙中の『美』を集める巨大博物館『アフロディーテ』職員が主人公のお話し。

    SFなのにテーマは『美』
    不特定多数に対してなんらかの情動を歓喜する何らか。
    それって時代とともに変わらないんでしょうか??
    何か感動を生むものの共通点てあるんでしょうか??
    そもそもみんなが感じる美って同じなんでしょうか??


    例によって脳みそパソコン直結の攻殻的要素もありつつ(個人的ツボ)、
    それが設定要素としてきっちり盛り込まれていて実はキーだったりもする。

    設定に飲まれることなく話が進んで設定に必然性がありかつ登場人物達の内面は普遍的な人間らしさを持ち続けていてその中にこそテーマがある、というのは素晴らしいSFの必要条件だと思うのです。

    あぁ見つかって本当に嬉しい。
    たぶん五年くらい探した…
    私にとっては一生忘れない本の内の一冊です。

  • 地球の衛星軌道上に浮かぶ人工惑星。そこは地球のあらゆる芸術品を収容する巨大博物館<アフロディーテ>。主人公の田代孝弘はこの博物館で働くいち学芸員。脳外科手術により、芸術に関する膨大な知識を集積したデータベースに直接接続することができる学芸員は、そのテクノロジーを駆使して収容される芸術品の価値を確かめ、その意義を問う。ただし、田代孝弘が所属する総合管轄部署<アポロン>は、専門部署間の調整役が主な仕事であり、彼は常に厄介ごとに巻き込まれるのだが…

    うーん、なんともロマンチックな連作短篇集。
    それぞれ扱われる芸術作品に主眼を置きつつも、それを取り巻く人間模様がメイン。SF的バックグラウンドもしっかりしており、雄大な自然を有するアフロディーテの描写も相まって、本当にこんな博物館があればいいのにな、と切望してしまったり…

    そもそも設定がおもしろいですね。芸術とSFを結び付けた作品はたぶん探せばいくつも出てくるのでしょうが、ひとつの惑星がまるまる博物館で、そこに収容される芸術品をめぐって学芸員がドタバタさせられるというのは、なんとも微笑ましい限り。というのも、よく読むSF小説は、異星人と接触したり、タイムトラベルしたり、地球に危機が訪れたりと、どれも穏やかではないからです。本書は日常系SFみたいな感じで、ゆったりと読み進めることができました。

  • 芸術を扱う惑星を舞台としたお話。SFとミステリーを合わせたような感じの作品。全体的にロマンチックな結末で物語として楽しめたし、植物の葉の着き方がフィボナッチ数列になってるとかいう話が出た時は知的好奇心刺激されて色々調べてしまった。

  • 博物館惑星での9偏の短編集。SF小説的なこともあり生物学とか分子生物学、数学とかかなり専門的な描写は多いけど、読んでると芸術の意味とか定義への問いかけと、人間の感性とか感情が凄くバランスを取って入ってくる。愛情をテーマにした話も多かったけど、どちらかというと薄情に書かれてた主人公の気づきとか、目覚めみたいな心の変化が、最後のストーリーで全部が繋がってきて、音楽と情景の臨場感と併せて伝わってきた。理科系への得手不得手で読者を選ぶかもだけど面白かった。

  • SFと芸術。
    一見接点が遠いように思えるが、読んでみると違和感はない。

    短話がいくつも連なっている形式だが、毎回別の芸術ジャンルと別の展開が待っていた。
    加えて最終話への導線も各話に少しずつ盛り込まれている。

    舞台が同じ作品が他にあるなら読んでみたいと思うが、無いなら無いでいい。
    この一冊で十分満足した。

  • 設定はハードSFなのにリリカルな読後感。
    わりと大騒ぎな事件もあるのに、全体的にしんと静謐な空気が感じられて、初めて読んだ作家さんだったが、かなり好み。特に最後の「ラブ・ソング」がロマンチックでよかった。

  • とても"綺麗"で優しいSF。
    芸術やら美術とテクノロジーを融合させた話は読んだことがなかったのですが、面白い。

    イメージや「だいたいこんな感じ」で脳と直接接続したデータベースから検索できる技術も、そのうち実現するんだろうなという感想。
    今の技術だと、キーワードによるGoogle画像検索で概念がなんとなく調べられるので、それの超発展系のような感じか。

  • 10数年ぶりに再読。
    初めて読んだ頃の私は、まだあまりパソコンに馴染みがなくて、”バージョン”とか”接続”とかいうことの意味が本当にはわかっていなかったなあ。
    このお話が最初に書かれたのは1993年。SF作家の想像力ってすごいもんだ。

  • 「<ガイア>、覚えてね。こういうのが『綺麗』なの。
    この幸せな気分も一緒に覚えてね。」

    ハヤカワと言えばSFだろうか。ミステリだろうか。
    この作品は月と地球の重力折衷間に作られた人工星「アフロディーテ」を舞台として繰り広げられる。そこは動植物から舞台芸術まで、あらゆる美術品が集められる巨大博物苑であり、「直接接続者」と言われる学芸員が無敵のデータベース「ムネーモシュネー」を駆使して美術品鑑定を行っている。

    それぞれの短編が最後にまとまって1つの作品になります。どの作品もガラスのように透明感があり、とても綺麗な作品。分析鑑定により「綺麗」という「感動」を忘れてしまった主人公が最後に「芸術とはこういうものだった」と感動を思い出すシーンにはこちらがハッとしてしまいます。芸術作品対してのウンチクはないので、芸術に親しみのない人でも大丈夫(笑)。

    ほとんど設定がないにも関わらず、それでも「こんな場所があったらな」と思ってしまう、そして物語だとわかっていても「その世界は私が生きている間には作られないだろうな」とガッカリしてしまう、妙にリアルな世界観。

    ロマンチックで、ファンタジック。さほど多くない作品設定から、自分で想像で世界を膨らましていくのが好きな人には最適。

  • 表紙の絵の通りパステルカラーの小説
    全体的に児童小説のような雰囲気。

    主人公の最後の言葉は陳腐なセリフだが
    そこに至るまでの、
    音楽と花の開花音、ピアノの寿命と雪のような雄花、喪失と補完、スピード感と幸福。
    それらがその陳腐なセリフに説得力を持たせている。

    コレこそが、感情の記録だと言えるのではないだろうか。
    ただ、この感情は空想の産物なのだけど。

  • 知人におすすめされたけれど、ちょっと合わなかったかも。
    もしくは、今の自分がSFを読みたい気分ではないのかも?

  • データベースコンピューターの名前がかっこいい。どの話も紆余曲折あるけど、登場人物たちがみんなあまり不幸せにはならないように終わってるところがいい。登場する様々な学問分野の話が物語の説得力とか奥行とかを増させてて、著者の頭の良さがうかがえる。ベストSFなのも納得

  • 2,3作目を読んで懐かしくなって書棚から引っ張り出した。初読時、DBと直接接続して検索するという設定に魅かれ、今でも自分がネット検索する時に(Googleでも)"ムネーモシュネーと対話している”と思うことがある。でもずっと接続している描写が続いていると思っていたのに、再読してみると、孝弘が持ち込まれる難題に振り回されている描写の方が多く、働き盛りの若手が悩みを抱えながら成長している姿が印象に残った。解説によると本作は足掛け6年の連作ということだが、描かれている博物館惑星の美にあふれた姿、働く人々はブレがなく一貫しており、物語としても見事に展開し結末へと向かっている。自分の本棚の中にこんな素敵な小宇宙があったのだなと再確認。3作目まで読了した今、19年かけて完結した物語の全容を見てもみごとな一大叙事詩となっていると思う。なお本作は2001年にベストSF2000国内篇第1位、星雲賞・国内長編部門及び日本推理作家協会賞・長編並びに連作短編集部門を受賞。

  • 芸術を理解しようと探究・分析を進める毎に、美しさからは離れてしまう矛盾。舞台はSF、テーマは芸術、語り口はミステリーだけど、読み終わったら美と愛についての感動的なドラマだった。

  • 地球の衛星軌道上に浮かぶ、全世界の美術品と動植物が集められた博物館惑星「アフロディーテ」、データベースと脳を直結させた学芸員、そこで起こる様々な事件にまつわる、SFと芸術とミステリー要素が混淆した物語。という設定だけで堪らない。

    様々な要素がある分どれもやや物足りなさはあるが、総合的な設定が秀逸なので余り気にせず楽しむことができた。SF的美術品の数々も面白い。そして何より、芸術を味わう/楽しむってどういうことだろう、というのを改めて考えさせられた。なぜ我々は、美しいものを見て美しいと感じるんだろう?

    余談だけど。黄金率が鍵となる物語「きらきら星」を読んで、地球外生命体に向けて放たれた衛星ボイジャーのゴールデンレコードを思い出した。地球人のみならず、知的生命体はロマンチストなのかもしれない。

  • 地球と月のあいだに浮かぶ博物館惑星〈アフロディーテ〉は、既知世界における動植物、芸術・工芸、音楽・舞台など、ありとあらゆるものを収める。その総合管轄部署〈アポロン〉に勤務する田代孝弘は、頭に浮かぶイメージを直接検索できるデータベース・コンピュータ〈ムネーモシュネー〉を操る学芸員。博物館惑星に持ち込まれる厄介な美術品たちとそれに翻弄される人びとを描いた連作短編集。


    最後まで主人公を好きになれなかった。自らの審美眼を誇るわりに思い入れているものがあるわけじゃないし、素人目線をバカにしたすぐ後で「素直な感性」に感じ入ったりする。ネネとの関係やラストの妻とのエピソード含め、全体的に中間管理職おじさんの夢って感じ。地球の文化をアーカイブするための人工衛星があって、未来の芸術作品がトラブルの種になるというアイデアは魅力的だが、すべてが人情話に終始するので物足りなかった。

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著者プロフィール

1963年生まれ。SF作家。2015年、『放課後のプレアデス みなとの宇宙』のノベライズを上梓。他の著作に『おまかせハウスの人々』『プリズムの瞳』など。本作がはじめてのビジュアルブックとなる。

「2016年 『GEAR [ギア] Another Day 五色の輪舞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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