象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

著者 :
  • 早川書房
3.97
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本棚登録 : 1044
感想 : 116
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  • Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150307684

作品紹介・あらすじ

惑星"百合洋"が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星"シジック"のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた"見えない図形"の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に"かたち"と"ちから"の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。

感想・レビュー・書評

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  •  誌のような文章が美しく巧みで、あたかも幻想小説のようなSF中短編集。文章に想像が追いつかず、画をイメージするのがなかなか難しいのですが、独特の世界感に引き込まれます。
     個人的に一番のお気に入りは「呪界のほとり」。冒険小説のようなわくわく感と、個性的で魅力あるキャラクターたちの軽妙なやりとり、想像を掻き立てられる情景描写。映画、それも実写やセル画アニメではなく、CGアニメで観てみたいなぁと不思議と思いました。

  • 短編集。
    『夜と泥の』が記憶に残っている、静けさの中であっと気付く間もなくもう既におしまいになってしまっているような、手遅れの先の眺めているしかないような、そういう雰囲気が大好きです。

    飛先生の食べ物の描写が好きで、この作品だったか定かではないが苔をしがんで殻を捨てる、というような感じのものが出てきたことがあって、なんでかそればかりをずっと考えてしまう。なんだかよくわからない魅力がある。

  • 個人的には、「デュオ」と「象られた力」が好きです。
    「象られた力」には『零號琴』の面影を感じました。

  • 強大な思念の力。封印された記憶、のような実体のないものが何を伝えたいのか、装飾を丁寧に剥ぎ取って明らかにしていく。その”もの”の語る声を聴く。それが飛氏の作品に込められたテーマのように思う。 「象られた力」で惑星が秘める歴史を暴いていく過程は『零號琴』を彷彿とさせた。 『悪童日記』の双子を思い出させるような「デュオ」が最も好みだなと感じていたが、時間が経つほど表題作「象られた力」の印象が強くなって消えない。 読んだ者の心に深く印象を刻む物語、この本『象られた力』自体が、強い思念の力を持っている。

  • 飛浩隆を読むのはこれが初めてとなる。本作は、表題作の「象られた力」を含む4篇からなる作品。レビューの評価が高く、初めて読むのには最適かとも思われた。

    それぞれのエピソードの評価とジャンルを書くと以下のようになる。(ややネタバレ)

    デュオ(★★★★★): ミステリー、音楽、サスペンス、生と死、意識、テレパス
    呪界のほとり(★★★★☆): 宇宙、バロック、冒険、ファンタジー
    夜と泥の(★★★☆☆): 宇宙、宇宙連合、テラフォーミング、生物
    象られた力(★★★★★): 言語、記号、宇宙、宇宙連合、超能力

    「デュオ」は文句なしに面白い。きちんと物語しているし、数度のどんでん返しがある。おどろおどろしい雰囲気作りが上手いし、ちょうどいい難解さが歯ごたえを生んで心地いい。SFとしては少し変わり種だけど、万人受けしそうな内容ではある。さらに、文章に惹きつけられる。

    「呪界のほとり」は、王道の宇宙系SFと言ったところ。宇宙ワープ、人造の竜族、謎の追手など、ワイドスクリーン・バロックSFを久しぶりに読んだ思い。

    「夜と泥の」はテラフォーミングの話かな。自分にはあまり合わなかった。好きな人は好きかもしれない。が、作品全体のリズムを考えた時、「象られた力」の前の静けさとして上手く作用していたようにも思う。

    「象られた力」はなかなか良かった。テッド・チャンの「メッセージ」のような、言語系SFかなと思わせて、実は文明崩壊SFでもあった。百合洋(ゆりうみ)文化の記号はとても魔性に映る。そして抗うすべもなく人間がおぼれていくさまは、恍惚的でもあった。

    平均して面白かったし、SFとしてのジャンルは多岐にわたる。デュオは万人におすすめ。象られた力はSFファンにオススメ。ぜひ、この作者の他の作品も読みたい!そう思わされるだけの1作だった。

    (書評ブログの方も宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%96%87%E6%98%8E%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E7%B3%BB%E8%A8%98%E5%8F%B7SF_%E8%B1%A1%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%8A%9B_%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86

  • 80年代後半から92年までに書かれた中篇4篇を収めた作品集。

    「デュオ」
    交通事故で恋人を亡くし、自身で演奏する能力も失ってピアノの調律師となった緒方は、恩師からグラフェナウアー兄弟を紹介される。デネスとクラウスのシャム双生児であるグラフェナウアーは、一本ずつの腕をテレパスによって統合し完璧にピアノを奏でる天才だった。耳が聞こえず喋ることもできない兄弟の手話通訳を務めるジャクリーンと親しくなるうち、緒方は双子に“もう一人”が存在することを知る。

    特にクラシックにもピアノにも詳しくない人間にも、聴力以外の感覚を喩えに使って双子が奏でる悪魔的な音楽を感じさせる表現力。「ふかふかの鍵」のくだりはピアニストの身体性を伝えていて面白かった。でもやっぱり先に「海の指」を読んじゃったからちょっと物足りなくもある。結末は絶対ジャクリーン本人が銃を握って殺すべきだったと思います。


    「呪界のほとり」
    追っ手から逃げるうち、呪界-地面を叩けばどこでも水が湧いてくる魔法の世界-から飛び出してしまった万丈と相棒の竜。辿り着いた辺境の星アグアス・フレスカスには、呪界に強い憧憬を抱く老人パワーズがひとりきりで暮らしていた。

    ラノベというかゲームのノベライズっぽい。特殊な用語がポンポン出てくるけど、説明過多に感じさせずになんとなく察することができる情報コントロールが巧み。しおらしいのに全然言うこときかない竜のファフナーがかわいい。


    「夜と泥の」
    若い頃”リットン&ステインズビー協会“で共に働いた蔡に呼びだされ、とある星にやってきた「わたし」。「いいものを見せてやる」と言った蔡に案内されたのは、地球化[テラフォーミング]のために協会が使わした人工衛星たちが暴走し、夏至ごとに一人の”少女“を復活させるという沼だった。

    これ好き!『タフの方舟』を思わせるような、地球人の思惑の裏をかく異星の意思が描かれ、それに取り憑かれた蔡の姿はホラー的でもある。ヒトの生みだしたものがヒトの手に負えなくなって野生化していく描写、いいよねー。


    「象られた力」
    〈シジック〉のイコノグラファー・クドウ圓は、“リットン&ステインズビー協会”の文化事業部に依頼され、つい先日跡形もなく消え去った隣接星〈百合洋〉の言語体系“エンブレム”の謎解明のため動きだす。エンブレムは図形によって情報を多層的に伝達できるため、同じ星系の〈シジック〉〈ムザヒーブ〉でも急速に普及しはじめていた。〈百合洋〉はなぜ滅んだのか、エンブレムに秘められた力とは。

    面白かった〜!これも“文字禍”の話。エンブレムに侵食された人びとの陶然とした言葉遣いと、畳み掛けるオブセッションの艶やかさは『13』のころの古川日出男を思いださせる。〈百合洋〉出身の建築家ハバシュが生んだ現代アートの延長のような建物や、圓の恋人・錦がつくるエンブレム・タトゥーのオートマシン、あるいは極小のエンブレムがラメになったアイシャドウや、圓とシラカワが食す〈シジック〉のビーガンじみた菌類食などのディテールから星系の文化を窺いしれるのも楽しい。そんな〈シジック〉の物語をメタ化するオチは、万物から常に物語や意味を見いだそうとする人類のサガを優しく俯瞰で眺めている。この“リットン&ステインズビー協会”もの、シリーズ化してほしかったなぁ。


    4作品に共通するのは、実体のないものが実体に干渉し、その精神を支配し、実体よりも実体たろうとする巨大なパワー。これは「フィクション」のメタファーでもあるだろうし、のちの『グラン・ヴァカンス』で結実したヴィジョンなのだろう。

  • 飛さんの作品の手触りの生々しさは、SFのやや遠目な世界観を手元に引き寄せてくる。
    自分が感想をうまくつかめないとき、批評というのは偉大だなと思う。

  • 抽象的に捉えた気分になるだけなのに、極めて面白かった。

  • 初めての飛浩隆作品、短中編4作全部面白い。
    SFを前提にミステリ、ホラー、ファンタジーなど様々なアプローチをしてるけどどれも違和感なくしっくり収まっている。
    また、情景描写の上手さはもちろんのこと五感の描き方がとてつもなく上手い。文を通して“体験”しているような感覚すらあってただただすごいなと感じた。

    個人的には「夜と泥の」の設定が好みでもうちょっと読みたかった。逆に表題の「象られた力」は最後が蛇足に感じてちょっと醒めてしまった。けどそれでも面白かった。

  • いや〜まいったまいった。収録されている短編4作品いずれもよくできているのだが、共通するのは文字がイメージを想起させること。文字で世界がめくれ上がって裏返しになったり人が卵のように割れる感覚を味わわせる筆致の凄みがある。文字で音楽的な素晴らしさを想像させたり目の前の圧倒的な光景を想像させるような表現の妙は、自分もこんなふうに書けたらいいなと思わせられる。

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著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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