- Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150307684
感想・レビュー・書評
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個人的には、「デュオ」と「象られた力」が好きです。
「象られた力」には『零號琴』の面影を感じました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
イマジネーションの奔流、理性ではなく肌で理解する物語。
鴨が飛浩隆氏の作品を初めて読んだのは、2年前に読んだ「日本SF短編50 V」に収録されていた「自生の夢」。正直言って、まったく訳が判りませんでした。でも不思議と気になって、海外での評価が高いというハロー効果もあってか、この短編集を手に取ってみました。
で、読んでみた感想ですが、正直なところ、やはりよく判らない、と思います。例えばSFを読み慣れていない友人にこの作品を判りやすく紹介せよ、と言われたら、鴨にはできないと思います。ポイントを押さえて巧いこと言語化して要約することが難しい作品だと思います。
元々言語で記述されている小説なのだから、「言語化が困難」というのは言い訳に過ぎないということはよく理解してるつもりなんですが、本当にこの世界観、言語だけでは押さえきれないんですよ。「絵になるSF」の極北、音や視覚や嗅覚といった五感を駆使して読み解くワン・アンド・オンリーな世界観です。表題作の視覚的なカタストロフィは特筆モノですね。この作品を母語で読めるということは、日本人SF者としての至福のひとときかもしれませんね。
こうした「認識のパラダイム・シフト」を前提としたSFは、実は日本SFの得意とするところなのではないか、と鴨は感じています。SFという文学フォーマットでこそ挑戦可能な分野だと思いますし、今後もより先鋭的な作品を期待しています。 -
誌のような文章が美しく巧みで、あたかも幻想小説のようなSF中短編集。文章に想像が追いつかず、画をイメージするのがなかなか難しいのですが、独特の世界感に引き込まれます。
個人的に一番のお気に入りは「呪界のほとり」。冒険小説のようなわくわく感と、個性的で魅力あるキャラクターたちの軽妙なやりとり、想像を掻き立てられる情景描写。映画、それも実写やセル画アニメではなく、CGアニメで観てみたいなぁと不思議と思いました。 -
飛さんの作品の手触りの生々しさは、SFのやや遠目な世界観を手元に引き寄せてくる。
自分が感想をうまくつかめないとき、批評というのは偉大だなと思う。 -
シャム双生児として生まれた天才的ピアニストを題材にした「デュオ」や、絵や文字ではなく形・デザインが持つ力の可能性を説いた表題作など惹きつけられる設定の短編が収められた作品。だけど、オチがどれもピンと来ないものが多かったかな…。個人的にはそこまではまれなかった。
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SF。中短編集。
「デュオ」
ミステリ、ファンタジー、ホラー、どれにも分類できそうな音楽SF。個人的には怖さを感じたので、ホラーの印象が強い。
「呪界のほとり」
異世界ファンタジー風。いまいち。
「夜と泥の」
テラフォーミング。情景描写が圧巻。
「象られた力」
わからない。読みにくい。
表題作が一番苦手…。「デュオ」と「夜と泥の」が好きでした。 -
図書館で。
グラン何とかってのは読んだ記憶があるような… それにしても不思議な経歴をお持ちの方なのですねぇ。
デュオはピアノの話でちょっとホラーな感じ。死んでしまった3人目の意志というか意識がちゃんと勉強しているのが面白い。強い生への自我とかじゃないのねぇ。
竜と主役と老人、というスラップスティックな感じの短編は面白かった。そのうちコレシリーズになりそう。
夏至の日に機械仕掛けの妖精たちが争うってなんかシェイクスピアか神話みたいな話で面白い。ウィルス最強。
アイコンが作用しあい、一つの意志というか力を発動するというのは…なんかうん、ちょっと受け入れがたくもあり怖いなぁと素直に思ったり。百合洋をユリウミと読ませるのがカッコイイ。 -
以前『グラン・ヴァカンス』を読みました。
どちらも徹底した世紀末的な崩壊を起こします。
ある程度安定して見える様な世界も、ちょっとした事で壊滅する...宇宙規模で。
映画『インセプション』を彷彿させるような描写もあります。自分としてはSF過ぎて、ピンとこないところもありました。
次は『ラギッド・ガール』を読む予定です。 -
おしゃれで品位ある文体で書かれていて、SFファンタジーが
盛り上がっていた頃の元気ある雰囲気を強く感じる短編作品集です。
しかし、古臭いかというとそうでもなく、
特に、表題の「象られた力」が短編ながら、面白いアイデアの作品です。
もっと状況設定を入り組ませて、長編でじっくり読んでみたいと
物足りなく思いました。
とにかく、作品のアイデアにデザインが持つ力や音がもつ力など、
身近にあるものに対して、もしかしたらある特異な力があるのではないか…
という空想科学領域の漠然とした妄想思考の種を
誰もが抱えていて、それをうまくキャッチして作品
にしているなあ、と感じました。
ある一定の共感力で読者を近づけて、楽しませるという、
アイデアの新奇性だけ惹きつけるのではない、
描写力のあるSFファンタジーです。
砕けた口語調小説が好みの方には嫌煙されがちの語り口ですが、
露悪的な自伝風小説に食傷ぎみなら、
この空想科学のもつさわやかな風で
脳みそがかなり涼やかになるはずです。
脳みそミント効果ありの作品。 -
SF中短編集。「デュオ」では感応をめぐる幻想を、「呪界のほとり」ではメタフィクション的な諧謔を、「夜と泥の」では記憶に馳せる思いを、「象られた力」ではかたちに対する欲望を、ひしひしと訴えかけていた。
作者の提示する世界観や情景はあまりにも豊潤すぎて、私の想像力では到底追いついていけないほど。
この美しく力に満ちたモノに、どうにかして触れたい――まさしく、そのような欲求に駆られる作品だった。
単純に完成度で見たら、少し荒削りにも感じられる。