象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150307684

作品紹介・あらすじ

惑星"百合洋"が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星"シジック"のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた"見えない図形"の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に"かたち"と"ちから"の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 飛浩隆を読むのはこれが初めてとなる。本作は、表題作の「象られた力」を含む4篇からなる作品。レビューの評価が高く、初めて読むのには最適かとも思われた。

    それぞれのエピソードの評価とジャンルを書くと以下のようになる。(ややネタバレ)

    デュオ(★★★★★): ミステリー、音楽、サスペンス、生と死、意識、テレパス
    呪界のほとり(★★★★☆): 宇宙、バロック、冒険、ファンタジー
    夜と泥の(★★★☆☆): 宇宙、宇宙連合、テラフォーミング、生物
    象られた力(★★★★★): 言語、記号、宇宙、宇宙連合、超能力

    「デュオ」は文句なしに面白い。きちんと物語しているし、数度のどんでん返しがある。おどろおどろしい雰囲気作りが上手いし、ちょうどいい難解さが歯ごたえを生んで心地いい。SFとしては少し変わり種だけど、万人受けしそうな内容ではある。さらに、文章に惹きつけられる。

    「呪界のほとり」は、王道の宇宙系SFと言ったところ。宇宙ワープ、人造の竜族、謎の追手など、ワイドスクリーン・バロックSFを久しぶりに読んだ思い。

    「夜と泥の」はテラフォーミングの話かな。自分にはあまり合わなかった。好きな人は好きかもしれない。が、作品全体のリズムを考えた時、「象られた力」の前の静けさとして上手く作用していたようにも思う。

    「象られた力」はなかなか良かった。テッド・チャンの「メッセージ」のような、言語系SFかなと思わせて、実は文明崩壊SFでもあった。百合洋(ゆりうみ)文化の記号はとても魔性に映る。そして抗うすべもなく人間がおぼれていくさまは、恍惚的でもあった。

    平均して面白かったし、SFとしてのジャンルは多岐にわたる。デュオは万人におすすめ。象られた力はSFファンにオススメ。ぜひ、この作者の他の作品も読みたい!そう思わされるだけの1作だった。

    (書評ブログの方も宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%96%87%E6%98%8E%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E7%B3%BB%E8%A8%98%E5%8F%B7SF_%E8%B1%A1%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%8A%9B_%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86

  • 個人的には、「デュオ」と「象られた力」が好きです。
    「象られた力」には『零號琴』の面影を感じました。

  • 初めての飛浩隆作品、短中編4作全部面白い。
    SFを前提にミステリ、ホラー、ファンタジーなど様々なアプローチをしてるけどどれも違和感なくしっくり収まっている。
    また、情景描写の上手さはもちろんのこと五感の描き方がとてつもなく上手い。文を通して“体験”しているような感覚すらあってただただすごいなと感じた。

    個人的には「夜と泥の」の設定が好みでもうちょっと読みたかった。逆に表題の「象られた力」は最後が蛇足に感じてちょっと醒めてしまった。けどそれでも面白かった。

  • いや〜まいったまいった。収録されている短編4作品いずれもよくできているのだが、共通するのは文字がイメージを想起させること。文字で世界がめくれ上がって裏返しになったり人が卵のように割れる感覚を味わわせる筆致の凄みがある。文字で音楽的な素晴らしさを想像させたり目の前の圧倒的な光景を想像させるような表現の妙は、自分もこんなふうに書けたらいいなと思わせられる。

  • どれも素敵だった。
    <象られた力>は、まるで長編を読んだ後のよう。
    中短篇集だからといって、休憩に読めるなんて思っちゃだめだ。
    時間をかけて、音楽もかけず、ただじっくりと、飛さんの表現する世界に、ひたすら絡みつくのが最高だ。
    やっぱり飛さんは素敵だ。
    たぶん、飛さんの文章は過剰に映像的だし、色彩と音の描写がものすごく装飾的で、それが美しくてたまらない。
    これは、テーマから考えたら目くらましかも知れないけど、これだけ美しく、そして凝りに凝って作られた設定に酔えるのが、飛さんの素敵さでしょ?と思っている。

    (だいたい、こんなテーマを現実の不安として抱えたり理解する人間なんて、病的か、さもなきゃオクスリ的だと私は考えている。
    少なくとも私の乏しいSF系本棚の中で、こんな思考と世界の捉え方に近くて優しくしてくれるのは、徹底的に矯正してくれようとする神林さんか、とぼけていてくれる円城さんか、美しさに溺れさせてくれる飛さんか…ってとこである。)

    <デュオ>は音・音楽の描き方が本当に豊かできらびやか!!
    それだけでも素敵だけど、「人が生きているかどうかは微妙な問題です。」
    人々の記憶の合間に、情報の渦の中に、まるで誰かが存在するように振舞う何かを、感じる時のことを考える。
    見えない敵と戦っている、みたいなものかもしれない。
    その怖さについての話。だとおもう。

    <呪界のほとり>は、大好物メタフィクション。
    こんなに明るく書いてくれていいのかしら!
    とっても好き。

    <夜と泥の>
    未知の世界で、考えもしないウイルスを、知らぬ間に取り込んでいて、その世界の共感場に抗えなくなること。
    人類の希釈化。
    「新たな環境で、新生活で、あのヒトは変わってしまった、私は変わってしまった?」そんな陳腐な話にすり替えたって良いのかも知れない。
    でもそれを良しと出来ない、自己と他者の境界で恐怖に佇む者には、こういうお話じゃなきゃ救われないのだ。

    <象られた力>
    ちからとかたち。
    私という形を保つ、内側からの力と外側からの力、内側の思考と外側の思考のぶつかり合う、この身体の表面。
    わたしという形を保つ、私という形を作るために、適切適当なエネルギーと思考と他者の関わり。
    その不安について。
    この日常的な恐怖について。
    ものすごく凝った設定で、映像的に装飾的に描いて酔わせて、最終的に消滅という退廃的な甘美さに引き連れて行ってくれる飛さんの優しさったら、とんでもないなぁと思う。

    大好き。

    【読後追記】
    消えた星<百合洋>ユリウミの、図形言語。
    そしてやはり消えたはずの星シジックから発信される“シジックの歌”。
    百合洋のエンブレムが表す文脈と情動。情動は人間が環境に最適化するために作ったツール。そのツールを制御するコマンド。言語と…そして図形。
    読後も頭が<象られた力>で溢れる。次になにを読むのが適切なのか、わからない。
    『世界の野生ネコ』でも眺めるしかないか。

  • イマジネーションの奔流、理性ではなく肌で理解する物語。

    鴨が飛浩隆氏の作品を初めて読んだのは、2年前に読んだ「日本SF短編50 V」に収録されていた「自生の夢」。正直言って、まったく訳が判りませんでした。でも不思議と気になって、海外での評価が高いというハロー効果もあってか、この短編集を手に取ってみました。

    で、読んでみた感想ですが、正直なところ、やはりよく判らない、と思います。例えばSFを読み慣れていない友人にこの作品を判りやすく紹介せよ、と言われたら、鴨にはできないと思います。ポイントを押さえて巧いこと言語化して要約することが難しい作品だと思います。
    元々言語で記述されている小説なのだから、「言語化が困難」というのは言い訳に過ぎないということはよく理解してるつもりなんですが、本当にこの世界観、言語だけでは押さえきれないんですよ。「絵になるSF」の極北、音や視覚や嗅覚といった五感を駆使して読み解くワン・アンド・オンリーな世界観です。表題作の視覚的なカタストロフィは特筆モノですね。この作品を母語で読めるということは、日本人SF者としての至福のひとときかもしれませんね。

    こうした「認識のパラダイム・シフト」を前提としたSFは、実は日本SFの得意とするところなのではないか、と鴨は感じています。SFという文学フォーマットでこそ挑戦可能な分野だと思いますし、今後もより先鋭的な作品を期待しています。

  • 理想の文体かもしれない。
    憧れは山尾悠子氏、それはこれからも変わらないが、自分が目指すとしたら。

    肉体は五感を支配しているだろうか。
    あるいは、五感が肉体を支配するのだろうか。

    文字を読むということが、ここまでの体験をさせてくれるのだ。
    そんな満足感をもたらしてくれた一冊。
    しばらくは余韻を引きずりそうだ。
    五感が、騒ぎすぎて。

  •  誌のような文章が美しく巧みで、あたかも幻想小説のようなSF中短編集。文章に想像が追いつかず、画をイメージするのがなかなか難しいのですが、独特の世界感に引き込まれます。
     個人的に一番のお気に入りは「呪界のほとり」。冒険小説のようなわくわく感と、個性的で魅力あるキャラクターたちの軽妙なやりとり、想像を掻き立てられる情景描写。映画、それも実写やセル画アニメではなく、CGアニメで観てみたいなぁと不思議と思いました。

  • 短編集。
    『夜と泥の』が記憶に残っている、静けさの中であっと気付く間もなくもう既におしまいになってしまっているような、手遅れの先の眺めているしかないような、そういう雰囲気が大好きです。

    飛先生の食べ物の描写が好きで、この作品だったか定かではないが苔をしがんで殻を捨てる、というような感じのものが出てきたことがあって、なんでかそればかりをずっと考えてしまう。なんだかよくわからない魅力がある。

  • 強大な思念の力。封印された記憶、のような実体のないものが何を伝えたいのか、装飾を丁寧に剥ぎ取って明らかにしていく。その”もの”の語る声を聴く。それが飛氏の作品に込められたテーマのように思う。 「象られた力」で惑星が秘める歴史を暴いていく過程は『零號琴』を彷彿とさせた。 『悪童日記』の双子を思い出させるような「デュオ」が最も好みだなと感じていたが、時間が経つほど表題作「象られた力」の印象が強くなって消えない。 読んだ者の心に深く印象を刻む物語、この本『象られた力』自体が、強い思念の力を持っている。

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著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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